令和8年度弁理士試験短答式筆記試験問題【意匠】5
意匠法における実施権に関し、次のうち、正しいものは、いくつあるか
(ニ) 甲は、意匠イの意匠権者である。乙が、その意匠権について、先使用による通常実施
権及び先出願による通常実施権の要件をいずれも満たす意匠の実施である事業をしてい
る場合、乙は、先出願による通常実施権のみを主張することができる。
関連する条文
意匠法
(先使用による通常実施権)
第二十九条 意匠登録出願に係る意匠を知らないで自らその意匠若しくはこれに類似する意匠の創作をし、又は意匠登録出願に係る意匠を知らないでその意匠若しくはこれに類似する意匠の創作をした者から知得して、意匠登録出願の際(第九条の二の規定により、又は第十七条の三第一項(第五十条第一項(第五十七条第一項において準用する場合を含む。)において準用する場合を含む。)の規定により、その意匠登録出願が手続補正書を提出した時にしたものとみなされたときは、もとの意匠登録出願の際又は手続補正書を提出した際)現に日本国内においてその意匠又はこれに類似する意匠の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内において、その意匠登録出願に係る意匠権について通常実施権を有する。
(先出願による通常実施権)
第二十九条の二 意匠登録出願に係る意匠を知らないで自らその意匠若しくはこれに類似する意匠の創作をし、又は意匠登録出願に係る意匠を知らないでその意匠若しくはこれに類似する意匠の創作をした者から知得して、意匠権の設定の登録の際現に日本国内においてその意匠又はこれに類似する意匠の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者(前条に該当する者を除く。)は、次の各号のいずれにも該当する場合に限り、その実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内において、その意匠登録出願に係る意匠権について通常実施権を有する。
一 その意匠登録出願の日前に、自らその意匠又はこれに類似する意匠について意匠登録出願をし、当該意匠登録出願に係る意匠の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者であること。
二 前号の自らした意匠登録出願について、その意匠登録出願に係る意匠が第三条第一項各号の一に該当し、拒絶をすべき旨の査定又は審決が確定した者であること。
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問題の解答と解説:
本枝は誤り。正しくは、先使用による通常実施権のみを主張することができる。根拠は意匠法29条の2かっこ書き。
先使用による通常実施権が優先される立法の趣旨:
「どっちでもええやん」って思うのはめっちゃ自然な感覚やけど、ここはちゃんと設計思想があるんよ。結論から言うと、意匠法29条の2は「29条で救えへん人を拾うための補充規定」やから、両方満たすときは本体の29条に流す、という構造になってる。
まず時期のズレを押さえる
ここが全部の起点。実施(事業)をしてる時期の基準点が違うんよ。
|
先使用(29条) |
先出願(29条の2) |
| 事業をしてる時期 |
出願の際 |
設定登録の際(29条より遅い/長い) |
| 追加要件 |
なし |
①出願日前に自分も出願して事業 ②その自分の出願が3条1項で拒絶確定 |
29条は「甲が出願した時点でもう事業しとった人」=一番早い・一番強い立場の人を守る。 29条の2は「甲の出願時点ではまだ事業に至ってへんかったけど、自分も先に出願してて、それが新規性なしで蹴られた」っていう、29条では拾えへん一段弱い立場の人を救うための規定。だから「前条に該当する者を除く」のかっこ書きが付く。これは嫌がらせのカッコ書きやのうて、「29条で救える人は29条で救うから、ここは29条の網から漏れた人専用ですよ」っていう線引きなんよ。
「どっちでもよくない?」への答え
効果(範囲)はほぼ同じ条文やから、乙が通常実施権をもらえるって結果だけ見たら「どっちでもええ」って感覚は半分正しい。でも法律としては29条に寄せる合理的な理由が3つある。
① 立証負担が全然ちゃう 29条の2を使おうとしたら、乙は「自分も先に出願した」「それが3条1項で拒絶確定した」を立証せなあかん。29条はそんなもん一切いらん。両方の要件を満たしてる(=29条の楽なルートが使える)人を、わざわざ重い29条の2に押し込むのは、乙にとって損なだけで意味がない。軽くて確実な権利の方をあげるのが筋。
