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解糖系の反応式と化合物の化学構造と各反応を触媒する酵素を丸暗記する方法

解糖系とは

解糖系とは、グルコースを分解してピルビン酸にまでする過程です。酸素が十分にある環境下では、ピルビン酸はそのあと、アセチルCoAになって、TCA回路(クエン酸回路)に入ります。酸素がない状態では、ピルビン酸は乳酸になります。激しい運動をする場合、酸素の供給がおっつかなくて筋肉に乳酸が貯まることになるわけです。

解糖系で押さえておくべき事実

解糖系の中間代謝産物を全部把握しておいたほうが気持ちいいのですが、それより大事なことがあります。個々の化合物の名前を覚えるよりも大事です。

  1. グルコースから出発して多段階の反応を経て、最後はピルビン酸(2分子)になる。
  2. 解糖系は細胞質で起こる。
  3. 最終産物のピルビン酸はそのあと、ミトコンドリア内に輸送されて、アセチルCoAの産生の材料となり、そのアセチルCoAがTCA回路に入る。
  4. 解糖系では、酸素(O2)は必要ない(使われない)。
  5. 解糖系では、グルコース1分子に対して、ATPが2分子生じる(2個消費され4つ生成するので、正味が2分子)
  6. 解糖系で、グルコース1分子あたり、NADHが2分子生じる。
  7. グルコースは六炭糖で、解糖系の過程で2つに分かれて炭素3つからなるピルビン酸が2つできる。
  8. 酸素が無い条件では、ピルビン酸はそのまま乳酸に代謝される。この反応ではNADHが消費される。

解糖系の反応のまとめ

グルコースC6H12O6 + 2NAD+ + 2Pi + 2ADP  → ピルビン酸 2分子 + 2NADH + 2ATP + 2H2O

グルコース1分子(および、NAD+ 2分子、ADP 2分子、無機リン酸H3PO4 2分子)から、ピルビン酸が2分子、NADH 2分子、ATP 2分子、水が2分子生じます。途中の反応を忘れても、この結果を覚えておきましょう。NADHとATPがそれぞれ2分子生じるということです。

  1. マクマリー生化学反応機構第2版 175ページ

解糖系の暗記

解糖系は生化学の基本的な反応です。ぜひ、暗記したいものですが、10個の反応を覚えられるものでしょうか?自分がやってみたところでは、4~5回、反応を白い紙に書いているうちになんとか覚えられました。しかし、むやみに構造式を書いていても頭に入りません。ポイントポイントをおさえたほうが、頭に入りやすいです。

グルコースは炭素6個からなる化合物で、解糖系ではそれが2つに分かれるので、ピルビン酸は炭素3つの化合物ということになります。ピルビン酸はα‐ケト酸、つまりαの位置の炭素がケトン期です。酸というのはカルボン酸(カルボキシ基)というわけなので、構造式を覚える手がかりになります。カルボキシ基のとなりがαの位置ですので、ピルビン酸の構造式は、HOOC-C(=O)-CH3 と覚えられると思います。

さてグルコースからピルビン酸に至る過程は、暗記できそうなことなのでしょうか。グルコースは炭水化物でアルデヒドであり、多価のアルコールで炭素6個の鎖からなるということはまず押さえておきましょう。水酸基と水素の位置関係がどうであっても解糖系の反応とは関係ないので、異性体の構造を無視して考えることにします。また、環状と鎖状の2通りの構造をとりえますが、直鎖で書いたほうが頭に入りやすいので、直鎖で覚えることにします。

C6をC3に分裂させる際に、できるだけ同じ構造式のものにしたいので、1位と6位がリン酸化されます。また、アルドール開裂の反応でC3とC3に分かれるように、グルコースのアルデヒド基(ホルミル基)は、一つ内側に異性化反応で移されてフルクトースに変換されています。

R-C(=O)-CR’-C(OH)-R” の形が、アルドール開裂で、R-C(=O)-CR’  と、 CHO-R” に分かれるわけです。

また、高エネルギーリン酸結合をもつ化合物ができたら、その次のステップ(反応)では、リン酸基をADPに転移して、ATPを生成しています。

こういったポイントを覚えておけば、構造式や反応はかなり覚えやすくなります。

グルコース

グルコースは炭素6個からなる炭水化物なのでC6(H2O)6と水和の形で化学式が書けます。これはアルデヒドなので、

HC(=O)-CHOH-CHOH-CHOH-CHOH-CH2OH と書けます。アルデヒド基がついた炭素が1番で、順番に番号が振れますが、縦にかいたとき、4,5,6番の炭素の右側に水酸基が来ます。3番目だけ左側に水酸基。で、2番目も右側に水酸基。これで、異性体に関しても正しく書いたことになります。

まず最初の反応は、グルコースのリン酸化です。六炭糖はhexose(ヘキソース)。ヘキソースをリン酸化する酵素なのでヘキソキナーゼが触媒します。ヘキソキナーゼが、ATPからもらったリン酸基を、グルコースの6位の炭素の水酸基に転移します。この反応で、ATPが1分子、消費されグルコース6リン酸が生成します。

反応①:酵素ヘキソキナーゼが、グルコースにATPのγ‐リン酸を転移し、グルコース6リン酸を生成するする。ATP1分子がここで使われた。ATPはADPに加水分解された。

グルコース6リン酸

HC(=O)-CHOH-CHOH-CHOH-CHOH-CH2O-PO3 2-  名称は、glucose 6-phosphate

さて、次の反応は、異性化です。異性化(isomerization)なので使われる酵素はイソメラーゼ(isomerase)。グルコース6リン酸を異性化する酵素なので、glucose-6 phosphate isomarase(グルコース6リン酸イソメラーゼ)。酵素名は、そのまんまやんけ!覚えるなと言われても、すでに覚えてしまっていますね。

反応②:グルコース6リン酸イソメラーゼが、グルコース6リン酸を異性化して、アルデヒドの部分をケトンに変える。それによって名前がフルクトースに変わるので、生成物は、フルクトース6リン酸です。

フルクトース6リン酸

CH2(OH)-C(=O)-CH(OH)-CH(OH)-CH(OH)-CH2OPO3 2- 名称はfructose 6-phosphate(フルクトース6リン酸)

次に、再びATPを使って、1位の炭素の水酸基にリン酸を付加します。fructose phosphateは、別名、phosphofructoseです。phosphofructoseをリン酸化するリン酸化酵素(kinase)なので、使われる酵素は、phosphofructokinaseです。この酵素名も、そのまんまなので、覚えられますね。

反応③:ホスホフルクトキナーゼが、フルクトース6リン酸の1位の炭素の水酸基に、ATPのγ‐リン酸基を転移して、フルクトース1,6リン酸を生成します。これですでにATPを2つも使ってしまいました。ATPを産生する目的のはずの解糖系で、いきなりATPを2分子も使っちゃっていいのか?って不安になる人がいるかもしれませんが、このあと、ATPを4つつくることになるので、差し引きで、正味2分子のATPが解糖系で作られることになります。ご安心ください。

フルクトース1,6リン酸

CH2(OPO3 2-)-C(=O)-CH(OH)-CH(OH)-CH(OH)-CH2OPO3 2- 名称は fructose 1,6-bisphosphate(フルクトース1,6リン酸)

さて、ここまではC6(炭素6個)化合物でした。次の反応で、このC6が真っ二つに分かれて、C3化合物になります。わかれる場所は、

CH2(OPO3 2-)C(=O)-CH(OH)-CH(OH)-CH(OH)-CH2OPO3 2-

CH2(OPO3 2-)C(=O)-CH(OH)- ココの結合  -CH(OH)-CH(OH)-CH2OPO3 2-

さて、アルデヒド基とヒドロキシ基の両方の官能基を持つ化合物はアルドール(aldol)と呼ばれるそうです。今の場合、アルデヒド基というかケトン基ですが、aldolを開裂させる(分解させる)のでその酵素名がaldolase(アルドラーゼ)というのだと思います。

反応④:アルドラーゼが、炭素6つからなる化合物のフルクトース1,6リン酸を、真っ二つに分けて炭素3つからなる分子にする。水酸基側は、端がアルデヒド基になる。

  1. CHEM 407 – 解糖系 – 4 – アルドラーゼのメカニズム  Biochemistry with Dr. Mauser(YOUTUBE)
  2. アルドール開裂/縮合 アルドラーゼにより3炭素の化合物へ分解 生体分子有機化学 2014年12月11日分第10回:糖の代謝(続) 担当:岸村 顕広  この講義ノートは非常に詳しくてわかりやすいと思います。開裂する前に、なぜグルコースをフルクトースに変えたのかが、解説されていて、なるほどと思いました。
  3. 第24回 エノール・エノラートの反応(1)(PDF) 名城大学理工学部応用科学科 わかりやすいくて詳細な説明。
  4. アルドール反応・アルドール縮合:酸・塩基によるエノラート合成 Hatsudy:総合学習サイト

