特039 なかったものとする のあとの出願はどうなる?

(先願)
第三十九条 同一の発明について異なつた日に二以上の特許出願があつたときは、最先の特許出願人のみがその発明について特許を受けることができる。


2 同一の発明について同日に二以上の特許出願があつたときは、特許出願人の協議により定めた一の特許出願人のみがその発明について特許を受けることができる。協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、いずれも、その発明について特許を受けることができない。


3 特許出願に係る発明と実用新案登録出願に係る考案とが同一である場合において、その特許出願及び実用新案登録出願が異なつた日にされたものであるときは、特許出願人は、実用新案登録出願人より先に出願をした場合にのみその発明について特許を受けることができる。


4 特許出願に係る発明と実用新案登録出願に係る考案とが同一である場合(第四十六条の二第一項の規定による実用新案登録に基づく特許出願(第四十四条第二項(第四十六条第六項において準用する場合を含む。)の規定により当該特許出願の時にしたものとみなされるものを含む。)に係る発明とその実用新案登録に係る考案とが同一である場合を除く。)において、その特許出願及び実用新案登録出願が同日にされたものであるときは、出願人の協議により定めた一の出願人のみが特許又は実用新案登録を受けることができる。協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、特許出願人は、その発明について特許を受けることができない。


5 特許出願若しくは実用新案登録出願が放棄され、取り下げられ、若しくは却下されたとき、又は特許出願について拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したときは、その特許出願又は実用新案登録出願は、第一項から前項までの規定の適用については、初めからなかつたものとみなす。ただし、その特許出願について第二項後段又は前項後段の規定に該当することにより拒絶をすべき旨の査定又は審決が確定したときは、この限りでない。


6 特許庁長官は、第二項又は第四項の場合は、相当の期間を指定して、第二項又は第四項の協議をしてその結果を届け出るべき旨を出願人に命じなければならない。


7 特許庁長官は、前項の規定により指定した期間内に同項の規定による届出がないときは、第二項又は第四項の協議が成立しなかつたものとみなすことができる。   



正しい解説(訂正)
ユーザーさんの提示された現行条文(特許法39条5項)に基づき、正しい結論を再構築します。


1. 現在のルール(39条5項)
> 「…特許出願について拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したときは、…初めからなかつたものとみなす。」
>
* 意味: 出願が拒絶査定で確定して終わった場合、その出願は**「最初から存在しなかったこと」**になります。
* 効果: 39条(先願)の地位も消滅します。


2. あの「亡霊」はどうなる?
私が語っていた「未公開で拒絶されても39条の地位(亡霊)が残るから、後願は拒絶される」という話は、現行法では起こりません。
* 現在の結論:
   * 先願Aが(未公開のまま)拒絶確定した場合、Aは「初めからなかったもの」とみなされます。
   * よって、後から来たBさんは、Aの存在(39条)によって拒絶されることはありません。
   * Aが未公開なら29条の2(拡大先願)も適用されないため、**Bさんは特許を取れる可能性が高い(セーフ)**となります。
> ※唯一の例外(但し書き)
> ユーザーさんの条文の最後にある「ただし、…協議が成立せず…拒絶…確定したときは、この限りでない」の部分。
> これだけは例外で、「同日出願のくじ引き(協議)で負けた場合」だけは、負けた出願も「先願の地位(のようなもの)」を残します(後願を排除する効果を残す)。
> 私が混同していた「地位が残る」ケースは、現行法ではこの「同日協議不成立」のパターンだけに限られます。
>
まとめ(再訂正)
* ユーザーさんのコピペ: 正しいです(現行法)。
* 私の解説: 間違いでした(平成10年以前の旧法の話をしていました)。
* 結論: 現在の法律では、拒絶査定が確定した出願(通常の拒絶)は「なかったもの」とみなされ、後願を排除する力(先願の地位)を失います。

(Gemini)

特041 国内優先権 期間の数え方?

現実の出願日(特許権の存続期間の起算点となる日)は、「後願(こうがん)の日」 です。
ここが知財学習で非常に混乱しやすいポイントですよね。「優先権」という名前から「出願日そのものが過去に遡る(遡及する)」と勘違いしやすいのですが、出願日はあくまで後願の日です。
整理して覚えましょう。
1. 「出願日」と「判断基準日」の違い
国内優先権制度では、以下の2つを分けて考えることが鉄則です。
* 現実の出願日(手続・存続期間) \rightarrow 後願の日
   * 願書を特許庁に提出したその日が「出願日」です。
   * 特許権の存続期間(出願から20年)のカウントも、この後願の日からスタートします。
* 新規性・進歩性の判断基準日(審査) \rightarrow 先願の日
   * 「新しい発明か?」「容易に考え出せたか?」を審査する際、先願に含まれていた内容については、タイムマシンに乗って先願の日を基準に判断してもらえます。これが優先権のメリットです。
2. 図解でイメージする
3. 先願と後願の扱いの違い(まとめ表)
| 項目 | 基準となる日 | 解説 |
|—|—|—|
| 願書の出願日 | 後願の日 | 願書を提出した日そのものです。 |
| 特許期間(20年)の起算日 | 後願の日 | 先願の日から20年ではありません(ここが重要!)。 |
| 新規性・進歩性の判断 | 先願の日* | *先願に記載されていた内容についてのみ遡ります。 |
| 後願で新たに追加した内容 | 後願の日 | 新しく追加した技術は、優先権の利益を受けられず、後願の日で判断されます。 |
| 先願の運命 | みなし取下げ | 先願は、後願の日から1年4ヶ月後に自動的に取り下げられたものとみなされ、消滅します。 |
> 勉強ノートのメモ:
> もし「出願日そのもの」が先願の日に遡ってしまうと、特許期間(20年)も先願の日からスタートすることになり、権利期間が短くなって出願人が損をしてしまいます。だから「出願日は後願、審査の基準は先願」というふうに分けているのです。
>
この「内容によって基準日が違う」という点は、弁理士試験や実務でも非常によく問われるポイントです。


