質問:休眠特許の活用って聞くけど、20年経つ寸前だと無意味だよね?どれくらい残りの年数があれば、活用を考えてもいいと思う?
Gemini 2.5 Pro:おっしゃる通り、非常に的を射たご指摘です。特許の存続期間(出願から20年)が残り1~2年しかない「休眠特許」は、活用(ライセンス、売買、新規事業化)の対象として非常に価値が低いと言わざるを得ません。なぜなら、交渉や製品化の準備をしている間に権利が切れてしまい、投資したコスト(人件費、開発費)や時間を回収できる見込みが立たないためです。
📆 どれくらい残っていれば活用できるか?
ご質問の「どれくらいの年数があれば活用を考えてもよいか?」については、「最低5年」、そして**「本格的な活用を目指すなら7年~10年以上」**というのが一つの目安になります。
ただし、これは技術分野や活用の目的によって大きく異なります。
1. 技術分野による違い
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医薬品・バイオ分野:
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製品化(臨床試験、承認審査)までに莫大な時間とコストがかかります。
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最低でも10年~15年の残存期間がないと、投資回収の観点から活用(ライセンス導入など)は極めて困難です。
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IT・ソフトウェア・アプリ分野:
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技術のライフサイクルが非常に短い(ドッグイヤー)分野です。
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製品化までのスピードが速いため、残存期間が5年程度でも、その技術が市場のニーズに合致していれば、十分に活用できる可能性があります。
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機械・化学・素材分野:
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上記2分野の中間に位置します。
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交渉や製品化の準備に1~2年、その後の投資回収期間(製品の販売期間)に数年を見込むと、最低でも5年、安心して事業化を検討するには7年~10年程度の残存期間が望ましいでしょう。
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2. 活用の目的による違い
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自社で新規製品化(一番時間がかかる):
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企画、R&D、製造ラインの確立、マーケティング、販売と進めるため、最も長い残存期間が必要です。
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7年~10年以上は欲しいところです。
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他社へのライセンス(交渉時間がかかる):
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交渉相手(ライセンシー)を探し、技術を評価してもらい、契約条件(ライセンス料率など)を詰め、契約書を締結するまでに、順調にいっても1~2年かかることは珍しくありません。
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相手企業も、すぐに権利が切れる特許には魅力を感じません。やはり最低5年、できればそれ以上が目安となります。
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💡 年数よりも「技術価値」が重要なケース
残存期間は重要ですが、それ以上に「その技術(特許)が今、どれだけ市場で求められているか」が決定的な要因になることもあります。
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価値が高い例:標準必須特許(SEP)
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例えば「5G」や「Wi-Fi」などの通信規格に必須の特許(SEP)であれば、その規格が使われ続ける限り、残りの期間が3~4年であっても、極めて高い価値でライセンス交渉が行われます。
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価値が低い例:陳腐化した技術
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逆に、技術的に完全に時代遅れ(例えば、VHSビデオテープに関する高度な特許)であれば、残存期間が15年あっても、活用しようと考える企業は現れません。
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まとめ
「休眠特許を活用しよう」と考えた場合、まず特許の残り年数を確認するのは正しいステップです。
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最低ライン: 5年(これ未満だと、交渉や準備だけで終わってしまうリスクが高い)
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目安: 7年~10年以上(本格的な事業化やライセンス活動を検討できる)
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例外: 医薬品は10年~15年、IT分野は5年でも勝負できる場合がある。
そして同時に、「その特許技術は、今の市場でお金を生む力があるか?」という視点で評価することが、活用を成功させる上で最も重要になります。
質問:大学に眠っている休眠特許の活用を考える場合、知財部としては、どんなアクションをまずとればいいの?何を誰にどう売り込む?