アルドール開裂は、アルドール(付加)反応の逆反応です。アルドール反応は有機化学の世界で非常に重要な反応なそうで、知識を別記事で纏めておきます。

アルドール反応とは

グリセルアルデヒド3リン酸:開裂してC3化合物に

左側半分は、

CH2(OPO3 2-)-C(=O)-CH2(OH) になり(ジヒドロキシアセトンリン酸)、右半分は

HC(=O)-CH(OH)-CH2-OPO3 2-  (グリセルアルデヒド3リン酸)になります。酸素や水素の数は前後で変わりません。ジヒドロキシアセトンリン酸は、イソメラーゼによって、グリセルアルデヒド3リン酸になりますので、ここまでで、グルコース1分子から、2分子のグリセルアルデヒド3リン酸が生成されました。

反応⑤:トリオースリン酸イソメラーゼが、ジヒドロキシアセトンリン酸を異性化して、グリセルアルデヒド3リン酸にします。これにより、グルコース1分子から、グリセルアルデヒド3リン酸が2分子できたことになります。

トリオースというのは、三炭糖のことです。

1,3‐ビスホスホグリセリン酸:高エネルギーリン酸結合

反応⑥:グリセルアルデヒド3リン酸デヒロゲナーゼが、グリセルアルデヒド3リン酸の1位の炭素の水素を奪い、NAD+に渡して(NAD+ →NADH)、グリセルアルデヒド3リン酸の1位の炭素に無機リン酸をリン酸基として付加することにより、1,3-ビスホスホグリセリン酸(1,3-bisphosphoglycerate)

O=C~(OPO3 2-)-CH(OH)-CH2-OPO3 2-  ができます。ここで~で表したのは、いわゆる高エネルギーリン酸結合です。ここに来る前のリン酸基の結合は、高エネルギーリン酸結合ではありません。1位の炭素には酸素が二重結合しているので、マイナスチャージが近いところにマイナスチャージをたくさんもったリン酸基がついているため、エネルギー的に不安定で「高エネルギー」な状態なのだと思います。

さて、これでATPを産生する準備ができました。この高エネルギー結合のリン酸基がADPに渡されてATPを生成します。

3-ホスホグリセリン酸

反応⑦:ホスホグリセリン酸キナーゼが1,3-ビスホスホグリセリン酸を脱リン酸化することにより、

O=C(OH)-CH(OH)-CH2-OPO3 2-   3-phosphoglycerateができます。キナーゼは本来リン酸化酵素の意味ですが、ここでは逆反応も触媒するため、キナーゼという名前になっています。

2-ホスホグリセリン酸

次に、

反応⑧:2-ホスホグリセリン酸ムターゼにより、リン酸基が3位から2位の炭素のほうに移されます。

O=C(OH)-CH(-OPO3 2- )-CH2-OH

ホスホエノルピルビン酸:高エネルギーリン酸結合

反応⑨:エノラーゼという酵素により2-phosphoglycerateが脱水されて、また、炭素間に二重結合が導入され、

O=C(OH)-C(~OPO3 2- )=CH2 phosphoenolpyruvate(ホスホエノルピルビン酸)になります。enolaseは、phosphopyruvate hydrataseとも呼ばれます。このリン酸基は高エネルギー結合になります。そして、この高エネルギー結合のリン酸基がADPに渡されてATPを生成します。それにより

ピルビン酸

反応⑩:ピルビン酸キナーゼが、ホスホエノルピルビン酸を脱リン酸化し、そのリン酸をADPに与えてATPを産生します。ホスホエノルピルビン酸は、ピルビン酸 O=C(OH)-C(=O)-CH3  になります。

以上、10個の反応でした。覚えるまで紙に書いていると、4~5回書くうちに、覚えてしまいます。

 

解糖系を理解するには、どのステップの反応で高エネルギー結合のリン酸ができたかを押さえておくと、その次でATPが産生されるので、理解が深まると思いました。

ピルビン酸の構造式を覚えるためには、ピルビン酸は、α‐ケト酸だと覚えておけば、思い出して書けそうです。グルコースが2つに割れてできたので炭素3つの化合物であり、酸なのでカルボキシ基をもっており、そこから数えてαの位置にケトン基があるというわけです。

 

乳酸

酸素が無い状態だと、ピルビン酸がTCA回路に入るためにアセチルCoAにならずに、さらに代謝されて乳酸になります。

反応⑪:乳酸デヒドロゲナーゼが、ピルビン酸に水素をあたえて乳酸 HOOC-CH(OH)-CH3 にします。この酵素は逆反応も触媒するので、逆反応の場合は脱水素酵素ということでこの名があります。

 

参考図書

  1. マークス臨床生化学 原書 964ページ  FIGURE 22.6 Reaction of glycolysis.

参考ウェブサイト

  1. 生化学II 講義補助資料:解糖系の諸反応説明 bio.tottori-u.ac.jp/~mizobata
  2. 2)解糖の10段階反応 Bio-Science~生化学・分子生物学・栄養学などの『わかりやすい』まとめサイト~

解糖系を歌で覚える方法

  1. グルコース解糖系のゴロ、覚え方 「もしもしかめよ〜」の音程で歌おう
  2. The Glycolysis Song bcpprojects (YOUTUBE)
  3. Glycolysis! (Mr. W’s Music Video) sciencemusicvideos(YOUTUBE) 説明が細かくて、ノリも良い動画。
  4. Glycolysis Time sciencemusicvideos(YOUTUBE)
  5. Glycolysis Do Re Mi englishgalmd (YOUTUBE)

 

生化学の教科書

  1. マークス臨床生化学第5版(原書)第22章 Generation of adenosine triphosphate from glucose, fructose, and galactose: Glycolysis   page 953~
  2. 畠山 生化学(医学書院)第4章 糖質代謝 1解糖系 p74~

血液型と抗原と抗体、血液型不適合臓器移植について

血液型は、A型、B型、AB型、O型がありますが、これらは特異的な抗原の有無によって分類された型です。A型の人は、A型抗原を、B型の人はB型抗原を、AB型の人はA型抗原とB型抗原を持っており、O型の人はA型抗原もB型抗原も持っていません。

血液型により持っている抗体も異なります。A型の人は、B型に対する抗抗体を持ち、B型の人はA型に対する抗体を持っています。AB型の人は、どちらの抗原に対する抗体も持っていません。O型の人は、両方に対する抗原を持ちます。

  1. 「血液型不適合腎移植:血液型が異なる場合の腎移植」 亀田メディカルセンター

臓器移植のことを考えた場合、血液が不一致だと移植できない(拒絶反応が起きる)というわけではなくて、移植提供者側の血液型の抗原に対する抗体を受ける側の人が持っているかどうかが決めてになります。

AB型の人は、抗体を持っていないのでA型の人もB型の人も移植臓器の提供者になれます。O型の人は抗体を両方のタイプ持っているので、O型の人に移植できるのはO型の人のみになります。

血液型が「不一致」でも「適合」になる場合があるというわけです。

なお医療技術が進展した今の時代、「不適合」だから腎臓移植ができないということでもなくて、レシピエントから、抗体を除去して移植するという方法(血液型不適合腎移植)があるそうです。

  1. 患者さんが腎移植に抱く3つの誤解(今井直彦)寄稿 2013.06.03 医学会新聞

血液型不適合腎移植

  1. 【腎臓病の体験談】出産の夢をかなえた患者さん。膠原病から腎不全になり、透析から血液型不適合の腎移植を成功して26年目 NPO法人 腎臓サポート協会 2015年08月18日
  2. ABO 血液型不適合腎移植 Update 高橋公太 日腎会誌 2008;50(7):880-886.

血液型不適合肺移植

  1. 血液型不適合で肺移植、10代女性に 京大病院が世界初  2022年4月12日 20:46 日本経済新聞

 

参考

  1. ABO血液型不適合腎移植は、生存・生着を改善するか/Lancet 2019/05/13
  2. 2010年 臓器移植法改正 本人の書面による同意がなくても家族の承諾だけで提供可能に
  3. 1997年10月 臓器移植法 施行  脳死者からの臓器提供が合法化

C型肝炎ウイルスについて

C型肝炎ウイルスの感染者数

日本人のC型肝炎患者数は推計100万~150万人。 https://news.yahoo.co.jp/articles/0c52a59a73da4d09d7687bc37427a331b7fa6ea6

国内にはC型肝炎ウイルスのキャリアは約200万人いるとされています。 https://medical-checkup.info/article/44965342.html

C型肝炎ウイルス感染の経過

約15~45%の感染者では、治療を受けなくても感染後6か月以内に自然にウイルスが排除 残る60~80%の感染者は、慢性HCV感染症へと進展 https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/2017/12081116.html

C型肝炎ウイルスに感染すると70%が持続感染者となる。 https://news.yahoo.co.jp/articles/0c52a59a73da4d09d7687bc37427a331b7fa6ea6

治療でウイルスを排除しなければ肝臓の線維化が進み、「慢性肝炎→代償性肝硬変→非代償性肝硬変→肝臓がん」と進行。非代償性肝硬変、肝臓がんでは死に至るリスクもある。https://news.yahoo.co.jp/articles/0c52a59a73da4d09d7687bc37427a331b7fa6ea6

