インターフェロンと聞くと、自分が子供の頃に聞いた「夢の特効薬」というキャッチフレーズが頭に浮かびます。何十年も前の記憶ですが、インターフェロンがそもそも何なのか、何の病気に対して特効薬なのか、体の中で普段どんな働きをしている物質なのか、大人になった自分が実は何もわかっていないことに気付きました。
夢の特効薬インターフェロン
インターフェロンの名前が一般社会に登場したのは、それまで良い薬がなかった、がんやウイルス性の病気の治療薬としてでした。
新聞,テレビなどのマスコミの爼上に,IFNという名前がひんぱんにのせられだしたのは10年ほど前からであったと思う。「夢の新薬」とか,「がんの特効薬」などという華々しい取り上げられかたで,科学専門誌とはまったく無縁と思えるような週刊誌などにまで登場し,社会的にも大きい反響を与えてきた。
有効な治療法の少ない悪性腫瘍(がん)やウイルス病を退治できるような「新薬」として,IFNが本当に活躍してくれるのであれば,長い間この物質に関する基礎や開発研究を続けてきた筆者にとってもうれしいことであり,人類社会にとっても素晴しいトピックスになろう。だが,マスコミ上での華々しさにくらべると,実際のIFN研究あるいは臨床応用化への道程は遅々としたものであった。(インターフェロンの開発と将来の展望 小林茂保 線維と工業 Vol.43(9) 1987年)
- インターフェロンの開発と将来の展望 小林茂保 線維と工業 Vol.43(9) 1987年
- インターフェロン市販へ・夢のガン特効薬 福井新聞 1980年(昭和55)04月11日
- 三石 巌『夢の新薬インターフェロンの効用―ガンはもう怖くない』講談社 1978年
インターフェロンの名前の由来
インターフェロンが何者かを知るには、その名前の由来となった研究を知ることが早道です。動物が2種類のウイルスに感染したときに、一方のウイルスが他方のウイルスの増殖を抑制する現象、つまり、ウイルス同士の干渉(interference)が起きることが知られていました。
- W Henle, G Henle. INTERFERENCE OF INACTIVE VIRUS WITH THE PROPAGATION OF VIRUS OF INFLUENZA Science . 1943 Jul 23;98(2534):87-9. doi: 10.1126/science.98.2534.87.
このinterferenceの研究をしていたAlick IsaacsとJean Lindenmannが、この干渉を起こす物質が未知の蛋白質であることを突き止めて、与えた名前がインターフェロン(interferon)でした。彼らは、ウイルスに感染した組織が分泌したタンパク質性の物質には、ウイルス感染を抑制する働きがあることを見出しました。
In 1957, Alick Isaacs (1921–1965) and a post-doctoral Swiss student, Jean Lindenmann, were studying the phenomenon of “viral interference”—the ability of one virus to inhibit the replication of another virus. When 10-day-old chick chorioallontoic membranes from chick embryos were infected with heat or UV inactivated influenza virus, a material was produced that interfered with subsequent viral replication. (Interferons by Milton W. Taylor)
- Interferons by Milton W. Taylor. Viruses and Man: A History of Interactions. 2014 Jul 22 : 101–119. Published online 2014 Jul 22. doi: 10.1007/978-3-319-07758-1_7 PMCID: PMC7123835
- Isaacs, A., Lindenmann, J. (1957). Virus interference. I. The interferon. Proceedings of the Royal Society of London Series B, Containing papers of a Biological character Royal Society, 147(927), 258–267.
インターフェロンの種類
インターフェロンはI型とII型、さらに最近(2003年)に発見されたIII型に分類されています。I型に属するものはインターフェロンα、インターフェロンβなど、II型インターフェロンに属するものはインターフェロンγのみ、III型インターフェロンに属するものはインターフェロンλです。アルファとベータはアミノ酸配列に相同性があり、受容体も同一なのに対して、ガンマ型はアルファやベータとは配列が完全に異なっており受容体も異なります。
図 https://media.springernature.com/full/springer-static/image/art%3A10.1038%2Fnri1604/MediaObjects/41577_2005_Article_BFnri1604_Fig1_HTML.jpg
- Differential Regulation of Type I and Type III Interferon Signaling Int. J. Mol. Sci. 2019, 20(6), 1445 Published: 21 March 2019
- Kotenko, S.V.; Gallagher, G.; Baurin, V.V.; Lewis-Antes, A.; Shen, M.; Shah, N.K.; Langer, J.A.; Sheikh, F.; Dickensheets, H.; Donnelly, R.P. IFN-lambdas mediate antiviral protection through a distinct class II cytokine receptor complex. Nat. Immunol. 2003, 4, 69–77.
