医療インバウンドというのは、その国で医療を受ける目的で渡航することです。医療ツーリズムの一つといえるでしょう。医療インバウンド コーディネーターの役割を担う会社がいくつもあるようです。
国土交通省の医療インバウンドの取り組み
- 第5回インバウンド医療観光に関する研究会の開催 2010年12月15日
経済産業省の医療インバウンドの取り組み
医療インバウンドの市場規模
キーワード:医療ツーリズム 観光庁 大阪 日本 現状 厚生労働省 論文 英語 愛知
医療インバウンドというのは、その国で医療を受ける目的で渡航することです。医療ツーリズムの一つといえるでしょう。医療インバウンド コーディネーターの役割を担う会社がいくつもあるようです。
キーワード:医療ツーリズム 観光庁 大阪 日本 現状 厚生労働省 論文 英語 愛知
臨床研究では交絡因子(confounderあるいはconfounding factor)の理解が必須です。暴露因子とアウトカムとの因果関係を結論づける際に、交絡因子の存在を見落としてしまうと、謝った結論を導いてしまうからです。
暴露因子 ⇒ アウトカム
という因果関係を臨床研究により証明したいとします。そのときに、交絡因子とは何かというと、暴露因子とアウトカムの両方に影響を与える因子のことです。例として、
高血圧(暴露因子) ⇒ 心血管イベント(アウトカム)
を証明したいとします。しかし、ここで交絡因子として例えば「年齢」が考えられます。なぜなら年齢が高いほど血圧が高くなる傾向があり、また、年齢が高いほど心血管イベントを生じやすいという事実があるからです。つまり、年齢の寄与が大きい場合に、かりに高血圧が本当に心血管イベントを生じさせるとしても、その影響を過大評価してしまうことになります。
もっと極端な例として、研究医を目指す太郎医師が、
ライターやマッチを所持 ⇒ 肺がんを罹患
という因果関係がありそうだと考えたとします。このとき太郎医師が見落としている交絡因子として「喫煙」が考えられます。喫煙が交絡しているという言い方もします。喫煙は肺がんの原因になりますし、喫煙はライターやマッチを持つという行動の要因にもなっているからです。このようなバカバカしい例を考える事で、交絡因子を見落とすことで、どれほど頓珍漢な結論を導いてしまう恐れがあるかがわかるでしょう。
もう少し危うい例として、ブロッコリーをたくさん食べる人は高脂血症になりやすいか?を考えてみます。
ブロッコリーの多量摂取(暴露因子) ⇒ 高脂血症の発症(アウトカム)
このような実験結果が得られたときに、ブロッコリーには何か、高脂血症を引き起こす成分が含まれているに違いないと考えて、その成分を同定する研究をこの先やっていってよいものでしょうか。ちょっと待ってください。交絡因子の存在を検討しておく必要があります。ブロッコリーを食べるとき、マヨネーズをかけて食べる人が多いと思います。マヨネーズが高脂血症を引き起こす場合に、マヨネーズは交絡因子になっていると考えられます。
交絡因子の条件は、(1)アウトカムの原因になっている、(2)暴露因子の原因にもなっている、(3)暴露因子が原因となって生じるものではない(言い換えると、中間因子ではない) と定められています。
例えば、 家庭がお金持ち(暴露因子) ⇒ 進学塾に通わせてもらえる(中間因子) ⇒ 学業成績がいい(アウトカム)
のようなスキームを考えた場合、通塾していることは中間因子とみなされます。
ブロッコリー⇒マヨネーズという図式が考えられなくもないですが、だからといって、マヨネーズが中間因子だとはあまり考えないようです。その辺の線引きは微妙ですね。
交絡因子は日本語の読み方は、「こうらくいんし」で、英語ではconfounderと言います。交絡するもの という意味ですね。
キーワード:交絡要因 交絡 意味 交絡因子 ブロッコリー 交絡因子 意味 交絡因子 調整 交絡因子 取り除く
臨床研究をデザインするときに、因果関係を見たいことが多いわけです。暴露因子の存在の結果、アウトカムがどうなるかを知りたくて研究を計画するとします。その時に、暴露因子とアウトカムをそれぞれ定量的に測定できれば、両者の関係が示されるのかというとそう話は単純でありません。暴露因子やアウトカムに関係する第三の因子があった場合に、折角、実験、測定を行っても正しい結論が導かれない恐れがあるのです。第三の因子が何かを把握して、それにたいする対処をしておくことが研究を成功させるためには重要です。
マッチやライターを持っていると、肺がんになりやすいのではないかという仮説を検証したいと思って研究をデザインするとしましょう。マッチやライターの所持が「暴露因子あり」に相当します。アウトカムは、肺がんになることですね。
