抗がん剤「クレスチン」(一般名:カワラタケ由来たん白多糖体、PSK)

プロンプト:抗がん剤クレスチンってまだ使われている?

Gemini 2.5 Pro:抗がん剤「クレスチン」(一般名:カワラタケ由来たん白多糖体、PSK)は、日本では現在、製造・販売が中止されており、医療用医薬品としては使用されていません。

経緯

  1. 承認と使用: クレスチンは1976年に日本で承認され、胃がんや結腸・直腸がん、小細胞肺がんの患者さんに対し、化学療法と併用する免疫賦活剤(免疫力を高める薬)として広く使用されていました。
  2. 販売中止: しかし、その後の薬効再評価や、製造に必要な原料の調達困難、需要の減少などを理由に、製造販売元のクレハおよび販売元の第一三共は、2017年9月末をもって「クレスチン細粒」の販売を中止しました。
  3. 薬価削除: 経過措置期間を経て、2018年3月末をもって薬価基準(公的医療保険で使える薬のリスト)から削除されました。

したがって、日本の医療機関で「クレスチン」が処方されることは現在ありません。

補足:海外での状況

クレスチンの有効成分である「PSK」(Polysaccharide-K)は、海外(特にアジアや、一部欧米)では、がんの補助療法やサプリメントとして研究が続けられていたり、使用されている場合があります。しかし、日本国内においては、上記の通り医薬品としての役目を終えています。

 

プロンプト:薬効再評価で、抗腫瘍効果が全く存在しなかった?

Gemini 2.5 Pro:いえ、「全く効果が存在しなかった」と結論づけるのは、正確ではありません。

これは非常に重要な点で、クレスチンのケースは「効果がゼロだった」という単純な話ではなく、「医学の進歩によって、求められる“有効性”の基準が変わった」という、科学的評価の変遷を示す典型的な例です。


1. 「効果がなかった」とは言えない理由

クレスチンは「免疫賦活剤(免疫力を高める薬)」であり、がん細胞を直接殺す細胞毒性型の抗がん剤ではありませんでした。

  • 当時のエビデンス: 承認された1970年代〜1980年代の臨床試験や、その後のメタアナリシス(複数の研究の統合分析)では、「化学療法と併用することで、胃がんや大腸がん、小細胞肺がん患者の生存期間を延長する」というデータが確かに存在しました。(検索結果 3.2, 3.8参照)
  • 1989年の再評価: 実際に1989年に行われた薬効再評価では、これらのデータ(化学療法との併用による生存期間の延長)が認められ、承認が維持されています。(検索結果 3.2参照)
  • 作用機序: 生物学的な効果(免疫担当細胞の活性化など)も研究されていました。(検索結果 3.5, 3.9参照)

つまり、「当時の医療水準において、一定の臨床的有用性(効果)が証明されていた」のは事実です。


2. なぜ「再評価で厳しくなった」のか?

問題は、1990年代以降、EBM(根拠に基づく医療)の考え方が主流になり、「臨床的有用性」を証明するためのハードル(基準)が劇的に上がったことです。

  1. エビデンスの「質」への要求:
    • 当時: 「腫瘍が少し小さくなった(奏効率)」や、小規模な試験でも「有効」と判断されることがありました。
    • 現在: 大規模なランダム化比較試験(RCT)で、「全生存期間(Overall Survival, OS)」をどれだけ明確に延長できるか、という非常に厳格な基準(統計的有意差)が求められます。
  2. 新しい治療法の登場(相対的な価値の低下):
    • クレスチンが示していた(とされる)生存期間の延長効果は、現代の基準で見ると「わずか」または「統計的に不安定」と判断される可能性が高いものでした。
    • 2000年代以降、分子標的薬や、特にオプジーボに代表される免疫チェックポイント阻害薬が登場しました。これらは、一部のがんに対して従来の薬とは比較にならない劇的な効果を示しました。
    • これらの新薬が示す「明確で大きな効果」が、現代の「有効」の基準となりました。

