臨床研究のデザイン」カテゴリーアーカイブ

臨床研究テーマの種類:疾患概念、予測と診断、治療法

臨床研究のテーマをどうやって決めるか、選ぶかを考える際に、どんな臨床研究のテーマがあるのかその種類を考えて頭を整理しておくのが有効です。また、他人の書いた論文を読む際にも、臨床研究テーマの何に分類される研究かという観点で読むと、内容を素早く把握できると思います。

臨床医にとって、主な研究テーマとなり得るものは、

  1. 新しい疾患概念の創造
  2. 予知法、診断法の開発
  3. 治療法の開発

(臨床研究と論文作成のコツ 松原茂樹 編 東京医学社 2011年 118ページより)

 

臨床研究における後ろ向き研究(後方視的研究)とは

人を対象とした研究、すなわち臨床研究においては、研究のデザインというものがいくつか存在します。研究のデザインをどう分類するかは、教科書によって多少異なることもあるのですが、大きく分けるとまず、「介入研究」と「観察研究」があります。介入研究は研究者が研究対象となる人達を2つの群、対照群と実験群に分けて、実験群に対して「介入」すなわち何らかの操作を行います。操作は薬剤投与など何かしら効果を試したい内容のものです。一方、観察研究では研究者は何かの要因に基づいて研究対象を2つに分けて比較します。その場合、研究者が何か操作をするわけではなく、もともと存在した要因(暴露因子)に基づいてグループ分けをします。例えば、喫煙者と非喫煙者といった具合です。

観察研究は、「暴露」と「イベント」(例えば、暴露として喫煙、イベントとして肺がんを罹患すること)が、時間的に追って分析しているか、同時に分析しているかにより、「縦断研究」と「横断研究」とに分類されます。縦断研究は、前向き研究と後ろ向き研究とに分けられます。前向き研究では、研究開始時に暴露群と対照群を設定し、これらの「コホート」(集団)を時間的に追跡調査して、例えば喫煙者と非喫煙者で将来肺がんに罹患する人がどれくらいいるかを調べます。これに対して、後ろ向き研究では、研究開始時点ですでに、患者のデータが出そろっています。つまりカルテなどの診療記録に基づいて過去の喫煙歴とその後の肺がんの罹患の有無を調べるわけです。

後ろ向き研究は、観察研究を後ろ向きに行うものなので、後ろ向き観察研究とも呼ばれることもあります。

後ろ向き研究(rerospective study)は研究開始時点からさかのぼってデータを収集し解析する観察研究の一種で、臨床研究における”対象”、”イベント”、”エンドポイント”は重要な要素ですが、後ろ向き研究ではこれらの情報はすでに”収集され”、”発生した”ものです。それらを電子カルテなどから”拾ってきて”データベースを構築することになります。(臨床研究アウトプット術 中外医学社 105ページ)

後ろ向き研究の中には、後ろ向きコホート研究と症例対照研究とがあります。後ろ向きコホート研究では、「暴露群」と「非暴露群」とにまずわけて、両群がその後どれくらい病気を発症したかを調べます。症例対照研究では、まず最初に病気を発症した群と、発症していない群とを定めて、それぞれに関して過去における暴露の有無を調べます。

稀な疾患の場合には、症例対照研究に利点があります。逆に、暴露が稀な場合には、暴露の有無が研究の起点となる後ろ向きコホート研究に分があります。

参考

  1. 臨床研究アウトプット術 中外医学社 2020年2月25日
  2. 感染症集団発生事例調査 の基本ステップ 平成16年度 国立感染症研究所 感染症情報センター 中島一敏
  3. 表2-1 疫学の研究デザインのまとめ
  4. 疫学の研究方法

 

