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免疫学のストーリーによる理解『新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで』

免疫学は複雑すぎてなかなか頭に入ってきません。ブルーバックスの『新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで』は、生体に病原菌が侵入されてから生体内でおこる様々な免疫学的な事象をストーリーを追いながら説明してくれていて、とても理解の助けになります。免疫学の世界的な権威である日本人研究者らによって書かれているので、読んでいて安心感があります。この本を読んで得た知識をもとに、自分なりに再構成してみます。

細菌の生体内への侵入とマクロファージによる対応

転んで膝を擦りむiいたりした傷口から病原体(細菌)が侵入する。

マクロファージという名の細胞が細菌を食べる。その際、Toll-like receptor(TLR)によって細菌特有の構成物質(リポ多糖など)を認識して「活性化」する。

*マクロファージ(macrophage 大食細胞 だいしょくさいぼう macroは大きい、phageは食べるの意味)

活性化したマクロファージはサイトカインと呼ばれる物質を周囲に放出し、周りにいるマクロファージを「活性化」する。。余談だが、実はTLRはマクロファージに限らず全身のほぼすべての細胞で多少なりとも発現している。つまりマクロファージでなくても普通の細胞だっても、細菌などの病原体を認識して「警報」であるサイトカインを放出する。また、サイトカインの一種であるケモカイン(他の細胞を遊走させるサイトカインの呼称)を放出し、他の免疫細胞を呼び寄せると同時に血管の壁をつくっている血管内皮細胞同士の結合を緩める。これにより、血管の壁の隙間から、血液中に存在した免疫細胞が血中から血管壁を通り抜けて、傷口の近くの組織内に移動してくることができる。

好中球が応援にかけつける

マクロファージからのシグナルを受けて、血液中にいた好中球が血管の壁の隙間を通り抜けて、傷口付近へと集まってくる。

好中球は殺菌作用を持ち、細胞数も多数。病原体を倒して死んだ好中球の塊が「膿(うみ)」と呼ばれるものの実体。

樹状細胞による対応

マクロファージと並ぶ食細胞として、樹状細胞があります。樹状細胞もマクロファージとどうように、侵入者である細胞を食べてToll-like receptor(TLR)の働きで活性化します。マクロファージと大きくことなるのは、樹状細胞はいわゆる「自然免疫」の一員でありながら、いわゆる「獲得免疫」を発動するための司令塔である点です。つまり、自然免疫と獲得免疫とをつなぐ重要な位置にいる細胞なのです。

*TLRのように細菌特有の構造を認識する受容体のことを、パターン認識受容体と呼ぶ。

リンパ節で起こること(1):ナイーブヘルパーT細胞の活性化

活性化した樹状細胞は、その形を「樹状」に変え近くのリンパ節へ移動します。樹状細胞は食べた細菌のタンパク質をペプチドにまで分解し、MHCクラスIおよびMHCクラスIIという名前のタンパク質の上にこのペプチドを載せた状態で膜上にそれを提示します。樹状細胞の表面の膜状に提示された「MHCクラスI+ペプチド」と「MHCクラスII+ペプチド」とは、それぞれ異なる種類の細胞が認識します。「MHCクラスII+ペプチド」を認識するのがナイーブヘルパーT細胞、「MHCクラスI+ペプチド」を認識するのがナイーブキラーT細胞です。ナイーブという意味は、これまでに抗原刺激を受けたことがないという意味です。ヘルパーT細胞はCD4陽性細胞、キラーT細胞はCD8陽性細胞とも言われます。CD4とCD8はそれぞれヘルパーT細胞とキラーT細胞を特徴づける膜表面上の分子で、MHCクラスIIの認識、MHCクラスIの認識にそれぞれが必要となります。

さて、ヘルパーT細胞もキラーT細胞も、T細胞受容体という名前の分子(T Cell Reseptor; TCR)を表面膜上に持っています。T細胞受容体の「可変部」は10億通り以上もの多様性があると言われており、一つのT細胞は、基本的に、その多様な構造のなかの一つの形だけを選んでつくられたTCR分子を発現しています。おなじ形のTCRを持ったT細胞は全身で100個程度しかないと言われています。問題は、今回侵入してきた細菌のタンパク質由来のペプチドを樹状細胞が提示したときに、提示されたペプチド(+MHC)とぴったりと結合できるT細胞と出会えるかどうかというところです。リンパ節で、樹状細胞は多数のT細胞と接触しながら相手を探すことになります。自分とぴったり合う相手を見つけるのは大変です。一か所に留まっているだけで出会えるとは限りません。樹状細胞やT細胞などの免疫細胞は、一つのリンパ節にずっととどまっているわけではなく、リンパ節を出てリンパ管に入り、静脈(血管)に入り、心臓を経由して動脈、末梢、リンパ管、リンパ節といった循環を常にしています。動き回ることで相手に出会う可能性を高めています。「リンパ節で」と書いてしまいましたが、外で動いている最中に出会うこともあるのでしょう。

ここからは、ヘルパーT細胞とキラーT細胞とで、それぞれ別イベントが並行して起きていきますので、まずはヘルパーT細胞についてみていきましょう。

ヘルパーT細胞の活性化

樹状細胞が提示するMHCクラスII+ペプチドと結合できるようなTCRを持っていたヘルパーT細胞は、活性化されます。ただし、この結合だけでは活性化の十分条件にはなりません。補助刺激分子として、樹状細胞が膜上に出しているCD80/86に、ヘルパーT細胞が表面膜上に出しているCD28が結合することが必要です。さらに、樹状細胞が放出するサイトカインをヘルパーT細胞が受け取ることも必要です。この3つが揃って初めてヘルパーT細胞が活性化させるのです。CD80/86の発現と、サイトカインの放出は、病原菌に遭遇して活性化した樹状細胞だけが起こしているものです。

