『ミニマル発生学』は、医科大学に所属する理学系の先生によって執筆された医学部学生向けの発生学の教科書で、理学的な視点を踏まえて書かれていること、文字通りミニマルな知識がまとめられている点に特徴があると思います。
本書を読んだメモ(順不同)
- 発生学は再生医療の基礎となる
- ツールキット遺伝子:Shh, Wnt, Hox, Pax6など発生の時期や部位が違っていても、何回も付か言わされている。家を建てるときの工具のように、使っていることから。
- 発生で使わた遺伝子は、成体でも使われていることがある。
- Wntは、増殖シグナル。がんとの関連がある。
- 個体発生は系統発生を繰り返す という見方から、「砂時計モデル」へ
- 海中での生活から陸上への生活へと進化するための発生学上の変化:鰭(ひれ)が肢に。鰓(エラ)が呼吸には必要なくなったので、浮袋になるべきところを肺に作り替えた。不要になった鰓(エラ)は耳の一部や、頭蓋、顔の骨や筋肉に。口蓋扁桃、胸腺など。
- 陸に上がったが、発生は依然として水の中で生じる(羊水の中で)
- 原始線条は尾方へ退行して短くなっていき完全に消失する。
- 神経溝が神経管として閉鎖する過程は、まんなかあたり(警部第5体節あたり)で始まり、頭側と尾側の両方向に向かって閉鎖が進行する。図4-5
- 神経提細胞になる部分(神経板)は「神経ヒダ」
- 神経堤細胞が鰓弓に入り込んで鰓弓のふくらみができる。顔の大部分の形成に関与する。
- 鰓弓I:上顎骨、下顎骨、咀嚼筋など
- 鰓弓II:アブミ骨、表情筋など
- 神経堤細胞の運命:色素細胞、神経叢(消化管の表面)、心臓の中隔の一部、後根神経節(感覚神経)、交感神経、シュワン細胞など
- 神経堤細胞の分化する運命は、移動経路や部位で決まると考えられている。
- 外胚葉を中胚葉に誘導する作用を持つ因子として、アクチビン、FGF,ノーダルなどが同定されたが、発生で実際に一番重要な働きをしているのはノーダル。
- ノーダル濃度が高いと中胚葉のなかでも特に背側中胚葉、オーガナイザーや脊索が誘導される。ノーダルの濃度が中程度だと筋肉が誘導される。ノーダルの濃度が低いと血液など。
- ノーダルはモルフォゲンとして作用する。
- オーガナイザーや脊索はnoggin, chordin follistatinなどのBMP阻害因子を分泌して神経誘導を行う。
- シグナル伝達機構のまとめ
- shh は非存在のときはGliRが遺伝子抑制の働きをし、存在下ではGliAによる遺伝子活性化の働きをする。Smo(Smoothened)は通常はShhの受容体であるptch(Patched)によって抑制がかけられている。その状態ではGliは微小管に結合しておりPKAにより分解されて核内に移行し、抑制的に働らく。shhが受容体Ptchに結合するとSmoに対する抑制が解かれて、結果的にGliが核内に移行して活性化の働きをする。
- Wntは造語で、winglessとintegrated-1とを併せて作られた。winglessはショウジョウバエの遺伝子で、integrated-1は哺乳類の遺伝子で、両者が同一であることがわかったため。ウイントと読む。
- Wnt経路には、βカテニンが関与するカノニカル経路とPlannar Cell Porlarity (PCP)経路、IP3/Ca経路が存在する。
- FGF経路
- TGF-βスーパーファミリー
- TGF-β
- Nodal, Activin
- BMP
- FGF
- HGF
- NTF (Neurotrophic factor)
- 神経管の区域化:Prosencephalon(前脳)、Mesencephalon((中脳)、rhombencephalon(後脳)のうち、前脳と中脳の区域化ひは、Otx, Emxなどのホメオボックス遺伝子が関与する。後脳と脊髄の区域化にはHOX遺伝子群が関与する。
- 前脳は、telencephalon, Diencephalonに分かれる。後脳はMetencephalon, Myelencephalonにわかれる。
- Prechordal plate 脊索前板:脊索よりも先に原始線条から陥入し、口咽頭膜に向かって正中部を前進する細胞集団。Shhを分泌し、この分泌されたshhがPax6の発現を抑制することで、eye fieldが左右に分割される。
- 眼の形成:水晶体を覆う表皮は角膜corneaになる。
- 眼胞は表皮につくと、BMP4、FGF8, Deltaなどのシグナルを出す。一方、誘導された水晶体は複数の種類のFGFを分泌する。このように誘導が繰り返されて眼が形成される。