国内優先権の「効果(判断基準)」と「期間計算」を規定しているメインの条文は、特許法第41条です。
また、特許権の存続期間については特許法第67条が関係します。
この2つを組み合わせることで、「判断は先願の日、期間は後願の日」というルールが成り立っています。詳しく条文の構造を見てみましょう。
1. 「審査の基準日が遡る」根拠
条文:特許法第41条 第2項
この条文には、「以下の規定の適用については、その特許出願は、先の出願の時にしたものとみなす」と書かれています。
> 特許法第41条第2項(抜粋・要約)
> 第一項の規定による優先権の主張を伴う特許出願(後願)に係る発明のうち、当該優先権の主張の基礎とした先の出願(先願)の願書に最初に添付した明細書等に記載された発明についての……第二十九条(新規性)、第二十九条の二(拡大先願)……の規定の適用については、当該特許出願は、当該先の出願の時にしたものとみなす。
>
* ポイント: ここで「第29条(新規性)や第29条の2(進歩性などの基礎)については、先願の日に出したものとみなすよ」と限定的に書いてあるのがミソです。
2. 「存続期間は遡らない」根拠
条文:特許法第41条 第2項(の「書かれていないこと」) & 第67条
第41条第2項は、あくまで「新規性などの審査判断については遡る」と言っているだけで、「第67条(存続期間)についても遡る」とは書いていません。
法律の世界では「書いていないことは適用されない」のが原則です。そのため、存続期間については原則どおり以下の条文が適用されます。
> 特許法第67条第1項
> 特許権の存続期間は、特許出願の日から二十年をもつて終了する。
>
* 結論: 第41条で「出願日を遡らせる」という例外規定がないため、第67条の「特許出願の日」は、そのまま**「現実に願書を出した日(後願の日)」**となります。
条文の読み方まとめ
| 疑問 | 根拠となる条文のロジック |
|—|—|
| なぜ審査は先願基準? | 第41条第2項に「第29条等の適用については、先の出願の時にしたものとみなす」と明記されているから。 |
| なぜ期間は後願基準? | 第41条第2項の「みなす」対象リストに、第67条(存続期間)が含まれていないから(=原則通り後願の日からカウント)。 |
このように、「何が遡及(そきゅう)して、何が遡及しないのか」は、第41条第2項のリストに入っているかどうかで決まります。
> 勉強ノートのメモ:
> 条文集(法文集)を持っている場合は、第41条第2項の条文番号(「第二十九条、第二十九条の二……」と並んでいる部分)をマーカーで引いておくと、「ここにあるものだけがタイムマシンに乗れる!」と視覚的に覚えられますよ。


パリ条約(43条)の優先権も「考え方のロジック」は同じです。
国内優先権と同じく、「出願日は後願、審査の基準は先願(優先日)」 となります。
これも非常に重要なので、国内優先権との違い(先願の運命)と合わせて整理しましょう。
1. パリ条約優先権のロジック(国内優先権と同じ)
| 項目 | 基準となる日 | 解説 |
|—|—|—|
| 願書の出願日 | 日本への出願日 | 実際に日本に願書を出した日が「出願日」です。 |
| 特許期間(20年)の起算日 | 日本への出願日 | 第一国の出願日(優先日)から20年ではありません。日本に出した日からスタートです。 |
| 新規性・進歩性の判断 | 第一国の出願日 | 第一国出願の内容については、タイムマシンに乗って優先日基準で審査されます。 |
2. 条文の根拠(ここが少し違います)
結果は同じでも、根拠となる法律の構成が少し異なります。
* 国内優先権(特許法41条)の場合:
   * 日本の特許法の中で「審査については先願の時に出したものとみなす」と定義しています。
* パリ条約優先権(特許法43条+パリ条約4条B)の場合:
   * 特許法43条は「手続き」の規定です。
   * 「遡って審査してもらえる効果」そのものは、パリ条約第4条B(優先期間中の行為によって無効とされない)という国際条約の効力によって発生します。
3. 【超重要】国内優先権との決定的な違い
試験や実務で間違えやすいのは、「先願(最初の出願)がどうなるか」です。
| 項目 | 国内優先権 (41条) | パリ条約優先権 (43条) |
|—|—|—|
| 先願(もとの出願)の運命 | 死にます(みなし取下げ) | 生きます(併存可能) |
| 理由 | 日本国内で同じ内容の特許が2つあると邪魔(重複)だから、古い方は消すルール。 | 各国の特許は独立している(パリ条約4条の2「特許独立の原則」)ため、アメリカの特許と日本の特許は別々に存在できる。 |
> 勉強ノートのメモ:
>  * 国内優先権 = 「古い自分を捨てて、新しい自分(完全版)に生まれ変わる」イメージ。
>  * パリ条約 = 「海外に兄弟(分身)を作る」イメージ。元の国の出願もそのまま権利化できます。
>
まとめ
「出願日は後願(日本出願日)、審査は先願(優先日)」という日付のルールは共通です!
ただし、「元の出願が消えるか残るか」だけ逆になるので、そこだけ注意してくださいね。

特044条 分割 先の出願はどうなる? 取0り下げられる?生き残る?

結論から言うと、分割出願(44条)をした場合、もとの出願(親出願)は「生き残ります」。取り下げられません。
質問者様が「取り下げられるんだっけ?」と疑問に思ったのは、おそらく**「国内優先権主張出願(41条)」と混同されている**可能性があります。
ここを整理するのが試験対策の肝ですので、スッキリ整理しましょう。
1. 分割出願(44条)の基本イメージ
分割出願は、単細胞生物が分裂して2つになるようなイメージです。
* もとの出願(親): そのまま審査係属します(生き残る)。
* 分割した出願(子): 新たな出願として生まれ、出願日は親の日に遡及します。
つまり、出願が2つ並存する状態になります。
> 注意点(39条対策)
> 2つとも生き残りますが、両方の請求項(クレーム)に「同じ発明」が含まれていると、先願規定(39条)または同日出願として、どちらかが拒絶されてしまいます。
> そのため、通常は分割と同時に親出願の補正を行い、親と子で権利範囲を住み分けさせます。
>
2. なぜ「取り下げられる」と思ったのか?(混同しやすい制度)
おそらく、国内優先権主張出願(41条) の記憶と混ざっていると思われます。
| 項目 | 分割出願 (44条) | 国内優先権主張出願 (41条) |
|—|—|—|
| もとの出願の運命 | 生き残る | 取り下げ擬制される (1年3ヶ月後) |
| 目的 | 発明が複数あるので分ける
拒絶理由解消のため分ける | 内容を改良・追加して
新しい出願にまとめる |
| 関係性 | 親と子が並存する | 後の出願が前の出願を吸収・上書きする |
* 41条(国内優先権)の場合: 新しい改良発明を出願した後、もとの基礎出願は役目を終えて**1年3ヶ月後に自動的に取り下げ(みなし取り下げ)**になります。
3. まとめ
* 分割出願(44条): 親も子も生き残る。(だから、中身が被らないように親を補正する必要がある)
* 国内優先権(41条): 先の出願は死ぬ(取り下げられる)。
ここを区別しておくと、論文試験や担当試験のひっかけ問題にも強くなります!