この3条件が必要と聞くと、なんか複雑だなあと嫌気がさすかもしれませんが、その意義を考えてみると、このことが非常に興味深い、生物の巧妙さを示していることがわかります。というのは、樹状細胞は普段から自己の細胞の死骸なども食べているのです。自分が食べたタンパク質を分解してできたペプチドもMHCに載せて細胞表面に提示しています。しかし、普段、自己の体由来のタンパク質のごみ処理をしているだけだと、パターン認識受容体を介したシグナルを受けていないので「活性化」はしていません(特徴的な樹状になっていない)。活性化していないので、CD80/86を発現しておらず、サイトカインの放出もしません。しかし、たまたま自己抗体を認識してしまうT細胞が存在する可能性があります。その場合、MHCII+ペプチドとTCRが結合してしまうのですが、T細胞は活性化されなくて済むのです。つまり、確実に外来性の抗原を認識できたときだけT細胞が活性化するような仕組みになっているというわけです。

ちなみに、病原菌由来のタンパク質を分解してペプチドにまでしたとき、さまざまな種類のペプチドが生じます。ですから、ひとつの樹状細胞は、同一細菌由来の多数の種類のペプチドを提示していることになります。それらのそれぞれのペプチド(+MHC)を認識するT細胞たちが活性化させることになります。

話がややこしくなるのでここでは詳しい言いませんが、ナイーブヘルパーT細胞が活性するときに、実は3種類の活性化ヘルパーT細胞になる可能性があります。1型(Th1)、2型(Th2)、17型(Th17)の3種類です。Th17はだいぶあとに発見されものでIL-17を産生することから17という数字が呼称になっています。

活性化ヘルパーT細胞による現場の応援

リンパ節で活性化したヘルパーT細胞(Th1)は、現場のマクロファージが出したケモカインを頼りに、血中から出て外来の病原菌が侵入してきた現場に向かいます。実はマクロファージにも、樹状細胞ほどではないながらも、抗原提示機能があります。マクロファージが提示する「MHCクラスII分子+抗原ペプチド」を、活性化ヘルパーT細胞が認識できます。同じ病原菌由来のペプチドを樹状細胞が提示していて、それに反応できたヘルパーT細胞なので、マクロファージの中にも同じ抗原が提示された場合があるはずなわけです。さっきの樹状細胞との相互作用の3条件は、マクロファージに関しても当てはまります。つまり、MHCクラスII+ペプチドをTCRで認識、CD80/86をCD28 で認識、マクロファージから放出されたサイトカインの認識、の3条件がそろうと活性化ヘルパーT細胞(Th1)が今度はCD40L分子によってマクロファージを刺激します。受けて側のマクロファージはCD40という膜上の分子によりこのシグナルを受け取り、さらに、活性化T細胞からのサイトカインの放出も受けて、貪食能力がパワーアップします。

ここまでのストーリーで面白いのは、自然免疫の細胞であるマクロファージから始まって、獲得免疫を経由して、再び、マクロファージのパワーアップ(自然免疫)というところに行きついた点です。獲得免疫と自然免疫とは別々に働くものではなく、このように協調して働いているんですね。

活性化ヘルパーT細胞によるB細胞に対するヘルプ

さてリンパ節においてヘルパーT細胞が活性化しましたが、現場に向かって現場のマクロファージをヘルプするだけでなく、リンパ節においても非常に重要な仕事をします。それは、B細胞をヘルプすること。B細胞は、抗体を産生する細胞ですが、病原体に対する抗体を大量に生産するプラズマ細胞にB細胞が変化するためには、ヘルパーT細胞からのヘルプが必要なのです。B細胞はB細胞抗原受容体(B cell antigen receptor; BCR)という分子を膜表面に出しています。BCRは膜に結合している部分の外側は、抗体そのものです。傷口から侵入した病原菌のやその残骸はリンパの流れにのってリンパ節にも入ってきます。BCRも1000億通りの構造があるといわれており、特定の構造を持つBCRを一種類だけ、一つのB細胞が発現しています。ですから、たまたま病原菌由来のタンパク質をBCRで認識できるB細胞が存在するわけです。抗原からの刺激を過去に受けたことがないB細胞は、ナイーブB細胞と呼ばれます。

さて抗原となるタンパク質をBCRで認識したナイーブB細胞は、実は抗原提示機能を持っています。MHCクラスII分子に分解したペプチドを載せて、他の細胞にたいして提示するのです。つまりBCRでタンパク質全体を認識する一方で、その断片であるペプチドもMHCII分子とともに提示しているのです。このような抗原提示を、活性化ヘルパーT細胞(Th1およびTh2)が認識するというわけです。すでに同じ病原体によって活性化ヘルパーT細胞は十分な数にまで増殖していますので、この病原体を認識したB細胞が提示する抗原を認識できる活性化ヘルパーT細胞は、増殖により十分な数存在すると考えられます。

さて、活性化ヘルパーT細胞(Th1およびTh2)によるB細胞の活性化ですが、ここでもやはり複数の条件が必要になります。すなわち、B細胞が提示するMHCクラスII分子+ペプチドを活性化ヘルパーT細胞のTCRが認識すること、少しだけ活性化したことによってB細胞が発現したCD80/86をT細胞のCD28が認識することです。これらの条件が揃うと、T細胞はCD40Lによる刺激をB細胞にあたえ、B細胞はそれをCD40によって受け取ります。また、T細胞はサイトカインをB細胞に対して放出します。こうして、ナイーブB細胞は、活性化して、増殖し最終的にはプラズマ細胞に分化します。活性化したB細胞が、抗原に対する特異性の髙い抗体(IgG)を大量に生産するプラズマ細胞になるまでには、2つの大きな変化を伴います。ひとつが「親和性成熟」で、もうひとつが「クラススイッチ」です。