クリニカル・クエスチョンをリサーチ・クエスチョンへ定式化する方法

日常の診療において医師が抱いた疑問をクリニカル・クエスチョン(Clinical Question、臨床疑問)と呼びます。クリニカル・クエスチョンはまだ漠然としておりそのまま研究の対象にはしにくいことが多いため、それをリサーチ・クエスチョンへと定式化することが必要になります。検証可能な作業仮説へと変換するわけです。そのための万能ツールとして、PECO/PICO(ペコ、ピコ)というフォーマットがよく使われます。観察研究の場合はE(Exposure;暴露)、介入研究の場合はI(Intervention;介入)です。

P(Patients あるいは Participants)

E/I (Exposure / Intervention)

C(Control 対照群)

O(Outcome アウトカム)

のそれぞれが何かを考えれば、リサーチ・クエスチョンのいっちょ上がり。

臨床研究を始めるためのわかりやすい教科書 厳選6冊

臨床医が臨床研究を始めるときに知っておくべきことがいくつかあります。まずに日常の臨床における疑問をどうやってリサーチ・クエスチョンに定式化するか。研究のデザインをどうするか。介入研究と観察研究とに大きく分けられます。観察研究は、前向き研究(前向きコホート研究)か、後ろ向き研究か、横断研究か。後ろ向き研究は、症例・対照研究や後ろ向きコホート研究があります。研究デザインが決まったら、知っているべき法律というものがあります。研究は法律や規程を遵守して行わなければなりません。臨床研究は、大学の倫理委員会の承認を得る必要があります。

 

役立つわかりやすい教科書をいくつか紹介します。

臨床研究いろはにほ

全体像がひと晩で臨床研究いろはにほ もう2歩踏み込む ライフサイエンス出版 2015年4月27日

112ページなので頑張ればひと晩で読めるかもしれません。しかし内容のバランスもよく、説明文がわかりやすく、初心者に寄り添う口調で説明されているので、初めての人にとってはとても親切な本だと思います。

 

臨床研究論文の読み方

ゼロからはじめる 臨床研究論文の読み方 研究デザインと医学統計の必須ポイントがよく分かる 東京図書 2020年2月25日

 

最初に脚気がいかに日本で問題だったか、疫学的なアプローチをとった日本海軍とそうしなかった日本陸軍とで明暗が分かれたことなど、非常に興味深い事例を題材として、研究の真髄が説明されており、ここを読むだけでも臨床研究に対するモチベーションが上がります。

 

臨床研究アウトプット術

臨床研究アウトプット術 中外医学社2020年2月25日

各章が老年医学、緩和ケア、リハビリ、内科、外科、などいろいろな領域の医師によって書かれているので、自分の専門における臨床研究の具体例が分かって良いと思います。

 

研究デザインと統計解析

査読者が教える 医学論文のための研究デザインと統計解析 森本 剛 著 中山書店 2017年3月21日

クリニカルクエスチョンを抱くところから、論文出版に至るまでの道案内をしてくれる、かなり実際的な教科書。

 

臨床研究 最短攻略50の鉄則

できる!臨床研究 最短攻略50の鉄則 この一冊があれば今日から臨床研究を始められる 康永秀生 著 2017年9月28日 金原出版 実際的な話題が解説されており、やる気を起こしてくれる熱い本だと思います。

 

臨床研究と論文作成のコツ

臨床研究と論文作成のコツ 読む・研究する・書く 松原茂樹 (著, 編集), 大口昭英 (著), 名郷直樹 (著), 山田 浩 (著) 2011年7月7日 東京医学社

論文の読み方、臨床研究のやり方、臨床研究英語論文の書き方の3つを一冊にまとめた実践的な教科書。サンプルサイズの計算の実例も示すなど、本当に実際的な本です。2011年の発行なので、他の類書に比べるとやや古い本ということになってしまいますが、どうしてどうして、かなり濃密な内容。研究テーマの設定から論文の読み方、研究の進め方、統計処理の方法、論文の書き方、論文受理までの長い研究の道のりの勘所を教えてくれます。

