特39 先願 後願と先願とが「同一の発明」かを判断するロジック

弁理士試験の受験対策において、特許法第39条(先願)は、短答・論文ともに最重要条文の一つです。特に「同一の発明」かどうかの判断は、実務的な感覚よりも「試験的なロジック(判例・審査基準)」を正確に押さえることが合否を分けます。以下に、39条における「同一性の判断ロジック」と、試験で問われる頻出ポイントを体系的に整理しました。

1. 特許法39条(先願)の基本構造

まず、前提となる比較対象を明確にしましょう。ここがズレると全ての判断を間違えます。

  • 比較対象:

    • 先願: 「特許請求の範囲(請求項)」に記載された発明

    • 後願: 「特許請求の範囲(請求項)」に記載された発明

    注意点: 明細書や図面のみに記載されている発明は比較対象になりません(それは29条の2の領域です)。あくまで**「権利対権利」**の衝突を避けるための規定だからです。

2. 「同一の発明」の判断ロジック(審査基準)

単に文章が一緒かどうか(完全同一)だけでなく、「実質同一」まで含まれるのがポイントです。以下の3ステップで判断します。

① 完全同一

文言が完全に一致する場合。これは当然「同一」です。

② 実質同一(ここが試験の核心)

表現に相違があっても、実質的に同じであれば「同一」とみなされます。具体的には以下の3パターンです。

  • A. 周知慣用技術の付加・削除・転換

    • 構成要件に、その技術分野で周知・慣用されている技術(単なる部材の変更、通常の制御手段の追加など)を加えただけで、新たな効果を奏さない場合。

  • B. カテゴリーの相違

    • 「物の発明」と「その物を生産する方法の発明」のように、表現形式が違うだけで、技術的思想の実体が変わらない場合。

  • C. 上位概念・下位概念の関係(包摂関係

    • ここが最も重要です。

③ 上位概念・下位概念の判定ルール

ケース 先願(先) 後願(後) 判断結果 理由
ケース1 下位(具体例) 上位(総括) 同一 (拒絶) 後願(上位)は先願(下位)を包含してしまうため、ダブルパテントになる。
ケース2 上位(総括) 下位(具体例) 非同一 (基本OK) 下位概念が「選択発明」として成立する余地があるため(ただし効果の顕著性が必要)。

論文のポイント:後願が「上位概念」の場合は、先願の発明を包含してしまうため、重複特許排除の趣旨から「同一」とされます。逆に後願が「下位概念」の場合は、構成の困難性や特異な効果があれば別発明(選択発明)となりえます。

3. 【短答対策】頻出ひっかけポイント

短答試験では、ロジックの「例外」や「時系列」を突く問題が多発します。

① 同日出願の処理 (39条2項・4項)

  • ロジック: 同一発明で同日出願の場合、「協議」を行う。

  • ひっかけ: 「時刻」は考慮しない(午前と午後でも同日扱い)。

  • 結末: 協議が不調(決裂)の場合、「いずれも」特許を受けられない(どちらか一方が受けられるわけではない!)。

② 出願人の同一性 (29条の2との違い)

  • ロジック: 発明者・出願人が同一であっても、39条は適用される。

  • ひっかけ: 「自己の先願だから39条違反にはならない」→ × 間違い。自己の先願でも拒絶される(いわゆる「自己衝突」)。ただし、通常は先願を基礎とする優先権主張などで回避する。

③ 先願のステータス (39条5項)

  • ロジック: 先願が「放棄・取り下げ・却下」された場合、その先願は初めからなかったものとみなされる(先願の地位を失う)。

  • 最頻出: 先願が「拒絶査定確定」となった場合は? → 先願の地位は残る。

    • 理由: 一度審査されて拒絶されたものは「先願」として残り、後願を排除する(準公知的な扱い)。

    • 例外: ただし、拒絶理由が「冒認(39条違反ではない)」等の特殊な事情を除くという改正法も頭の片隅に(論文ではあまり出ない)。

④ 請求項ごとの判断

  • ロジック: 請求項が複数ある場合、請求項ごとに判断する。請求項1は同一だが、請求項2は非同一、ということがあり得る。

4. 【論文対策】答案作成のフローチャート

論文試験で39条が論点になる場合、以下の流れで論証ブロックを組み立てます。

Step 1: 条文の要件確認

「後願である乙の出願に係る発明イが、先願である甲の出願の特許請求の範囲に記載された発明ロと同一か検討する。」

Step 2: 「同一」の定義(規範定立)

「ここで『同一』とは、文言上の同一のみならず、実質的に同一である場合も含む。具体的には、周知慣用技術の付加転換に過ぎず新たな効果を奏さない場合や、実質的な技術的思想が共通する場合を含むと解される。」

Step 3: あてはめ(事実の評価)

  • 問題文の事情(例:後願はバネを使っているが、先願はゴムを使っている。両者は弾性部材としての周知慣用技術の置換に過ぎない、等)を拾う。

  • 上位・下位の関係であれば、「後願は〇〇という上位概念であり、先願の具体例△△を包含するものであるから、同一である」と論じる。

Step 4: 結論

「したがって、39条1項により拒絶される。」(または協議指令が来る等)

5. 受験生が陥りやすい「29条の2」との混同

この表を脳内に焼き付けてください。

項目 第39条 (先願) 第29条の2 (拡大先願)
趣旨 重複特許の排除(1発明1権利) 公知技術の利用阻害防止
比較対象 先願の**「請求項」** 先願の**「明細書・図面等の全体」**
出願人・発明者 同一でも適用あり 同一なら適用なし (適用除外)
判断基準時 出願時 (日単位) 出願時 (日単位)

6. まとめと次のステップ

重要ポイントの要約:

  1. 比較は「Claim vs Claim」。

  2. 同一性判断には「実質同一(周知慣用・カテゴリー・上位概念)」が含まれる。

  3. 同日協議不調なら共倒れ

  4. 先願が拒絶査定確定していても、先願の地位(後願排除効)は残る

このロジックをマスターすれば、39条問題は得点源になります。

(Gemini)

質問:拒絶された先願が後願を排除するって、納得いかないんだけど?拒絶されたってことは、発明としての体を為さない場合もあるはずだよね。なぜそれが効力を持てるの?

