カドヘリンといえば、E-cadherinとN-cadherinくらいしか耳になじんでいませんが、数十以上もの種類があるようです。ネーミングがどうも統一感がなくて、頭にスッキリと入ってきません。自分がややこしく感じる原因は、カドヘリン(ファミリー)のほかに、プロトカドヘリンという似ているけど別の名前のファミリーが存在するからです。プロトカドヘリンはカドヘリンなの?それともカドヘリンじゃないの?というもわっとした疑問がいつまでも頭の中に残ってしまっていました。
整理すると、プロトカドヘリンは名前の一部にカドヘリンを含むくらいなので、カドヘリンと相同性を持った分子で、プロトカドヘリンファミリーのメンバーを指します。カドヘリンはカドヘリンファミリー(メンバーは、CDH1からCDH28くらいまで)のメンバーを指します。カドヘリンファミリーと、プロトカドヘリンファミリーを併せて、カドヘリンスーパーファミリーと呼びます。
混乱を防ぐポイントは、「ファミリー」と「スーパーファミリー」の階層性の違いの理解です。フーパ―ファミリーとしてまとめたもののなかに、いろいろなファミリーが存在します。
この関係は例えば、TGFβスーパーファミリーを思い浮かべると分かりやすいでしょう。TGFβファミリーは、TGFβスーパーファミリーの中の要素になっています。集合を要素として持つ集合みたいなイメージですね。ファミリーの名前とスーパーファミリーの名前で同じTGFβという語句を使っているため、混乱が生じやすいと思います。
TGF-βスーパーファミリーは、大きく分けて3つの異なるサブファミリーに分類され、それぞれTGF-βファミリー、アクチビンファミリー及びBMP(bone morphogenetic protein)ファミリーと呼ばれています。https://www.md.tsukuba.ac.jp/epatho/privacy.html
「サブファミリー」という言葉も使われると混乱に拍車をかけそうですが、スーパーファミリーを考えたときに、その要素であるファミリーのことを特に意識させるためにサブファミリーと呼ぶわけです。なのでここでいうサブファミリーはファミリーと同じものを指すことになります。
いくつかの「ファミリー」が共通に所属するものとしての「スーパーファミリー」
「ファミリー」をいくつかにさらに細かく分けたものとしての「サブファミリー」
うえの2つは、単に包含関係を示すための用語でしかないので、同じことを言っているだけです。
カドヘリン・スーパーファミリー(Cadherin superfamily)は、細胞外領域にカドヘリン様ドメインを有し、カルシウムイオン依存的なホモフィリック結合により細胞接着活性を現す膜タンパク質群の総称である(脳科学辞典)
カドヘリンスーパーファミリーは大きく1)古典的カドヘリン,2)デスモソーマルカドヘリン,3)プロトカドヘリン,4)その他,に分類することができる 2007年https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.2425100119
ファミリーを構成するメンバーは大きく古典的カドヘリンとそれ以外のカドヘリン様タンパク質に分類される。 1999年 http://gakui.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/cgi-bin/gazo.cgi?no=114485
カドヘリンの下流のシグナル分子機構
カドヘリンの発見者である竹市先生の下の総説は非常に読み応えがあっておもしろいです。研究がどのように進展するものなのかを教えてくれます。細胞接着に関与していたはずのβ-カテニンが核内に移行して転写制御因子として働くということを総説か教科書か何かを読んで知ったときは、自分は、???と思いました。細胞接着因子が転写因子にもなるの?そんなこと本当にあり得るのか?という気持ちです。ところが、教科書というものはそれをさも当然であるかのようにさらっと書いてしまっているので、そんな凄いことを「ね、凄いでしょ?」とも言わずに書いていることへの違和感がずっと消えないでいたのです。下のこの総説を読んで、当の発見者が戸惑っていたのだと知って、とても安心しました。自分が抱いていた違和感、不思議さは、決して的外れなことではなかったのです。
- カドヘリンにはβ-カテニンが結合し,これにα-カテニンが結合して,カドヘリン—カテニン複合体を作る(図1B).これが核となって,さまざまな分子が集結し,複雑な細胞間接着制御装置が形成される.