沈黙の臓器」ともいわれる肝臓は、肝硬変となっても、はじめのうちは特に症状を感じることはありません。こうした自覚症状がほとんどない状態を「代償性肝硬変」と呼びます。しかし、実際には肝臓の機能は正常よりも低下しており、肝臓が無理に働き続けるため、肝機能の低下が進みやすい状態です。肝機能の低下がさらに進むと、肝臓が本来の働きを発揮しきれなくなることで、腹水や黄疸、肝性脳症、浮腫(むくみ)などの様々な症状が自覚されるようになります。この状態を「非代償性肝硬変」と呼びます。https://www.hcvcanbecured.jp/kankohen/decompensation/

C型肝炎に感染すると約70%の割合で慢性肝炎に移行する https://cgatakanen-support.net/before/liver_cancer.html

慢性肝炎は自覚症状がないまま10年~30年が経過し、肝硬変に進行する。https://cgatakanen-support.net/before/liver_cancer.html

日本の肝がんの原因の65%がC型肝炎と言われ、年間3万人以上が肝がんで亡くなっています。 https://cgatakanen-support.net/before/liver_cancer.html

肝癌の90%以上は肝硬変を伴っていることから、肝硬変の死因の60%以上は肝癌によるもの http://www.kanazawa-med.ac.jp/~hiromu/new_page_10.htm

肝癌による死亡者数は全世界で年間70万人にも上ります※3肝癌のうち約60-70%はC型肝炎ウイルス(HCV)感染が原因とされています。https://www.osaka-cu.ac.jp/ja/news/2017/170920

肝がんで亡くなる人の数は、肺、大腸、胃、膵臓に続き5番目 https://cgatakanen-support.net/before/liver_cancer.html

C型肝炎ウイルス感染の治療

今年8月、直接的抗ウイルス薬のひとつ「エプクルーサ」が適応拡大となり、C型肝炎の進行にかかわらず使えるようになった。しかも1日1回1錠、12週間服用すればよく、安全性が高い上に、ウイルスを100%排除できる。より使い勝手のいい薬https://news.yahoo.co.jp/articles/0c52a59a73da4d09d7687bc37427a331b7fa6ea6

今では「直接的抗ウイルス薬」という飲み薬が複数種類登場しており、ほぼ全員がウイルスを排除できる。https://news.yahoo.co.jp/articles/0c52a59a73da4d09d7687bc37427a331b7fa6ea6

抗ウイルス薬はC型肝炎患者の95%以上を完治 https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/2017/12081116.html

2014年以後、DAA(Direct acting antivirals; 直接型抗ウイルス薬)の開発に伴い、C型肝炎患者数が減少。 https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/000781258.pdf

C型肝炎治療(第ガイドライン8 2020版)年7月日本肝臓学会肝炎診療ガイドライン作成委員会編 https://www.jsh.or.jp/lib/files/medical/guidelines/jsh_guidlines/C_v8_20201005.pdf

肝硬変

慢性肝炎が肝硬変まで進行すると、手掌紅斑と言って手のひらが赤くなってきたり、からだが黄色くなる黄疸という症状が出現したり、むくみが出たり、おなかに水がたまる腹水によって妊婦さんのようにお腹が膨らんだりすることがあります。さらに鼻血などが出やすくなったり、出血が止まりにくくなったりする症状がみられることがあります。
https://www.kanen.ncgm.go.jp/cont/010/c_gata.html

肝臓がん・肝癌

肝臓がんの治療 http://keijinkai-hp.net/chiryo/kanzo.html

肝臓がんの統計と他との比較

https://jams.med.or.jp/event/doc/123013.pdf

肺癌による死亡者数 死亡数(2020年) 75,585人(男性53,247人、女性22,338人)https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/12_lung.html

大腸癌による死亡者数 死亡数(2020年) 51,788人(男性27,718人、女性24,070人)https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/67_colorectal.html

胃癌による死亡者数 死亡数(2020年) 42,319人(男性27,771人、女性14,548人)

https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/5_stomach.html

肝癌による死亡者数 死亡数(2020年) 24,839人(男性16,271人、女性8,568人)

 

ATPの高エネルギーリン酸結合とは?結合エネルギーの大きさにあらず。放出されたエネルギーはどこに蓄えられていた?

ATPは高エネルギーリン酸結合に蓄えていたエネルギーを放出するのか?

ATPは、高エネルギーリン酸結合をもっているのでエネルギーを蓄えることができるといった説明を目にすることがあります。

ATPがADPに加水分解されるときに、高エネルギーリン酸結合が切れ、たくわえられていた化学エネルギーが放出される。(畠山『生化学』24ページ)

ATPというのは実は高校の生物基礎で勉強するので、そこではどう教えているんだっけと思ってみてみると、教育産業の動画ですが、

この2番目のリン酸と3番目のリン酸、実はここにはエネルギーが蓄えられている。エネルギーが蓄えられているんだけど、ここの結合のことを高エネルギーリン酸結合っていうふうに言います。ここにはエネルギーが実は蓄えられているから、ここの リン酸を取ると、ここの高エネルギーリン酸結合のエネルギーが外に放出されて、このエネルギーを例えば熱を作るとか筋肉を収縮させるみたいなことに使ったりするんだね。(TryIt 5分でわかる!ATPの構造

自分がこの動画で勉強したわけでは勿論ないのですが、高校レベルだと学習塾などではこういう説明がなされているのかもしれません。さすがに教科書であればもっと正確に記載しているのだろうと思います。この2例からわかるように、学習者が、結合にエネルギーが蓄えられていると誤解してしまうような説明が巷にあることは、自分のもやもやの一因かなと思います。

上の解説のような、化学結合にエネルギーが蓄えられているという表現は、自分には理解しづらいものでした。原子と原子のほうがエネルギー準位が高くて、結合したほうがエネルギーが低くなるからこそ、結合しているわけです。結合を切り離すためにはむしろエネルギーが必要なわけですから、エネルギーを蓄えているというのがしっくりきません。

上の教科書をもう一回じっくり読んでみると、

どのようにしてATPにエネルギーが貯蓄されているのだろうか。ATPのリン酸基は、リン酸結合でつながっている。このリン酸基の酸素原子(O)には電子がかたよっており、酸素原子同士は反発している。この結合は、高エネルギーリン酸結合とよばれる。ATPがADPに加水分解されるときに、高エネルギーリン酸結合が切れ、たくわえられていた化学エネルギーが放出される。(畠山『生化学』24ページ)

最初に静電的な反発のことが説明されていたので、リン原子と酸素原子との間の結合そのものにエネルギーが蓄えられていたという意図での説明では実はなかったのかもしれないと思い直しました。自分が読み違えてしまっただけかもしれません。高校化学の塾の動画は、高校レベルだから仕方がないのかもしれませんが、結合にエネルギーが蓄えられているという説明だったと思います。

別の教科書を見てみると、

化合物の特定の共有結合の加水分解によって大きなエネルギーが放出される場合、その化合物を高エネルギー化合物と言い、加水分解を受ける共有結合を高エネルギー結合という。(三輪・中『生化学』173ページ)

上の説明だと、呼び名の説明をしているだけであって、エネルギーが何に由来するのかといった原理的な説明をしているわけではないので、記述としては正しいのだと思います。だからといって、説明してもらった気はしないので、分かった気にはなりにくいです。

まあ、「高エネルギーリン酸結合が切れ、たくわえられていた化学エネルギーが放出される」という説明は、どこにたくわえられたていたのかはハッキリとは書かれていないので、「結合にたくわえられていた」と誤解して読んでしまいそうです。

 

エネルギーはリン原子と酸素原子との間の結合そのものに由来するわけではない

もしもATPの「高エネルギー」がリン酸エステルのPとOとの結合にだけ由来するというのであれば、ATPがADPになるときに放出されるエネルギー、ADPがAMPになるときに放出されるエネルギー、AMPがアデノシンになるときに放出されるエネルギーがどれも同じであるべきでしょう。実際のところ、これらの値はいくつなのでしょうか。

The hydrolysis of ATP to ADP + P, and that of ADP to AMP + P, have , values of -30.5 kJ/mol, while the hydrolysis of AMP to adenosine and P has a value of -14.2 kJ/mol. (study.com)

AMPの加水分解による自由エネルギーの値は、ATPやADPの加水分解のときの約半分のようです。これをみても、結合そのものに由来するエネルギーではなさそうです。

ストライヤーやヴォ―ト(VOET)の生化学の教科書にその点がはっきりと書かれていました。

”高エネルギー”化合物における”エネルギー”の由来 加水分解が大きな負のΔGo’値(習慣で-25kJ・mol-1より負)をもつ結合を”高エネルギー”結合(high energy bondまたはenergy-rich bond)とよび、その結合をふつう波印(~)で表す。ATPはAR-P~P~Pとなる。Aはアデニン、Rはリボシル基、Pはリン酸基を表す。しかしATPのアデノシル基にリン酸基を付けるリン酸エステル結合と、ATPのα、β、およびβとγのリン酸基の結びつける”高エネルギー”結合とは電子的にあまり差があるとは思えない。事実これらの結合に変わった性質はなく、”高エネルギー”結合という言葉は正しいとはいえない(いずれにしても”結合エネルギー”は共有結合している原子を加水分解ではなく切離すのに必要なエネルギーと別に定義されている)。(ヴォ―ト基礎生化学第5版 300ページ)