Gemini 2.5 Pro:これは大学のURAやTLO(技術移転機関)にとって非常に重要かつ困難な課題ですね。大学の「休眠特許」は、企業のものとは異なり、「技術が未成熟(シード段階)すぎる」または「発明者(先生)が事業化に無関心」という理由で眠っているケースが非常に多いのが特徴です。したがって、知財部(あるいはURA)がまず取るべきアクションは、外に「売り込む」ことではなく、内に「掘り起こす」ことです。
1. 👑 まず取るべき最初のアクション (内部の棚卸し)
「何を、誰に、どう売るか」を考える前に、その「休眠特許」が本当に「売れるタネ」なのかを見極める必要があります。
アクション①:特許ポートフォリオの棚卸し( triage:トリアージ)
まず、保有している休眠特許をリストアップし、機械的に3つに分類します。
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A群 (見込み薄):
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残存期間が5年未満 (昨日の議論の通り、交渉・製品化の時間が取れない)
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技術が完全に陳腐化している (例: 3Gの通信技術、特定の古いOS用ソフトなど)
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→ アクション: 権利の*「放棄(維持年金不納)」*を検討。無駄なコストを削減します。
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B群 (要検討・有望):
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残存期間が7年~10年以上ある
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技術は「基盤的」であり、今でも通用する (例: 新規化合物、測定原理、材料組成など)
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→ アクション: これが「掘り起こし」のメインターゲットです。
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C群 (特殊):
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標準必須特許(SEP)の可能性がある、など
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→ アクション: 専門家(弁理士など)と対応を協議します。
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アクション②:発明者(先生)へのヒアリング
トリアージでB群(有望)と判断した特許について、必ず発明者である先生にヒアリングします。これが最も重要です。
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確認するポイント:
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「先生、この特許、ご記憶にありますか?」
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「この特許の『ウリ(一番すごい所)』は、結局何だったでしょうか?」
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「この特許を出願した後、追加のデータや、関連する新しい研究は進んでいますか?」
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「(もし否定的だったら)なぜこの技術は実用化しなかった(しない)とお考えですか?」
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「先生が(もし企業と組むなら)組みたいと思う企業、あるいはライバルだと思う企業はどこですか?」
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このヒアリングを通じて、「売る」ための重要な情報(=特許明細書には書かれていない「生きた」情報)を引き出します。
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知財部が得るべき情報:
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① Know-how: 特許にはなっていないが重要なノウハウ、最新の未発表データ
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② 発明者の熱意: 先生自身が、社会実装(実用化)に少しでも興味があるか
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③ ターゲット: 先生の頭の中にある「目ぼしい企業」
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2. 🎯 何を「売る」のか? (技術のパッケージ化)
大学の特許を「特許(権利書)」単体で売ろうとしてはいけません。ほとんど売れません。企業が大学に求めているのは「権利」そのものよりも、「技術の種」と「専門家の知見」です。
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「何を」:
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「特許+Know-how+最新データ+発明者のコンサルティング」を一つのパッケージとして売ります。
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これを「テクノロジー・マーケティング・シート(TMS)」と呼ばれるA4・1〜2枚程度の「非機密(ノンコンフィデンシャル)資料」にまとめます。これが「売り込む」ためのパンフレットになります。
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TMSに盛り込む内容:
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キャッチーな技術タイトル
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「誰の」「どんな課題」を解決するのか?
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既存技術(競合)と比べて何がすごいのか?(図表で示す)
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市場規模(もし分かれば)
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「特許出願中」「〇〇先生(〇〇大学)の研究室」
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3. 👥 誰に「売り込む」のか? (ターゲットの特定)
先生へのヒアリングと、知財部での調査に基づき、アプローチするターゲットを決めます。
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ターゲット① (最も有望):
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発明者の先生と「既に」共同研究をしている企業。
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先生の「ファン」である企業。これが最も話が早く、成約率が高い「温かい」ターゲットです。
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ターゲット② (次点):