- Sheppard, P.; Kindsvogel, W.; Xu, W.; Henderson, K.; Schlutsmeyer, S.; Whitmore, T.E.; Kuestner, R.; Garrigues, U.; Birks, C.; Roraback, J.; et al. IL-28, IL-29 and their class II cytokine receptor IL-28R. Nat. Immunol. 2003, 4, 63–68.
インターフェロンの細胞内情報伝達機構
インターフェロン受容体の下流のシグナル経路は、JAK-STAT経路です。I型インターフェロンは、TYK2とJAK1およびSTAT1とSTAT2を、II型インターフェロン(つまりインターフェロンγ受容体)は、JAK1, JAK2とSTAT1を使っています。
- ZBP1 mediates interferon-induced necroptosis 10 May 2019
- James E. Darnell Jr., Ian M. Kerr, George R. Stark. Jak-STAT Pathways and Transcriptional Activation in Response to IFNs and Other Extracellular Signaling Proteins Science , Vol. 264, No. 5164 (Jun. 3, 1994), pp. 1415-1421
インターフェロンの作用と役割
インターフェロンはウイルスに感染した細胞が放出し、全身に対する「警報」として働くと教科書的にはよく説明されています。警報を受けた細胞では、ウイルスの増殖を妨げるほか、MHCクラスI分子の発現を亢進することで活性化キラーT細胞が働きやすくなるようにします。
I型IFNの主要な機能の1つは、真核生物翻訳開始因子2a(eIF-2a)の不活性化であり、それにより、ウイルスタンパク質の合成が阻害されます。そのうえ、I型IFNはRNase Lを活性化し、細胞質内のssRNAを切断し、ウイルス複製をさらに阻害します。(インターフェロンの概要 ThermoFisher Scientific )
インターフェロンは、抗ウイルス作用だけでなく、抗腫瘍作用や免疫調節作用もあります。
- いまさら聞けない!~インターフェロン療法(もう一度おさらいしましょう)~ 下田 哲也 共立製薬株式会社
- インターフェロンのシグナルダイナミズムとその生体防御系における調節作用 相互に関与しあうⅠ型とⅡ型のインターフェロン(北大)
インターフェロンによるC型肝炎の治療
肝炎のインターフェロンによる治療とは、インターフェロンの投与によって肝炎ウイルスを体内から排除する治療であり、B型肝炎なら約3割、C型肝炎なら約5〜9割の患者が完治するとされているそうです。
- C型肝炎治療ガイドライン(第8版)2020年7月日本肝臓学会肝炎診療ガイドライン作成委員会編
- インターフェロン治療 朝日新聞DIGITAL 2008年11月12日
第105回 看護師国家試験 午後問題16 C型慢性肝炎に使用するのはどれか。
- ドパミン
- インスリン
- リドカイン
- インターフェロン
インターフェロン製剤
- 遺伝子組換え型インターフェロン-γ製剤 製造販売元 塩野義製薬株式会社
- ペグインターフェロンーα-2a製剤 ペガシス皮下注90マイクログラム 180マイクログラム 中外製薬株式会社
インターフェロンによるB型肝炎の治療
- B型肝炎治療ガイドライン (第3.3版)2021年1月日本肝臓学会肝炎診療ガイドライン作成委員会編
インターフェロンに関する最近の研究
- インターフェロンγは細胞傷害性T細胞によるがんゲノムの免疫エディティングに必要である IFN-γ is required for cytotoxic T cell-dependent cancer genome immunoediting 2017年2月24日 Nature Communications 8 : 14607 doi: 10.1038/ncomms14607
インターフェロンに関するセミナー動画
Hertzog P (2014): Interferon Signalling WEHI Seminars (Walter and Eliza Hall Institute Postgraduate lecture 14 April 2014 Professor Paul Hertzog Monash Institute of Medical Research)
参考
- B型及びC型ウイルス性肝炎の医療費助成を行っています! 新潟県
- COVID-19 に対する薬物治療の考え方 第8版(2021年7月31日)