どの本が一番というのが難しいくらい、良書がいくつも出ているわけですが、その中でもこの本は研究の過程全般に関して網羅的で、メリハリの効いたアドバイスが随所にあり、自分はかなり気に入りました。ただし上に紹介した類書はまた違った切り口、スタイルなので甲乙つけがたいです。自分が気に入った一冊を何度も繰り返し読みながら臨床研究を実践してみるのがいいと思います。自分は買ったり図書館で借りたりして全部読みました。

 

その他の類書

以下、まだ読んでいないけれども気になる本を自分のメモのために挙げておきます。

  1. 臨床研究マスターブック 2008/4/1 福井 次矢

 

臨床試験のデザインと倫理の問題

ランダム化試験試験が最も厳密に対照との比較を可能とするということが臨床研究の教科書に説明されていますが、それを読んで、非常に有望な新薬が現れたときに誰も対照群に割り当てられたくはないだろうになぜそんなことができるのだろうと不思議に思っていました。

当然といえば当然なのですが、その点が非常に大きな倫理的な問題として浮かび上がった事例が過去にあったんですね。PLX4032というロシュが開発した薬で、メラノーマの中でもBRAF遺伝子に変異がある患者さんを対象とした臨床試験でした。Dr. Paul Chapman医師がリーダーとして行った臨床試験です。この臨床試験に参加したいとこ同士の二人、Thomas McLaughlinさんは新薬に割り付けられ、もう一人のいとこのBrandon Ryanさんは対照群に割り付けられました。その結果、メラノーマの程度ではより悪かったマクローリンさんが助かり、マクローリンさんよりも進行度合いが遅かったライアンさんが無くなるという結末を迎えてしまったものです。二人を治療したDr. Bartosz Chmielowski医師は、非常に辛い立場に立たされましたがこの臨床試験のプロトコルに従いました。

京都大学大学院医学研究科 聴講コース 臨床研究者のための生物統計学「統計家の行動基準 この臨床試験できますか?」

  1. New Drugs Stir Debate on Rules of Clinical Trials The New York Times By Amy Harmon Sept. 18, 2010

シングルアーム試験とは?

臨床研究において実験デザインは、結果の意義の大きさに直結する大事な要素です。

シングルアーム試験とは?

対象群のない試験品だけの単一群で実施する試験をシングルアーム(single arm)試験と言います。シングルアーム試験では、期待される効果に一定の閾値を設定して、閾値を超えることを証明するような試験デザインで運用されます。(RICA免疫分析研究センター

シングルアーム試験が使われる典型例

一般的に癌治療薬剤の第II相試験は,試験治療群 1 群を評価する,いわゆる“単アーム”で実施さ れることが多い.有効性は,主に抗腫瘍効果で 評価され,何例中何例に腫瘍縮小効果があった かという奏効率を計算する.(腫瘍内科の現状と展開 I.がん薬物療法の展開 3.新規薬剤に関する臨床試験デザイン 森田 智視)

がん領域では、シン グルアーム試験やランダム化選択デザインなど通常 100 例以下のデザインが用いられることが多いが,検証的な 結果ではなく, いずれにしろ,その先に第 III 相が必要 であることを理解すべきである.おもなデザインは,閾 値・期待値を用いたシングルアームのデザインである.(臨床試験のための生物統計学 第 11 回日本癌治療学会 がん臨床試験協力・参加メディカルスタッフのためのセミナー 「ガイドラインの背景と最新のトピック」)

対照群の必要性

シングルアーム試験にしかなり得ない場合にはシングルアーム試験が用いられるようです。しかし、一般的な原則としては、対照実験が不可欠。

  1. https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/98/8/98_1854/_pdf

 

内的妥当性とは?外的妥当性とは?

