特許法第38条の3(相当な損害額の認定)について解説します。
この条文は、特許権侵害訴訟における「最後の砦」とも言える重要な規定です。侵害は認められたけれど、具体的な金額の計算で詰んでしまった…という原告を救済するためのものです。
サクッと理解できるようにまとめました。
1. 条文の概要(ざっくり理解)
第38条の3は、「損害額の立証がめちゃくちゃ難しいときは、裁判所がこれまでの経緯や証拠を見て、**『まあ、これくらいが妥当だろう』**と金額を決めていいよ」という規定です。
> 条文(要約)
> 特許権侵害による損害が生じたことは認められる場合において、損害額を立証するために必要な事実を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。
>
なぜこの条文があるの?(趣旨)
特許権侵害の損害賠償請求では、原告(特許権者)が「具体的にいくらの損害が出たか」を立証しなければなりません。
しかし、侵害品がブラックボックスだったり、侵害者が帳簿を隠したりしていると、正確な販売数量や利益率を出すのは不可能なことがあります。
「侵害はあったけど、計算できないから賠償金はゼロね」となるのはあまりに不公平なので、裁判所に裁量権を与えました。
2. 解説:適用の要件
この条文を使うためのポイントは以下の2点です。
* 損害の発生自体は立証されていること
* 「損害が出たかどうか分からない」状態では使えません。「損害は間違いなくある」という前提が必要です。
* 事実の立証が「極めて困難」であること
* 単に「面倒くさい」ではダメです。性質上、証明が不可能に近い場合や、証拠が偏在していて出せない場合などを指します。
この要件を満たすと、裁判所は**「口頭弁論の全趣旨」(法廷でのやり取り全体の雰囲気やニュアンス)と「証拠調べの結果」**を総合して、エイヤ!と(もちろん論理的にですが)金額を決めることができます。
3. 【重要】試験に出る!出題ポイント
弁理士試験(短答・論文)での狙われどころを整理します。
① 民事訴訟法第248条との関係
* ポイント: 実はこれ、民事訴訟法248条の特則(ほぼ同じ内容)です。
* 出題: 「特許法には民訴248条と同旨の規定があるか?」 → YES。
* 特許法にわざわざ書かれているのは、特許侵害訴訟において立証の困難性が特に高いため、注意喚起的に規定されている側面があります。
② 「極めて困難」の解釈
* ポイント: 「立証が不可能」である必要はありません。「極めて困難」であれば足ります。
* 引っかけ: 「立証が不可能であるときに限り」という選択肢が出たら × です。
③ 適用される場面(第102条との関係)
* ポイント: 損害額算定の規定(102条1項、2項、3項)を使おうとしたけれど、数量や利益の細かい数字が出せない場合に、この38条の3が顔を出します。
* 論文対策: 論文試験で損害額の計算問題が出た際、具体的な数字が資料になく「計算不能」な状況が示唆されていたら、「38条の3による認定を求める」と記述するのが正解ルートになることがあります。
④ 職権探知主義ではない
* ポイント: 裁判所が勝手に証拠を探してくるわけではありません。あくまで提出された証拠と弁論に基づいて判断します。
4. まとめ:38条の3の位置づけ
損害賠償請求の流れの中で、以下のようにイメージしてください。
* 第102条(推定規定)にトライ:販売数量 × 利益などで計算を試みる。
* 壁にぶつかる:証拠が足りない、複雑すぎて数字が出せない。
* 第38条の3 発動:「裁判長!正確な数字は出せませんが、状況から見てこれくらいが相当です!」と主張し、裁判所に決めてもらう。
この条文は単独で出るというより、第102条(損害額の推定等)とセットで理解しておくのが鉄則です。
(Gemini)