ポストシナプスな神経細胞で活動電位が発生するしくみ:EPSPの時間的加算と空間的加算
個々の神経同士は、膜が融合した形では繋がっていません。これは、ゴルジとカハルを代表として両者の間で論争になった問題で、カハルが唱えた「ニューロン・ドクトリン」すなわち神経のネットワークは個々の直接は融合していない神経細胞から成り立つというものです。融合せずにどうやって結合しているのかというと、シナプスと呼ばれる特殊な構造によって両者は情報の伝達を行うのです。神経活動は「活動電位」の有無です。活動電位の電位変化が軸索を伝わって軸索の終末部分にまでやってくると、軸索終末のシナプス(プレシナプス)で電位依存性カルシウムチャネルが開口し、プレシナプス内の細胞内カルシムイオン濃度が上昇します。それが引き金となって神経情報伝達物質を含んだ小胞が細胞膜に融合してExocytosisにより神経情報伝達物質をシナプス間隙に放出します。神経情報伝達物質は情報の受け手となる神経細胞のシナプスの部分(ポストシナプス)にある受容体と結合します。この受容体は、チャネル活性もあわせもっており、例えば神経情報伝達物質がグルタミン酸の場合は、受容体はグルタミン酸受容体で、グルタミンが結合するとチャネルが開いてナトリウムイオンを流入させます。これによってポストシナプスではexcitatory postsynaptic potential (EPSP) が発生します。神経細胞が活動電位を発生する場所は細胞体から軸索が出ていく部分なので、その部分の電位が閾値を超えて脱分極するかどうかが重要です。EPSP一つでは、活動電位が発生するには不十分であり、多数のシナプスからの入力による多数のEPSPが足し合わされて閾値を超える電位変化が生じたときにはじめて活動電位が発生します。多数のEPSPの足し合わせは、必ずしも異なるシナプスからの入力だけでなく、同じシナプスに入力が何回も続けて入ると、EPSPがもとに戻る前に次のEPSPが足し合わされて(時間的な加算)、膜電位変化は大きくなります。この「空間的加算」(多数のシナプスからの入力)と「時間的加算」(同一にシナプスへの繰り返し入力)との合算で、膜電位変化が十分大きなものになったときに、活動電位が発生するわけです。
記憶と学習の基盤:シナプスの可塑性
単一のEPSPでは活動電位を発生できなかったものが、「学習」が成立したシナプスにおいては単一のEPSPの大きさが大きくなるため、一つのEPSPが活動電位を発生するための閾値を超えるくらいに大きくなる場合もあるようです。
シナプスの伝達効率を上昇させる原理
Fire together, wire togetherという言葉が有名です。あるシナプスに関して伝達効率が上昇するかどうかを決めるのは何かと言うと、そのシナプスでのEPSPの発生したタイミングと、ポストシナプス細胞での活動電位発生のタイミングとの関係だというものです。EPSP発生直後に活動電位が発生した場合には、そのシナプスは活動電位の発生に貢献したといえ、シナプスの伝達効率が上昇します。逆に活動電位が発生した直後にそのEPSPが発生していたら、それは無関係だったということでシナプスの伝達効率が減少します。