特70条1項 全要件充足の原則

請求範囲、充足といったキーワードは、特許権の侵害が成立するかどうかを判断する際の、最も基本的かつ重要な原則を指す言葉です。特許権侵害訴訟では、ある製品や方法(イ号製品イ号方法と呼びます)が、他社の特許権の及ぶ範囲内にあるかどうかを判断する必要があります。


🔑 請求範囲 充足とは?

「請求範囲 充足」とは、侵害が疑われる製品や方法(イ号製品)が、特許権者の「特許請求の範囲」に記載された発明のすべての要件を満たしている状態を意味します。これが満たされたとき、その製品は特許発明の技術的範囲に属すると判断され、原則として特許侵害が成立します。

1. 「請求範囲」とは?

特許法において、特許権の範囲(どこまでが特許で守られているか)を定める最も重要な文書が「特許請求の範囲」(クレーム)です。この中には、発明を構成する要素(構成要件)が記載されています。

2. 「充足」とは?

特許請求の範囲に記載された発明の構成要件A, B, Cに対し、侵害が疑われる製品が**A’, B’, C’**という構成をすべて備えている状態を「充足(じゅうそく)」と言います。


💡 全要件充足の原則(オール・エレメント・ルール)

この「請求範囲 充足」の判断は、「全要件充足の原則」に基づいて行われます。この原則は、特許請求の範囲に記載されたすべての構成要件を、侵害品がすべて満たさなければ侵害は成立しない、という厳しいルールです。

具体的な判断の流れ

ステップ 内容 侵害の判断
① 要件分解 特許請求の範囲を、構成要素(要件A、要件B、要件C…)に分解する。
② 比較 侵害が疑われる製品(イ号製品)の構成を、各構成要件と比較する。
③ 充足確認 イ号製品が、すべての構成要件A, B, C…を完全に備えているかを確認する。 すべて充足 ➡️ 侵害成立(文言侵害)
④ 不充足の場合 イ号製品が、一つでも要件を欠いている場合(例:A、Bは備えているが、Cがない)。 一つでも不充足 ➡️ 侵害不成立

例外:均等論

全要件充足の原則が満たされない場合でも、侵害品が特許発明と実質的に同じであると認められる場合は、均等論という例外的なルールによって特許侵害が成立することがあります。

しかし、まずはこの「請求範囲 充足」(全要件充足の原則)を満たしているかどうか、つまり文言通りの侵害があるかどうかが最優先で判断されます。