特許法第34条第4項 特許を受ける権利の承継

Gemini:

「承継(しょうけい)」という言葉は、日常ではあまり使いませんが、知財の世界では**「バトンタッチ」**だと考えると分かりやすくなります。特に特許法34条は、短答試験で「出願前」と「出願後」の違いを入れ替えて受験生を翻弄してくる要注意ポイントです。


1. 承継(しょうけい)とは?

「承継」とは、特定の権利や義務を、前の人から引き継ぐことを指します。

  • 一般承継(いっぱんしょうけい): 相続や会社の合併など、まとめて全部引き継ぐこと。

  • 特定承継(とくていしょうけい): 売買や譲渡など、特定の権利だけをピンポイントで引き継ぐこと。


2. 特許法第34条第4項を噛み砕いて説明

この条文は、**「出願した『後』に、特許を受ける権利を誰かに譲った(特定承継した)場合」**のルールです。

特許法第34条第4項(超訳):

特許を出願した後に、その権利を誰かに譲っても、特許庁長官に「届け出」をしない限り、その譲渡はなかったものとみなすよ。(=効力が発生しない)

なぜこのルールがあるのか?

特許庁側からすると、「今、誰がこの出願の本当の持ち主なのか」がハッキリしていないと、審査の結果を誰に送ればいいか分からなくなって困るからです。だから、*「届け出を出すまでは、新しい持ち主とは認めない!」という強いルールにしています。


3. 承継のタイミングと「届け出」の必要性

ご質問の「必ず届け出が必要?」という点については、タイミングによって答えが変わります。ここが試験で一番狙われるところです。

タイミング 承継の種類 届け出(特許庁への手続)の扱い
出願前 すべて 届け出という概念はありません。「正しい承継人」の名前で出願すればOKです。
出願後 特定承継(売買など) 届け出をしないと、名義変更の効力が出ません(34条4項)。
出願後 一般承継(相続など) 効力はすぐに発生しますが、遅滞なく届け出をする必要があります(34条5項)。

4. 届け出ずに特許出願しても「拒絶」されるだけ?

ここが少し複雑ですが、非常に鋭い質問です。2つのパターンに分けて解説します。

パターンA:出願「前」に承継したのに、間違った人が出願した場合

例えば、会社が発明者(社員)から権利を譲り受けたのに、社員の名前で出願してしまった場合などです。

  • 結果: これは**「冒認出願(ぼうにんしゅつがん)」**と呼ばれ、**拒絶理由(49条7号)**になります。

  • 理由: 「特許を受ける権利を持っていない人」が出願してしまったからです。

パターンB:出願「後」に譲ったのに、名義変更(届け出)を忘れた場合

  • 結果: 拒絶されるのではなく、**「特許庁からは、元の持ち主のまま扱われる」**ことになります。

  • リスク:

    1. 審査の通知(拒絶理由通知など)が、新しい持ち主ではなく**「元の持ち主」に届いてしまう**。

    2. そのまま特許になった場合、「元の持ち主」の名前で登録されてしまう。

    3. 後から慌てて直そうとしても、手続きが非常に煩雑になります。


5. まとめ:チェックポイント

短答試験でこの問題が出たら、以下のステップで考えてください。

  1. それは**出願「前」の話か、「後」**の話か?

  2. 「後」の話なら、**売買(特定承継)**か、**相続(一般承継)**か?

  3. 売買なら**「届け出が効力発生の条件(34条4項)」**。届け出なきゃゼロと同じ!


アドバイス

「承継」の論点は、今回の**34条(受ける権利)と、後の章で出てくる98条(特許権)**のルールを混ぜて出題されるのが定番です。

  • 受ける権利:届け出をしないと効力が発生しない(34条4項)

  • 特許権:登録をしないと効力が発生しない(98条1項1号)