活性化B細胞からプラズマ細胞へ:親和性成熟とクラススイッチ

活性化B細胞は、そのBCRが抗原に反応できたからこそ、活性化したわけですが、実は抗原に対する結合の強さ(親和性)は非常に強いわけではありません。そこで、突然変異を可変領域内にランダムに導入することにより、もっと強力に抗原に結合できる抗体をつくるということをするのです。これを親和性成熟と呼びます。変異をランダムに入れるので、親和性が高まることもあればむしろ低くなることもあります。親和性が高くないものは、細胞死に追いやられます。この過程はリンパ節の中の「胚中心」と呼ばれる場所で起こります。その際、抗原を提示する役割を担うのが、濾胞樹状細胞(FDC)です。FDCは抗原を”ショーウインドウ”のように並べていて、B細胞がつくる抗体(IgG)の結合性をチェックします。

BCRの実体はIgMですが、クラススイッチというのは、Ig(免疫グロブリン)の型が遺伝子組み換えにより、例えばIgMからIgGへと変化することです。

抗体の働き方:中和とオプソニン化

食細胞のように、病原体を食べてしまうことによりやっつけるというのは話としてわかりやすいのですが、病原体を認識する抗体を作ったからといって、その抗体がどうやって的を倒してくれるのでしょうか。抗体の働き方には大きく分けて2つの種類があります。一つは、「中和」です。例えば、生体内に侵入してきた病原菌が毒となるタンパク質を産生していたとします。その場合、その毒に対する抗体が結合することにより、その毒が働けないようにしてくれることがあります(中和という)。抗体が結合したことで無毒化された毒は、食細胞が食べて処理してくれます。ウイルスの表面タンパク質に対する抗体も、ウイルスに抗体が結合した結果、そのウイルスが細胞表面に結合できないため感染できなくなります。もうひとつが「オプソニン化」です。抗原や病原体に抗体が結合すると、抗体の根元部分(Fc領域という)の構造が変化して、食細胞の膜表面にあるFc受容体と結合できて、食細胞が食べて処理してくれます。

マクロファージのような食細胞は、「自然免疫」に分類されます。しかし、今までみてきたように、「自然免疫」に分類される細胞と、「獲得免疫」に分類される細胞とは協同して、互いを刺激してパワーアップさせながら、外敵と戦っていたのでした。

さて、ここまではもっぱら病原菌の侵入を想定して、どんな免疫反応が生じるかを見てきました。また、リンパ節でヘルパーT細胞が活性化したあとの話しがずっと続いてきました。そこでは、もうひとつ、キラーT細胞にちょっとだけ言及しました。ここからは、キラーT細胞が主役となる免疫反応を見ていきましょう。キラーT細胞は、その名が示すように、相手をキル(殺す)することができます。

リンパ節に移動した樹状細胞は「MHCクラスII+ペプチド」を提示しているだけでなく、「MHCクラスI+ペプチド」も同時に提示しています。そして、「MHCクラスI+ペプチド」を認識するのがナイーブキラーT細胞(CD8陽性T細胞)です。MHCクラスIIはCD4陽性T細胞、MHCクラスIはCD8陽性T細胞で認識される仕組みは、CD4がMHCクラスIIを認識し、CD8がMHCクラスIを認識することができるからです。これらは、抗原提示部分ではない領域に結合します。どっちがどっちだったか混乱しないような覚え方として、「8の法則」がお勧めです。Ix8=8、IIx4=8と言う組みあわせです。

リンパ節で起こること(2):ナイーブキラーT細胞の活性化

樹状細胞とキラーT細胞との相互作用に関しては、ヘルパーT細胞のときとほとんど同じです。樹状細胞が提示する「MHCクラスI分子+抗原ペプチド」を、ナイーブキラーT細胞のT細胞抗原受容体(TCR)が認識する(そのようなTCRを持ったナイーブキラーT細胞とたまたま出会う)。樹状細胞のCD80/86とT細胞のCD28が結合する。

これまで度々登場した活性化ヘルパーT細胞ですが、ナイーブキラーT細胞が結合している樹状細胞に、活性化ヘルパーT細胞も結合しているはずです。その場合、ヘルパーT細胞(Th1)からキラーT細胞へ、サイトカインが放出されます。ヘルパーT細胞は、上で説明したマクロファージ(Th1)やB細胞(Th1およびTh2)へのヘルプだけではなく、実にキラーT細胞の活性化をもヘルプ(Th1)するのでした。まさにヘルパーという名にふさわしい活躍ぶりです。活性化したキラーT細胞は増殖してその数を増やし、戦いに向かいます。どこにどうやって?かというと、やはりケモカインを頼りに移動します。

最初は病原菌が生体内に侵入したというシナリオでストーリーを始めました。しかし、外敵は病原菌に限らず、細胞内に入り込むウイルスや細胞内に入り込む特別な病原菌(細胞内寄生細菌)もいます。キラーT細胞は、このような細胞を殺すのに有効な手段となります。ウイルスなどに感染した細胞は、パターン認識受容体によりそれを感知し(ウイルス由来のRNAを認識するTLRなどによる)、インターフェロンなどのサイトカインを放出し、全身に臨戦態勢を整えます。インターフェロンの効果としては、MHC分子の促進があります。感染した細胞はMHCクラスI分子にウイルス由来の抗原ペプチドを載せて提示します。活性化キラーT細胞は、このような感染細胞に対してアポトーシスを誘導することにより殺します。

キラーT細胞を補完するナチュラルキラー(NK)細胞の働き

活性化キラーT細胞は、ウイルスに感染した細胞などを認識して細胞死(アポトーシス)を誘導できるのでした。その際にMHCクラスI分子+ペプチドが必要でした。ところが、ウイルスに感染した細胞は、MHCクラスI分子の発現量が減少することがあります。そうなると、キラーT細胞が有効に働けません。その穴を埋める働きをしてくれるものとして、「自然免疫」に属する細胞の一種である、ナチュラルキラー(NK)細胞があります。NK細胞は、ウイルス感染のせいでMHCクラスI分子の発現量が低下していてCD80/86(もしくはNKG2Dリガンド)を発現している細胞を認識して、この細胞にアポトーシスを誘導します。