② 権利の根拠は1本でええ(二重取り防止) 同じ事業について乙がもらう通常実施権は1個だけ。せやのに根拠条文が2本ぶら下がってると、どっちの要件・どっちの判例が効くんやっていう法律関係がぐちゃぐちゃになる。かっこ書きで重複を切って、根拠を1本に確定させてる。
③ 趣旨の格(かく)が違う 先使用権は「他人が出願する前から善意で事業を築いてた人を守る」=公平の理念ど真ん中の、いわば本道。先出願権は、そこから漏れた特殊なケースの救済=脇道。強い立場の人を脇道の救済規定に追いやる理由がない。だから本道の29条に乗せる。
出題ポイント
この枝の罠は方向を逆にしてくることやから、「29が本体・29の2が補充」って格を体に入れとけば、どっちが主張できるかで絶対に迷わへん。「補充規定やから、本体で救える人は本体で救う→だから29条のみ」って一本の理屈で処理できる。
⇔ ちなみに特許法にはこの「先出願による通常実施権(29条の2)」に相当する条文はない。意匠特有や(意匠は出願公開制度がない等の事情がからむ)。横断で「特・実・意・商」並べるとき、ここは意匠だけポコっと出っ張るとこなんで、語呂やのうて「意匠だけ」で覚えとくとええよ。
素朴な疑問:意匠法29条の2の1号で、先の出願していたということは、その後、拒絶査定されたとはいえ、そもそも先願の地位が残るのではないの?だから、後の出願は単に拒絶されないとおかしくない?
鋭いとこ突いてくるね。でもそこがまさに勘違いポイントで、先願の地位は残らへんのよ。むしろ「残らへん」ことが29条の2が成り立つ大前提になってる。
9条3項を見る
先願の地位がいつ消えるか、を決めてるのが9条3項やね。
意匠登録出願が放棄・取下げ・却下されたとき、又は拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したときは、9条1項・2項の適用については初めからなかったものとみなす。ただし、9条2項後段(同日出願の協議不調)に該当して拒絶確定したときは、この限りでない。
つまり、
- 拒絶査定が確定したら → 先願の地位は遡って消える(初めからなかった扱い)
- 例外的に地位が残るのは9条2項後段(同日出願の協議不調)のときだけ
29条の2の1号・2号の乙は、自分の出願が3条1項(新規性なし)で拒絶確定してる人やんか。3条1項は「9条2項後段」やないから、ただし書には乗らへん。本文が素直に適用されて、乙の先願は初めからなかった扱い → 先願の地位なし。
だから後の甲の出願は、乙の出願を理由に9条1項では拒絶されへん。
「だから後の出願は拒絶されへんとおかしい」の答え
逆なんよ。乙の出願が地位を失うからこそ、甲が登録を取れる。そして甲が意匠権を取れるからこそ、善意で事業しとった乙を救うために29条の2の通常実施権が要る。
もし君の言うとおり乙の先願の地位が残って甲を蹴落とすんやったら、そもそも甲に意匠権が発生せえへん。甲に意匠権がなかったら、乙が通常実施権を主張する相手もおらん。29条の2は丸ごと無意味な条文になってまう。「地位が残らへん」が大前提やと分かると、条文の存在理由がスッと通る。
ほな、なんで乙は落ちて甲は生き残るん?
ここが具体的なイメージ湧きにくいとこやと思うけど、典型はこの流れ:
- 甲が意匠を公開する(展示・発表など)→ 公知になる
- 乙が独立創作してて、甲の公開後に出願 → 甲の公開で公知になってるから3条1項で拒絶(乙の公開やないから4条の例外は使えへん)
- 甲が猶予期間内に、4条(新規性喪失の例外)を主張して出願 → 自分の公開はチャラにできるから新規性クリアで登録
結果、出願の前後だけ見たら乙が先。でも中身は「乙=3条1項で死亡(地位なし)」「甲=4条で生還(登録)」。早く出した乙が報われへんのは酷やから、事業の範囲で通常実施権だけ与えとこ、というのが29条の2の救済趣旨。
出題ポイント
⚠ 9条3項は本文とただし書をワンセットで。
- 拒絶査定確定 → 原則、先願の地位を失う(本文)
- 例外は9条2項後段(同日協議不調)のときだけ地位が残る(ただし書)
過去問でも〔H23-22-3〕(拒絶査定確定→他人の後願は登録され得る=地位なし)と、〔H29-意6-1〕(同日協議不調だけ地位が残る)で、まさにこの本文/ただし書の振り分けを問うてくる。「3条1項拒絶は地位を失う」って即答できれば、29条の2の前提もブレへんよ。
特許法の場合は?乙が先願、甲が後願として、単純に特許法39条で甲の出願は乙の出願のために拒絶されない?
