たとえ中身が同じでも、出願書類には微妙な違いがあるかもしれません。特許庁が勝手に「Aを残してBを消すね」と決めてしまうと、出願人の「こっちを残したかったのに!」という権利を侵害してしまいます。
39条と29条の2の違いがクリアになったので、次は**「自分の過去の出願を使って、新しい出願をパワーアップさせる裏技(優先権主張)」、いわゆる「国内優先権」**について整理してみませんか?39条の壁を乗り越えるために実務で一番使われるテクニックです。
その疑問、本当に鋭いです。法律用語としての「言葉のあや」と「実態」のズレに気づいている証拠ですね。
普通、「協議」と言えば**「他人と話し合うこと」**を指しますから、自分一人で「協議する」というのは、哲学か多重人格の話みたいで変ですよね。
法学的には、ここでの「協議」は以下のように解釈されています。
1. 法律上の意味:「意思決定」の確認
特許法39条で言う「協議」とは、出願人が同一の場合、**「どちらを特許にするか、あなたの意思を決定しなさい」**という意味に読み替えます。
法律の条文を作る際、以下の2つのケースを分けて書くと条文が長くなってしまいます。
-
他人同士の場合: ガチの話し合い・喧嘩(Negotiation)
-
同一人の場合: どれを残すかの選択(Selection)
そこで、法律は**「協議」という一つの言葉で両方をカバーしているのです。
つまり、自分自身との「協議」とは、「迷っている自分の心の中で決着をつける(セルフ会議)」**ことそのものを指すと解釈されます。
2. 実務での儀式:「協議成立届」
実際の手続きは、まるで一人芝居のような「儀式」を行います。
- 指令書が届く:
特許庁から「39条6項の規定に基づき、協議を命じます」という紙が届きます。
- 書類を作る:
出願人は**「協議の結果の届出(協議成立届)」**という書類を作ります。
- 内容:
そこには、**「協議の結果、出願Aを特許とすることに定まりました」**と書きます。
- 提出:
これを特許庁に提出することで、「協議が成立した」とみなされます。
3. なぜこんな面倒なことを?(法的安定性)
「選ぶだけなら、一方を取り下げればいいじゃん」と思いますよね?
もちろん、一方を自分から「取下げ」や「放棄」してもOKです。そうすれば、残ったほうが39条の拒絶理由を解消できます。
しかし、特許庁側としては、「出願人が『これにする!』と明確に意思表示した法的根拠」を記録として残す必要があります。
「協議命令」に対して「協議成立届」が出ることで、「この出願人は、間違いなくこちらの出願を選んだ」という証拠が確定するわけです。
受験生向けの覚え方(脳内変換)
条文に「協議」と書いてあっても、同一出願人の場合は脳内でこう読み替えてください。
まとめ
-
自分と自分の協議は、概念としては**「選択・決定」**のこと。
-
形式上は**「一人で話し合って決めた」という書類(届出書)を出す**ことで成立する。
-
これは「手続き上のけじめ(適正手続)」をつけるためのルール。
これで「自分との協議」のモヤモヤは晴れましたか?
条文の言葉は時々、日常用語と違う意味で使われるので、そこが面白くもあり難しいところですね。
次のステップ:
さて、39条(先願)の仕組みはこれでマスターです。
では、そもそも**「なぜ同じ会社が、わざわざ中身の被る出願を出し直すようなことをするのか?」気になりませんか?
実はこれ、失敗を取り戻したり、権利を強くしたりするための「国内優先権」**という高等テクニックを使うための布石であることが多いんです。次はここを攻めてみましょうか?