Th1,Th2,Th17の働き

さて、以上で、細菌やウイルスが生体内に侵入してきたときに免疫系でどのような応答が起きるのかの概略がつかめたと思います。ヘルパーT細胞に関してはTh1の役割が主でした。3種類のヘルパーT細胞Th1,Th2,Th17については、免疫学や炎症の研究内容の紹介では頻出することなので、引き続き『新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで』で紹介されていた内容を、ここにまとめておこうと思います。

Th2の働きは3つあります。一つ目はTh1と同じでB細胞を活性化させてIgGを放出させること。2つめは、B細胞を活性化させてIgEを放出させること。3つめが、好酸球の活性化です。

IgEも親和性成熟を経ます。B細胞が分化してできたプラズマ細胞からIgEが放出されると、マスト細胞(肥満細胞)にIgEの根元が結合します。抗原がIgEに結合すると、マスト細胞はヒスタミンなどを放出します。ヒスタミンの作用で粘液が増量します。これは寄生虫の排除がもともとの目的だと考えられているそうです。しかし、鼻や目の粘膜でこのシステムが”誤作動”したものが花粉症の実体なのではないかとのこと。

好酸球はTh2からだされるサイトカインの刺激によって、寄生虫を排除するための物質を放出するのだそうです。

Th17は末梢においてサイトカインを放出し、ケモカインの放出を促します。それにより好中球を集結させます。またTh17は腸管上皮細胞にむけてサイトカインを放出し、これにより腸管上皮細胞から抗菌ペプチドを分泌させます。

Th1,Th2,Th17がどのように生体内で分化するかについてはまだわからないことが多いようです(この本の出版年は2014年)。in vitro実験でわかっている分化誘導物質は、

IL-12 → Th1

IL-4 → Th2

IL-6 + TGFβ → Th17

だそう。Th17が発見するまでは、Th1とTh2の働きかたの割合(Th1/Th2バランス)で、病態などを説明することが盛んに行われていましたが、Th17が発見されたことにより、Th1/Th2バランスを考えなくてもTh17の働きとして説明できてしまうことなどもあって、Th1/Th2バランスという考え方は下火になったようです。

本書では、外敵の種類によってTh1,Th2,Th3の役割をまとめています。

Th1  排除すべき対象:ウイルス、細胞内寄生細菌 産生するサイトカイン:IFNγ,IL-2,TNF-α

Th2 排除すべき対象:寄生虫 産生するサイトカイン:IL-4, IL-5, IL-10, IL-13

Th3 排除すべき対象:細胞外細菌、真菌 産生するサイトカイン:IL-17, IL-22

 

自然リンパ球

本書の免疫のストーリーには自然リンパ球は一切登場しませんでした。しかし、最近発見された自然線リンパ球について紹介されていました。非常に興味深いことに、上のTh1, Th2, Th3と産生するサイトカインが見事に対応しています。炎症という病態を引き起こしているのはサイトカインですが、今まで病態の説明としてTh1,Th2,Th17を考えてきたけれども実は自然リンパ球から放出されるサイトカインによって説明できることも多いのではないかという提言があります。

自然リンパ球グループ1 産生するサイトカイン:IFNγ

自然リンパ球グループ2 産生するサイトカイン:IL-5, IL-13

自然リンパ球グループ3 産生するサイトカイン:IL-17, IL-22

さて、この本は以上で外敵が侵入してきたときに何がおこるのかのストーリーの解説が完結したのですが、話はそこで終わらず、免役応答がどのように制御されているのか、腸管免疫の話、自然炎症、がんといった話題にも触れられていて盛りだくさんです。

これらの話も大変わかりやすい解説なので、別の記事で改めて紹介したいと思います。

2型免疫応答とは

免疫の研究に関する記事を読んでいると2型免疫応答、2型免疫反応、2型炎症応答といった言葉をよく見かけます。これらは同じことを指しているようですが、「2型」とは一体どういうことなのでしょうか。

2型という言葉の由来

ウィキペディアの説明が、わかりやすくまとまっています。

1986年に1型ヘルパーT細胞(Th1)と2型ヘルパーT細胞(Th2)が発見されて以来、両者が互いの活性を抑制し合い、そのバランスが免疫制御上重要であると考えられてきた。この考え方の下、アレルギー性疾患はTh2が過度に活性化した「Th2炎症」と呼ばれてきたが、2010年にナチュラルヘルパー細胞(NH細胞。ILC2細胞の一つ)が発見され、Th2サイトカイン(IL-5,IL-13)を大量に放出する事が判明し、喘息等の病態に関与する旨が明らかになるにつれて、Th2とILC2の双方を含む用語として「2型炎症」(免疫反応全体を指して「2型免疫」という)と呼ばれるようになった。(2型炎症 ウィキペディア)

2型という言葉は、2型ヘルパーT細胞(Th2)に由来しています。しかしTh2細胞だけが出すと思われていたサイトカイン(IL-5, IL-13など)を出す新たな種類の細胞、ILC2細胞が2010年に発見されたため、Th2とILC2とが関与する応答を併せて2型と呼ぶようになったようです。

最初はヘルパーT細胞のTh2だったのが、Th2が出すサイトカイン(ILC2細胞も出す)で効果が発揮される現象と定義を変えたんですね。新しい細胞が見つかったので、細胞の型で現象を定義するのをやめて、そこで働くサイトカインで(結果として細胞の型が決まる)現象を定義する流儀になったと考えればよいのでしょう。つまり、2型免疫応答とは、2型サイトカイン(具体的にはIL-5, IL-13など)で誘導される免疫応答のこと、と理解できます。

  1. 2型炎症反応 実験医学online 2型サイトカインの産生を主軸とする炎症反応. 主に寄生虫に対する生体防御反応として機能する一方で,アレルギー性炎症の主因ともなっている.