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先生がヒアリングで名前を挙げた**「ライバル企業」や「気になる企業」**。
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その特許を**「引用」している他社の特許**(J-PlatPatやGoogle Patentsで引用文献を調べる)。
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ターゲット③ (新規開拓):
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JST(科学技術振興機構)が開催する「新技術説明会」「イノベーション・ジャパン」などのマッチングイベント。
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各TLOや銀行が主催する技術シーズ発表会。
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4. 💡 どう「売り込む」のか? (アプローチ方法)
大学からのアプローチで、いきなり「ライセンス料は〇〇円です」という「売り込み」は失敗します。
企業は、まずは「話を聞いてみたい」「評価してみたい」という段階です。
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アプローチの「ゴール」設定:
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最初のゴールは「ライセンス契約」ではなく、「NDA(秘密保持契約)を締結し、技術詳細について発明者とミーティングしてもらう」ことに設定します。
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アプローチ手法:
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ターゲット企業の知財部や研究開発部門の「窓口」にコンタクトを取ります。(先生のツテがあれば最高です)
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(メール等で)「〇〇大学の〇〇(知財部/URA)です。貴社の〇〇分野に関連すると思われる、本学の〇〇教授の新しい技術シーズについて、A4・1枚の資料(=TMS)をお送りします。もしご興味があれば、〇〇教授本人を交えてWeb会議(30分)で技術説明をさせていただけないでしょうか?」と打診します。
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- 「売り物」のバリエーション:いきなり「独占ライセンス」を売るのではなく、企業のニーズに合わせて売り方を柔軟に変えます。
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「共同研究」の提案(まずは一緒に研究して、技術を成熟させましょう)
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「オプション契約」の提案(評価期間として、6ヶ月間、独占的に評価する権利を格安で提供する)
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「非独占ライセンス(通常実施権)」の提案(「安く広く」使ってもらう)
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まとめ
大学知財部がまずやるべきことは、「コスト(維持年金)」と「残存期間」で機械的に特許をトリアージし、有望なものについて「発明者(先生)」に徹底的にヒアリングし、最新データやノウハウと組み合わせて「1枚のパンフレット(TMS)」を作ることです。これがない状態で、やみくもに売り込みをかけても成功確率は極めて低いでしょう。
このプロセスで、何かお手伝いできること(例えば、TMSの叩き台作成や、J-PlatPatでの引用文献調査など)はありますか?
質問:テクノロジー・マーケティング・シート(TMS)は、保有する特許一件ごとにつくるの?それとも発明者ごと?
Gemini 2.5 Pro:非常に良いご質問です。これはTLO(技術移転機関)の実務でも非常に重要なポイントです。結論から申し上げますと、「発明者ごと」は広すぎ、「特許一件ごと」は狭すぎることが多いです。最も効果的な単位は、「技術シーズ(Technology Seed)」ごと、あるいは「関連する発明(研究テーマ)」ごとです。
1. なぜ「技術シーズ」ごとが最適なのか?
企業が特許(技術)を導入する際、彼らが欲しいのは「発明の断片(特許一件)」ではなく、「その課題を解決できる、ある程度まとまった技術パッケージ」だからです。
❌ なぜ「特許一件ごと」ではダメか?
例えば、ある先生の研究室が「高効率な新しい太陽電池」を開発したとします。
その成果は、多くの場合、複数の特許に分かれて出願されています。
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特許A: 新しい材料(化合物)そのもの
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特許B: その材料の製造方法
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特許C: その材料を使ったデバイス(太陽電池)の構造
もし、これらを「特許一件ごと」にTMSを作成して、3枚の別々の資料として企業に紹介したらどうなるでしょうか?
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企業(開発担当者):「特許A(材料)は面白そうだけど、どうやって作るんだ?」
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企業(製造担当者):「特許B(製造方法)の資料が来たけど、これで何が作れるの?」
このように、技術の全体像が伝わらず、魅力が半減してしまいます。
この場合、**「〇〇教授の次世代高効率太陽電池技術」**という1つのタイトルでTMSを作成し、その中で「本技術は、材料(特許A)・製造法(特許B)・デバイス構造(特許C)の3件の特許群によって強力に保護されています」と紹介するのが、最も強力な売り込み資料となります。
❌ なぜ「発明者ごと」ではダメか?
これはシンプルで、多くの教授は複数の異なる研究テーマを持っているからです。
例えば、ある教授が「AIによる画像診断技術」と「新しい抗がん剤の候補物質」という、全く異なる2つのテーマで特許を持っていたとします。
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前者にアプローチすべきは「医療機器メーカー」や「IT企業」です。
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後者にアプローチすべきは「製薬会社」です。
これを「〇〇教授の発明ポートフォリオ」として1枚のTMSにまとめても、誰にも響かない(ノイズが多い)資料になってしまいます。
まとめ
TMSを作成する際の単位は、以下の「技術パッケージ(=1つの技術シーズ)」単位で考えるのが正解です。
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核となる基本特許(1件または複数)
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それに関連する周辺特許・出願群
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(特許化していない)重要なノウハウや最新の実験データ
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発明者(先生)自身によるコンサルティング
これら一式を「1つの売り物」としてパッケージングし、1枚のTMSに落とし込みます。もちろん、研究成果が1件の特許のみで完結している場合は、結果として「特許一件ごと」に作成することになりますが、その場合も常に「関連する特許やノウハウは他にないか?」と考える視点が重要です。