- 1991年,β-カテニンがクローニングされ,γ-カテニン/プラコグロビンと同類の分子であることが確定9)した.前後して,ショウジョウバエのセグメントポラリティ遺伝子armadilloがクローニングされ10),この遺伝子産物が,なんと,γ-カテニン/プラコグロビン類似分子であることがわかる(後に,アルマジロ・リピートタンパク質としてまとめられる).突然,接着関連タンパク質と発生情報因子が関連づけられた
- 1993年,β-カテニンが大腸がん抑制遺伝子産物APC(adenomatous polyposis coli)に結合することが報告
- β-カテニン/Armadilloが転写因子Tcf/Lefと結合し,Wnt/Winglessシグナル系による転写制御のために作用することがわかり
β-カテニンが,細胞接着と遺伝子転写制御というまるで異なる分子現象に関わるという発見には,正直なところ当惑した.何かを見誤っているのではないかという気持が永らく続く.個々のタンパク質の役割は単純明快に違いない,という勝手な思い込みのためだが,どうやら,すっきりしないことの方が生命現象の本質のようだ
β-カテニンが接着にも関与していることを無視する傾向が強まった.
https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2019.910500/data/index.html
カドヘリン1(Eカドヘリン)
- CDH1 – E-cadherin (epithelial): E-cadherins are found in epithelial tissue(ウィキペディア)
カドヘリン2(Nカドヘリン)
- CDH2 – N-cadherin (neural): N-cadherins are found in neurons(ウィキペディア)
カドヘリン3(Pカドヘリン)
PカドヘリンのPは、Placenta(胎盤)のPでした。
- CDH3 – P-cadherin (placental): P-cadherins are found in the placenta.(ウィキペディア)
カドヘリン4(Rカドヘリン)
- CDH4 – R-cadherin (retinal)(ウィキペディア)
カドヘリン17
- CDH17多型とそれに伴うスプライシング変異による短鎖タンパク質の機能解明 https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20K08308/ カドヘリン17(CDH17)は、腸上皮特異的に発現する細胞接着性の膜タンパク質であり、膵がんや肝がんの発症や進展に関与している。このとき特定のSNPにより、腫瘍部でのみスプライス変異が生じて短鎖タンパク質が生成される。‥ カドヘリン17(CDH17)の短鎖型タンパク質は、肝がんの腫瘍部において特異的発現がみられ、患者の生命予後と関連することが報告されている(Wang, XQ et al., Clin. Cancer Res., 2005 and 2006)。
- CDH17(Cadherin 17 or LI-cadherin)とは https://www.funakoshi.co.jp/contents/63252 CDH17(Cadherin 17 or LI-cadherin)は腫瘍の浸潤や転移に関与しており、腸上皮で発現している新規のがん遺伝子です。CDH17は、結腸がんにおいて非常に特異的なマーカーであり(99/99、100%)、CDX2(93/99、94%)やCK20(91/99、92%)よりも高感度です。
- HNF1αおよびCDX2転写因子は肝細胞癌においてカドヘリン17(CDH17)遺伝子プロモーターに結合しその発現を調節する HNF1α and CDX2 Transcriptional Factors Bind to Cadherin-17 (CDH17) Gene Promoter and Modulate Its Expression in Hepatocellular Carcinoma https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201002276625629568 ヒト肝細胞癌に高発現するCDH17のプロモーターと相互作用する転写因子を同定した。
- Liver-intestine cadherin: molecular cloning and characterization of a novel Ca(2+)-dependent cell adhesion molecule expressed in liver and intestine D Berndorff 1, R Gessner, B Kreft, N Schnoy, A M Lajous-Petter, N Loch, W Reutter, M Hortsch, R Tauber J Cell Biol . 1994 Jun;125(6):1353-69. doi: 10.1083/jcb.125.6.1353. https://rupress.org/jcb/article-abstract/125/6/1353/28872/Liver-intestine-cadherin-molecular-cloning-and?redirectedFrom=fulltext A novel member of the cadherin family of cell adhesion molecules has been characterized by cloning from rat liver, sequencing of the corresponding cDNA, and functional analysis after heterologous expression in nonadhesive S2 cells. ラット肝臓からのcDNAクローニングを報告したこの論文が、カドヘリン17の最初の報告のようです。
参考
- 大阪大学大学院生命機能研究科 教授 八木 健 「クラスター型カドヘリンの ゲノム構造・機能の解析」 https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/report/sh_heisei12/genome/yagi.pdf