「分割出願ができる時期的要件(いつまで分割できるか)」についても復習しておきましょう。


44条(分割出願)の時期的要件は、条文の書き方が複雑で、しかも例外規定が絡むので、普通に読んでも頭に入ってこないんですよね。ここをスッキリさせるには、**「チャンスは3回ある」**と割り切って覚えるのが一番早道です。


過去問で間違えなくなるように、試験に出るポイントだけに絞って整理しましょう。
分割ができるタイミング「3つのチャンス」
分割出願は、いつでもできるわけではありません。以下の**3つのタイミング(チャンス)**だけです。
チャンス①:補正ができる時(1号)
これが原則です。
* 覚え方: 「親出願の中身をいじれる(補正できる)なら、中身を分ける(分割する)こともできるよね」という理屈です。
* 具体的には:
   * 審査官から何も言ってきていない時(自発補正期間)
   * 拒絶理由通知が来て、それに対する意見書を出せる期間(指定期間内)
チャンス②:特許査定が出た後の「30日以内」(2号)
「おめでとう!特許です」と言われた後のボーナスタイムです。
* 注意点(超重要):
   * 「特許料を払うまで」 です! 払って登録手続きをしちゃったら、もう分割できません。
   * (※以前は特許料納付後もOKでしたが、今の試験対策としては「特許料納付前」と覚えておくのが基本です。ただし条文上は、特許権の設定登録がされる前まで可能です)
チャンス③:最初の拒絶査定が出た後の「3ヶ月以内」(3号)
「ダメでした(拒絶査定)」と言われた時の復活チャンスです。
* ここが試験のツボ:
   * 「拒絶査定不服審判」を請求するかどうかに関わらず、分割だけ単独ですることができます。
   * (昔は審判請求とセットじゃないとダメでしたが、今は分割単独でOKです)
過去問でよく出る「ひっかけ」ポイント
試験で「訳が分からない」となるのは、たいてい以下のパターンではありませんか?
Q. 「特許査定」が出た後、特許料を納付してしまいました。その翌日、分割出願はできますか?
> A. できません。
> チャンス②は「特許権の設定登録がされる前」までです。実務上は特許料納付と同時に登録プロセスが進むので、納付後はアウトになる可能性が高いです。(試験的には「特許権設定登録前」がデッドライン)
>
Q. 「拒絶査定」が出ました。審判は請求しませんが、分割出願だけできますか?
> A. できます。
> これがチャンス③です。親出願は死にますが、最後に子供(分割出願)を残すことができます。
>
Q. 最初の拒絶理由通知が来ました。指定期間(60日)を過ぎてしまいました。分割できますか?
> A. できません。
> チャンス①の「補正ができる期間」を過ぎているからです。
>
整理用テーブル:これだけ覚えればOK
| タイミング | 条文 | ポイント(ここを暗記!) |
|—|—|—|
| 審査中 | 44条1項1号 | 補正ができる時ならいつでもOK |
| 特許査定後 | 44条1項2号 | 査定謄本送達から30日以内
かつ 特許権の設定登録前 |
| 拒絶査定後 | 44条1項3号 | 査定謄本送達から3ヶ月以内
(審判請求しなくてもOK) |
どうでしょう?「3つのチャンス」という枠組みで見ると、少し景色が整理されませんか?

(Gemini)

特046条(出願の変更)と46条の2(実用新案登録に基づく特許出願)の違い

特許法46条(出願の変更)と46条の2(実用新案登録に基づく特許出願)は、どちらも「形式を変えて権利化を目指す」手続きですが、「いつやるか(タイミング)」と「元の権利(出願)がどうなるか」に決定的な違いがあります。一言で言うと、「まだ審査中(登録前)」なら46条、「もう登録されちゃった後」なら46条の2です。


1. 特許法46条:出願の変更
これは、「出願中(係属中)」の案件を、別の種類の出願に切り替える手続きです。


* イメージ: 電車に乗っていて、目的地(登録)に着く前に「やっぱり行き先(権利の種類)を変えよう」と乗り換える感じです。
* 対象: 実用新案登録出願 \rightarrow 特許出願(または意匠 \rightarrow 特許など)。
* 元の出願の運命: 変更した瞬間に、元の出願は取り下げたものとみなされます(消滅します)。
* メリット: もとの出願日を確保したまま(遡及効)、適切な権利形式に変更できます。


2. 特許法46条の2:実用新案登録に基づく特許出願
これは、日本特有の「実用新案は無審査ですぐ登録される」という制度のためにある規定です。**「すでに登録済みの実用新案権」**をベースにして、後から特許を取りに行く手続きです。


* イメージ: 一旦とりあえず小さい家(実用新案権)を建てたけど、やっぱりお城(特許権)に建て替えたい、という「アップグレード」です。
* 対象: 登録済みの実用新案権 \rightarrow 特許出願。
* 元の権利の運命: 特許出願をする際に、元の実用新案権を放棄しなければなりません。
   * ※ここが重要!46条は「自動的に取り下げ」ですが、46条の2は「自発的に権利を放棄する手続き」が必要です。


* 制約: 実用新案登録出願の日から3年以内などの厳しい条件があります。


違いのまとめ(比較表)
試験や実務で問われるポイントを整理しました。
| 比較項目 | 46条(出願の変更) | 46条の2(実用新案登録に基づく特許出願) |
|—|—|—|
| 基礎となるもの | 係属中の出願
(まだ権利になっていない) | 登録済みの実用新案権
(すでに権利になっている) |
| 元の案件の扱い | 変更時に**「取り下げ」**とみなされる
(自動的に消える) | 出願時に**「権利を放棄」**する必要がある
(自分で捨てる手続きが必要) |
| できる時期 | 実用新案登録出願の日から3年以内
(かつ登録前) | 実用新案登録出願の日から3年以内
(かつ評価請求がされていない等) |
| 目的 | 形式のミス修正や戦略変更 | 早期権利化(実案)と強力な権利(特許)の切り替え |
| 条文の趣旨 | 手続の便宜を図る | 早期登録制度(実案)のデメリット補完 |
なぜこの違いがあるの?
実用新案は「無審査」ですぐに登録されてしまうため、出願中に「やっぱり特許にしたい(46条)」と思っても、変更する暇もなく登録されてしまうことがあります。
そこで、**「登録されてしまった後でも、特許に挑戦できるチャンス(46条の2)」**を残しているのです。
ただし、特許と実用新案の「二重取り」はできないので、特許に挑戦するなら、確実に今の実用新案権を捨ててください(放棄)、というルールになっています。