Gemini:その感覚、非常によく分かります。「ゴミ箱に行きになった出願が、なぜ後輩の邪魔をする権利を持つんだ?」と思いますよね。しかし、特許庁という役所が**「行政としての整合性」を保ち、「無限ループ」**を防ぐためには、このルールが絶対に必要不可欠なのです。「なるほど、それなら仕方ない」と思っていただけるよう、具体的な事例(ドラマ)で解説します。

具体例:世紀の「四角いタイヤ」事件

1. 先願(Aさん)の登場

Aさんが「四角いタイヤ」という発明をして出願しました。

  • 審査官の判断: 「いや、これじゃ走れないし、産業上の利用可能性がないよ(特許法29条1項柱書違反)」あるいは「誰でも思いつくよ(29条2項進歩性欠如)」として拒絶査定を出しました。

  • 結果: Aさんの拒絶査定が確定しました。

2. 後願(Bさん)の登場

Aさんの出願の1ヶ月後、Bさん(あるいは懲りないAさん本人)が、全く同じ「四角いタイヤ」を出願しました。

もし、拒絶されたAさんの出願が「先願の地位」を失ったら?(あなたの疑問のケース)

もしAさんの出願が「なかったもの(地位喪失)」として扱われると、特許庁はBさんの出願を**「真っさらな状態」**で審査しなければなりません。

ここで2つの恐ろしい不都合が起きます。

不都合①:特許庁の自己矛盾(ダブルスタンダード)

もし審査官がうっかりミスをして、Bさんの「四角いタイヤ」に特許を与えてしまったらどうなるでしょう?Aさんは激怒します。「俺のときはダメって言ったのに、なんでBには特許をやるんだ! 同じ発明だぞ! 不公平だ!」と訴訟になります。行政処分として、同じものに対して結論が真逆になることは、法治国家として許されません。

結論: 一度「ダメ(拒絶)」と判断したものは、「先願」として残しておき、後から同じものが来たら「いや、それ前に来たAと同じだから(39条)」と門前払いする方が、行政の整合性が保てるのです。

不都合②:無限ガチャ(無限再出願)の発生

もし拒絶されたら「なかったこと」になるなら、Aさんはどうするでしょうか?「拒絶確定したけど、履歴が消えるなら、もう一回同じ内容で出願し直そう。担当審査官が変われば、次は通るかもしれない!」と、特許になるまで何度でも同じ出願を繰り返す(ガチャを引く)ことが可能になってしまいます。これでは特許庁がパンクしますし、第三者もいつ権利化されるか分からず迷惑です。

まとめ:なぜ「死んだ出願」が効力を持つのか

拒絶査定が確定した出願は、特許権という「プラスの権利」は得られませんでしたが、「この内容はもう審査済み(決着済み)である」という「確定判決のような重み(既判力に近いもの)」を持ちます。そのため、

この発明については、もうAさんの件で『決着(拒絶)』がついているのだから、後から来たお前(B)も並ぶな。お引き取り願おう。」

というロジックで排除するのです。

これが、「排除の論理(39条)」の実態です。

  • Aさんの出願: 「特許権」はもらえない。でも、「後続をブロックするバリケード」としての死体は残る

  • 特許法のメッセージ: 「同じ発明について、審査リソースを二度割くつもりはない」


試験対策上の補足(ここ大事!)

ただし、あなたの疑問である「発明としての体を為さない場合」について、条文には例外規定があります。ここが短答のひっかけポイントです。

特許法39条5項(先願の地位を失う例外)

以下の理由で却下・拒絶された場合は、例外的に先願の地位を失います(なかったものとみなされる)。

  1. 放棄・取り下げ・却下(Aさんが自分から降りた、または手続き不備)

  2. 冒認出願(Aさんが勝手に他人の発明を盗んで出願し、それがバレて拒絶された場合)

  3. 共同出願違反(Aさんが共同発明者Cさんを無視して単独出願し、それがバレて拒絶された場合)

解説: 冒認(盗んだ出願)で拒絶されたのに、その盗人Aの出願が「先願」として残ってしまい、後から本物の発明者Cさんが出願したときに「Aが先願だからお前はダメだ」となったら、盗まれた被害者が救済されませんよね?だから、「冒認・共同出願違反」で拒絶された場合に限り、そのAの出願は「初めからなかったこと(先願の地位なし)」にして、被害者である後願を通すのです。

どうでしょう?「単にダメだったから消える」のではなく、「一度『ダメ』という判断を下した事実を固定するために、あえて残している」(ただし、盗用などの悪質なケースは除く)というロジックであれば、納得感はありませんか?この「行政の整合性」「冒認などの例外(39条5項)」のセットは、論文試験でも非常に使い勝手の良い知識です。

この流れで、39条5項の「冒認」に関する条文知識や、具体的な過去問のパターンを確認しますか?