脳波研究における事象関連電位(event-related potential: ERP)とは、外からの刺激あるいは内的な事象(心理的な変化など)に関連して一過的に生じた電位変化のことです。ERPのシグナルの大きさは、脳波の通常の振幅より一桁小さいため、生データを眺めていてもERPのシグナルは「背景」の揺らぎに埋もれてしまっていて、見ることはできません。しかし刺激呈示時刻でそろえて、多数のデータを平均してやると、通常の揺らぎは位相がバラバラなのでキャンセルされて、ERPのシグナルが見えてきます。下の画面で、左側12個のパネルは、ひとつひとつの測定の生データ、右側上は多数の生データの平均、右側下は、ERP部分を拡大した(縦軸を引き延ばした)ものです。
(Broad overview of EEG data analysis analysis 2017/10/01 Mike X Cohen https://www.youtube.com/watch?v=QBGjPtU_C6s)
ERP測定の落とし穴
- How inappropriate high-pass filters can produce artifactual effects and incorrect conclusions in ERP studies of language and cognition. Tanner et al., August 2015Psychophysiology 52:997-1009 DOI:10.1111/psyp.12437 (Free PDF at researchgate.net) However, high-pass filters with cutoffs at 0.3 Hz and above produced artifactual effects of opposite polarity before the true effect.
ERPの欠点・限界
- 平均しないと,背景脳波とERPを区別できないので,一回だけしか起こらない現象に対するERP波形は測定できない.加算回数が増えるにつれて背景脳波は平坦化し,ERPが明瞭に現れてくる.背景脳波が時間経過に対して完全にランダムに変動していれば(正規分布変動),加算回数を増やすことでその振幅は相殺されて,最後にはゼロになる.(事象関連電位入門)
- 事象関連電位入門 入戸野宏・堀忠雄 2000 心理学研究における事象関連電位(ERP)の利用広島大学総合科学部紀要IV理系編, 26, 15-32.に加筆・修正を行った解説記事.
P300
P3とも呼ばれる。
- 特集「脳機能計測法を基礎から学ぶ人のために」事象関連電位 P300基礎 加賀佳美、相原正男 臨床神経生理学 41巻2号80 象関連電位P300は刺激提示後,潜時約300 ms付近に生じる陽性波で,刺激に対する比較,評価,判断,選択的注意,認知文脈の更新に関与しているといわれている.1965年Suttonによって発見され,オドボール課題がP300の測定法としてよく知られている。
- 斑核−ノルアドレナリン仮説 Nieuwenhuis et al., 2005
- Walter(1965) P300の報告
- Desmedt, Debecker, & Manil(1965) P300の報告
- Sutton, Braren, Zubin, & John, 1965 Science誌 P300の報告
P600
- Osterhout & Holcomb, 1992
N100
- N1とも呼ばれる。
- Coles et al., 1990
N400
- Kutas and Hillyard(1980)
認知機能研究におけるERP利用の歴史
when scientists began to take advantage of signal averaging the event-related potential (ERP) technique quickly became the primary tool of the cognitive neuroscientist (Cooper, Winter, Crow, & Walter, 1965; H. Davis, 1964; Donchin, 1969; Donchin & Cohen, 1967; Spong, Haider, & Lindsley, 1965; Sutton, Braren, Zubin, & John, 1965; Sutton, Tueting, Zubin, & John, 1967; Walter, Cooper, Aldridge, McCallum, & Winter, 1964). Despite the rise of modern neuroimaging methods, several advantages of the ERP technique continue to make it one of the most widely used methods to study the architecture of cognitive processing.
参考(論文・文書・書籍・チュートリアル)
- 事象関連電位を用いたブレイン–コンピュータ・インタフェースのための集合識別器に関する研究 博士(工学)学位論文 大西 章也 九州工業大学大学院生命体工学研究科脳情報専攻神経回路情報処理講座 2015年3月
- 脳波を用いた知覚・認知情報の抽出に関する研究 2013年1月博士(工学) 横 田 悠 右 豊橋技術科学大学
- 誤り単語の視覚・聴覚提示における事象関連電位による違和感分析 小田垣ら 2013
- ERPLAB: an open-source toolbox for the analysis of event-related potentials. Front. Hum. Neurosci., 14 April 2014 | https://doi.org/10.3389/fnhum.2014.00213
- Workshop: ERP Testing Dennis L. Molfese, Ph.D. University of Nebraska – Lincoln Friday, January 14, 2011 (PDF slides)
- 進化認知科学言語情報科学特別講義 I2011.9.30 (4コマ目)大石 衡聴(理研・言語発達研究チーム/JSPS特別研究員
- Brief Introduction to the Use of Event-Related Potentials (ERPs) in Studies of Perception and Attention Geoffrey F. Woodman Atten Percept Psychophys. 2010 Nov; 72(8): 10.3758/APP.72.8.2031. doi: 10.3758/APP.72.8.2031 PMCID: PMC3816929 NIHMSID: NIHMS523370 PMID: 21097848 A チュートリアル的なレビュー論文
- 事象関連電位とミスマッチ陰性電位 九州大学大学院医学研究院脳研臨床神経生理前川敏彦 飛松省三2006 年 6 月 1 日 Version 1.0
- 事象関連電位をどう使うか-若手研究者からの提言(3)2006年 日本心理学会第70回大会ワークショップ(WS066)
- 入戸野 宏『心理学のための事象関連電位ガイドブック』 September 1, 2005 北大路書房
- 事象関連電位をどう使うか-若手研究者からの提言(1)2004年9月14日 日本心理学会第68回大会ワークショップ
- 事象関連電位(ERP)を用いた認知機能の評価 昭和大学医学部精神医学教室 中込和幸 昭和医会誌第65巻第1号〔2-13頁,2002〕
- 脳波の周期性振動活動から言語処理を探る試み 第33回関西心理言語学研究会 (KCP) ミーティング 立命館大学スポーツ健康科学部 大石衡聴