特046条(出願の変更)と46条の2(実用新案登録に基づく特許出願)の違い

特許法46条(出願の変更)と46条の2(実用新案登録に基づく特許出願)は、どちらも「形式を変えて権利化を目指す」手続きですが、「いつやるか(タイミング)」と「元の権利(出願)がどうなるか」に決定的な違いがあります。一言で言うと、「まだ審査中(登録前)」なら46条、「もう登録されちゃった後」なら46条の2です。


1. 特許法46条:出願の変更
これは、「出願中(係属中)」の案件を、別の種類の出願に切り替える手続きです。


* イメージ: 電車に乗っていて、目的地(登録)に着く前に「やっぱり行き先(権利の種類)を変えよう」と乗り換える感じです。
* 対象: 実用新案登録出願 \rightarrow 特許出願(または意匠 \rightarrow 特許など)。
* 元の出願の運命: 変更した瞬間に、元の出願は取り下げたものとみなされます(消滅します)。
* メリット: もとの出願日を確保したまま(遡及効)、適切な権利形式に変更できます。


2. 特許法46条の2:実用新案登録に基づく特許出願
これは、日本特有の「実用新案は無審査ですぐ登録される」という制度のためにある規定です。**「すでに登録済みの実用新案権」**をベースにして、後から特許を取りに行く手続きです。


* イメージ: 一旦とりあえず小さい家(実用新案権)を建てたけど、やっぱりお城(特許権)に建て替えたい、という「アップグレード」です。
* 対象: 登録済みの実用新案権 \rightarrow 特許出願。
* 元の権利の運命: 特許出願をする際に、元の実用新案権を放棄しなければなりません。
   * ※ここが重要!46条は「自動的に取り下げ」ですが、46条の2は「自発的に権利を放棄する手続き」が必要です。


* 制約: 実用新案登録出願の日から3年以内などの厳しい条件があります。


違いのまとめ(比較表)
試験や実務で問われるポイントを整理しました。
| 比較項目 | 46条(出願の変更) | 46条の2(実用新案登録に基づく特許出願) |
|—|—|—|
| 基礎となるもの | 係属中の出願
(まだ権利になっていない) | 登録済みの実用新案権
(すでに権利になっている) |
| 元の案件の扱い | 変更時に**「取り下げ」**とみなされる
(自動的に消える) | 出願時に**「権利を放棄」**する必要がある
(自分で捨てる手続きが必要) |
| できる時期 | 実用新案登録出願の日から3年以内
(かつ登録前) | 実用新案登録出願の日から3年以内
(かつ評価請求がされていない等) |
| 目的 | 形式のミス修正や戦略変更 | 早期権利化(実案)と強力な権利(特許)の切り替え |
| 条文の趣旨 | 手続の便宜を図る | 早期登録制度(実案)のデメリット補完 |
なぜこの違いがあるの?
実用新案は「無審査」ですぐに登録されてしまうため、出願中に「やっぱり特許にしたい(46条)」と思っても、変更する暇もなく登録されてしまうことがあります。
そこで、**「登録されてしまった後でも、特許に挑戦できるチャンス(46条の2)」**を残しているのです。
ただし、特許と実用新案の「二重取り」はできないので、特許に挑戦するなら、確実に今の実用新案権を捨ててください(放棄)、というルールになっています。

特許が取れなかったら大変なことになります(権利がゼロになります)。46条の2(実用新案登録に基づく特許出願)は、「ハイリスク・ハイリターン」な制度だからです。


なぜ「困る」ことになるのか?
この手続きのルールが以下のようになっているからです。
* 出願と同時に放棄:
   特許出願をするその瞬間に、元の実用新案権を**「放棄」**しなければなりません。つまり、審査の結果を待たずに、先に捨てなければならないのです。
* 復活しない:
   もしその特許出願が「拒絶(不合格)」になっても、捨ててしまった実用新案権は戻ってきません。
結果として、**「実用新案権は失い、特許権も取れなかった」**という、**無権利状態(丸裸)**になってしまうリスクが完全にあります。
では、なぜそんな危ないことをするの?
それでもこの制度を使う人がいるのは、実用新案権のデメリットが大きすぎる場合があるからです。
* 権利期間が短い: 実用新案は出願から10年で終わります(特許は20年)。
* 権利行使が難しい: 実用新案権は「評価書」というお墨付きをもらわないと他人に警告すらできませんが、特許権なら強力に行使できます。
「この発明は絶対に大ヒットするから、10年じゃ足りない!」「ライバルを本気で訴えたい!」という場合に、今の弱い権利を捨ててでも、強い権利を取りに行く賭けに出るのがこの手続きです。
実務での安全策
実務では、いきなり46条の2を行うことは稀です。
リスクを避けるために、事前に特許庁に**「実用新案技術評価書」**を請求して、特許性の有無(審査に通りそうか?)を感触として確かめてから決断することが多いです。評価書で「良い評価(肯定的見解)」が出ていれば、特許も通る可能性が高いと判断できるからです。


まとめ
「特許が取れなかったら困る(丸損する)」制度です。ですので、使うときは非常に慎重な判断が求められます。

(Gemini)