「例外(39条5項)」こそが、正当な権利者を救うための逆転裁判のような規定です。ここを理解すると、特許法の「正義」が見えてくると同時に、試験で非常によく狙われる「ひっかけ」が見抜けるようになります。
1. 特許法39条5項の構造解説
まず、条文のロジックを整理します。通常、先願が拒絶査定確定すると「先願の地位」は残ります。しかし、39条5項は、「以下の理由で拒絶・無効になった場合に限り、先願の地位を認めない(なかったことにする)」と規定しています。
対象となる拒絶・無効理由
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冒認(ぼうにん): 発明者ではない者が勝手に出願した(特許法49条7号)。
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共同出願違反: 共同発明者の一部だけで出願した(特許法49条2号→37条違反)。
ロジック(なぜ消えるのか?)
泥棒(冒認出願人)の出願が「先願」として残ってしまったら、後から出願した被害者(真の権利者)が、「先に泥棒が出願しているから」という理由で39条拒絶を受けてしまいます。これでは「盗み得」を許すことになるため、泥棒の出願は「最初からなかったこと」にして、被害者の出願を通すのです。
2. 【短答対策】頻出パターンとひっかけ
短答試験では、「拒絶理由の種類」と「先願の地位の有無」の組み合わせを突いてきます。
パターンA:単純な知識問題
【問題】 甲(冒認者)の出願Aが、冒認であることを理由に拒絶査定が確定した。その後に出願された乙(真の権利者)の出願Bは、出願Aを先願とする39条違反の拒絶理由を受けるか?
【正解】受けない。
【解説】 冒認により拒絶確定した場合、39条5項により出願Aは先願の地位を失う(なかったものとみなされる)ため。
パターンB:残酷なひっかけ(超重要)
【問題】 甲(冒認者)の出願Aが、「進歩性欠如(29条2項)」を理由に拒絶査定が確定した。甲は実は冒認者であった。この場合、後に出願した乙(真の権利者)の出願Bは、出願Aによって39条違反で拒絶されるか?
【正解】拒絶される(先願の地位は残る)。
【解説】 ここが落とし穴です。条文(39条5項)は、「冒認または共同出願違反を理由として拒絶等されたとき」に限り、先願の地位を消滅させると書いてあります。
たとえ甲が冒認者であっても、特許庁がそれに気づかず「進歩性がない」という普通の理由で拒絶してしまった場合、39条5項は適用されません。結果、泥棒の「質の低い出願」が先願として残り、真の権利者をブロックしてしまいます。
(※実務上は、乙は情報提供などで「これは冒認だ!」と審査官に知らせて、拒絶理由を差し替えてもらう必要があります)
まとめ表
| 先願の拒絶・無効理由 | 先願の地位(後願排除効) | 備考 |
| 新規性・進歩性なし | 残る | 通常のパターン(行政の整合性) |
| 記載不備 | 残る | |
| 冒認・共同出願違反 | 消滅する | 39条5項(被害者救済) |
| 放棄・取下・却下 | 消滅する | 39条5項適用外だが、そもそも初めからなかったものとみなされる(39条4項) |
3. 【論文対策】ストーリー展開の鉄板
論文試験では、以下の時系列で出題されることが多いです。
【事例】
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発明者Xが発明イを完成させた。
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Xから図面を盗み見たYが、勝手に発明イを出願した(出願A)。
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それに気づいたXが、慌てて発明イを出願した(出願B)。
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Yの出願Aは、「冒認(49条7号)」を理由に拒絶査定が確定した。
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Xの出願Bの運命は?
【答案構成のポイント】
Step 1: 原則論(39条1項)の提示
「Xの出願Bは、Yの出願Aより後に出願されている。通常であれば、先願Aが存在するため、後願Bは39条1項により拒絶されるのが原則である。」
Step 2: 問題点の指摘(冒認による拒絶)
「しかし、Yの出願Aは、Yが真の発明者でないこと(冒認)を理由に拒絶査定が確定している。」
Step 3: 条文の適用(39条5項)
「特許法39条5項は、冒認(49条7号)または共同出願違反(37条)を理由として拒絶査定等が確定した場合、その出願は39条1項等の適用について『初めからなかったものとみなす』と規定している。これは、正当な権利者の保護を図る趣旨である。」
Step 4: あてはめと結論
「本問において、Yの出願Aは冒認を理由に拒絶が確定しているため、先願の地位を有しない。したがって、Xの出願Bは、出願Aを理由として39条1項により拒絶されることはない。」
4. さらに深掘り:もしYが特許を取ってしまったら?(特許法74条との関係)
今回のテーマは「Yが拒絶された場合(39条5項)」ですが、論文試験では「Yが審査をパスして特許権の設定登録を受けてしまった場合」もセットで問われます。この場合、39条5項は使えません(拒絶されてないから)。代わりに「特許権の移転請求(74条)」を使います。
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昔の法律: 被害者Xは、泥棒Yの特許を「無効審判」で潰すしかなかった(Xの手元には何も残らない)。
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今の法律: 被害者Xは、**「その特許権よこせ!」**と請求できる(特許法74条)。
受験テクニック: 問題文を見たら、泥棒の出願がどうなったかを確認してください。
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泥棒が拒絶・無効になった → 39条5項 で自分の出願を通す。
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泥棒が特許を取った → 74条 で権利を取り返す。
この「分岐」が瞬時にできると、論文試験での構成ミスがなくなります。
まとめ
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39条5項は、「泥棒(冒認者)の死体(拒絶確定出願)は、バリケードとして残さない」というルール。
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短答の急所は、「拒絶理由が『冒認・共同出願違反』以外なら、たとえ泥棒でも先願の地位は残る」という残酷な事実。
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論文では、39条5項(出願中の救済)と74条(登録後の救済)をセットで整理しておく。
これで39条周辺の「先願」と「冒認」の絡みは完璧です。
(Gemini)