1型と2型のバランス

  1. ヘルパーT細胞が持つ2つの顔 5. 獲得免疫「Th1細胞」と「Th2細胞」の働き(イムノバランス)Th1細胞は、細菌やウィルスなどの異物に対して反応します。‥「Th2」細胞は、ダニやカビ、花粉などのアレルゲンに反応します。‥どちらか一方の反応が過剰にならないように、それぞれの細胞から分泌される「IFN-γ」と「IL-4」のサイトカインがお互いの働きを抑制し合うようにも働いています。
  2. https://www.osaka-med.ac.jp/deps/opt/oldweb/staffonly/pdf/clinicalstudy_28_01.pdf
  3.  HygienehypothesisとTh1・Th2系のアンバランス-良好な地球規模的自然環境の重要性 近藤直実 岐阜大学医学部小病態学 日本小アレルギー学会誌第17巻第2号155~162,2003 アレルギーの発症に関してヘルパーT細胞のThl系Th2系の議論に加えて,近年Hygienehypothesis(衛生仮説)が提唱されている.
  4. Th1細胞とTh2細胞 ヘルパーT細胞には、Th1細胞とTh2細胞とがある。抗原提示細胞が、IL-12を産生するか、それとも、PGE2を産生するかが、Th1細胞(細胞性免疫)と、Th2細胞(液性免疫)のどちらが優位になるのか、決定している。リノール酸(LA)やアラキドン酸の摂取量が多いと、PGE2の産生が過剰に行われ、Th1細胞による細胞性免疫が低下し、発熱期間が長引き(熱が長く続く)、Th2細胞による抗体産生が過剰に行われ、アレルギー体質になりやすくなると、考えられる。

2型炎症応答

  1. 2型炎症応答寄生虫の感染や,アレルゲン毒素アジュバントなどの刺激により生体内で引き起こされる炎症応答である.刺激物質の侵入に応じて免疫細胞からIL-4, 5, 13などの2型サイトカインや免疫グロブリンE(IgE)が産生され,好酸球をはじめとしたエフェクター細胞の働きと粘膜分泌平滑筋収縮によって,原因となった刺激物質が体内から排除される.2型炎症応答は寄生虫の感染に対しては生体防御機構として働くが,アレルゲンなどに対して起こるとアレルギー症状をもたらし生体に有害な反応となる.(神経系による2型自然リンパ球と2型炎症応答の制御 森山 彩野 生化学 Journal of Japanese Biochemical Society 91(5): 711-714 (2019))
  2. 一般的に一般的に蠕虫感染症ではTh2型免疫応答が優位となり、血中IgE好酸球が増加することによって、感染に対して抵抗性を示します。https://www.hyo-med.ac.jp/department/immunology/project/immune_response.html
  3. Type-2-cell-mediated immunity, rich in eosinophils, basophils, mast cells, CD4+ T helper 2 (Th2) cells, and type 2 innate lymphoid cells (ILC2s), protects the host from helminth infection but also drives chronic allergic diseases like asthma and atopic dermatitis. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1074761315002745

アレルギー

  1. アレルギー総論

アレルギーと2型免疫反応

  1. 自己免疫疾患をより良く理解するための免疫学  第9回 アレルギー JBスクウェア

アレルギーと自然リンパ球

  1. 自然リンパ球関連サイトカインとアレルギー 小端 哲二 獨協医科大学免疫学講座 耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 35(2): 18, 2017

1型免疫応答

  1. The type I IFN response to extracellular bacteria in the airway epithelium Dane Parker and Alice Prince. Trends Immunol. 2011 Dec; 32(12): 582–588.

 

記憶型病原性Th2(Tpath2)細胞

  1. 各種サイトカインで誘導される2 型免疫応答による組織線維化のしくみ  平原 潔, 中山 俊憲- 千葉大学大学院医学研究院免疫発生学講座 医学のあゆみ  Volume 271, Issue 5, 486 – 490 医歯薬出版株式会社 (2019) (1,320円)

T細胞の活性化におけるセルシグナリング(細胞内情報伝達機構)

T細胞が抗原を認識して活性化する際のセルシグナリング(細胞内情報伝達機構)は複雑です。

MHC拘束性に関しては別記事 ⇒ HLAとMHCの違い?MHC restriction(MHC拘束性)とは?

T細胞の活性化のシグナリング経路

下の動画では、T細胞が抗原提示細胞に抗原を提示されてからどのような分子が関与してシグナルが伝わるか、一部ですが説明されています。

Early Tyrosine Phosphorylation and the Calcium and Protein Kinase C Mediated Signaling Pathways in T Lymphocytes

  • T Cell Receptor
  • MHC I or MHC II
  • CD4 or CD8
  • tyrosine kinase Lck
  • ITAM
  • ZAP-70
  • LAT (Linker of Activation of T cells)
  • PLCγ1
  • PIP2
  • Inositole 1,4,5-trisphospate (IP3)
  • calcium ions
  • calmodulin
  • calcineurin
  • NFAT (Nuclear Factor of Activated T cells)
  • diacylglycerol (DAG)
  • Protein Kinase C (PKC)
  • NF-κB
  • IκB

上の動画で示されているのはセルシグナリングのごく一部で、もう少し網羅的なものも紹介しておきます。

 

T細胞の活性化における細胞内Caイオン濃度の上昇

下の動画は樹状細胞に接触して活性化したT細胞の細胞内カルシウム濃度の上昇(Ca上昇は緑色)。

T cell activation

  • T Cell Calcium Signaling Regulation by the Co-Receptor CD5. Int J Mol Sci. 2018 Apr 26;19(5). pii: E1295. doi: 10.3390/ijms19051295. (PUBMED)
  • Calcium influx through CRAC channels controls actin organization and dynamics at the immune synapse. eLife 2016;5:e14850 DOI: 10.7554/eLife.14850
  • Barcoding T Cell Calcium Response Diversity with Methods for Automated and Accurate Analysis of Cell Signals (MAAACS). figshare.com

 

 

 

免疫複合体(Immune complex)とは?抗原と抗体の集合体

免疫複合体(Immune complex)というと、ちょっと仰々しい響きがするのですが、何かというと抗原と抗体が結合して集まったものです。antigen-antibody complexあるいはantigen-bound antibodyとも呼ばれます。一つの抗原は複数の抗原認識部位を持つので異なる抗原認識部位に対する抗体がそこに結合することで、集合体を形成します。説明の図では簡略化しすぎて、抗原一つと抗体一つが結合した絵に対して免疫複合体という名前を紹介しているものもよく見かけます。

「免疫複合体(immune complex)」とは「いくつかの抗原と抗体が結合したかたまり(抗原抗体複合体)」のことです.