基礎系の生命科学研究を長年やってきたにも関わらず自分に全く馴染みがなかった言葉が、内的妥当性と外的妥当性です。これは、看護学の研究者が当たり前に使っていて、初めて聞いたときにとても新鮮に感じました。

説明を聞いてみると、特に目新しい概念というわけではなく、単に自分はそういう言葉遣いをしてこなかったというだけのようです。砕けた言い方をするならば、外的妥当性というのは、どれくらい一般化できるかという意味です。内的妥当性というのは、その実験結果がどれくらい間違いがないか(つまり再現性があるか)ということです。学問分野によって常識がずいぶん違うものなんですね。

ランダム化比較試験(RCT)は,最も内的妥当性が高い臨床研究として有名ですが,研究の対象となる人が限定されることから,外的妥当性は低いとの指摘もあります.一方,全数調査をするようなコホート研究では,ランダム化比較試験(RCT)より外的妥当性は高いが内的妥当性は低いといわれています.(妥当性 jspt.japanpt.or.jp)

内的妥当性とは、独立変数と従属変数の因果関係について、その因果関係が確かにあるということが確信をもっていえる程度のことである。外的妥当性とは、研究の結果がどの程度一般的なものであるかの程度のことである。(内的妥当性と外的妥当性 sotsurontaro2.seesaa.net/)

(1)内的妥当性Internal validity)=因果推論  内的妥当性とは、「観察された共変する2つの事象に因果関係があるかどうか」ということに関する妥当性です。つまり内的妥当性とは因果推論そのものです。XとYが共変することは分かっていたとします。この2つは「原因」と「結果」であると言うことができれば内的妥当性は高いと表現されます。一方で、交絡因子・内生性の問題があり、見かけ上はXとYに関係性があるものの、それが因果関係になければ内的妥当性は低いと考えられます。(妥当性(Validity)と信頼性(Reliability)  2014/12/15 healthpolicyhealthecon.com)

例えば3歳児神話の研究では「就業している母親はこどもを保育園に通わせる」「就業している母親は学歴や年齢が高い」「ソーシャルサポートや同居家族が多いと保育園に通わせない可能性が高い」など、独立変数に関連する様々な要因が従属変数(例えば数年後の知能や社会性)に影響を与える可能性は十分ある。
このような場合に単純に独立変数と従属変数の関係を調べても、内的な妥当性(=従属変数への独立変数単独の効果を見ることができる程度)が低いため、様々な反論にさらされる可能性がある。(星野 崇宏 名古屋大学大学院経済学研究科 educ.kyoto-u.ac.jp

参考

  1. 【図解】内的妥当性と外的妥当性 note.com/akiduki
  2. 内的妥当性 【読み】:ないてきだとうせい 【英語】:internal validity  quint-j.co.jp
  3. EBMにおける内的妥当性と外的妥当性って何ですか?
  4. 臨床研究の実践知 小山田 隼佑 第3320号 2019年4月29日

 

ゴールドスタンダード (Gold Standard) とは?

臨床研究の世界では良く耳にするゴールドスタンダードという言葉、一体、どういう意味で使われているのでしょうか?貨幣制度として金(きん)を基準とする金本位制という制度が昔はありました。gold standard は金本位制を意味する英語です。

A gold standard is a monetary system in which the standard economic unit of account is based on a fixed quantity of gold. The gold standard was widely used in the 19th and early part of the 20th century. (Wikipedia)

The gold standard is a monetary system where a country’s currency or paper money has a value directly linked to gold. (investopedia.com)

ここから転じて、絶対的に正しい、あるいは最も標準的とされる手法を比喩的にゴールドスタンダードと呼ぶようです。例えば、研究のデザインに関して言えば、ランダム化ランダム化比較試験(randomized controlled trial; RCT)が一番理想的なので、RCTがゴールドスタンダードという言われ方をします。

When R.A.Fisher (1926) was pioneering experimental methods by comparing crop yields in the 1920s, he was constructing the metaphorical ‘gold standard’ in research methods, the randomized controlled trial (RCT). (Page 294, The SAGE Handbook of Innovation in Social Research Methods. Edited by Malcolm Williams, W. Paul Vogt)