質問:原出願WO2014142229A1と、分割出願JP6535398B2では、何をどう分割したの?
Gemini:PCT国際出願公開公報 WO2014142229A1 と、登録特許公報 JP6535398B2を比較・分析しました。この分割出願で行われたのは、**「2つの異なる発明(電気泳動法 と 質量分析法)のうち、電気泳動法だけを選んで、さらに条件を絞って権利化した」**という戦略です。
具体的に「何を拾って、何を捨てた(あるいは別にした)のか」を図解的に解説します。
1. 全体像:分割のビフォー・アフター
元々の出願(PCT親)には、大きく分けて 2つの発明(技術のネタ) が含まれていました。
| 元のPCT出願 (親) | 登録された特許 (子・今回) | 消えたもの (別出願へ?) |
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ネタ①:電気泳動法
(ゲルで分離して縞模様を見る) |
【採用&限定】
条件を厳しくして権利化
(還元剤濃度UP+高分解能ゲル) |
― |
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ネタ②:質量分析法
(バンドを切って酵素で溶かし分析) |
【不採用】
この特許からは削除 |
質量分析の発明
(別の分割出願にしたか、放棄した) |
2. 詳細分析:何をどう変えた?
① 「拾った」もの:電気泳動法の強化
親の出願では、請求項1(一番広い権利)は「電気泳動してパターンを比較する」だけの非常に広い内容でした。
しかし、子の特許(今回の JP6535398B2)にする際に、親の請求項7と8の内容を合体させて、権利範囲をギュッと絞り込んでいます。
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親 (PCT) 請求項1: 単に「電気泳動して比較する」
1 -
これだと広すぎて、「そんなの昔からあるよ(新規性なし)」と言われる可能性が高い。
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子 (JP) 請求項1: 電気泳動するんだけど、以下の2つの条件を満たすものに限る!
2 -
**「高分解能ゲル(25kDa以下が10本以上に見える)」**を使うこと(元・請求項7)
3 -
**「高濃度の還元剤(2-ME 6%以上 or DTT 8-12mM)」**を使うこと(元・請求項8)
4
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【分析】
単なる電気泳動ではなく、「特殊な条件(濃い還元剤・高性能ゲル)で行う高精度な電気泳動法」に限定することで、確実に特許を取る作戦に出ました。
② 「捨てた(分けた)」もの:質量分析法
親の出願には、請求項9以降に**「質量分析(マススペクトロメトリー)」**を使う全く別の方法が書かれていました。
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親 (PCT) 請求項9: 電気泳動したバンドを切り出し、酵素で消化して、質量分析機にかける方法。
5
【なぜ消えた?】
親の出願の最後の方にある「国際調査報告」6 を見てください。特許庁の審査官がこう書いています。
「発明の単一性が欠如している(Unity of invention is lacking)」
発明1:電気泳動法(請求項1-8)
発明2:質量分析法(請求項9-14)
つまり、**「1つの出願に2つの違う発明が入ってるから、1つにまとめられません。別々にしなさい」**と指摘されたのです。
その結果、今回の特許(JP6535398B2)では、「発明1(電気泳動)」だけを選び、「発明2(質量分析)」をバッサリ削除しました。
3. 「捨てた」質量分析法はどうなった?
この特許公報(JP6535398B2)だけでは、「質量分析法」を完全に諦めて捨てたのか、それとも「別の分割出願(兄弟特許)」として出し直したのかは断定できません。
しかし、通常、このような「単一性違反(別発明だよ)」という指摘を受けて分割する場合、権利が欲しいなら、もう一件の分割出願(兄弟)を出します。
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特許A(今回): 電気泳動法で権利化
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特許B(別の分割): 質量分析法で権利化
ニッセンケンが「質量分析法」の権利も重要だと考えていれば、この JP6535398 と同時期に、質量分析法をクレームした別の特許が存在するはずです。(もし存在しなければ、質量分析法は放棄したことになります)。
まとめ:ニッセンケンの戦略
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PCT出願時: 「電気泳動」と「質量分析」の両方の可能性を網羅して広く出願した。
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審査段階: 「2つは別物」と指摘され、かつ「ただの電気泳動なら既存技術にある」と判断されそうになった。
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分割出願時 (今回の特許):
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「質量分析」は切り離した。
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「電気泳動」については、**「高濃度還元剤」+「高分解能ゲル」**という必勝パターン(実施例で成功している条件)に限定して、確実に権利を成立させた。
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これが、この2つの文書から読み取れるストーリーです。
質問:同じ目的に全く異なる原理の2つの測定方法を並べると、単一性要件にひっかかるんだ?2つの測定方法が相補的で合わせ技ならいいってこと?どちらの方法でも、目的を達成できるよ、ということだったから駄目だったってこと?