引用元:齋藤紀先『休み時間の免疫学第3版』182ページ

参考

免疫複合体(Immune complex)が関与する疾患

免疫学の教科書で免疫複合体の説明を探すと、アレルギーの章に出てくることが多いのですが、それは免疫複合体がアレルギーの発症に関与するからです。アレルギーはその発症のメカニズムの違いからI型、II型、III型、IV型の4種類に分類されています。免疫複合体が関与するアレルギーのタイプはIII型と呼ばれます。

免疫複合体が体の様々な組織に沈着することにより炎症を引き起こして、様々な自己免疫疾患の病気の原因となります。具体的には関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、糸球体腎炎、間質性肺炎など。また、、抗体依存性免疫増強(Antibody-Dependent Enhancement:ADE)にも関連します。

参考

  • 齋藤紀先『休み時間の免疫学第3版』184ページ
  • ぜんぶわかる血液・免疫の事典(成美堂出版)81ページ
  • 全身性エリテマトーデスに強力な抗体薬登場 ベリムマブに続きアニフロルマブ、治療選択肢広がる 2022年02月14日 05:10 MedicalTribune

糸球体腎炎における免疫複合体の関与に関しては、『免疫ペディア』(羊土社)(209ページ~)の説明が詳しい。

免疫学 プライミングとは?

プライミングとは プライミングという現象が見られる例

免疫系を賦活するための予備刺激 少量のLPS処理によるpro-IL-1βの誘導,いわゆる“プライミング” (プライミング 実験医学online)

アレルギー反応は1)最初に遭遇したアレルゲンへの曝露時に生じる反応(感作あるいはプライミング相)と、2)感作を受けた後で獲得免疫系が誘導された後に、同じ抗原に曝露された時の反応(エフェクター相)に区別することができる(図2)(2)。https://www.jbpo.or.jp/med/jb_square/autoimmune/immunology/im09/01.php

cDC(標準型樹状細胞)2細胞は、通常DCファミリーに起因する一般的な機能、MHCクラスII上の抗原提示を介したナイーブCD4+ T細胞のプライミング、および共刺激に関与します。https://www.thermofisher.com/jp/ja/home/life-science/cell-analysis/cell-analysis-learning-center/immunology-at-work/dendritic-cell-overview.html

Interleukin-12 (IL-12) is a heterodimeric cytokine produced primarily by antigen-presenting cells (monocytes, macrophages, dendritic cells, and B cells). Its production is stimulated by bacteria, bacterial products, and intracellular parasites and enhanced by priming with granulocyte-macrophage colony-stimulating factor (CM-CSF) and interferon-gamma (IFN-gamma) or inhibited by IL-10. https://bibgraph.hpcr.jp/abst/pubmed/8613697

好中球のO2-産生には、プライミングという現象が知られている。好中球があらかじめ特定の刺激因子の作用を受けるとプライミングされた状態になり、続いて異なる刺激因子の作用によりO2-産生の著しい亢進が起こる1, 2)。プライミング作用を有する因子として、IL-1、腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor; TNF-α)、顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony-stimulatingfactor; G-CSF)、顆粒球・マクロファージ刺激因子(granulocyte-macrophage colony-stimulatingfactor; GM-CSF)、IL-8などのサイトカインがある3, 4)。http://plaza.umin.ac.jp/j-jabs/35/35.322.pdf

IL-2 は、IL2Rβ鎖および IL2Rγ鎖の両者を発現する抗原特異的なナイーブ T 細胞や NK 細胞を含む隣接細胞にトランスプレゼンテーション(trans-presentation)するため、活性化された DCの表面上に発現する IL2Rαに結合することができます4。この IL-2 のトランスプレゼンテーションは、IL-2 を産生するためにナイーブ T 細胞をプライミングする初期の免疫応答に必要な、高親和性の初期 IL-2 シグナル伝達を促進することが示されています6。https://www.nacalai.co.jp/ss/Contact/pdf/review-IL2-invivogen.pdf

M1マクロファージとM2マクロファージ

M1・M2という概念の形成

M1マクロファージ、M2マクロファージという言い方をよく聞きますが、これはM1やM2という2種類のマクロファージが存在するという意味ではありません。同じマクロファージの2つの状態をそれぞれM1、M2と呼んでいるのです。M1,M2マクロファージという考え方は2000年頃にHillらによって提唱されたもの(Mills  et al., 2000; J Immunol 164:6166-6173)だそうです。「状態」なので2つの状態を行き来する可能性もあります。

  1. マクロファージ学~その歴史と現在地 佐藤 荘 実験医学2018年9月号 疾患を制御するマクロファージの多様性

M1マクロファージとM2マクロファージの特徴

Macrophages undergo specific differentiation in different tissue environments, and can be divided into two different polarization states: M1 type macrophages (M1) and M2 type macrophages (M2). M1 can respond to dangerous signals transmitted by bacterial products or IFN-γ, which attracting and activating cells of the adaptive immune system; an important feature of M1 is that it can express nitric oxide synthase (iNOS) and reactive oxygen species (ROS) (15–17) and cytokine IL-12 (18). M1 also has the function of engulfing and killing target cells. M2 expresses a large number of scavenger receptors, which is related to the high-intensity expression of IL-10, IL-1β, VEGF and matrix metalloprotein (MMP) (19, 20). M2 has the function of removing debris, promoting angiogenesis, tissue reconstruction and injury repairments, as well as promoting tumorigenesis and development (4). It is worth noting that the polarization of macrophages into M2 appears to be oversimplified. Some people have classified M2 macrophages into M2a (induced by IL-4 or IL-13), M2b (induced by immune complexes combined with IL-1β or LPS) and M2c (induced by IL-10, TGFβ, or glucocorticoid), and M2d (conventional M2 macrophages that exert immunosuppression) (21, 22). https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fimmu.2020.583084/full