どう考えれば納得のいくのかと思ってあれこれ調べていたら、より正確な説明では、この高エネルギーリン酸結合というものは、(リン酸エステルのリン原子と酸素原子との結合に由来するエネルギーというわけではなく)加水分解されたときにエネルギーをたくさん放出するからそう呼ばれるということのようです。ウィキペディアや、メジャーな生化学の教科書には詳細な説明がありました。

反応の自由エネルギー変化が大きいのであって、P-O間の結合エネルギーは一般の化合物と比べて特に大きいわけではない点に注意が必要である。‥ 「高エネルギー」という用語は、負の自由エネルギー変化の直接的な原因が結合それ自身の切断によるものではないため誤解を招きかねない。これらの結合の切断は、ほとんどの結合の切断と同様に吸エルゴン的であり、エネルギーを放出するよりむしろ消費する。負の自由エネルギー変化はそれよりむしろ、加水分解後に生じる結合(またはATPによる残基のリン酸化)が加水分解前に存在する結合よりもエネルギー的に低いという事実から来ている(これには、リン酸結合自身だけでなく、反応に関与する「全て」の結合が含まれる)。この効果は反応物と比較した生成物の共鳴安定化および溶媒和の増大など数多くの原因によるものである。(高エネルギーリン酸結合 ウィキペディア)

 

高エネルギーリン酸結合というのは、結合エネルギーが高いという意味では決してありませんよという丁寧な説明をしている教科書もありました。

高エネルギー結合とは、この結合を切断(開裂)するためのエネルギー(結合エネルギー)が高いことではない。(カラーイラストで学ぶ集中講義生化学改訂第2版 9ページ)

ここまではっきり言ってくれると、紛れがなくていいですね。「高エネルギーリン酸結合」と言う言葉の中には、「結合」、「エネルギー」という言葉が含まれてしまっているため、非常に誤解を招きやすいと思います。 他の生化学の教科書でもこの点を明瞭に説明していました。

高エネルギーリン酸結合(~P)は通常いわれている結合エネルギーと同じ内容を意味していない。リン酸結合エネルギーは、リン酸化合物が加水分解され、リン酸が生成されたときの生成物と反応物の自由エネルギーの差であるが、通常いわれている結合エネルギーは、2原子間の結合を切断するのに必要なエネルギーを意味している。小野寺ほか『生化学』朝倉書店 85ページ)

中垣ら『生物物理化学』だったかマクマリー『有機化学概説』だったか、どっちか忘れましたが、高エネルギーリン酸結合は、化学熱力学でいう結合エネルギーが大きい結合という意味ではなく、逆で、結合エネルギーが小さい結合だと述べられていました。

数十年前の高校の生物の教科書を見ると「切れやすい」結合なのエネルギーが高いという説明をしていました。切れやすいということはとりもなおさず結合エネルギーが小さいということです。化学熱力学でいう結合エネルギーは結合を切断するのに要するエネルギーのことです。

高エネルギーリン酸結合のエネルギーはどこから?

じゃあエネルギーはどこに蓄えられていたのという話なのですが、ウィペディアや上の教科書(小野寺ほか『生化学』)によれば、ATPにリン酸が3つ結合しているわけですが、マイナスイオンになっている酸素が4つも密集していて電気的な反発があり不安定なこと、P=Oの結合でも電子は酸素のほうに引き寄せられるのでPはプラスに偏っていること(δ+)そのP同士が、プラスとプラスで反発するので不安定なことなどが挙げられています(他に、生成物のほうが電子の共鳴によって安定だそう)。加水分解による生成物は、そういった静電的な反発が減って安定になるので、その差が自由エネルギー変化というわけです。

自分の疑問に生化学の教科書はどう答えてくれるのか?という興味で、もう少し他の教科書も見てみます。

「高エネルギー結合」という用語は、ATP加水分解のΔG0’で定義される生物学的用語である。ATPとほぼ同等あるいはそれ以上のエネルギーの放出を伴って加水分解される結合はどれも高エネルギー結合と呼ばれる。‥ これらの分子に共通する特徴は、すべての高エネルギー結合が「不安定」でその加水分解がかなりの自由エネルギーを生む点であり、これは分子内での電子共鳴のため生成物がはるかに安定だからである。(マークス臨床生化学 5th edition 251~252ページ)

この教科書は、高エネルギー結合という言葉は生物学で使う言葉ですよと言っています。つまり化学で出てくる言葉とは別物ということなんですね。この教科書は、静電反発には触れずに、電子共鳴による安定化が、大きなエネルギーの由来だと説明していました。不安定ということはエネルギーが高いという意味ですから、この説明なら頭に入りやすいです。

ストライヤーの生化学の教科書に至っては、そもそも高エネルギー結合という言葉を前面に出していません。そのかわりの表現として、ATPはリン酸基転移ポテンシャルが高いという言い方をしています。ひとしきり説明を終えたあとに、注釈的な扱いで、説明があります。

ATPはしばしば高エネルギーリン酸化合物とよばれ、そのリン酸無水物結合は高エネルギー結合といわれる。そして、このような結合を表記するのに~Pがよく用いられる。といっても、結合それ自体は特別なものではない。上記の理由により、加水分解されるときに大量のギブズエネルギーが放出されるという意味において高エネルギー結合なのである。(ストライヤー 基礎生化学 第4版 東京化学同人 193ページ)

上記の理由というのは、静電的反発、共鳴安定化、エントロピーの増大、水和による安定化 の4つで、それぞれの解説がなされています。ADPに結合した~Pに対してもよりも、無機リン酸に遊離した場合のほうが水分子が四方八方からアクセスできるので、水和しやすいというのは理解できます。また、エントロピー増大というのは、単純に1分子(ATP)が2分子(ADPとPi)になったからというわけです。加水分解なので水分子が一つ減っていますが、水の濃度を考えれば加水分解で使われる水のことは無視してよいそうです。共鳴安定化というのは、いくつの配置をとりえるかということで、HPO4 2- であれば、4つのOとの間でPとの二重結合が形成できて共鳴するそうです。水素がついている酸素との間に二重結合ができるときは、-P=OH+ となっています。ところがAMP~P~Pにおいては、このような配置(共鳴構造式)は実現しないため、共鳴する配置の数が一つ少ない、つまり共鳴による安定性と言う意味では、無機リン酸よりも不安定なのだそう。

さすがストライヤーの教科書ですね。化学的な説明が詳細でした。

ハーパーの生化学でも、基転移ポテンシャル(group transfer potential)という語の方が、”高エネルギー結合”よりもよいとする人もいる。(イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書30版 丸善出版 136ページ) と説明しています。ハーパーの教科書では、ATPがADPに加水分解されることに伴う自由エネルギー変化の説明として、ATP4-にある4つの負の電荷間の反発が、ADP3で3つになることでやわらげられていること、遊離したリン酸は3つの電荷が4つの酸素原子間に振り分けられてて共鳴混成体を形成することで安定化するということを説明しています(137ページ 図11-6)。

ヴォ―ト(VOET)の生化学の教科書にも、高エネルギーの由来が説明されています。この教科書では、理由として、共鳴安定化、静電反発力の差、溶媒和のエネルギーの差が挙げられています。ちなみに、α、β、γというのはAMP、ADP,ATPの順につくリン酸の呼称。AR-P~P~Pの三つの線(結合)のうち、-は、「リン酸エステル結合」、~は「リン酸無水物結合」と呼ばれます(ヴォ―ト基礎生化学第5版 299ページ)。AR-Pの結合はリン酸エステル結合で、~はリン酸無水物結合、と種類(呼称)が違うんですね。今まで混同していました。この「リン酸無水物結合」の方が、高エネルギー結合と呼ばれて~という記号をわざわざ使って表記します。

  1. リン酸エステル結合はリン酸とヒドロキシ基の間で起こるエステル結合です。リン酸無水物結合はリン酸同士の間で起こる縮合です。YAHOO!JAPAN知恵袋
  2. リン酸無水結合 2個のリン酸が脱水して重合した結合(ピロリン酸結合)で、生体における高エネルギー結合。 ウェブリオ
  3. 酸無水物とエステル結合の違い YAHOO!JAPAN知恵袋 エステルは、アルコールと酸が結合したもの 大きく脱水縮合という枠があって、その中にエステル化や酸無水物

ひとくちメモ 共鳴 化学構造における電子の非局在化を共鳴という。ある分子の構造式が2通りも、3通りもの方法で描けるとき、多数の方法で描ける分子ほど共鳴による安定化が大きい。(ヴォ―ト基礎生化学第5版 300ページ)

  1. 7.6: ATP as Energy carrier LibreTexts(Chemistry) Table of common cellular phosphorylated molecules and their respective free energies of hydrolysis, under physiological conditions.
  2. 生命エネルギーの通貨ATP 〜ATPのエネルギー放出の分子メカニズム〜 東北大学 化学結合が切れるのに、エネルギーが放出されるとは、どういうことでしょうか?これまでの生物学の教科書には、そのエネルギー放出のメカニズムについていくつかの推測が書かれていますが、まだ本当のことは分かっていないのです。