結論

クレスチンが市場から消えたのは、「全くのウソだった」からではありません。

**「かつては有効とされたが、より厳格な現代のEBMの基準で見直した場合、その臨床的有用性(生存期間の延長効果)は、新しく登場した薬に比べて“不十分”または“不明確”と見なされるようになったから」**というのが実態です。

臨床現場の医師たちが、よりエビデンスレベルの高い新薬を優先して処方するようになったため「需要が減少」し(検索結果 2.1)、メーカーも原料調達の困難さ(検索結果 2.1)も相まって、製造を続ける意義がなくなった、というのが正確な流れです。

これは、クレスチンに限らず、多くの古い薬が直面する「科学の進歩による“歴史的役割”の終了」と言えます。

 

参考

  1. 副作用はほぼないが効果も証明されていない…そんな「日本独自の薬」が50年以上販売され続けているワケ 臨床で効果を発揮できない「話題先行の特効薬」という問題 PRESIDENT Online 名取 宏 名取 宏 内科医 2024/02/20 14:00 https://president.jp/articles/-/78722?page=2 クレスチンやピシバニールにかかった医療費は、ピーク時には年間数百億円累積では一兆円を超えたといいます。その後、有効性は確認できず、クレスチンは販売中止、ピシバニールも一部の良性疾患には使用されているものの、がんに対する標準医療とはみなされていません。
  2. 日本における抗癌剤開発とガイドラインの歴史 前田英紀*1, * 2 ,黒川達夫*1 薬史学雑誌 49(2),196-204(2014) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjhp/49/2/49_196/_pdf/-char/ja
  3. 第126回国会 衆議院 厚生委員会 第6号 平成5年(1993年)4月2日 https://kokkai.ndl.go.jp/simple/detail?minId=112604237X00619930402 074・菅直人 ○菅委員 丹羽大臣、大臣もこの委員会は長いから、あるいは御記憶にあるかもしれませんが、実はこのクレスチンという薬は、最初の審査のときにも同じ問題があるわけですよ。 これは一九八一年ですからもう古い話ですが、私はこの委員会でやはり取り上げたのです。最初の審査に当たっても、つまりクレスチンの効果があるというデータを出された、たしか二人だったと思いますが、二人の方が抗悪性腫瘍剤調査会のメンバーになっていて、そして堂々とその審査に当たっていた。それが後になってわかりまして、簡単に言えば、そのときに中央薬事審議会のあり方について相当議論があったわけです。 その同じ薬がまた再評価に当たって、発言をしていないといっても、専門家のそう多くない集団の中で、私が責任を持って出したデータではこんなに効いていますというものが出されているところで、いや、どうもあのデータの中身はちょっとおかしいんじゃないか、他のデータもあるんじゃないかと言うことは、やはり若干遠慮というものが当然ながら発生するわけですよ。 しかもこのクレスチンという薬は、御承知だと思いますが、先日出してもらったデータによると、最大時年間五百三十億円程度の売り上げがあった。承認から現在に至るまで、単独では一兆円まではいかないかもしれませんが、少なくとも一兆円に近い数千億という巨額の売り上げをこの薬は上げているわけです。 しかも、率直に言いましてこの薬についての効能は、再評価では少なくともその水準には達していないということになって、併用剤としての承認のみになったわけですが、結局この負担はだれがしているのか。大部分の国民の加わっている、あるいは全国民が加わっている保険診療の中から出ているわけです。そういうものがそのスタートの段階に当たっても大変問題のある形で質疑をされて許可をされ、今度は再評価に当たっても、もう取り消されるのではないかと言われていたのが、併用剤という形でいわば生き延びた。疑惑を二重にも招いているわけです。 それで、平成二年に規程を変えて、少し厳しくしたと言われますが、少なくともこの一九八一年当時、園田大臣の当時ですから大分古い話になりますが、もうその時点からこのことが指摘されているにもかかわらず、その後約十年近くにわたってきちんとした改正がされてこなかった責任というのは、厚生省、特に業務局の体質に非常に問題があるのではないか。業務局というのはどうしてもメーカーとの関連が非常に深い。先ほど、今回の企業指導というのも何か手数料をもらってやるんだと言われるから、どうもぴんとこないのですね、そういうことも含めて。そういう点で、業務局の姿勢に基本的に問題があるのではないかと私は思いますが、大臣、いかがお考えですか。 発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/112604237X00619930402/74
  4. 1990年1月 クレスチン・ピシバニール再評価の科学的問題点 https://npojip.org/tip_menu/tip_contents_20c.htm