特許が取れなかったら大変なことになります(権利がゼロになります)。46条の2(実用新案登録に基づく特許出願)は、「ハイリスク・ハイリターン」な制度だからです。


なぜ「困る」ことになるのか?
この手続きのルールが以下のようになっているからです。
* 出願と同時に放棄:
   特許出願をするその瞬間に、元の実用新案権を**「放棄」**しなければなりません。つまり、審査の結果を待たずに、先に捨てなければならないのです。
* 復活しない:
   もしその特許出願が「拒絶(不合格)」になっても、捨ててしまった実用新案権は戻ってきません。
結果として、**「実用新案権は失い、特許権も取れなかった」**という、**無権利状態(丸裸)**になってしまうリスクが完全にあります。
では、なぜそんな危ないことをするの?
それでもこの制度を使う人がいるのは、実用新案権のデメリットが大きすぎる場合があるからです。
* 権利期間が短い: 実用新案は出願から10年で終わります(特許は20年)。
* 権利行使が難しい: 実用新案権は「評価書」というお墨付きをもらわないと他人に警告すらできませんが、特許権なら強力に行使できます。
「この発明は絶対に大ヒットするから、10年じゃ足りない!」「ライバルを本気で訴えたい!」という場合に、今の弱い権利を捨ててでも、強い権利を取りに行く賭けに出るのがこの手続きです。
実務での安全策
実務では、いきなり46条の2を行うことは稀です。
リスクを避けるために、事前に特許庁に**「実用新案技術評価書」**を請求して、特許性の有無(審査に通りそうか?)を感触として確かめてから決断することが多いです。評価書で「良い評価(肯定的見解)」が出ていれば、特許も通る可能性が高いと判断できるからです。


まとめ
「特許が取れなかったら困る(丸損する)」制度です。ですので、使うときは非常に慎重な判断が求められます。

(Gemini)

心筋細胞の主要なエネルギー源:脂肪酸

心筋細胞は「エネルギーの雑食(metabolic omnivore)」と呼ばれ、さまざまな物質を原料にできますが、通常時(安静時・非空腹時)は、エネルギー源の約 60〜90% を遊離脂肪酸の酸化によってまかなっています。なぜ心筋がグルコース(糖)よりも脂肪酸を好むのか、その仕組みと理由を整理して解説します。


なぜ「脂肪酸」がメインなのか?

心臓は一生休まず動き続けるため、膨大なエネルギー(ATP)を常に必要とします。

  • エネルギー密度の高さ: 脂肪酸はグルコースに比べて1分子あたりのエネルギー産生量が圧倒的に多いです(例:パルミチン酸1分子から106個のATP、グルコース1分子から約30〜32個のATP)。

  • 貯蔵の限界: 心臓はグリコーゲン(糖の貯蔵形態)をわずかしか蓄えられません。そのため、血中から効率よく大量のエネルギーを取り出す必要があり、脂肪酸がそのニーズに合致しています。

グルコースとの使い分け(代謝の柔軟性)

心臓はグルコースを全く使わないわけではありません。状況に応じて燃料を切り替える「代謝の柔軟性(Metabolic Flexibility)」を持っています。

状況 主なエネルギー源 理由
安静時・通常時 遊離脂肪酸 (60-90%) 安定した大量のエネルギー供給のため
食後 グルコース / 乳酸 インスリンにより糖の取り込みが増えるため
激しい運動時 乳酸 / グルコース 血中乳酸濃度が上がり、速やかに酸化できるため
胎児期 グルコース 低酸素環境に適応するため(糖代謝は酸素消費が少なくて済む)

補足:ランドル効果(Randle cycle)

生化学的なメカニズムとして、「脂肪酸の酸化が進むと、糖の利用が抑制される」という仕組み(ランドル効果)があります。

脂肪酸から作られたアセチルCoAなどが、グルコースを分解する酵素(ピルビン酸デヒドロゲナーゼなど)を阻害するため、脂肪酸がある環境では自然と糖の使用が抑えられるようになっています。まとめると、心筋は、基本的には「脂肪酸」をメイン燃料とし、必要に応じて「ケトン体」や「乳酸」、「グルコース」を使い分けるハイブリッドエンジンなような性質を持っています。

 

脂肪酸を除いて考えた場合、平常時(特に食後や通常の活動時)の心筋は ケトン体よりもグルコースを多く利用しています。心筋のエネルギー消費の内訳を「脂肪酸以外」に注目して整理すると、以下のようになります。

1. 平常時のエネルギー源の順位(脂肪酸を除く)

通常の状態(非空腹時)において、心筋がATPを作るために利用する基質の割合は概ね以下の通りです。

  1. 遊離脂肪酸:約 60〜70% (メイン)

  2. グルコース(糖)および乳酸:約 20〜30%

  3. ケトン体:約 5% 未満

  4. その他(アミノ酸など):わずか

このように、平常時はケトン体の血中濃度自体が非常に低いため、心筋にとっても「たまに流れてくるサブの燃料」程度の扱いです。一方で、グルコースは常に一定量が血液中に存在し、心筋細胞へ安定的に取り込まれているため、利用優先度はグルコースの方が上になります。


2. なぜ「ケトン体」が注目されるのか?

平常時は影の薄いケトン体ですが、特定の条件下ではグルコースを追い抜くほどのポテンシャルを持っています。

  • 飢餓・絶食時: 血糖値が下がり、肝臓でケトン体が大量に作られると、心筋はグルコースよりもケトン体を優先してエネルギー源として使い始めます。

  • 心不全の時: 心臓の機能が低下すると、脂肪酸をうまく燃やせなくなります。このとき、心筋は「省エネで効率の良い燃料」としてケトン体への依存度を高めることがわかってきました。これを「ケトン体代謝へのシフト」と呼び、心不全治療の新たな鍵として研究が進んでいます。


3. 乳酸の存在も忘れてはいけない

実は「脂肪酸以外」で言うと、心臓は乳酸(Lactate)も非常に好んで消費します。激しい運動時などで血中の乳酸濃度が上がると、心臓はそれを素早く取り込み、グルコースよりも優先してエネルギーに変えることができます。「骨格筋が出したゴミ(乳酸)を、心臓が燃料として再利用する」という非常に効率的なリサイクルシステムが働いています。

まとめ

  • 平常時: グルコース > ケトン体

  • 空腹・絶食時: ケトン体 > グルコース

  • 運動時: 乳酸 > グルコース

平常時は圧倒的にグルコースの出番の方が多い、というのが答えになります。

(Gemini 3)

特139 除斥

「除斥(じょせき)」について整理しましょう。
特許法などの手続において、「審判官などが不公平な判断をするのを防ぐための仕組み」ですね。試験では「忌避(きひ)」との違いや、「前審関与(ぜんしんかんよ)」の細かいルールがよく問われます。