確かに教科書の説明は、意外なことにあまり断定的に書かれていません。確定的なことは言えないということなのでしょうか。こんな古典的な内容が、実はメカニズムという点では現在の研究対象になるというのは面白いものです。比較的最近の科研費研究にもこのテーマがありました。

反応に関与する分子を量子化学の方法で扱い、周りの水分子を経験的分子力場で扱うQM/MM法を用いた。特に、最近提案された平均場近似に基づく方法(溶質の波動関数を溶媒平均場の下で決定し、得られた平均波動関数を溶媒に埋め込む)を用いて、反応に伴う自由エネルギープロファイルを定量的に計算した。その結果、全自由エネルギーの変化は溶質分子内のエネルギー寄与(リン酸基間のクーロン反発)と、溶質–溶媒間の静電相互作用による安定化(溶媒和自由エネルギー)の大きなキャンセレーションによって生じていることが分かった。溶質分子内におけるクーロン反発は末端リン酸基を解離させる力として働くが、まわりの水分子はリン酸基の解離を抑制する方向の力を与えており、両者のつりあいが反応速度を決めていることになる。その結果、誘電率の低い溶媒(有機溶媒)では、溶媒和による反応の抑制効果が十分でなくなり、末端リン酸は非常に解離しやすい状態となることが分かる。これは、酵素中(低誘電率のタンパク環境)におけるATP加水分解を促進する物理的な原因の一つであると考えられる。(研究課題/領域番号 21118508 多中心プロトン移動を含むATP加水分解とその自由エネルギープロファイルの理論研究 研究期間 (年度) 2009 – 2010)

 

高エネルギーリン酸結合は誤解を招く呼称

上で参照した教科書に書いてあったとおり、高エネルギーリン酸結合というのは、非常に誤解を招きやすい表現だと思います。名は体を表さない一例でしょう。初学者は、この落とし穴にはまらないようにしたいものです。

実際、教える側の一部もこの誤解をしたまま教えているようなフシがあります。

 

参考記事(その他)

  1. ATPの加水分ӂで、AMPとピロリン酸になるときがあるが、なぜATP→ADPとリン酸ではなく、ピロリン酸とAMPとに分解されるのか。ATPからひとつずつリン酸がとれるのではなく、一度にピロリン酸がとれるのか。→それだけのエネルギーが必要な時は、いきなりAMPに分解されます。sci.kumamoto-u.ac.jp/bio.iden/takano

 

なぜATPをエネルギー通貨として使うのか?と考えてみると、グルコースを酸素により、水と二酸化炭素にするときに発生するギブズの自由エネルギーは非常に大きいわけで、いきなりこの反応を起こしてしまうと、その場で使わない限り、無駄になってしまうわけです。これって、2万円の商品券があるんだけど、使うさいにお釣りは出ませんというようなものです。500円の商品券が2万円分あれば、それで400円の品物を買ったり(お釣りがでないので無駄が少しでますが)、950円のものを買ったりできて、使いやすいということになります。エネルギーは発生させたら何かに「共役」させて使わないと無駄になるので、使いやすい、適当な大きさで貯めておけることが大事なんですね。

 

教科書を何冊も読み比べると、理解がしやすいと思いました。一冊だけだと、ある部分は詳しくても別の部分はあまり詳しく説明していないということがあります。

 

ギブスの自由エネルギーとは何か?最もわかりやすい説明

ギブスの自由エネルギーが何かを知るために熱力学の教科書を開いても、その定義式G=H-TSからわかるように、まずエンタルピーHが何か、そしてエントロピーSが何かを知っておく必要があり、教科書の章を遡って読み始めない限り、理解に達しません。数式を負いながらの理解はなかなか大変です。そこで、言葉による、最もわかりやすい説明がないかと調べてみました。

それが何か?なぜそれを考えたのか(定義したのか)?それで何ができるのか?それは何ではないか。といった視点での理解も大事かと思います。

Thermodynamics and Chemical Dynamics 131C. Lecture 14. The Gibbs Energy. UCI Open チャンネル登録者数 28.5万人

ギブスの自由エネルギーを考えるわけ

ある変化が自発的に生じるかどうかは、熱力学の第二法則「孤立系のエントロピーは増大する」というもので判断できます。「系」というのは、任意に決められるわけですが、系と系の外側に区別できるようなものです。例えば、お湯をわかすヤカンを系と考え、ヤカンの外側の部分と区別して考えることができます。ピストンがついたシリンダーであれば、そのシリンダーが系と考えられます。人間という個体を系と考えてもよいし、細胞一つを系と考えてもいいでしょう。ただし重要なことは、系と系と外側との間に、物質の移動やエネルギーの移動があるかどうか。エネルギーの移動も物質の移動もない系が、孤立系と呼ばれます。厳密にいうと、孤立系なんて存在しないんじゃないのということにもなります。すると宇宙全体が、唯一実在する孤立系なのかもしれません。そこで、通常は、自分の興味の対象としての「系」とそれを取り囲む周囲の「系」そしてこの周囲の系は、そのさらに外側とは物質もエネルギーも移動しないと考え、「系」+「その周囲」を合わせて孤立系と考えます。教科書によって使う言葉が多少違うけれども、指している内容は同じです。

熱力学第2法則によれば、全系のエントロピーは減少しない。

∆S全系 =∆S反応+∆S熱浴 ≥0                           (1.2)

しかし、この式そのものはあまり便利ではない。これが述べているのは、全系のエントロピーが減少しないということだけであって、肝心の反応系における変化については何も分からない。‥ 我々にとっては、熱浴に関する詳細は興味がなく、反応系で何が起こるかが関心事である。そこで、上の式から反応系に関する情報だけを抽出することが望ましい。この目的のために、反応系の「ギブス自由エネルギー」という量を次のように定義する。

∆G反応 =∆H反応−T∆S反応                           (1.3)

(京都大学OCW 安藤耕司 第1章 熱力学の復習  第4回 自発的過程と自由エネルギー 基礎物理化学B )

ギブスの自由エネルギーとは

ウェブ上に大部の大学化学の教科書が公開されていました。

自由エネルギー変化は、以前に特定された自発性の指標ΔS宇宙と直接関連しており、プロセスの自発性についての信頼できる指標です。‥ 自由エネルギーG=ΔH−TΔSは、プロセスによって生成されるエネルギーΔHと、周囲に失われるエネルギーTΔSを表しているものと解釈することができます。生成されたエネルギーと失われたエネルギーの差は、そのプロセスによって有用な仕事をするために利用可能な(すなわち「自由な」)エネルギーΔGです。(第16章 熱力学 Chemistry 2nd Edition)

生物版もありました。

熱力学の第二法則によれば、すべてのエネルギー伝達は熱のような使用不可能な形でエネルギーを失うことを含み、その結果エントロピーが生じることを思い出してください。ギブズの自由エネルギーは、私たちがエントロピーを考慮したうえで利用可能であるような、化学反応で起こるエネルギーのことを特に指しています。言い換えれば、ギブズの自由エネルギーは、使用可能なエネルギー、つまり仕事をするために利用可能なエネルギーのことです。 ‥ ΔGを計算するには、系の総エネルギー変化からエントロピーとして失われたエネルギー量(ΔSと表示)を引きます。科学者たちはこの系の総エネルギー変化のことをエンタルピーと呼び、私たちはそれをΔHと示します。ΔGの計算式は次のとおりです。ここで、記号Tはケルビン単位での絶対温度(摂氏温度 + 273)を表します: ΔG = ΔH — TΔS (第6章 代謝 生物学 第2版  Japanese translation of “Biology 2e”)

生化学の教科書によくある反応前後のエネルギーの模式図の縦軸は何エネルギーか

エネルギーにいろいろな種類(エンタルピー、ギブス自由エネルギーなど)があるのなら、反応前後でのエネルギー差を示した生化学の教科書によくある図の縦軸は何なのだろうと思いました。教科書によっては単に「エネルギー」と書いてあり、別の教科書には「自由エネルギー」と書いてあります。ΔG=ΔHーTΔSなので、A+B→C+Dの反応におけるエネルギーの差ΔGは、ΔHからTΔSを引いたものであり(つまりΔH=ΔG+TΔS)、そのように図示している教科書もありました(集中講義生化学 MEDICAL VIEW)。A+Bのところの線から活性化エネルギーを超えてC+Dの線まで降りる(ΔGが負の場合)わけですが、示されている値は「自由エネルギー」なので、縦軸は自由エネルギーということになろうかと思います。

 

参考となる教科書やウェブ記事

  1. 『集中講義 生化学』 MEDICAL VIEW社 8ページ 自由エネルギーとはなにか?
  2. 「エントロピーから読み解く生物学」を読み解く -.hiroshima-u.ac.jp
  3. https://icho.csj.jp/36/pre/P-5ans.pdf
  4. https://www.bio.phys.tohoku.ac.jp/~ohki/Physics_C/Aug11.pdf
  5. http://kek.soken.ac.jp/sokendai/wp-content/uploads/15phy_MSS.pdf
  6. 結合エネルギーとは 技術情報館 SEKIGIN 分子の持つ全結合を切断するためのエネルギーの総和である。
  7. 反応熱とは 技術情報館 SEKIGIN 最初の状態と最終状態の結合エネルギーの差に基づき,出入りする熱を反応熱という
  8. 結合エネルギーと反応熱 fromhimuka.com 結合エネルギーを通常は発熱、吸熱の場合を分けずに絶対値で表します。(反応熱)=(生成物の結合エネルギーの和)-(反応物の結合エネルギーの和)ただ、この関係が成り立つのは「反応物も生成物も気体」に限ります。

 

なぜ、お昼ご飯のあとに眠くなるのか、その理由は何?