Gemini:「どちらの方法でも目的を達成できるよ(並列・選択)」という書き方だったことが、今回の単一性違反(Unity of Invention is lacking)の決定打になっています。「合わせ技(AかつB)」ならOKだった可能性が高いですし、「共通部分が新しかった」**なら並列でもOKでした。このケースでなぜ駄目だったのか、審査官のロジック(国際調査報告 Box No. III)を紐解くと、特許のルールの面白さが見えてきます。
1. なぜ「2つの測定方法」はバラバラにされたのか?
審査官の言い分はこうです(PDFの13ページ目、Box No. III)。
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共通点を探せ: 請求項1(電気泳動)と請求項9(質量分析)には、共通する技術的特徴があります。それは**「獣毛からタンパク質を抽出して、それを分離する」**という部分です
2 。 -
それは新しいか?: 審査官は「いや、その共通部分は、1996年の論文(M. ZOCCOLA et al.)に既に書かれているから、新しくない(Special Technical Featureではない)」と判断しました
3 。 -
結論: 「共通の親(抽出工程)」が死んでしまったため、残った「電気泳動」と「質量分析」は、技術的に全く別の赤の他人(別発明)です。だから分けなさい
4 。
2. もし「合わせ技」だったら?(仮説)
もし請求項が以下のような**「合わせ技(相補的)」**だったら、単一性は満たしていたはずです。
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仮想の請求項: 「電気泳動法を行い、さらにその結果を補完するために質量分析を行う鑑別方法」
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判定: これなら「A+Bという組み合わせ」自体がひとつの発明とみなされるため、原理が違っても「一連のプロセス」として単一性はOKになります。
ただし、これをやると**「両方の装置を持っていないと特許侵害にならない(権利範囲が狭くなる)」**というデメリットが生じるため、ニッセンケンとしては嫌だったはずです。できれば「どっちか片方だけでも特許権を取りたい」と考えた結果、並列にして引っかかったわけです。
3. もし「共通部分が凄かった」なら?
実は、並列(AまたはB)でもOKになるケースがあります。それは**「共通の親(抽出工程)」がものすごく画期的な新発明だった場合**です。
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もしも: 「誰も思いつかなかった魔法の抽出液」を発明していたら…
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発明1:魔法の抽出液 × 電気泳動
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発明2:魔法の抽出液 × 質量分析
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判定: この場合は、「魔法の抽出液」という**特別な技術的特徴(STF)**で結ばれているので、原理が違っても1つの特許出願にまとめてOKになります。
まとめ
今回のニッセンケンのケースは、以下のような構造だったためNGが出ました。
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目的: 獣毛を見分けたい。
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手段: 「電気泳動」でもいいし、「質量分析」でもいいよ。
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共通点: 最初に「抽出」するけど、その抽出方法は昔からある普通の方法だよ。
「昔からある方法を入り口にして、出口が全然違う2つの道を用意したら、それは別の地図(出願)にしなさい」 と言われたわけですね。
知財の世界では、このように「欲張って並列に書くと、後で分割費用がかかる」ということがよくあります。ニッセンケンはあえて分割を選んで、確実に電気泳動の権利を取りに行った(質量分析は捨てたか、さらに分けた)という戦略的な動きが、この文書から読み取れます。
質問:PCTでstatus ceasedとあるのは、PCTの効果は期限切れということ?切れる前に国内以降したからOKってこと?