マッチやライターの所持群(E) / 非所持群(C) ⇒ 肺がんを罹患(O)
これで研究をしてみたらおそらくマッチやライターの所持群で、肺がんの罹患率が高いという結果になるでしょう。そういう結果が得られたからといって、マッチやライターが肺がんを引き起こすと結論づけていいものでしょうか。もちろん、それはどう考えてもあり得ない話です。交絡因子(confounder)とは、EやCに関連すると同時にOの原因になっているもののことです。「喫煙の習慣」がある人は、マッチやライターを所持しています。そして、喫煙の習慣がある人は肺がんになりやすいわけです。
喫煙の習慣(交絡因子)⇒ マッチやライターの所持
喫煙の習慣(交絡因子)⇒ 肺がんを罹患(O)
交絡因子の存在に気付かずに実験をデザインしてしまうと、結論を誤る恐れがあります。
効果修飾因子は、文字通り、「暴露」や「介入」の、アウトカムに対する効果を修飾する因子です。例えば薬剤Aの治療効果を調べたいとしたとき、もしも薬剤Aは実は女性にしか効果がなかったとしたら、「性別」という効果修飾因子が、存在すると言えます。「性別」は、暴露因子にもアウトカムにもそれ自体は何も影響していません。
中間因子は文字通り、暴露因子⇒アウトカムという因果関係の間に来るものです。
暴露因子⇒中間因子⇒アウトカム
暴露因子⇒アウトカム
の関係を検証したいわけですが、第3の要素として予後因子が何かあったとすると、
予後因子⇒アウトカム
の関係になります。
中村 哲 医師は半生をアフガニスタンに捧げました。
「向こうに行って、9条がバックボーンとして僕らの活動を支えていてくれる、これが我々を守ってきてくれたんだな、という実感がありますよ。体で感じた想いですよ。武器など絶対に使用しないで、平和を具現化する。それが具体的な形として存在しているのが日本という国の平和憲法、9条ですよ。それを、現地の人たちも分かってくれているんです。だから、政府側も反政府側も、タリバンだって我々には手を出さない。むしろ、守ってくれているんです。9条があるから、海外ではこれまで絶対に銃を撃たなかった日本。それが、ほんとうの日本の強味なんですよ。」
「アフガニスタンにいると『軍事力があれば我が身を守れる』というのが迷信だと分かる。敵を作らず、平和な信頼関係を築くことが一番の安全保障だと肌身に感じる。単に日本人だから命拾いしたことが何度もあった。憲法9条は日本に暮らす人々が思っている以上に、リアルで大きな力で、僕たちを守ってくれているんです」
(中村 哲 ウィキペディア)
2019年に現地で凶弾に倒れましたが、生前、心を打つ多数の本を書いています。
中村 哲『わたしは「セロ弾きのゴーシュ」 中村哲が本当に伝えたかったこと』 NHK出版 Oct 25, 2021
中村哲『希望の一滴 中村哲、アフガン最期の言葉』 西日本新聞社 December 17, 2020
中村 哲『天、共に在り アフガニスタン三十年の闘い』October 24, 2013
『医者よ、信念はいらないまず命を救え! 〜アフガニスタンで「井戸を掘る」医者 中村哲』October 10, 2003
中村 哲『ペシャワールにて 癩そしてアフガン難民』 石風社 Mar 20, 1992
現在、日本脳神経外科学会第80回学術総会の真っ最中ですが(2021年10月27日~30日)、今回のキャッチフレーズは、「科学の追求と実践知の涵養」、英語では”Pursue Science and Cultivate Phronesis”となっています。phronesisという単語が初耳だったのですが、phronesisとはpractical wisdomのこと、すなわち日本語に訳すと実践知のことでした。実践知というのは文字通り、実際に使える知識ということだと思います。
phronesisは英語の発音だとプロニーシスのように聞こえます。Youglish.comで発音を聞いてみてください。
phronesis (Youglish.com)
phoronesis(実践知)は、響きから察せられるようにギリシャ語由来のようで、アリストテレスが説いたトピックだそう。実践知といっても、実生活で役立つというだけの意味ではなく、人間の徳に関する意味あいが強いようです。Youglish.comで紹介されていた動画に平易な英語での説明がありましたが、「it’s knowing how to do the right thing in the right way at the right time.」とのこと。やるべきことを適切な方法で適切な時期に行う知恵ということですね。