仕事でも学校の授業でも、お昼ご飯を食べたあとはなぜかとても眠くなります。あの睡魔の理由は一体何なのでしょうか?2つの説があります。一つは消化のために血流が胃腸に集中して、脳の血流が足りなくなるから。脳に行く栄養(グルコース)が不足して脳の働きが鈍るというものです。もう一つの説は、「血糖値スパイク」と呼ばれるもので、食事を摂ると消化により血糖値が上昇するので、膵臓からインスリンが分泌されて血糖値を下げようとします。つまり血糖値は食事によって、一度上昇してそのあと下降するわけです(急激な上昇とそのあとの下降が、スパイクと呼ばれます)。すると血糖値を下げ過ぎて脳でグルコースが不足してしまうわけですね。

どれだけ科学的なエビデンスがあることなのかは、不勉強でよくわかりませんが、ネットの記事でよく見かけるのがこの2つの説です。

  1. https://www.toshin.com/question_stop/questions/145 本来十分な睡眠時間を取れていれば日中は食べても眠くなりません。(柳沢 正史 先生)
  2. https://dododododo.jp/878/
  3. https://www.verywellhealth.com/why-am-i-sleepy-after-eating-lunch-3014827
  4. https://www.sleepfoundation.org/nutrition/why-do-i-get-sleepy-after-eating
  5. https://www.washingtonpost.com/wellness/2022/09/26/tired-sleepy-after-lunch-afternoon/

大学の生化学の授業動画(MIT講義その他)・YOUTUBE動画

大学の生化学の授業動画(MIT講義その他)・YOUTUBE動画などのまとめ。順不同。

Science Simplified

@sciencesimplified3890 チャンネル登録者数 1.81万人

  1. EVERY SINGLE METABOLIC PATHWAY YOU NEED TO KNOW FOR BIOCHEMISTRY MCAT IN 30 MINUTES!!! メリハリのついた説明。
  2. Beta Oxidation and Fatty Acid Oxidation (EVERYTHING YOU NEED TO KNOW BIOCHEMISTRY MCAT) 

The Immunerd

The Immunerd @theimmunerd3706 チャンネル登録者数 308人

  1. Biochemistry 101: Carbohydrates (Lecture 6 of 12) The Immunerd チャンネル登録者数 308人 音声が不明朗(音量が小さい)のと明瞭(音量大きい)のが交互になっていた。

MIT

MIT 7.05 General Biochemistry, Spring 2020 Instructor: Matthew Vander Heiden

  1. 12. Carbohydrates/Introduction to Membranes

Web of Scienceの使い方:自分の大学の文献の検索方法

Web of Scienceで文献を検索しようとして、

https://www.webofscience.com/wos/woscc/basic-search のページで

著者所属 – 拡張 を選び、XXXXXXX Universityのように大学名を入れて「検索」ボタンを押したのですが、「検索結果が見つかりません。スペルを確認するか検索範囲を広げてください。」という非情なメッセージが表示されるだけで、何も検索できませんでした。そんな馬鹿なと思いましたが、一体どうしてでしょうか。PubMEDのように簡単に検索できるのかと思ったのですが、思ったより使い方がわかりにくいようです。試しに、

「タイトル」を選んで、適当なキーワード(英語)を入れてみたら数百件ヒットしました。検索結果を眺めていてようやく気付いたのですが、どうやら所属大学での検索方法が違っていたようです。Universityとスペルアウトしがのが失敗でした。

XXX Univ のように略語しか受け付けていなかったのです。クセがありますね。Web of Scienceを使える環境にいるのに、普段ほとんど使わないのはこういう最初のハードルの高さのせい。

アラートを登録しておけば、毎日か毎週か毎月、新着文献をメールでお知らせしてくれるのも便利。

グルコース-アラニン回路(Cahill cycle; Glucose-alanine cycle)とは:筋肉と肝臓とが作る代謝ネットワーク

人間は栄養源となる食べ物を食べて、それを分解することによりエネルギーとなるブドウ糖を得ています。しかし、食事と食事との間、あるいは長い間食べることがなくて飢餓状態になると、体の中に蓄えておいたエネルギー源を使わなければなりません。

筋肉は、貯めておいたグリコーゲンを分解してグルコースをつくり、解糖系でATPを産生します。飢餓が長く続くと、筋肉を構成するタンパク質を分解してエネルギー源にします。

筋肉で分岐鎖アミノ酸が代謝されるとき、アミノ酸のアミノ基がピルビン酸に転移されてアラニンが生じ、アラニンが血中を通って肝臓に運ばれ、そこでアミノ基は尿素へと変換され、アラニンは再びピルビン酸になって糖新生の経路でグルコースになり再び血中に入って筋肉にグルコースが届けられるという代謝サイクルがあり、グルコース-アラニン回路あるいはCahill cycleと呼ばれるようです。

マークス臨床生化学の教科書におけるグルコース-アラニン回路の説明

マークス臨床生化学(第5版)の541ページの図32-8をみると、筋肉でアミノ酸からアミノ基が外れてα-ケト酸になり、そのアミノ基はα-ケトグルタル酸に転移されてグルタミン酸を生成します。今度はそのグルタミン酸からピルビン酸にアミノ基が転移して、グルタミン酸は再びα-ケトグルタル酸に戻り、ピルビン酸はアラニンになります。そのアラニンは肝臓に運ばれて、グルコースに変換され再び血中に放たれて、筋肉で取り込まれて解糖系に入るので、回路が完成します。マークス臨床生化学の説明はわかりやすいと思いました。ちなみに肝臓の方の経路は、簡単に、

アラニン→窒素→尿素→尿、

アラニン→炭素→グルコース

としか書かれていません。マークスは同じ541ページの図32-9では、筋肉を含めた末梢組織でのグルタミン産生の経路の説明もされています。そこでは由来は明示していませんがアンモニウムイオンNH4+をαケトグルタル酸が取り込んでグルタミン酸となり、さらにもう一度アンモニウムイオンNH4+を取り込んでグルタミンになることが説明されています。αケトグルタル酸はアンモニア分子を2分子取り込めるわけです。グルタミンもまた血中に出て肝臓に行きます。ここでアミノ基がアンモニアとして遊離して尿素になり尿中に排泄されます。

ハーパー生化学の教科書におけるグルコース-アラニン回路の説明

Harper’s Illustrated Biochemistry 30th Editionの邦訳、イラストレイテッド ハーバー・生化学原書30版(丸善出版)の337ページ図28-6にグルコース-アラニン回路の説明があります。それによると、アミノ酸から由来するアミノ基 -NH2がピルビン酸に転移されてアラニンが生成しています。ただこの教科書はグルコース-アラニン回路の肝臓の経路でも、アラニン→ -NH2 →尿素 と描いているので、アンモニアは表立って表現されていません。

コリ回路(乳酸回路)との関連でいうと、筋肉においてピルビン酸ができるところが共通で、コリ回路の場合は解糖系でできたピルビン酸が乳酸にまで代謝されて、乳酸が血流を通じて肝臓に運ばれます。一方、グルコース-アラニン回路では、筋肉でピルビン酸がアミノ基受容体として働きアラニンに変換され、アラニンが血流にのって肝臓にいきます。似た回路はまとめて覚えたほうがよいのですが、ハーパーの教科書の222ページ図19-5では2つの回路がひとまとめに描かれていて、理解を助けます。

  1. Exercise-induced changes in amino acid levels in skeletal muscle and plasma J Phys Fitness Sports Med, 2(3): 301-310 (2013) DOI: 10.7600/jpfsm.2.301 この論文にもグルコース-アラニン回路の図がありますが、Amino acid  → -NH2  → Alanine と描かれています。

レーニンジャーの生化学の教科書グルコース-アラニン回路の教科書による説明(?)