1. 除斥(じょせき)とは?
一言で言うと、審判官などが**「事件と特別な関係があるため、法律上当然にその職務から外されること」**です。
当事者が「あの人を変えてください」と言わなくても、**自動的にアウト(職務執行不能)**になるのがポイントです。
> なぜあるの?(趣旨)
> 審判官が当事者の親戚だったり、その事件の代理人だったりしたら、公平な審理が期待できない(公平の担保)からです。
>
2. どんな時に除斥される?(除斥原因)
特許法第139条に規定があります。試験で出る主な理由は以下の通りです。
(※ここでは分かりやすく「審判官」で説明しますが、審査官にも準用されます)
* 当事者との関係: 審判官自身が当事者である、または当事者の配偶者・親族である場合。
* 後見人等の関係: 当事者の後見人等である場合。
* 代理関係: その事件について、当事者の代理人である(または過去に代理人だった)場合。
* 証人・鑑定人: その事件について、証人や鑑定人として関与した場合。
* 前審関与(重要!): その事件について、以前に審査官として査定に関与していた場合など。
3. よく出る問題パターン・試験対策
弁理士試験(短答・論文)では、以下の3つのポイントが頻出です。
① 「除斥」と「忌避」の違い
これが基本中の基本です。表で覚えるのが一番早いです。
| 項目 | 除斥 (Exclusion) | 忌避 (Recusal) |
|—|—|—|
| 定義 | 法律上の関係があるため、当然に排除されること | 公正を妨げる事情があり、申立てによって排除されること |
| 原因 | 親族、代理人、前審関与など(客観的) | 「仲が悪い」「著しく不公平な言動」など(主観的要素含む) |
| 効力 | 法律上当然に職務を行えない | 申立てが認められた時に職務を行えなくなる |
| 対象 | 審査官、審判官、審判書記官 | 同左 |
> 試験のヒッカケ例
>  * 「審判官が当事者と著しく仲が悪い場合、除斥の原因となる。」
>    * → ×(バツ)。それは「忌避」の原因です。「仲が悪い」は法律上の定義(親族など)に含まれないからです。
>
② 「前審関与」の範囲
「前の段階(審査)で判断を下した人が、次の段階(審判)でも判断するのは不公平だよね」というルールですが、例外や細かい規定があります。
* 「査定」に関与したか?
   * 審査官として**「拒絶査定」や「特許査定」にサインをした人が、その事件の拒絶査定不服審判の審判官になるのはNG(除斥)**です。
   * しかし、単に事務的な連絡をしただけ、あるいは「拒絶理由通知」を出しただけで、最終的な「査定」に関与していない場合は、除斥にならないことがあります。
③ 誰に適用されるか?(準用)
「除斥」のルールは、誰に適用されるかも問われます。
* 審判官: 適用される(法139条)
* 審査官: 適用される(法48条で準用)。ただし、「前審関与」の規定は審査官には適用されません(審査官は最初の判断をする人なので「前審」がないため)。
* 審判書記官: 適用される(法144条の2)。
4. 覚え方のコツ
イメージとしては以下の通りです。
* 除斥: 「あなたはルール違反(親戚など)なので、レッドカード(即退場)」
* 忌避: 「あの審判官は怪しいので変えてくださいとイエローカードを出す(認められれば退場)」

「前審関与(ぜんしんかんよ)」
ここは試験で本当によく出る、かつ**「ひっかけ問題」の宝庫**です。
一言で言うと、「前の段階で『ダメ(拒絶)』って言った本人が、不服申し立ての審判で『本当にダメだったか?』をチェックするのは禁止!」 というルールです。
詳しく、でも噛み砕いて解説しますね。
1. なぜ「前審関与」はいけないの?
人間心理として、自分が一度下した判断(査定)を「あれは間違いでした」と認めるのは難しいですよね。
* 審査官Aさん: 「この発明はダメ。拒絶査定!」
* 出願人: 「納得いかない!審判で争うぞ!」
* 審判官になったAさん: 「担当は私です。……うん、やっぱり前と同じ理由でダメですね(棄却)」
これでは、実質的に「再審査」してもらえていないのと同じです。
「上のクラス(審判)に行ったら、新しい別の人に公平に見てもらいたい」 という出願人の権利(審級の利益)を守るために、Aさんは除斥(排除)されます。
2. 試験に出る「ここが境界線!」
条文(特許法139条6号)では、**「前審の査定又は審決に関与したとき」**は除斥されるとあります。
では、どこまでが「関与」になるのか?ここが狙われます。
① 「査定」に関与したかどうかが重要
* 【NG】拒絶査定にサインした(決裁した)
   * 完全にアウトです。審判官になれません。
* 【OK】拒絶理由通知を出しただけ(途中交代した)
   * 審査の途中で拒絶理由通知を作ったけれど、最後の「拒絶査定」をする前に異動して、別の審査官Bさんが査定をした場合。
   * この場合、Aさんは**「最終結論(査定)」には関与していない**ので、審判官になってもセーフ(除斥されない)とされることが多いです。
② 「前審」とは直前の段階のこと
* 審査(前審) → 拒絶査定不服審判(後審)
   * 審査官が審判官になるのはNG。
* 拒絶査定不服審判(前審) → 知財高裁(後審)
   * 審判官が裁判官になるのはNG(これは裁判所の法律等の話になりますが概念は同じ)。
3. 【最重要】ここが一番のひっかけポイント!
「差し戻し(さしもどし)」のケースです。
これが理解できれば、この分野は卒業レベルです。
> Q. 審判で「審査官の判断は間違いだ!もう一回審査をやり直せ」という審決(取消差戻し)が出ました。事件は審査に戻ります。この時、元の審査官Aさんが再び審査を担当することはできる?
>
* 答え: できる(除斥されない)
なぜ?
「前審関与」は、「下の段階の人 → 上の段階に行く」 のを禁止するルールです。
「上の段階(審判)から → 下の段階(審査)に戻ってきた」場合、審査官Aさんは、上司(審判官)の指示に従って審査をする立場になります(拘束力がある)。
この場合、Aさんが独断で前の判断に固執する恐れがない(審決に従わないといけない)ため、再び担当してもOKなのです。
まとめ:前審関与の攻略図
* 審査官 → 審判官 になるケース
   * 査定に関与した? → Yesなら除斥(NG)
* 審判 → 審査 に戻るケース(差戻し)
   * 元の審査官がやる? → No除斥(OK、担当できる)

特044 分割出願、審査請求の期間はいつから数える?