「科学の追求と実践知の涵養(Pursue Science and Cultivate Phronesis)」と同じコンセプトを持った活動を紹介した動画がYouglish.comで紹介された中にありました。
The New Science of Practical Wisdom 2020/01/25 University of California Television (UCTV)
新型コロナウイルスの蔓延が連日ニュースとして報道され、疫学・医療統計学で使われる「罹患率」、「有病率」といった医学用語が日常生活にも入ってきました。それらの意味や英語での呼び方、それぞれの違いなどを纏めておきます。ちなみに罹患の読み方は「りかん」です。自分は初めて見た時、「らかん」?と読んでしまいましたが、「りかん」と読むのでした。
発生率(罹患率、発病率とも呼ばれる)は、ある集団を一定期間観察したときにアウトカムが発生した人の割合ですが、罹患率の求め方としては分母に「リスク人口」を用います。すなわち観察期間内にすでに罹患した場合や脱落した場合には、それ以降の期間を計算に含めません。別の言い方をすれば、リスクとの違いは、発生率には時間(速さ)の概念が含まれることです。
例えば、5人のオリンピック参加者を10日間、毎日PCR検査したときに、新型コロナウイルス陽性者数が2日めと4日めの検査で2人出たとして、別の一人は6日めの夜に選手村から脱走して行方不明になり、残り2人が最後まで陰性だったとします。このとき1日あたりどれくらいの頻度で陽性の人が発生したかを考えてみます。考慮すべき日数としては、「その人が陽性と判定されえた日数」に限定する必要があります。例えば2日めで陽性が分かった人ののこり8日間は、発生率に無関係です。また6日めの夜に脱走した人の、7日目以降も検査ができていないので、発生率に無関係です。陽性になり得る日数を人数分考えてみると、10+10+2+4+6=32[日・人]ですので、陽性者 2[人] / 32 [日・人] = 0.0625[/日] (6.25%)が1日あたりの発生率になります。発生率が取り得る値は0以上で上限は特に決まっていません。短い時間に多数の人にアウトカムが発生すれば、大きな値になります。
新型コロナウイルスの罹患率のウェブ記事を見ると、上記のようないわゆる「人年法」ではなく単純に毎日の感染者数と人口との比を報告しているように思います。分子に対して分母が十分に大きいので、観察期間がそもそも1日単位なので上のようなややこしい計算が不要なのでしょう。また期間に幅があったとしても分母が十分に大きければ上記の算出法は不要なのかと思います。
研究対象集団の人口が小さい場合,あるいは,研究期間が比較的短く,かつ,発症・死亡した例数が多い場合などにおいては,人年法・人月法などによる罹患率や死亡率を求めることを考える。しかし,研究対象集団の人口が大きく,発症あるいは死亡した症例数が比較的少ない場合には,一般的な罹患率や死亡率を計算した方が望ましいことが多い。(人年法の計算と利用方法 第26巻 日循協誌 第1号 1991年 4 月)
罹患率に関連する言葉として累積罹患率(cumulative incidence, cumulative incidence rate)があり、累積罹患率はincidence propotion(発生割合)、あるいはリスクとも呼ばれます。同じ事柄を指すのにいくつもの言葉があって、すこしややこしいですね。初学者泣かせです。
臨床研究において、累積罹患率(リスクとも呼ばれる)とは、ある集団を一定期間観察したときにアウトカムが発生(例えば、新たに病気を発症するなど)した人の割合を意味します。ここでアウトカムは、必ずしも病気のような望ましくないものに限定されません。また、観察期間内のいつアウトカムが発生したかも問いません。5人のオリンピック参加者を10日間毎日PCR検査したときに新型コロナウイルス陽性者数が10日間のうちに2人出たとしたら、リスク=2人/5人 = 0.4 (40%)と計算されます。ある集団の総人数に対する、アウトカムが発生した人の人数の割合なので、リスクが取り得る値は0から1です。
リスク(risk)と発生率(罹患率)(incidence rate)の違いに関して、『臨床研究の道標』第2版下巻第4章第3節「発生の指標とは?:リスクと発生率」にわかりやすい説明と簡単な”例題”があったので、その内容を少しアレンジして、自分なりに説明してみました。
ある時点においてある集団内で病気になっている人の数の割合。有病率と、リスクや罹患率との違いは、有病率の場合はある時点で既に病気になっている人の割合だという点です。それに対してリスクや罹患率を計算するときには一定期間観察して新たに病気になった人を調べます。通常、人口10万人に対する割合を人数で表します。
