生理的臍帯ヘルニア physiological umbilical hernia/physiological midgut herniation 消化管の回転

ヒトの発生過程で起こる「生理的臍帯ヘルニア」について解説しますね。

これは、胎生期(受精〜8週末)の終わりごろに、中腸(消化管の一部)が急速に成長するため、一時的に腹腔(お腹の中)に収まりきらず、臍帯(へその緒)の付け根部分に飛び出す正常な現象です。


タイミング (時期)

カーネギーステージ (CS)

生理的ヘルニアが始まるのは、CS 14〜16 ごろです。

腸管ループが最も顕著に飛び出している(ヘルニアがピークになる)のは、CS 17〜23(胎生期の終わり頃)にあたります。

受精後の日数

受精後でいうと、以下のようになります。

  • ヘルニアの開始: 受精後 約6週 (約40日ごろ) から腸管が腹腔外へ脱出し始めます。
  • ヘルニアのピーク: 受精後 8〜9週 ごろに最も大きくなります。
  • ヘルニアの解消 (還納): 受精後 10〜12週ごろ にかけて、腸管は腹腔内に戻り、ヘルニアは自然に解消されます。

理由・意義・メカニズム (なぜ?)

これらは密接に関連しています。

1. 理由:スペース不足 (Why?)

最も直接的な理由は「腸管の急激な成長 vs 腹腔の狭さ」です。

  • 腸の急成長: この時期、中腸(将来の小腸の大部分と大腸の半分)は、栄養吸収面積を増やすために非常に急速に長く伸びます。
  • 肝臓の巨大化: 同時に、胎児の造血(血液を作る)機能は主に肝臓が担っているため、肝臓が体に対して不釣り合いなほど巨大化しています。
  • 結果: 小さな腹腔は、「巨大な肝臓」と「急成長する腸」を同時に収容できません。行き場を失った腸管ループが、抵抗の最も少ない場所、つまり臍帯の内部(体外腔)へと一時的に「避難」します。

2. 意義・目的:腸管の回転 (Purpose?)

単に避難するだけが目的ではありません。この腹腔外にいる期間を利用して、消化管が最終的な正しい配置になるための**重要な「回転」**が行われます。

  • 270度の反時計回り回転:
    • 中腸ループは、上腸間膜動脈 (SMA) という動脈を「軸」にして、合計270度、反時計回りに回転します。
    • この回転は、ヘルニアが起こる際にまず90度、そして腹腔内に戻る(還納する)際(10週ごろ)にさらに180度回転します。
  • 回転の目的: この複雑な回転によって、十二指腸がC字型に固定され、盲腸(やがて虫垂ができる場所)が左上から右下へ移動し、最終的に右下腹部に固定されます。また、上行結腸、横行結腸、下行結腸が解剖学的に正しい位置(お腹の「枠」を作るような配置)に収まります。

うまくいかなかった場合 (病態)

この生理的ヘルニアの一連のプロセス(脱出・回転・還納)が正常に完了しないと、先天的な異常(病気)につながります。

1. 腸管が戻らない場合 → 臍帯(さいたい)ヘルニア (Omphalocele)

受精後12週を過ぎても腸管が腹腔内に戻らず、臍帯の付け根に脱出したままの状態で生まれてくる病気です。

脱出した腸管は、羊膜や腹膜(臍帯を構成する膜)によって覆われているのが特徴です。他の臓器(肝臓など)も一緒に脱出することがあります。

2. 回転がうまくいかない場合 → 腸回転異常症 (Intestinal Malrotation)

腸管は腹腔内に戻ったものの、上記の「270度の反時計回りの回転」が正常に行われなかった状態です。

  • 症状: 回転が不完全だと、腸を固定する「腸間膜」の根元(付着部)が短く狭くなってしまいます。
  • 危険性: 腸がうまく固定されていないため、腸全体がねじれやすい状態(不安定)になります。これがねじれると**「中腸軸捻転(腸捻転)」**を引き起こします。
  • 中腸軸捻転 (Volvulus): 腸がねじれることで、腸自身への血流(上腸間膜動脈)が止まってしまい、腸が広範囲に壊死する可能性のある、新生児期〜乳児期の緊急疾患です。

まとめ

生理的臍帯ヘルニアは、狭い腹腔で効率よく内臓(特に腸)を発生・配置させるための、非常にダイナミックで合理的な「正常な発生プロセス」です。このプロセスが失敗すると、重篤な外科的疾患につながるため、発生学的に非常に重要なイベントとされています。

(Gemini 2.5 Pro)

3D Midgut Embryology – Rotation of Midgut in 3D – Physiological Umbilical Hernia and Intestines MedicoVisual – Visual Medical Lectures チャンネル登録者数 7.29万人

上の説明では、ヘルニアが引っ込むところは180回転とはかぶせてませんでした。2つの変化を同時に見せるとわかりにくいからとのことです。下の動画では、引っ込むときに180度動くことをアニメーションで示しています。

Embryological Rotation of the Midgut Ali N チャンネル登録者数 2320人

 

下の動画を見ると、中腸が90度回転、180度回転、さらに大腸がぐるっと動いてで成体の腸管の配置になるっているみたいです。再生が1倍だと理解がおいつかないので、0.25x倍くらいに遅くして何回も見てみると、だんだん分かってきます。

New Revelations in the Pathophysiology and Surgical Management of Congenital Gut Malrotation Cleveland Clinic チャンネル登録者数 69.7万人

下の動画も、大腸と小腸の最終的な位置関係が決まる様子などが、簡潔な説明でわかりやすいと思いました。

Rotation of the midgut bobacland チャンネル登録者数 8630人

  1. ヒト胚子期で起こる生理的臍帯ヘルニアと肝臓形態形成の関連性 https://pfwww.kek.jp/acr/2019pdf/u_reports/pf19b0062.pdf 肝臓が形成されないような例でも、ヘルニアは正常に起きたことから、従来から言われているような、肝臓が場所を占有して体外に押し出されるという説明には根拠がないという結論。