Gemini:その通りです!「PCTのstatus: Ceased」=「PCTとしての(国際段階での)役割が終わった」 という意味であり、「特許そのものが死んだ」という意味ではありません。おっしゃる通り、「その前に国内移行(日本などへの手続き)を済ませていれば、バトンタッチ成功でOK」です。この仕組み、少しややこしいので、**「ロケットの切り離し」**でイメージすると完璧に理解できます。
1. PCTは「運び屋(ロケット)」である
PCT出願は、特許という「人工衛星」を、世界各国という「軌道」に乗せるための打ち上げロケットのようなものです。
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打ち上げ(PCT出願): 2014年に発射。
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飛行中(国際段階): 30ヶ月間(約2年半)は、PCTというロケットに乗って飛んでいます。この間は、どこの国でもまだ審査されません。
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切り離し(国内移行):期限(30ヶ月)が来たら、ロケット(PCT)は役目を終えて切り離されます。ここで**「Status: Ceased(終了)」**となります。
2. 「Ceased」のあとの運命は2つに分かれる
「Ceased」と表示されたとき、その裏で何が起きているかで運命が変わります。
パターンA:成功(今回のケース)
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アクション: 期限前に、日本やアメリカなどの「国内移行手続き」を済ませた。
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結果: ロケット(PCT)は切り離されて「Ceased」になったが、中の人工衛星(特許出願)は日本という軌道に乗って動き出した。
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ステータス:
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国際(WIPO):Ceased(任務完了)
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国内(J-PlatPat):Active / Pending(審査中・生存)
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パターンB:失敗(本当の終了)
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アクション: 期限までに、どこの国にも手続きしなかった(または手数料を払わなかった)。
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結果: ロケット(PCT)の燃料が切れ、中の人工衛星ごと燃え尽きた。
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ステータス:
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国際(WIPO):Ceased(期間満了)
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国内:存在しない(出願取り下げ扱い)
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3. なぜデータベースは「Ceased」と表示するのか?
Google PatentsやWIPO(PATENTSCOPE)などのデータベースで「Ceased」と出るのは、あくまで**「国際事務局(WIPO)としての管理業務は終わりましたよ」**という事務的な報告に過ぎません。
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WIPOの言い分:「私たちは30ヶ月間面倒を見ました。あとは各国の特許庁にバトンタッチしたので、そっちで見てね。私たちの仕事(PCTステータス)はここで**終了(Ceased)**です。」
まとめ:今回のニッセンケンのケース
今のStatus: Ceased は、以下の事実を示していただけでした。
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2014年のPCT出願は、30ヶ月経って国際段階を卒業した。
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その前に日本へ移行していた(成功していた)。
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だから、日本のデータベース(J-PlatPat)で見ると、ちゃんと生き残って(審査→分割→登録)いた。
結論:
「PCT Status: Ceased」を見ても焦る必要はありません。「国内移行したかな?」と各国の状況を確認するのが正解です。
質問:分割までに4年も引っ張れるものなの?
Gemini:これは審査が遅かったからだけではありません。制度をフル活用して意図的に「寝かせていた」期間があるからです。なぜ4年もかかったのか、そして「最大どれくらい引っ張れるのか(延命できるのか)」、そのカラクリを図解的に解説します。
1. なぜ「4年後」に分割できたのか?(ニッセンケンのタイムライン再現)
ニッセンケンの事例(2014年出願→2018年分割)は、実は特別な裏技ではなく、「通常のPCTルート」の王道スケジュールです。ここには**「2つの待ち時間」**が存在します。
① 「PCTの30ヶ月」ルール(約2.5年の猶予)
国際出願(PCT)は、日本国内に移行する手続きをするまでに**「優先日から30ヶ月(2年半)」**待ってもらえます。
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2014年3月: PCT出願