境界性パーソナリティ障害は、不安定な情緒と不安定なに対人関係が特徴で、人をすぐに好きになったり、あっさりと幻滅してしまったり(脱価値化)します。また、自己イメージが安定せず(自己同一性拡散)、他人に見捨てられることに対する不安を常に抱いていて、相手の気持ちを試すために自殺をほのめかしたり企図したりすることを繰り返すことがあります。抑うつ状態を呈することが多く、大うつ病性障害を合併していることも多い。自傷や薬の大量な服用といった自殺企図により救命救急センターに搬送されることも少なくなく、死の転帰に至る危険があり注意を要する。境界性パーソナリティ障害の人は、人間的な距離がある程度ある人に対しては如才なく振る舞うことができ、一見問題がないように見えるが、両親や家族のように関係が深い相手に対しては依存的態度が強い。治療においては医師に対して恋愛感情を抱く(陽性転移)ことがあるが、それが満たされないと憎しみに変化し(陰性転移)、自傷行為などの行動化(acting out)を起こすことがすくなくない。そのため医師・治療者が患者に対して否定的な感情を抱く逆転移が生じることもある。周囲の気を引くようなアピール性の自殺行動が多く、身体的に軽症なリストカットや過量服薬を繰り返すが、本人にはアピールしている自覚はなく無意識にしていることが多い(参考:『精神科の診かた、考え方』73、127、173ページ)。
幼児期のストレス状況が境界性パーソナリティ障害の発症に寄与している可能性がある。(境界性パーソナリティ障害(BPD) MSDマニュアル家庭版)
生活上のストレス環境に対して病的反応を生じる遺伝的な傾向が認められる場合があり,境界性パーソナリティ障害には明らかに遺伝的要素があると考えられる。境界性パーソナリティ障害患者の第1度親族は,一般集団よりこの障害を有する可能性が5倍高い。(境界性パーソナリティ障害(BPD) MSDマニュアル家庭版)
境界性パーソナリティ障害における、自己制御、対人関係能力や苦悩忍耐能力の欠如にフォーカスし、これらの習得を目指す。
境界性人格障害(borderline personality disorder; BPD)は、感情が極めて不安定で気分の波が激しく、善悪の判断が両極端で’(白か黒しかない)、自分というものをはっきり持てず、強いイライラ感が抑えきれずに怒りを爆発させることが多く、自己破壊的な行動に走ることも多いといった症状で特徴づけらるそうです。
境界性人格障害の「境界性」の意味は、神経症と統合失調症との間に位置付けられる症状を持つということだそうです。単に分類の都合で付けられた名前であって、あまりそれ自体に深い意味はなさそうです。
境界性人格障害の人は対人コミュニケーションがうまくないうえに繊細な感受性を持つために、他人の言動のせいで心を傷つけられることがおおく、うつを発症しやすいそうです。
気分(機嫌の良しあし、強い不快感、苛立ち、不安)が急変する。通常は、数時間しか持続しない。逆に言うと、怒りや不安に襲われて暴言を吐きまくっている人がいても、自然に収まるまで、単に数時間、時間が経過するのを待てばよいということでしょうか。
自分が何をやりたいのかが明確でないため、他人の言動や情報、外部環境による影響を受けやすい。しかし、長続きはしない。
資料
ネイチャーマスタークラス(Nature Masterclasses)は、研究支援ビジネスで、その中のコースに説得力のある研究助成申請書作成(Persuasive Grant Writing)というものがあるようです。ウェブサイトはこちらhttps://masterclasses.nature.com/grant-writing/18994906
残念ながらNature Masterclassesは大学が購入するもので、個人ではどうしようもない価格です。せめて、コースの概要でも眺めてみたいと思います。すぐに気づくことは、ストーリーを語りなさい、ナラティブが大事ということを強調していること。
ナラティブ(narrative)というのは日本語に訳しにくい英単語ですが、物語、語り口、口調といった意味だと思います。
narativeというのは、個人的な物語という意味あいであって、むしろ論理的な文章と対比されるのが通常のようです。例えば、Narrative vs Persuasive Essays Jeanie Tseng, English Specialist Mar 7, 2018 のウェブ記事を見ると、
という説明があり、この記事の作者は、相対立するものとしてとらえています。しかし、ネイチャーマスタークラスの考え方はちょっと違っていて、ストーリーを語ることによって、相手を説得させることができるという戦略を取りましょうということのようです。人間は議論で納得するのではなくて、感情で納得するのです。それは科学者や研究者であっても同じこと。