分割出願における審査請求の期間は、「原出願の日から3年」と「分割出願の日から30日」のどちらか遅い方までとなります。

## 1. 原則:原出願の日からカウント
分割出願は、法律上「原出願の時にしたもの」とみなされます(遡及効)。
そのため、審査請求の期限も原出願の日(親出願の出願日)から3年以内というのが基本ルールです。
> 例:
>  * 原出願日:2020年1月1日
>  * 原則の期限:2023年1月1日まで
>
## 2. 特例:分割の日から30日以内
しかし、分割出願は原出願から数年経ってから(例えば拒絶査定不服審判の請求時など)行うことも多いです。その時点で「原出願から3年」が過ぎてしまっていることがあります。
その救済措置として、以下の特例があります。
* ルール: 分割出願をした日から30日以内であれば、審査請求が可能。
## 3. まとめ:どちらか遅い日まで
上記1と2を合わせると、実務上の期限は以下のようになります。
| ケース | 具体的な状況 | 審査請求の期限 |
|—|—|—|
| A | 原出願からまだ3年経っていない | 原出願の日から3年以内 |
| B | 原出願から3年経過後(または期限間近) | 分割出願の日から30日以内 |
> ⚠️ 注意点(ここが重要!)
> ケースB(3年経過後の分割)の場合、分割出願と同時、あるいは直後に審査請求を行う必要があります。
> 「とりあえず分割だけしておいて、あとで審査請求しよう」と思っていると、あっという間に30日が過ぎてしまい、権利化できなくなるリスクがあります。
>
補足:PCT出願(国際出願)に基づく場合
原出願がPCT出願(日本語特許出願とみなされる国際出願)の場合でも、基本的な考え方は同じですが、起算点となる「原出願の日」は国際出願日となります。(国内書面提出日ではないので注意が必要です。)

「後願(こうがん)」ですね。その言葉が出るということは、おそらく**「国内優先権の主張(国内優先)」**のルールと記憶が混同されている可能性が高いです。非常に紛らわしい部分ですので、整理します。


## 「後願」から数えるのは、国内優先権の話
「3年の審査請求期間」を**「後願(後の出願)から数える」**のは、分割出願ではなく、国内優先権を主張した出願の場合です。
ここが知財実務や試験で最も引っかかりやすいポイントの一つです。
| 手続きの種類 | 3年のカウント開始日(起算点) |
|—|—|
| 分割出願 | × 後願(分割出願日)からではない
○ 原出願(もとの出願日)から3年 |
| 国内優先権 | ○ 後願(優先権主張した実際の出願日)から3年
× 先の出願(基礎出願)からではない |
## なぜ「後願」と勘違いしやすいのか
* 分割出願(遡及効あり)
   * 法律上「原出願の時にしたもの」とみなされるため、時計の針を原出願まで戻してカウントします。
   * そのため、原則は「原出願から3年」です。(例外として、分割の日=後願の日から30日という救済はあります)
* 国内優先権(遡及効なし)
   * 新規性などの判断は「先の出願」を基準にしますが、審査請求期間の計算などの手続き期限は、時計の針を戻さず**「後願(実際に手続した日)」**を基準にします。
   * ここで「後願から3年」というルールが出てくるため、分割出願のルールとごっちゃになりやすいのです。
## 結論
* 分割出願の場合:
   * 「後願(分割した日)」から3年数えるルールはありません。
   * 「原出願」から3年です。(※ただし、分割の日から30日以内ならOKという特例はあります)
* 国内優先権の場合:
   * 「後願(優先権主張出願の日)」から3年です。
この「国内優先」の知識が頭の片隅にあって、「分割も後願からだっけ?」となられたのではないでしょうか?

記憶定着用にシンプルな比較図を置いておきますね。
📌 3年のカウント開始地点メモ
* 分割出願 ✂️
   * 時計を戻す
   * スタート:原出願(親)の日
* 国内優先権 🥇
   * 時計はそのまま
   * スタート:後願(子)の日



ポイントとなる条文は、特許法第44条と第48条の3です。先ほどの「分割出願」と「国内優先権」の違いを生んでいる根拠条文を整理します。


1. 分割出願の条文(原出願から数える理由)
分割出願の審査請求期限が「原出願から3年」になる根拠は、**「出願日が遡(さかのぼ)る」**と書かれているこの条文です。
> 特許法 第44条 第2項(特許出願の分割)
> 「分割に係る新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなす。」
>
* 解説: この「みなす(遡及効)」があるため、審査請求の期限を計算する際も、時計の針を「もとの出願日(原出願)」に戻して計算します。
また、特例(分割から30日以内)の根拠はこちらです。
> 特許法 第48条の3 第2項(出願審査の請求)
> 「特許出願の分割…があつた場合においては、…期間の経過後であつても、その分割…の日から三十日以内に限り、出願審査の請求をすることができる。」


2. 国内優先権の条文(後願から数える理由)
一方で、国内優先権(後願から3年)については、「出願日を遡らせる」という条文が存在しないことが理由です。
国内優先権の条文(第41条)には、「新規性などの判断については、先の出願の時にしたものとみなす」とは書いてありますが、「出願そのものを先の出願の時にしたものとみなす」とは書いてありません。
そのため、原則通りの条文が適用されます。
> 特許法 第48条の3 第1項(原則)
> 「特許出願があつた日から三年以内に、…出願審査の請求をすることができる。」

* 解説: 優先権主張をしても「出願があった日」はあくまで「実際に書類を出した日(後願の日)」のままです。だから、後願から3年となります。


まとめ:条文構造の比較
|  | 根拠条文 | ロジック | 結果(起算日) |
|—|—|—|—|
| 分割出願 | 第44条第2項 | 「原出願の時にしたものとみなす」
(完全な遡及) | 原出願日 |
| 国内優先権 | 第41条
(第48条の3第1項) | 手続き期限に関する遡及の規定がない
(原則通り) | 後願日
(実際の出願日) |
「44条2項があるから遡る(分割)」、「41条にはそれがないから遡らない(国内優先)」と覚えると、条文レベルでもスッキリ整理できます!