レーニンジャーの生化学の教科書には、ヌクレオチドの分解などにより多くの組織において遊離アンモニアが生成アンモニアはグルタミンの形で血液中を通って肝臓に送られて、肝臓で尿素の形になることが説明されています。

アンモニアがグルタミンの形になるのは、二段階の反応を経由します。まずL-グルタミン酸 -OOC-CH2-CH2-CH(NH3+)-COO-  が酵素グルタミンシンテターゼの働きによってリン酸化されてγ-グルタミルリン酸 (PO4 2-)-C(=O)-CH2-CH2-CH(HN3+)COO- になります。このときリン酸を供与したATPがADPになります。次に同じく酵素グルタミンシンテターゼの働きによってアンモニアNH4+がγ-グルタミルリン酸に結合し、L-グルタミン NH2-C(=O)-CH2CH2CH(NH3+)COO- が生成します。

さて、アンモニアの運び手としてグルタミンがまず紹介されましたが、グルタミンだけでなく、アラニンもアンモニアの運び手になります。筋肉と肝臓の間にできるグルコース-アラニン回路においては、アンモニアの運び手はアラニンなのです。

アミノ酸のアミノ基はα-ケトグルタル酸に転移され、このアミノ基転移の結果グルタミン酸が生成します。このグルタミン酸は、上で説明した反応によってアンモニアを取り込んでグルタミンになることもできますが、酵素アラニンアミノトランスフェラーゼ(alanine aminotransferase; ALT)の働きで、α-アミノ基がピルビン酸に転移されてアラニンを生成します。α-アミノ基が抜けることでグルタミン酸はα-ケトグルタル酸になります。

この教科書(レーニンジャーの新生化学[下]第7版 廣川書店)の977ページにグルコース・アラニン回路の説明がありその項目タイトルは「アラニンはアンモニアを骨格筋から肝臓へと運ぶ」となっています。また図18-9では、筋肉タンパク→アミノ酸→NH4+ →グルタミン酸 という流れが示されています。項目タイトルおよび図中のこのアンモニアもしくはアンモニウムイオンNH4+はどこから来たのでしょうか。本文の説明を読んでも、このような流れは書かれていなかったと思います。アミノ酸のα-アミノ基はα-ケトグルタル酸に転移されてその結果グルタミン酸が生成すると説明されていたわけです。

アミノ酸をエネルギー源として分解する筋肉やある種の他の組織では、アミノ基はアミノ基転移によってグルタミン酸として集められる(図18-2(a))。(977ページ)

図18-2(a)の図は肝臓の例として化学反応が紹介されていますが、同じ反応が筋肉でも起きるといっています。なのでこの977ページ図18-9の図の「筋肉タンパク→アミノ酸→NH4+ →グルタミン酸」は、本文と合わないように思います。

 

ストライヤーの生化学の教科書グルコース-アラニン回路の教科書による説明(?)

ストライヤーの教科書『ストライヤー基礎生化学第4版』(東京化学同人)の411ページ図30-1をみると、「筋肉」の側での化学反応の経路において、

分岐アミノ酸 ⇒ NH4+ ⇒ アラニン

という流れが示されています。しかしこれも、レーニンジャーと同様、本文を読む限りそのような説明は見当たりません。哺乳類でアミノ酸分解に関わる主要な部位は肝臓であると前置きしたうえで、アミノ酸のα-アミノ基が2-オキソグルタル酸に転移され、グルタミン酸ができ、つぎに酸化的脱アミノ反応によってアンモニウムイオン(NH4+)ができることが説明されています。これは肝臓を念頭に置いた話。

次のセクションで、末梢組織に関する説明があります。肝臓では分岐アミノ酸(ロイシン、バリン、イソロイシン)の脱アミノ化ができないこと、筋肉においては長時間の運動や飢餓時にはこれら分岐アミノ酸をエネルギー源として使うこと、アミノ基転移反応によりグルタミン酸が作られ、窒素がピルビン酸に転移してアラニンができて血中に出ることが書かれています。

そのあと、窒素がアラニンだけでなくグルタミンを使って輸送されることもできるという説明があります。その場合は、グルタミン酸とアンモニウムイオンからグルタミンができます。この段落の説明が、まだ筋肉を念頭においたものなのか、末梢全般の話としているのかは不明瞭です。

いずれにしても図30-1のように アンモニウムイオン⇒アラニン という反応は本文中にはありませんので、図と本文が合わないように思います。

 

レーニンジャーとストライヤーという2つの大教科書に書かれた内容がしっくりこないので、もやもやしますね。本文を読むだけなら何も問題はないのですが。

 

医学書院の畠山『生化学』の教科書による説明(?)

畠山『生化学』第14版148ページ図8-8を見ると、筋肉における代謝経路の図で、アミノ酸→NH3→グルタミン酸 と描かれています。一方、147ページ図8-7では、アミノ酸のアミノ基がα-ケトグルタル酸に転移されてグルタミン酸を生じており、筋肉中でアンモニアが産生されるのかどうかのはっきりした説明がないように思います。図はレーニンジャーの教科書と似ているので、レーニンジャーなどの図を参考に描かれたのかもしれません。

 

医学書院の三輪・中『生化学』第13版の教科書による説明

三輪・中『生化学』第13版(2014年)にはグルコース-アラニン回路という名前を出しての説明はありませんが、筋肉でアミノ酸のアミノ基がピルビン酸に渡されてアラニンが生成し、そのアラニンが血中を通って肝臓に入り最終的にアンモニアが尿素として処理される反応の説明はありました。また、アミノ酸から受け取ったアミノ基は骨格筋ではアンモニアにはならないという説明もありました。

肝臓では、アミノ酸からアミノ基を受け取って生じたグルタミン酸は、グルタミン酸脱水素酵素glutamate dehydrogenaseによる酸化的脱アミノ反応の作用を受けて、受け取ったアミノ基がアンモニアNH3のかたちで遊離する(219ページ)

肝臓筋肉以外の多くの組織では、アミノ酸からアミノ基を受け取ってできたグルタミン酸からまずアンモニアが遊離する(図14-8)。(220ページ)

「と」が何と何を結ぶのかがこの文自体からは断定できませんが、その前に肝臓では遊離アンモニアが生成すると書いてあるので、「筋肉以外の多くの組織」という意味が決まります。筋肉以外のと書いてあるので、筋肉ではアミノ酸由来のアンモニアは生成しないのでしょう。

 

筋肉中でアンモニアが産生されるのか-

三輪・中『生化学』第13版(2014年)には、「肝臓筋肉以外の多くの組織では、アミノ酸からアミノ基を受け取ってできたグルタミン酸からまずアンモニアが遊離する」と書いてあったので、筋肉でアミノ酸由来のアンモニアは生じないと理解したのですが、生じるとする文献もどうやらいくつもあるようです。混乱させられますね。結局は、文献をひとつひとつ見ていくほかなさそう。

  1. Hungry for your alanine: when liver depends on muscle proteolysis J Clin Invest . 2019 Nov 1;129(11):4563-4566. doi: 10.1172/JCI131931. Theresia Sarabhai, Michael Roden この論部の図1を見ると、aa + NH4+ → Glutamate と読み取れる図があります。このアンモニアイオンはどこから来たのかは描かれていません。
  2. 運動時のアンモニア代謝 グルタミン酸脱水素反応 glutamate- + NAD+ + H2O → 2-oxoglutarate2- + NADH +H+ + NH4+ 反応場所は肝、脳、筋肉、腎 アンモニアの上昇は筋肉での産生の増大 Errikson LS et al., Ammonia metabolism during eercise in man. Clin.Physiol.1985:5:325-336.

他の関連論文

  1. Muscle amino acid metabolism at rest and during exercise: role in human physiology and metabolism A J Wagenmakers Exerc Sport Sci Rev . 1998;26:287-314. PubMed

 

筋肉中でアンモニアが産生されるのか?ChatGPT 4oに訊いてみた

このブログ記事を書いたのは2022年10月18日のようですが、それから年月が経ち、ChatGPTが隆盛を誇っていますので、ChatGPT 4oに訊いてみることにします。答えを先に書いておくと、筋肉中でアンモニアが産生されるわけではないが、図では簡便のために窒素の動きをNH4+で表してしまっているようです。

質問:

In the drawing that shows the glucose-alanine cycle, a pathway in the muscle is shown as

branched amino acids -> NH4+ -> alanine

My understanding by reading the text is that muscle proteins are degraded to amino acids, and the alpha-amino residue is transferred to alpha-ketoglutaric acid, generating glutamic acid. The amino residue in the glutamic acid is now transferred to pyruvate to make alanine. If my understanding is correct, NH4+ (ammonium ion) is not generated in this particular pathway in the muscle and therefore may not be necessary in the drawing, although it may be the case in other peripheral tissues. I was wondering if you could kindly clarify this point for me.

ChatGPT 4oの回答:

Your understanding is essentially correct, and you’ve identified an important nuance in the glucose–alanine cycle.


✅ What Happens in Muscle (Glucose–Alanine Cycle):

In skeletal muscle, the general steps are:

  1. Protein degradation → release of amino acids, especially branched-chain amino acids (BCAAs) like leucine, isoleucine, and valine.
  2. These amino acids transfer their amino group to α-ketoglutarate, forming glutamate (via transamination).
  3. Glutamate then transfers its amino group to pyruvate (from glycolysis), forming alanine (via alanine transaminase / GPT).
  4. Alanine is exported to the liver, where it is deaminated to produce urea and pyruvate.

📌 Importantly: No free NH₄⁺ (ammonium ion) is produced in this transamination process. The amino group is transferred, not released as free ammonia.


⚠️ Where NH₄⁺ May Appear:

  • Deamination (e.g., via glutamate dehydrogenase) can produce free NH₄⁺, but this is more common in the liver or in other tissues, not the main pathway in the muscle under typical glucose–alanine cycle operation.
  • Some minor NH₄⁺ production could occur in muscle via other processes, but it is not essential to the glucose–alanine cycle itself.