M1マクロファージとM2マクロファージとのバランス

Patients with M2/M1 < 3 had significantly improved progression-free survival and overall survival compared with patients with M2/M1 > 3. M1 and M2 macrophages elicited opposite effects on colon cancer progression via the FBW7-MCL-1 axis. https://www.nature.com/articles/s12276-020-0436-7

マクロファージの多様性

役割によってM1型・M2型に大別されると考えられているが、佐藤荘准教授は、単純なM1・M2という振り分け方ではなく、生体内には更に多様なマクロファージが存在すると仮定。実験により、様々な疾患に特異的に働くマクロファージが複数存在していることを立証した。(https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2018/9w5cyp

  1. 疾患特異的マクロファージの機能的多様性 佐藤 荘 みにれびゅう  Journal of Japanese Biochemical Society 91(4): 561-564 (2019) doi:10.14952/SEIKAGAKU.2019.910561

M1マクロファージ、M2マクロファージと1型免疫応答、2型免疫応答との関係

  1. M1-MΦ炎症性サイトカインを高発現し,抗菌活性が強いことが特徴である.しかしながら,M1-MΦへの分極化が過剰な形で長期間持続することにより,M1-MΦの組織傷害性に基づく病態が形成される.そのような宿主にとって不都合な状態を回避するために,抗炎症・免疫抑制機能を持つ,いわゆる「alternatively activated macrophage,別名M2マクロファージ(M2-MΦ)」に分極化したポピュレーションが誘導される.M2-MΦは,抗炎症性メディエーターを産生し,組織の損傷反応の終息とその後の組織修復へと導く ‥ 典型的なM1-MΦは,IL-12, IL-23の発現量が高く,IL-10の発現量はきわめて低いことが特徴であり,細胞毒性の発現に関わる活性酸素分子種(reactive oxygen species:ROS)や活性酸化窒素分子種(reactive nitrogen species:RNS),さらにはIL-1β, TNF-α, IL-6などの炎症性サイトカインを高レベルで産生する.したがって,M1-MΦはTh1応答の誘導,ひいては細胞内寄生性病原体に対する生体の感染防御機構を支える役割を果たしている.これに対して,M2-MΦはIL-12やIL-23の発現量がきわめて低く,逆にIL-10を高発現することから,Th2タイプに偏向した免疫の形成に寄与しているものと考えられる.(Mycobacterium avium complexの感染で誘導されるユニークなマクロファージによるT細胞の分化活性化の制御 多田納 豊1,冨岡 治明2,3 発行日:2016年10月25日 生化学)

参考

  1. Microglial Adenosine Receptors: From Preconditioning to Modulating the M1/M2 Balance in Activated Cells Cells Volume 10 Issue 5 10.3390/cells10051124 Cells 2021, 10(5), 1124; https://doi.org/10.3390/cells10051124
  2. Mer regulates microglial/macrophage M1/M2 polarization and alleviates neuroinflammation following traumatic brain injury Journal of Neuroinflammation volume 18, Article number: 2 (2021) Published: 05 January 2021
  3. Regulation of Human Macrophage M1–M2 Polarization Balance by Hypoxia and the Triggering Receptor Expressed on Myeloid Cells-1 Front. Immunol., 07 September 2017 | https://doi.org/10.3389/fimmu.2017.01097
  4. Differential Roles of M1 and M2 Microglia in Neurodegenerative Diseases Yu Tang & Weidong Le Molecular Neurobiology volume 53, pages1181–1194 (2016)
  5. 特集 がん・免疫・代謝・発生におけるM1/M2分類を超えたマクロファージの機能 細胞工学 ; vol. 33 no.12 (2014)
  6. JSI Newsletter Vol.22 No.1 2018/10/18 日本免疫学会会報
  7. M1 and M2 macrophages derived fromTHP-1 cells differentially modulate the response of cancer cells to etoposide Genin et al. BMC Cancer (2015) 15:577 DOI 10.1186/s12885-015-1546-9
  8. Role of Microglial M1/M2 Polarization in Relapse and Remission of Psychiatric Disorders and Diseases Yutaka Nakagawa1 and Kenji Chiba2,* Pharmaceuticals (Basel). 2014 Dec; 7(12): 1028–1048. doi: 10.3390/ph7121028 PMCID: 
  9. Macrophages within NSCLC tumour islets are predominantly of a cytotoxic M1 phenotype associated with extended survival C. M. Ohri, A. Shikotra, R. H. Green, D. A. Waller, P. Bradding European Respiratory Journal 2009 33: 118-126; DOI: 10.1183/09031936.00065708

病原体が体に侵入してから抗体ができるまでの免疫反応の大筋の流れの解説

特異的な抗体がB細胞によって産生される仕組み

病原体が体内に侵入⇒樹状細胞がそれを貪食し分解物を細胞表面に提示(抗原提示)⇒樹状細胞はリンパ節へ異動する⇒樹状細胞によって呈示された抗原をたまたま認識できる受容体を発現していたヘルパーT細胞がそれを認識し自分自身を活性化

他方、同じ病原体をたまたま認識できる抗体を細胞表面に持っていたB細胞はその病原体を貪食して分解物を細胞表面に提示⇒さきのヘルパーT細胞がそれを認識しそのB細胞を活性化⇒抗体を産生するB細胞に分化し水溶性の抗体を産生する

参考

  1. 抗原の情報はどうやってT細胞からB細胞へ伝わるの?一般の方向け記事:免疫のしくみを学ぼう!河本宏研究室(京大)

 

 

