特許法68条の2(存続期間が延長された場合の特許権の効力)について整理していきましょう。
医薬品や農薬などで「特許の期間が延長されたとき、その効力はどこまで及ぶのか?」を定めた、実務上非常に重要な条文です。
特許法68条の2:存続期間が延長された場合の特許権の効力
1. 条文の要点(ひとこと解説)
> 「延長登録された特許権は、その延長の理由となった『特定の処分(承認など)』の対象となった物(やその使用方法)にだけ効力が及びますよ」
>
つまり、延長された期間中は、特許権の効力が「ピンポイント」に縮小されるということです。
2. なぜこの条文があるの?(趣旨)
通常の特許期間(20年)が終わった後の「延長期間」は、あくまで**「国の審査などで待たされて、事業ができなかった期間の埋め合わせ」**として与えられるものです。
もし、延長期間中も「特許発明の全範囲」に権利が及んでしまうと、審査待ちの影響を受けていない(=本来なら特許切れで自由に使えたはずの)他の用途や製品まで第三者が使えなくなってしまい、バランスを欠いてしまいます。
そのため、この条文で「延長の原因となった製品・用途」に限定しています。
3. 具体的な効力の範囲(解釈のポイント)
この条文は、以下の2つのケース(物の発明/製法の発明)について規定しています。
① 物の発明の場合
延長された特許権の効力は、以下のものに及びます。
* その処分の対象となった物(特定の有効成分・品目など)
② 用途が定められている場合(医薬品など)
医薬品のように、承認において「用途(効能・効果)」が定められている場合は、さらに限定されます。
* その処分の対象となった物 であって、かつ、その処分の対象となった用途(使用の態様)
4. わかりやすい事例(医薬品のケース)
ある化学物質X(成分)について、物質特許を持っていたとします。
* 特許内容: 成分Xそのもの
* 承認内容: 成分Xを「がん治療薬」として販売する承認を得た(これで期間延長)
* 別の用途: 成分Xは「脱毛予防」にも効くことがわかった
【延長期間に入った後の世界】
* 他社が「がん治療薬」として成分Xを製造販売する
* 👉 特許権侵害になる(延長の対象だから)
* 他社が「脱毛予防剤」として成分Xを製造販売する
* 👉 特許権侵害にならない(延長の理由となった用途ではないから、効力が及ばない)
※ただし、近年の判例(アバスチン事件など)により、**「実質的に同一」**とみなされる範囲までは効力が及ぶと解釈されていますが、基本原則はこの条文の通り「処分の対象」に限定されます。
5. まとめテーブル
| 項目 | 通常の期間(20年以内) | 延長された期間(最大+5年) |
|—|—|—|
| 根拠条文 | 第68条 | 第68条の2 |
| 効力の範囲 | 特許請求の範囲(クレーム)全体 | 政令で定める処分の対象となった物(+用途)に限定 |
| 第三者の実施 | クレームに含まれれば侵害 | 対象外の用途なら侵害にならない |
(Gemini)