(Gemini)

特068 BBS事件

特許法における基本条文である68条(特許権の効力)と、それに関連する超重要判例「BBS事件(並行輸入事件)」この2つはセットで覚えると非常に理解が深まります。「原則」と「例外(権利が及ばないケース)」の関係にあるからです。

1. 特許法68条:特許権の効力(原則)
まずは条文の基本です。68条は「特許権者は何ができるのか」を定義しています。


> 特許法 第68条
> 特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。ただし、その特許権について専用実施権を設定したときは、専用実施権者がその特許発明の実施をする権利を専有する範囲内については、この限りでない。

ポイント解説
* 「業として」 (As a business):
   * 個人的・家庭的な実施(例:家で個人的に発明品を作って使うだけ)には権利は及びません。ビジネスとして行う場合に限ります。
* 「専有する」 (Exclusive right):
   * 特許権者だけがその発明を実施(製造、販売など)でき、他人を排除できるという強力な独占権です。


* ただし書き(専用実施権):
   * 他人に「専用実施権(最強のライセンス)」を与えた場合、特許権者自身もその範囲では実施できなくなります(権利が重なるのを防ぐため)。


2. BBS事件(BBSアルミホイール事件):並行輸入と国際消尽
68条では「特許権者は独占できる(他人の販売を止められる)」とありました。
では、**「海外で正規に購入した商品を、勝手に日本に輸入して販売する(並行輸入)」**はどうなるでしょうか?


ここで登場するのがBBS事件(最高裁 平成9年7月1日判決)です。


事件の概要
* ドイツのBBS社(特許権者)が、ドイツで正規にアルミホイールを販売。
* ある業者がそのホイールをドイツで購入し、日本へ並行輸入して販売した。
* BBS社は日本の特許権に基づき「日本での販売は許していない!68条の侵害だ!」と訴えた。
最高裁の判断(ここが試験に出る!)
結論として、**「特許権侵害にはならない(並行輸入はOK)」**という判断が下されました。
裁判所は、いわゆる**「国際消尽(こくさいしょうじん)」**に近い理論を展開しました。


> 【判決のロジック(BBSの法理)】
>  * 譲渡による権利の消耗: 正規に商品が譲渡された時点で、その商品に関する特許権の目的は達成されている。
>  * 流通過程の自由: 商品は国境を越えて流通するものであり、購入者がその商品をどう扱おうと(輸出入しようと)自由であるのが当然。
>  * 結論: 原則として、海外で適法に販売された商品を日本に輸入しても、日本の特許権は及ばない。
>
例外:権利行使ができる(並行輸入を止められる)場合
ただし、無条件ですべてOKではありません。最高裁は、特許権者が並行輸入を阻止できる「2つの要件」も示しました。
以下の両方を行った場合のみ、権利を行使できます。
* 合意: 海外の販売先との間で「日本への輸出を禁止する」旨を合意していること。
* 表示: その旨(日本への輸出禁止)を製品自体に明記していること(第三者がわかるようにするため)。


まとめ:
| 項目 | 内容 | 重要キーワード |
|—|—|—|
| 68条 | 特許権の基本的効力。「業として」「専有する」。 | 業として、専有、専用実施権 |
| BBS事件 | 真正商品の並行輸入は特許権侵害になるか? → ならない(原則)。 | 国際消尽、流通過程の自由、黙示の許諾 |
| 阻止条件 | 並行輸入を止めるにはどうすればいい? | ①輸出禁止の合意
②製品への明記 |


理解のコツ
「68条で強力な独占権を与えつつ、BBS事件の判例によって、**『一度売って代金をもらった商品に関しては、もう文句を言うな(権利は尽きている)』**というバランスを取っている」と理解するとスムーズです。


次は、「国内消尽(用尽説)」と「国際消尽」の違いについて整理しましょう。「国内消尽」と「国際消尽(BBS事件)」の比較は、弁理士試験や知財検定でも最も狙われやすい論点の一つです。
似ているようで、**「権利行使を止めるためのハードル(例外)」**が大きく異なります。ここを整理しましょう。


「国内消尽」vs「国際消尽」比較ノート
まず大原則として、どちらも**「一度正規品として売ったなら、その後の転売や使用に文句は言えない(権利は尽きている)」という結論は同じです。
しかし、「なぜ言えないのか(理論)」と「例外的に文句を言える条件」**が違います。
1. 比較表(ここを暗記!)
| 比較項目 | 国内消尽 (Domestic Exhaustion) | 国際消尽 (International Exhaustion) |
|—|—|—|
| 対象 | 日本国内で正規に販売された商品 | 海外で正規に販売された商品 (並行輸入) |
| 原則 | 特許権は消尽する。
(権利行使できない) | 特許権行使は許されない。
(権利行使できない) |
| 理論的根拠 | ①二重利得の防止(既に代金を得ている)
②流通の保護 | ①二重利得の防止
②流通の保護
※ただし「属地主義」との調整が必要 |
| 権利行使できる例外
(ここが最重要) | 原則として特約があっても対抗できない。

唯一の例外:「新たな製造」とみなされる場合
(例:インクタンク事件のようなリサイクル・改造) | 以下の2条件を満たせば権利行使できる。

1. 販売先との合意 (日本への輸出禁止)
2. 製品への明記 (第三者が分かるように) |
2. なぜ「違い」が生まれるのか?(理解のポイント)
この違いは、特許法の**「属地主義(特許は国ごとに独立している)」**という考え方が関係しています。
国内消尽の場合(シンプル)
* 日本の特許権に基づいて、日本で適法に売りました。
* 特許権者はその販売で「日本の特許権に対する対価」を既に受け取っています。
* だから、その商品について日本の権利はもう使い切った(消尽した)と考えます。
* 仮に「転売禁止」の契約を結んでいても、それは当事者間の契約違反の問題であり、特許権侵害として第三者を訴えることは(原則として)できません。
国際消尽の場合(バランス調整)
* 海外で売った場合、日本の特許権に対する対価を本当に受け取ったと言えるか?(海外の特許と日本の特許は別物=属地主義)という議論があります。
* しかし、BBS事件判決は**「現代の国際貿易において、国ごとに権利が分断されると流通が阻害される」**として、原則は権利行使を認めませんでした。
* 【ここが違う!】 ただし、特許権者にも「日本では売りたくない(日本での利益は別で確保したい)」という事情があるかもしれません。
* そこで、**「合意+明記(シールなどを貼る)」**というアクションを起こした場合に限り、例外的に「権利は消尽していない(日本での権利を行使できる)」と認めました。
3. 応用:国内消尽の限界(インクタンク事件)
「国内消尽」には「合意+明記」のような回避策はありませんが、**「どこまでが修理で、どこからが新たな製造か?」**という別の論点があります。
* リサイクル品(インクタンク事件):
   * 使用済みのインクカートリッジを回収し、インクを再充填して販売したケース。
   * 最高裁は「単なる部品交換や修理の範囲を超えて、実質的に新たな製造とみなされる場合は、権利は復活する(消尽しない)」と判断しました。
   * つまり、国内消尽していても、加工しすぎると権利侵害になります。
まとめ:次にやること
* 国内消尽: 「一度売ったら終わり」。でも「加工しすぎ(再製造)」はダメ。
* 国際消尽: 「一度売ったら終わり」。でも「合意+明記」があれば止められる。
この違いが頭に入ればバッチリです。