高濃度ビタミンC点滴療法とは

高濃度ビタミンC点滴療法存在を知ったときはかなり驚きました。本当に効くのなら夢のような効能であるにもかかわらず、標準的な治療法とは認められておらず、保険の適用はありません。効果を信じる人が自費で行っているのが現状のようです。

 

高濃度ビタミンC点滴療法とは

風邪の予防からがんの抑制まで、さまざまな効果が期待できる(健康院クリニック 東京都中央区銀座)

 

 

高濃度ビタミンC点滴療法の学術的な評価

高濃度ビタミンC点滴療法(自費診療)を行う病院はネットでみると多数ありますが、その効果やメカニズムに関して、学術的に定まった評価が必ずしもあるわけではないようです。

ビタミンCは抗酸化作用を持つという理由から、がんの治療や予防、アンチエイジングに有効だと言われてきた。が、数々の臨床試験の結果はネガティブであり、‥ (ビタミンCの大復活来るか!? 神戸大学微生物感染症学講座感染治療学分野教授 岩田健太郎 2017年07月11日 06:00 Medical Tribune

自然免疫における記憶のメカニズム

自然免疫記憶のメカニズム

自然免疫に記憶が存在し、病原体感染によるエピゲノム変化の持続がその記憶メカニズムであることを明らかにしました。 … これまで、病原体に感染したことを記憶するのは獲得免疫だけとされていましたが、いくつかの現象から自然免疫にも記憶が存在することが示唆されていました。しかし、その記憶メカニズムが不明なため、自然免疫の記憶の存在を疑問視する声もありました。 … 自然免疫の記憶は特定の抗原の情報を特異的に認識する獲得免疫の記憶と異なり特異性がない、という特徴を持つことが分かりました。 … 自然免疫に記憶が存在するかどうかは、免疫学の根本的な重要課題であると共に、… 米国の科学雑誌『Nature Immunology』に掲載されるのに先立ち、オンライン版(8月31日付け:日本時間9月1日)に掲載されます。(自然免疫の記憶メカニズムを解明-病原体感染によるエピゲノム変化が鍵- 2015年9月1日 理化学研究所

  1. 自然免疫の記憶メカニズムを解明した研究者 2016年4月5日 理研

自然免疫記憶の例:BCG

In 2018, Netea’s team published a more direct test. They showed BCG stimulates initial immune defenses enough that it at least partly blocked another virus given experimentally a month later. (Could old vaccines for other germs protect against COVID-19? THE ASSOCIATED PRESS April 14, 2020 at 12:05 JST The Asahi Shimbun)

自然免疫記憶の例:BCGとCOVID-19

BCG接種したのは幼少期なのに、なぜ大人になってからも、COVID19に対する抵抗性が強いのでしょうか。ここが興味深いところです。実は、自然免疫の活性化は「記憶」されることが近年わかってきました。ここでいう「記憶」とは、自然免疫に係る遺伝子がすぐに発動できるように、クロマチン(DNAがパックされた構造体)がほどけた状態で維持されているということです。(自然免疫の記憶:BCGがコロナ抵抗性を上げる訳 自然免疫応用技研株式会社)

  1. Trained Innate Immunity, Epigenetics, and Covid-19 List of authors. Alberto Mantovani, M.D., and Mihai G. Netea, M.D. September 10, 2020 N Engl J Med 2020; 383:1078-1080 DOI: 10.1056/NEJMcibr2011679
  2. Safety and COVID-19 Symptoms in Individuals Recently Vaccinated with BCG: a Retrospective Cohort Study Cell Reports Medicine Volume 1, Issue 5, 25 August 2020, 100073
  3. Trained Immunity: a Tool for Reducing Susceptibility to and the Severity of SARS-CoV-2 Infection  Cell 181, May 28, 2020
  4.  Impact of Routine Infant BCG Vaccination on COVID-19 Masako Kinoshita Masami Tanaka Published:August 11, 2020DOI:https://doi.org/10.1016/j.jinf.2020.08.013  Journal of Infection VOLUME 81, ISSUE 4, P625-633, OCTOBER 01, 2020
  5. Why does Japan have so few cases of COVID‐19? Akiko Iwasaki Nathan D Grubaugh  EMBO Mol Med (2020)12:e12481 2020 May 8 https://doi.org/10.15252/emmm.202012481

新型コロナウイルスとの闘いの一環として、BCGへの期待が高まっているようです。BCGワクチンを接種するという臨床試験がオランダで行われるそう。

They will recruit 1000 health care workers in eight Dutch hospitals who will either receive the vaccine, called bacillus Calmette-Guérin (BCG), or a placebo. BCG contains a live, weakened strain of Mycobacterium bovis,a cousin of M. tuberculosis,the microbe that causes TB. (The vaccine is named after French microbiologists Albert Calmette and Camille Guérin, who developed it in the early 20th century.)  (Can a century-old TB vaccine steel the immune system against the new coronavirus? By Jop de VriezeMar. 23, 2020 , 6:25 AM Sciencemag.org news

 

 

自然免疫記憶:その他の例

今回J Neherたちは、末梢で与えた炎症刺激も、脳内で急性の免疫訓練と免疫寛容を誘導し、長期生存する脳内常在性のマクロファージであるミクログリアで、特異的なエピジェネティック再プログラム化を引き起こすことを明らかにした。(https://www.natureasia.com/ja-jp/nature/highlights/91904)

この研究では最初から、マクロファージLPSなどで刺激された後、新たな刺激に反応しない現象はマイクロRNAが媒介すると決めて研究している。LPS刺激前後でmiRNAを比べmiR222のレベルがLPSで上昇し、これに合わせてマクロファージの反応性が低下することを明らかにする。miR222の機能をさらに調べるため、miR222をマクロファージに導入して刺激に対する反応低下の分子メカニズムを調べると、TNFのようにサイトカインが直接の標的になっている場合もあるが、ほとんどのサイトカインはクロマチンをオープンにするBAF複合体のコンポーネントBrg1の翻訳が抑えられ、STAT1/2を会する転写が抑制されることを発見する。(https://aasj.jp/news/watch/8635)