いいとこ繋げてきたね。特許で考えると、まさに君の言うとおり39条のレベルでは甲は拒絶されへん。でもそこに特許特有の落とし穴があって、それが「特許には先出願通常実施権が要らん理由」に直結する。順番に行こ。
① 39条のレベル:君の言うとおり
特許法39条5項は、意匠9条3項とまったく同じ構造やねん。
特許出願…が放棄・取下げ・却下されたとき、又は拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したときは、39条1〜4項の適用については初めからなかったものとみなす。ただし、2項後段・4項後段(=協議不調)に該当して拒絶確定したときは、この限りでない。
せやから乙の先願が拒絶確定(協議不調以外)したら、乙は先願の地位を失う → 甲は39条では拒絶されへん。ここは意匠と完全に同じ。君の直感は正しい。
② でも特許には「もう一段」ある:29条の2(拡大先願)
ここが意匠と決定的に違うとこ。特許には出願公開制度があるから、乙の先願が公開されてたら、別ルートで甲を撃ち落とせる。
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39条 |
29条の2(拡大先願) |
| 先願が拒絶・取下げ・放棄された後 |
後願を排除できない(地位を失う) |
後願を排除できる(公開さえされてれば地位は残る) |
| キモ |
出願の存在 |
出願内容の公開 |
つまり乙の先願が出願公開されてたら、その後に乙が拒絶・取下げになっても、甲は29条の2で拒絶される。さらに、乙の内容が甲の出願前に公知になってたら、もっと手前で**29条1項(新規性)**でアウト。
なので特許の世界では、
- 乙の出願が公開された → 甲はそもそも特許を取れへん(29条/29条の2で拒絶) → 甲に特許権が発生せえへんから、乙が誰かに対抗する必要もない
- 乙の出願が公開されへんかった(公開前に取下げ等) → 甲を妨げへんけど、その場合は乙の発明も世に出てへんから、甲とぶつかる場面では**79条(先使用権)**で処理できる
どっちに転んでも、「甲に権利が立つのに乙が無防備」っていう隙間が生まれにくい。
③ だから特許には「先出願通常実施権」が要らない
意匠29条の2(先出願通常実施権)が必要やったのは、意匠には出願公開がないからなんよ。具体的には:
- 意匠は登録まで内容が秘密 → 乙も甲も互いを知らんまま走る
- 甲の出願から設定登録までの「空白期間」に、乙が善意で事業を拡大することがある
- 先使用権(29条)は甲の出願の際の事業しか守らん → この空白期間がカバーできへん
- そこで設定登録の際まで延ばして救うのが意匠29条の2
特許は出願公開(+補償金請求権)があるおかげで、この「お互い知らんまま設定登録まで空白が続く」状況が起きにくい。だから先使用権(79条)を出願の際で止めても困らへんし、先出願通常実施権みたいな延長救済が不要、という設計になってる。
出題ポイント
⚠ 「拒絶確定で地位を失う」は39条と意匠9条3項の話。29条の2(拡大先願)は別物。
- 39条/意匠9条3項 → 拒絶確定で地位を失う(協議不調だけ例外)
- 29条の2(拡大先願) → 公開さえされてれば、拒絶・取下げ・放棄されても地位が残る
過去問でも〔2023-特実17〕や39条との比較表で、まさに「取下げ等の扱いが39条と29条の2で逆」っていうのを問うてくる。ここで「拒絶されたから地位ない」と短絡すると29条の2を落とすから、“公開されたか否か”でスイッチを切り替える癖をつけとくとええよ。
⇔ そして横断の核は「意匠だけ出願公開がない → 意匠だけ先出願通常実施権(29条の2意)が要る」。特・実・意・商で並べたとき、ここは意匠が単独で出っ張るポイント。
(Claude Opus 4.8)