ややこしいのは、「proposal narrative」、「grant narrative」という言葉があって、ここでのnarativeは物語という意味ではなく単に記述、記載、文書、本文といった程度の意味しかないようです。
personnel narrativeというのは上のリンクの説明から察すると、研究助成の申請書の人員体制、研究体制に関するセクションのことのようです。personal narrative(個人の体験談)という言葉と似ていますが、全く別もの。
さて話を戻して、研究助成の申請書をいかに物語に仕立てるかについて。
Narrative writing can be broadly defined as story writing – a piece of writing characterized by a main character in a setting who encounters a problem or engages in an interesting, significant or entertaining activity or experience. https://blog.empoweringwriters.com/toolbox/what-is-narrative-writing
福原俊一『臨床研究の道標』第2版上巻・下巻 認定法人健康医療評価研究機構2017年
ウェブサイト http://www.i-hope.jp/others/index.html
正誤表:http://www.i-hope.jp/activities/publication/pdf/michishirube_vol.2_seigohyou_ver.1.pdf
18ページの研究デザインの「型」の説明(フローチャート)がわかりやすい。中に書いてあるとおり、この本は、研究のデザインをするところまでの解説書なので、データ収集や統計解析、論文作成に関するノウハウまではカバーしていません。しかし研究するうえで非常に大事なのは、研究を実際に始めるまえの「研究のデザイン」および「研究計画」であることは明らかです。その部分を非常に丁寧に説明されている本で、文章も明解で内容が頭に入りやすいと思います。本の後半は「ワークブック」になっていて、とにかく実際に研究を始める人のための極めて実践的な構成になっています。研究の7ステップと銘打っているだけあって、本書を読みながら、実際に段階的に研究構想を練り上げていくことができます。ちなみに7つのステップは、
となっています。研究の実践書は多数出版されていますが、その中にあって、この本は実践マニュアル的な趣が強いと思います。誤解しそうな点など注意事項に関する説明もとてもスッキリとしていて、切れ味の鋭い本だと思いました。ただし、研究をこれからはじめるOliveさんと、指導者である臨Q氏との日常会話がちょこちょこ差し込まれていて、これはリラックスして読める空気作りに役立っているとみるか、ウザイと感じるかは人それぞれかと。自分は特に気になりませんが、この会話がそれほど効果的だとも思いませんでした。ただ、ハードルが高そうで尻込みする人に対して、ハードルを下げてあげようとする著者のやさしさが感じられます。
松原茂樹 編著『臨床研究と論文作成のコツ 読む・研究する・書く』 東京医学社2020年
χ2乗とは何でしょうか?χ2乗分布、χ2乗検定とは? χ2乗(カイにじょう)に関して一番わかりやすく解説。
χ2乗検定とは、χ2乗分布に従う検定統計量に関するいくつかの検定方法の総称です。まずはχ2乗分布とは何かから押さえておく必要があります。
χ2乗分布の定義(数式)は別の解説に譲るとして、一番馴染みやすい言い方をすれば、χ2乗分布(chi-square distribution)とは、標準正規分布N(0,1)から標本をいくつか取り出したときに、それらの標本の各々の値のの2乗を足し合わせた合計値が従う分布になります(これは、定義から導かれる定理)。
少し堅い言い方で言い直せば、標準正規分布N(0,1)に従う独立な確率変数Z1,Z2,…, Znがあったときに、それら確率変数の2乗和
S^2=Z1^2 + Z2^2 + … + Zn^2
が従う分布のことです。この分布を自由度nのχ(かい)2乗分布と呼び、χ2nと書きます。
χ(かい)2乗分布は、標準正規分布から数学的に導かれます。様々な分布は互いに関連しているので、どの分布からどの分布が導かれるのかを押さえておくと、数学的な理解の見通しが良くなると思います。