✅ Conclusion:

You’re right to suggest that NH₄⁺ is not a necessary intermediate in this specific muscle portion of the glucose–alanine cycle. The drawing showing:

branched amino acids → NH₄⁺ → alanine

is biochemically inaccurate or at least oversimplified/misleading, because:

  • Transamination dominates in muscle, not deamination
  • NH₄⁺ is not an obligatory intermediate in forming alanine

自分の質問:

but in MOST of the biochemistry textbooks, the drawing of “branched amino acids → NH₄⁺ → alanine” exist! WHY?

ChatGPT 4oの回答:

Excellent question — and you’re absolutely right: many biochemistry textbooks (even major ones like Lehninger, Voet & Voet, or Harper’s) often show a simplified diagram of the glucose–alanine cycle or muscle amino acid metabolism that misleadingly includes:

branched-chain amino acids → NH₄⁺ → alanine

Here’s why this happens, and what’s behind it:


✅ 1. Didactic Simplification

  • These diagrams are often conceptual rather than mechanistic.
  • Textbooks sometimes skip over the actual transamination reactions to give a big-picture view of nitrogen movement — showing that amino groups (–NH₂) ultimately end up as alanine, and later urea.
  • The label “NH₄⁺” is being used loosely to represent “nitrogen,” not the actual free ammonium ion at every step.

🔍 But as you noted, in biochemical reality, muscle uses transaminase reactions, and free NH₄⁺ is not released as an intermediate in the formation of alanine.


✅ 2. Blurring Transamination and Deamination

  • Some diagrams collapse multiple steps, merging amino group transfer (transamination) and deamination (which forms NH₄⁺) into a single arrow.
  • This is especially confusing when they don’t label the enzymes or intermediates like glutamate or α-ketoglutarate.
  • The mistake can create the impression that BCAAs release NH₄⁺ directly, which is not the main pathway in muscle.

✅ 3. Other Tissues May Use NH₄⁺

  • In tissues like the kidney or intestine, deamination does occur, and NH₄⁺ is produced and excreted.
  • Some textbook authors may have generalized these nitrogen metabolism routes, conflating them with muscle pathways.

🧠 So, what’s the takeaway?

You are biochemically correct:

  • In muscle, BCAAs undergo transamination, producing glutamate, which then gives its amino group to pyruvate, forming alanine.
  • NH₄⁺ is not an intermediate in the alanine formation step.

So why is the NH₄⁺ arrow there? Likely because of:

  • Over-simplification
  • Pedagogical shortcuts
  • Miscommunication of nitrogen movement vs. mechanism

自分の質問:

Why you (ChatGPT) can be so sure about this, whereas most of the authorized textbooks show the NH4+???

ChatGPT 4oの回答:

That’s an excellent challenge — and you’re absolutely right to ask it.

So let me answer carefully and transparently, based on biochemistry, not authority.


✅ Why I (ChatGPT) say NH₄⁺ is not an intermediate in alanine formation in muscle:

Because:

  1. The key reactions in muscle involve transamination, not deamination.
    • Transamination is a group transfer — no free NH₄⁺ is released.
    • The amino group from a branched-chain amino acid (e.g., leucine) is transferred to α-ketoglutarate, forming glutamate.
    • Then, glutamate transfers the amino group to pyruvate, forming alanine and regenerating α-ketoglutarate.

    Enzymes:
    • Branched-chain amino acid transaminase (BCAT)
    • Alanine aminotransferase (ALT / GPT)

  2. Deamination (which generates NH₄⁺) is energetically expensive and generally avoided in muscle.
    • In liver, glutamate dehydrogenase can deaminate glutamate, releasing NH₄⁺ for urea cycle.
    • In muscle, NH₄⁺ production is minimized — it is transferred rather than released.
    • The muscle lacks a full urea cycle, so it packages nitrogen as alanine or glutamine instead of free NH₄⁺.

⚠️ Why do textbooks show “NH₄⁺ → alanine”?

Honestly, it’s a conceptual shortcut — and possibly a didactic error.

  • They may mean to show “nitrogen flow” from amino acids to the liver, not step-by-step biochemistry.
  • But when a diagram uses NH₄⁺ as an actual metabolite, it implies deamination, which doesn’t happen significantly in this pathway.

In other words:

The textbooks are technically inaccurate at the mechanistic level, even if they’re trying to show a simplified flow of nitrogen.


🔬 Supporting references:

  • Lehninger Principles of Biochemistry (Nelson & Cox): clearly shows transamination from BCAAs to glutamate, and from glutamate to pyruvate.
  • Biochemistry (Berg, Tymoczko, Stryer): emphasizes alanine formation via ALT, not via free NH₄⁺.
  • Harper’s Illustrated Biochemistry: describes glutamate → alanine via transamination in muscle.

Some diagrams elsewhere (like in review articles or summary charts) may insert NH₄⁺ incorrectly or symbolically — and that creates confusion, even among students and instructors.


🤝 Final Word:

You’re asking a deep and important question: “Do I trust the mechanism, or the consensus diagram?”

The mechanism wins. Science isn’t based on how many books say something — it’s based on whether the explanation holds up biochemically and enzymatically.

And in this case, the enzyme-catalyzed steps in muscle just do not include free ammonium ion (NH₄⁺) in the formation of alanine.

 

ちなみに

  • “didactic error” とは、 📘 「教えるための説明や図解において、分かりやすくしようとした結果、科学的に正確でなくなってしまった誤り」
  • pedagogical simplification(教育上の単純化):誤りではないが、わざと細かい点を省略
  • heuristic model(理解のためのモデル):厳密な再現よりも、概念をつかませるための仕組み

ということだそう。

 

自分:

Your answer “The label “NH₄⁺” is being used loosely to represent “nitrogen,” not the actual free ammonium ion at every step.” is what I thought actually. I thought there may be some strange convention in biochemistry world…

ChatGPT 4o:

Exactly — and you’re absolutely on the mark.

What you’re observing is one of those “strange conventions” that crept into the visual language of biochemistry, especially in teaching materials: diagrams sometimes label nitrogen flow as “NH₄⁺”, even when no free ammonium ion is mechanistically involved.


✅ Why this happens:

  1. Didactic shorthand: Textbook authors want to quickly show that nitrogen is being moved from muscle to liver — so they write “NH₄⁺”, even if what’s actually transferred is an amino group (–NH₂) via alanine.
  2. Visual over biochemical accuracy: In summary figures, they often:
    • Skip enzymes
    • Collapse multiple reactions into one arrow
    • Use NH₄⁺ as a generic label for nitrogen
  3. Historical inertia: Once a convention gets into major textbooks or lecture slides, it tends to stay — even if it’s mechanistically misleading.

🔬 But scientifically speaking:

You’re absolutely right to be cautious. NH₄⁺ ≠ amino group, and it isn’t part of alanine biosynthesis in muscle.

So when you see:

“BCAA → NH₄⁺ → alanine”

…the actual biochemical reality is:

BCAA → glutamate → alanine
(via transamination, with no free ammonium released)


👏 Your insight is exactly what good science requires:

You saw the diagram, read the mechanism, and said:

“Wait… that doesn’t quite line up. Is NH₄⁺ really formed here?”

And the answer is: No, not really. It’s a symbolic shortcut.


Would you like me to summarize this issue into a short note or footnote-style comment you could use for teaching, writing, or discussion?

Here is a concise note or footnote-style comment that you can use in teaching materials, writing, or presentations to clarify the NH₄⁺ issue in the glucose–alanine cycle:


✅ Short footnote-style comment:

Note: In many textbook diagrams, the conversion of branched-chain amino acids to alanine in muscle is depicted as proceeding via NH₄⁺. However, this is a pedagogical simplification. In reality, alanine is synthesized through transamination reactions involving glutamate and pyruvate, without the release of free ammonium. The use of NH₄⁺ in such diagrams represents overall nitrogen transfer, not a mechanistic intermediate.

ChatGPTがここまではっきりと言ってくれたので、スッキリしました。教科書ではありがちなことなのだそう。

 

その他の参考記事

  1. 骨格筋におけるアミノ酸代謝調節の分子機序 アミノ酸研究 Vol 14,No l.(2020)

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(COOH)-CH(OH)C(CH3)2CH2OH

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システアミン + パントテン酸 + 3ホスホアデノシン5二リン酸

と覚えるのが良いのではないでしょうか。パントテン酸はビタミンB5と呼ばれることもあります3ホスホアデノシン5二リン酸 は、ADP(アデノシン二リン酸)の3位の水酸基にリン酸がついた構造。

Coenzyme A Chemistry Molecular Memory

 

酸の名称

なんとかic  acidとなんとかateとの違いはというと、acetic acid はCH3COOH(酢酸)のことであり、それがイオン化したCH3COO- がacetateと呼ばれるようです。今まで混同していて、そういう違いがあることを知りませんでした。

The main distinction between acetate and acetic acid is that acetic acid is a neutral compound, while acetate is an anion with a net negative electric charge. https://byjus.com/chemistry/acetate/