プロンプト:「なぜ同じ会社が、わざわざ中身の被る出願を出し直すようなことをするのか?」気になります。実際に起こりえる場面が、イメージできないと、勉強するモチベーション湧かないからね。
Gemini:
そうですよね。「お金もかかるのに、なんでわざわざ?」って思いますよね。
でも、企業の実務現場では、この**「中身が被る出し直し」は、日常茶飯事に行われています。なんなら、知財戦略の「必殺技」**として使われているんです。
これは法律的には**「国内優先権(41条)」を使う場面なのですが、現場のドラマとして見ると、非常にリアルな「3つの切実な事情」**が見えてきます。
イメージしやすいように、あなたがメーカーの開発担当者になったつもりで聞いてください。
場面1:とりあえずの「見切り発車」
~学会発表が来週に迫っている!~
- 状況:
あなたは画期的な「新素材X」を発見しました。来週の学会で発表しないといけません。発表すると「公知」になって特許が取れなくなるので、急いで出願する必要があります(出願A)。
- 問題点:
でも、まだ実験データが足りません。「素材Xはすごい」とは言えるけど、「最適な温度」や「混ぜる比率」までは特定できていない状態です。
- アクション(出願A):
とりあえず、今わかっている範囲で慌てて出願します。「素材Xを含む組成物」という広い内容です。
- 半年後(出し直し):
実験が進み、「50℃で加熱すると最強」というデータが出ました。これを権利に入れないと、他社に模倣されてしまいます。
そこで、**「出願Aの内容(素材X)」+「新データ(50℃)」を合体させた「出願B」**を出し直します。
★ここがポイント:
もし別々に出願すると、出願Bの「素材X」部分は、自分の発表のせいで拒絶されるリスクがあります。
「出し直し(優先権主張)」をすることで、素材Xの部分は出願Aの日(発表前)に出したことにしてくれるので、セーフになるのです。
場面2:後から思いついた「改良アイデア」
~基本特許を出した後に、もっと良い構造を思いついた~
- 状況:
掃除機の「基本構造」を出願しました(出願A)。
- 問題点:
その3ヶ月後、開発チームが「フィルターをこの形にすると、吸引力が2倍になる!」という改良発明を思いつきました。
- アクション(出し直し):
単独で「フィルター」だけを出願してもいいのですが、製品としては「基本構造+新フィルター」で売り出します。
バラバラに権利を持つより、1つの強力な特許にまとめたほうが、ライバル会社を攻撃しやすくなりますし、管理コスト(年金)も1件分で済みます。
そこで、**「基本構造(出願A)」+「改良フィルター」をセットにした「出願B」**へ出し直します。
場面3:バラバラの技術を「合体(キメラ化)」
~複数のチームの成果をまとめる~
ここで「39条」の出番はどうなる?
ここで鋭いあなたなら気づくはずです。
「あれ? 出し直したら、前の出願(A)と後の出願(B)で中身が被るよね? 39条で『協議しなさい』って言われるんじゃ…?」
ここで使う魔法が**「国内優先権(41条)」**です。
この制度を使うと、法律上こう扱われます。
-
後の出願(B)が出されたら、前の出願(A)は、1年3ヶ月後または4ヶ月後に「自動的に取り下げた」とみなして消滅させる。
-
Aが消滅するので、39条(二重特許)の問題は起きない!
つまり、**「新しい完全版(B)を作るために、古い不完全版(A)を生贄(いけにえ)に捧げる」**というイメージです。
39条の「重複は許さない」というルールがあるからこそ、逆に「重複させるなら、古い方は消すシステム(国内優先権)」がセットで用意されているわけです。
まとめ
企業が「中身の被る出願」を出し直す理由は、**「開発は生き物だから」**です。
どうでしょう?
「39条があるから被っちゃダメ」という原則と、「実務上は被せてパワーアップさせたい(そのために41条がある)」という現場のニーズ。この矛盾とその解決策が見えると、特許法はめちゃくちゃ面白くなりますよ!
次のステップ:
この「出し直し(国内優先権)」は、弁理士試験の最重要・最難関ポイントの一つです。
特に**「出し直した時、発明者はいつの時点で判断されるか?」などの細かい要件が狙われます。
次は、この「国内優先権を使うための3つの条件」**をサクッと確認してみませんか?