ベルヌーイ分布B(1,p) → 二項分布B(n、p) → 正規分布N(μ、σ^2) → 標準正規分布N(0,1) → χ2乗分布χ2(n) →F分布 F(n1, n2)
また、
二項分布B(n、p) → ポワソン分布P(m)
二項分布B(n、p) ←→ 超幾何分布H(n,p,N)
ポワソン分布P(m)→ 正規分布N(μ、σ^2)
正規分布N(0,1) および χ2乗分布χ2(n) → t分布t(n)
F分布 F(n1, n2) ←→ t分布t(n)
t分布t(n) → 標準正規分布N(0,1)
χ2乗分布に従う統計量の検定が、χ2乗検定と呼ばれ、いくつかの種類があります。
9.4 分散の検定ーーーχ2分布の応用 269ページ~
9.5 適合度の検定ーーーχ2分布の応用 270ページ~
9.6 分割表の検定ーーーχ2分布の応用 272ページ~
宮川公男『基本統計学 第5版』有斐閣
単にχ2乗検定というと、「χ2乗検定を用いた独立性の検定」(分割表(クロス集計表ともいう)の検定)を指すことが多いようです。その場合は、検定したい内容は「フィッシャーの正確確率検定」と全く同じです。
関連記事:フィッシャーの正確検定(Fisher’s exact test)とは
χ2乗検定とフィッシャーの正確確率検定との使い分けですが、得られたデータの数値の期待度数(下記参照)が5以下のものが含まれている場合にはχ2乗検定では正確ではないため、フィッシャーの正確確率検定が使われます。
さて、カイ二乗検定による独立性の検定(分割表の検定)の説明で、一番わかりやすいと自分が思ったのは『基礎医学統計学』(加納、高橋 共著 南江堂)(改訂第6版 69ページ~)です。
この教科書の説明に則ってカイ二乗検定をわかりやすく説明すると以下のようになります。
2x2の分割表があったときに、それぞれのセルの「期待度数」を考えます。行と列が独立であれば、単純な掛け算になります。
Σ (セルの値ーそのセルの期待度数)^2 / そのセルの期待度数 という統計量が、カイ2乗分布に従うことから、この統計量がどれくらい生じやすいかを調べることにより、行と列が独立(これが帰無仮説)だったかどうかを判断しようというわけです。これがカイ二乗検定の考え方になります。自由度は、列の数だけあるセルの合計したものを固定して考えるので、列の数ー1、行に関し得も同様に、行の数ー1の自由度があります。そのため、R行xC列の場合は、その組み合わせで(R-1)x(C-1)が自由度になります。
例えば100回何かを観測したときに、その観測値がある既知の分布(正規分布など)に従うかどうかを検定します。観測値から標本平均と標本標準偏差(不偏標準偏差とも呼ばれる。nでなくn-1で割ったほう)を求めて、
(標本平均-標本標準偏差)未満
(標本平均-標本標準偏差)から標本平均の間
標本平均から(標本平均+標本標準偏差)までの間
(標本平均+標本標準偏差)より上
の4つの区間を考えますと、それぞれの区間に標本が観察される確率は、16%、34%、34%、16%になります。100回分の観測値のそれぞれの区間での数(度数と呼ぶ)が15個、30個、38個、17個だったとします。ここで
Σ(観測された度数-期待される度数)^2 / 期待される度数
という統計量(この式により値が一つ定まる)がχ2と呼ばれるもので、文字通りχ2分布に従います。
今の場合自由度3(区間の数-1)のχ2乗分布に従います。よってχ2乗分布の表を参照すると、それがどれくらい起こりやすいのか起こりにくいのかの確率がわかります。
区間をどうわけるかは自由ですが、度数が少なすぎる(5未満)にならないようにします。また区間の数は4以上にします。つまり、5x4=20で、最低でも20回以上の観察をした場合でないと、そもそもカイ2乗検定はできません。
今の例は正規分布でしたが、実際には既知の分布であれば何でも構いません。その観測で得られる値がどんな分布に従いそうかが分かっていることが大事です。
95%信頼区間の求め方は、検定の種類によらず同じ考え方でできます。ある検定統計量(検定するためにつくった統計量)とその検定統計量が従う確率分布(t分布やχ2乗分布、正規分布など)があったときに、95%を含む区間(両端で2.5%を含む区間)の境界の値(a, b)をまず知る必要があります(t分布や分布が左右対称だったのに対して、χ2乗分布は左右対称ではないという違いがありますが、本質的ではありません)。そうすれば、
a≦検定統計量≦b という式が立ち、検定統計量の式の中に自分が知りたい値が未知数として一つだけ存在しているので、それについてこの不等式を解けば
下限値≦未知の数≦上限値
として求まります。