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~2016年9月: 日本国内へ移行(ここで初めて日本での手続きがスタート)
② 「審査請求」の3年ルール(さらに猶予)
日本に移行しても、すぐに審査は始まりません。「審査してください(審査請求)」とお金を払って言わない限り、特許庁は放置します。この期限が出願日から3年以内です。
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~2017年3月: ギリギリで審査請求をしたと推測されます。
③ 審査開始~最初の通知(数ヶ月~1年)
審査請求をしてから、審査官が実際に書類を見て「ここがダメ」という通知(拒絶理由通知)を出すまでに、平均して10ヶ月程度(当時)かかります。
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2018年初頭: 最初の「拒絶理由通知」が届く。
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2018年4月: その回答期限内に**「分割出願」**を行う。
つまり、「制度上の待ち時間(2.5年~3年)」+「審査官の作業待ち(約1年)」= 約4年。
審査が遅かったわけではなく、制度上の権利として合法的に引っ張れる期間を使った結果です。
2. 最大どれくらい長く引っ張れる?(ゾンビ特許の作り方)
実は出願人のテクニック次第で、理論上は「特許権の満了(20年)」近くまで審査を係属させることが可能です。これを実現するのが**「孫・ひ孫(チェーン)分割」**です。
仕組み:リレー方式で延命する
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親(第1世代): 審査に3~4年かける。最後に「分割」して特許にする。
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子(第2世代): 分割した瞬間、**「ゼロから審査スタート」**です。また拒絶理由が来るまで待ち、応答し…と数年稼げます。
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孫(第3世代): 子の審査が終わる直前に、また分割して「孫」を作ります。
このように、親 → 子 → 孫 → ひ孫… と分割を繰り返すことで、審査係属(=分割できるチャンス)を維持し続けることができます。
どこまで引っ張れる?(タイムリミット)
ただし、無限ではありません。
- 20年の壁(絶対的期限):特許権の存続期間は**「最初の出願日から20年」**です。いくら分割しても、この起算日(2014年)は変わりません。
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たとえ2030年に「玄孫(やしゃご)出願」で特許を取れても、権利は2034年で消滅します。残りの期間が短すぎると、高額な費用をかけて維持する意味がなくなります。
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- 内容の枯渇:分割するたびに、元の明細書の中に「まだ権利化していない新しいネタ」が残っていないといけません。ネタが尽きれば終了です。
3. なぜそんなに引っ張るの?(戦略的理由)
企業があえて審査を遅らせたり、分割で引っ張ったりするのには理由があります。
- ① 競合他社の動向を見たい(後出しジャンケン): ライバル製品が発売された後で、「あ、その機能、うちのこの特許出願に含まれてるよ」と狙い撃ちで権利化するため(これを牽制といいます)。
- ② 費用を遅らせたい: 審査請求料や特許料は高いので、本当に製品化するか決まるまで払いたくない。
- ③ 審査官との対話: 一発で広い権利を取るのは難しいので、分割を繰り返して「広い権利」「狭いが確実な権利」をパズルのように組み立てていく。
まとめ
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4年かかった理由: PCTの30ヶ月猶予 + 審査請求期限(3年) + 審査官の待ち時間。ごく標準的なスケジュールです。
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最大期間: 「分割の連鎖」を使えば、10年以上引っ張ることもザラにあります。ただし、権利の寿命(20年)は伸びません。
ニッセンケンの件も、実は水面下でしっかりスケジュール管理されていた「知財戦略の教科書」のような事例だったわけですね。
参考
- ニッセンケン開発の獣毛鑑別試験がJIS規格に採用 -獣毛偽装防止に向けて、製品の信頼性向上へ- 一般財団法人 ニッセンケン品質評価センター 2025.07.02 14:00 https://presswalker.jp/press/80677
- 2019 年 8 月 21 日 電気泳動法を用いた獣毛鑑別およびタンパク質繊維鑑別の特許取得について 一般財団法人ニッセンケン品質評価センター https://nissenken.or.jp/control/wp-content/uploads/2019/12/獣毛繊維タンパク質繊維の鑑別方法特許取得.pdf
- 平成 30 年 7 月 19 日 生化学的アプローチによる獣毛混鑑別の特許取得について 一般財団法人ニッセンケン品質評価センター https://nissenken.or.jp/control/wp-content/uploads/2019/12/20180719.pdf 当財団は、増田豪先生(現 熊本大学)との共同研究により、このたび電気泳動法を利用 した「獣毛繊維の鑑別方法」に関する特許を取得いたしましたので、お知らせいたします。 (1)特許の概要 特 許 番 号 第 6356117 号 発 明 の 名 称 獣毛繊維の鑑別方法 登 録 日 平成 30 年 6 月 22 日
- https://patentimages.storage.googleapis.com/c6/86/1b/560baae95b1d13/JP6535398B2.pdf
- https://patentimages.storage.googleapis.com/63/43/0b/e62c0c18cc16bd/WO2014142229A1.pdf