(Gemini)

特065 補償金請求権の対象期間

特許法第65条(出願公開の効果等)における「補償金の支払いを請求できる期間(補償金請求権の対象期間)」は「警告をした時(または悪意の事実を知った時)」から「特許権の設定登録の日」までの間です。

出願公開した時からではないというのが、一つのポイントです。


## 補償金請求権の対象期間(いつからいつまで?)
特許権が発生するのは「設定登録」の後ですが、出願公開(出願から18ヶ月後)から登録までの間に、第三者が勝手に発明を実施してしまうと、出願人は不利益を被ります。その隙間を埋めるのが第65条の補償金請求権です。


期間の定義は以下の通りです。
1. 始期(いつから?)
以下のいずれか早い時点がスタート地点になります。
* 原則:警告をした時
   * 出願公開があった後、その特許出願の内容を記載した書面を提示して警告をした時。
* 例外:悪意(知っていた)の時
   * 警告をしなくても、第三者が「出願公開がされた発明であることを知って」業としてその発明を実施していた場合は、その事実を知った時。


2. 終期(いつまで?)
* 特許権の設定登録の日
   * 設定登録がなされると、そこからは正式な「特許権」に基づいて差止請求や損害賠償請求ができるようになるため、補償金請求権の出番はここで終わります。


## タイムラインでのイメージ
視覚的に整理すると以下のようになります。
| 時系列 | 手続き・状態 | 権利の状態 |
|—|—|—|
| 1. 出願 | 特許出願 | 権利なし |
| ↓ | (審査待ち・18ヶ月経過) |  |
| 2. 出願公開 | 内容が世の中に公開される | まだ請求できない |
| ↓ | ★警告(書面提示) | 【ここから計算スタート】 |
| 3. 実施期間 | 第三者が勝手に実施している期間 | 【この期間分のお金を請求できる】 |
| ↓ | 審査合格・登録料納付 |  |
| 4. 設定登録 | 特許権の発生 | 【ここで計算ストップ】 |
| 5. 登録後 |  | これ以降は「特許権侵害」として請求 |


## ⚠️ 注意すべき重要ポイント(試験によく出る点)
この論点で最も間違えやすいのが、「いつ計算するか」と「いつ請求(権利行使)できるか」の違いです。
* 計算の対象期間
   * 上記のとおり「警告~登録」までの期間です。
* 実際に請求できる時期(権利行使の時期)
   * 「設定登録の後」でなければ請求できません(法65条2項)。
   * つまり、「今まさに警告期間中だから、今すぐ金払え!」とは言えず、「特許になるまで待って、無事に登録されたら、さかのぼってあの時の分を請求する」という形になります。
知財の勉強において、この「隙間期間の保護」は非常に重要な概念です。

(Gemini)

特034条4項 特許を受ける権利の承継

Gemini:

「承継(しょうけい)」という言葉は、日常ではあまり使いませんが、知財の世界では**「バトンタッチ」**だと考えると分かりやすくなります。特に特許法34条は、短答試験で「出願前」と「出願後」の違いを入れ替えて受験生を翻弄してくる要注意ポイントです。


1. 承継(しょうけい)とは?

「承継」とは、特定の権利や義務を、前の人から引き継ぐことを指します。

  • 一般承継(いっぱんしょうけい): 相続や会社の合併など、まとめて全部引き継ぐこと。

  • 特定承継(とくていしょうけい): 売買や譲渡など、特定の権利だけをピンポイントで引き継ぐこと。


2. 特許法第34条第4項を噛み砕いて説明

この条文は、**「出願した『後』に、特許を受ける権利を誰かに譲った(特定承継した)場合」**のルールです。

特許法第34条第4項(超訳):

特許を出願した後に、その権利を誰かに譲っても、特許庁長官に「届け出」をしない限り、その譲渡はなかったものとみなすよ。(=効力が発生しない)

なぜこのルールがあるのか?

特許庁側からすると、「今、誰がこの出願の本当の持ち主なのか」がハッキリしていないと、審査の結果を誰に送ればいいか分からなくなって困るからです。だから、*「届け出を出すまでは、新しい持ち主とは認めない!」という強いルールにしています。


3. 承継のタイミングと「届け出」の必要性

ご質問の「必ず届け出が必要?」という点については、タイミングによって答えが変わります。ここが試験で一番狙われるところです。

タイミング 承継の種類 届け出(特許庁への手続)の扱い
出願前 すべて 届け出という概念はありません。「正しい承継人」の名前で出願すればOKです。
出願後 特定承継(売買など) 届け出をしないと、名義変更の効力が出ません(34条4項)。
出願後 一般承継(相続など) 効力はすぐに発生しますが、遅滞なく届け出をする必要があります(34条5項)。

4. 届け出ずに特許出願しても「拒絶」されるだけ?

ここが少し複雑ですが、非常に鋭い質問です。2つのパターンに分けて解説します。

パターンA:出願「前」に承継したのに、間違った人が出願した場合

例えば、会社が発明者(社員)から権利を譲り受けたのに、社員の名前で出願してしまった場合などです。

  • 結果: これは**「冒認出願(ぼうにんしゅつがん)」**と呼ばれ、**拒絶理由(49条7号)**になります。

  • 理由: 「特許を受ける権利を持っていない人」が出願してしまったからです。

パターンB:出願「後」に譲ったのに、名義変更(届け出)を忘れた場合

  • 結果: 拒絶されるのではなく、**「特許庁からは、元の持ち主のまま扱われる」**ことになります。

  • リスク:

    1. 審査の通知(拒絶理由通知など)が、新しい持ち主ではなく**「元の持ち主」に届いてしまう**。

    2. そのまま特許になった場合、「元の持ち主」の名前で登録されてしまう。

    3. 後から慌てて直そうとしても、手続きが非常に煩雑になります。


5. まとめ:チェックポイント

短答試験でこの問題が出たら、以下のステップで考えてください。

  1. それは**出願「前」の話か、「後」**の話か?

  2. 「後」の話なら、**売買(特定承継)**か、**相続(一般承継)**か?

  3. 売買なら**「届け出が効力発生の条件(34条4項)」**。届け出なきゃゼロと同じ!


アドバイス

「承継」の論点は、今回の**34条(受ける権利)と、後の章で出てくる98条(特許権)**のルールを混ぜて出題されるのが定番です。

  • 受ける権利:届け出をしないと効力が発生しない(34条4項)

  • 特許権:登録をしないと効力が発生しない(98条1項1号)