臨床研究者が遵守すべき法律や指針:「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」その他

科研費の計画調書の様式には、「人権の保護及び法令等の順守への対応」を書かせるページがあります。どんな研究を行う場合に、どんな法律や指針が該当するのでしょうか?

臨床研究法

臨床研究法の対象となるのは、主に
・製薬企業などから資金提供を受けて実施される臨床研究
・未承認ならびに保険適応外医薬品を用いた臨床研究
であり、これらは「特定臨床研究」と呼ばれ、実施には様々な条件が付加されています。(第12回臨床研究法とは何でしょうか? がん臨床けんきゅのABC-Z がんナビ)

  1. 臨床研究法 (平成二十九年法律第十六号) (elaws.e-gov.go.jp) 施行日:令和二年九月一日 最終更新:令和元年十二月四日公布(令和元年法律第六十三号)改正

 

人を対象とする医学系研究に関する倫理指針

人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(平成26年)は、それまで存在した2つの指針、「疫学研究に関する倫理指針」(平成19年文部科学省・厚生労働省)及び「臨床研究に関する倫理指針」(平成20年厚生労働省)を統合したものです。

  1. 人を対象とする医学系研究に関する倫理指針 平成26年12月22日 (平成29年2月28日一部改正) 文 部 科 学 省 厚 生 労 働 省

人を対象とする医学系研究に関する倫理指針に違反した事例

  1. 臨床研究に関する倫理指針違反について 令和3年4月1日臨床研究に関する倫理指針違反について 鳥取大学医学部 ・後ろ向き観察研究12件において、倫理審査委員会の承認及びオプトアウトを経ずに実施。・アンケート調査1件において、倫理審査委員会の承認及びアンケート用紙に研究として使用する等の記載がないなど、適切な同意を受けないで実施。
  2. 倫理指針不適合に係る予備調査委員会調査報告書 令和元年5月28日 ncvc.go.jp ・研究倫理審査及び理事長の許可を受けずに研究を実施した ・倫理指針上、オプトアウト手続きが必要であったが、オプトアウト手続きを履行していなかった

 

臨床研究に関する倫理指針

臨床研究に関する倫理指針は、平成26年に「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」へと統合されました。

  1. 臨床研究に関する倫理指針 平成15年7月30日厚生労働省

臨床研究に関する倫理指針に違反した事例

  1. 倫理指針に違反した臨床研究について(お詫びとご報告)2012年3月19日 慶應義塾大学医学部 慶應義塾大学病院 A:肺癌における末梢血中癌細胞検出に関する臨床研究(当医学部の受付番号:2009-45、2009年6月22日再審査、同年6月26日承認、2010年3月31日研究期間終了)研究期間が2010年3月31日に終了しているにも拘わらず、そのことを認識せず、研究を継続 B:肺癌における循環癌細胞検出に関する臨床研究(当医学部の受付番号:2011-283、2011年11月27日申請、同年12月26日承認、2012年1月11日通知、2012年1月30日承認取り消し)倫理申請ならびに肺癌患者さんへの臨床研究に関する説明・同意がないまま、手術切除肋骨から骨髄液を採取  倫理申請の承認とその通知前から、臨床研究に関する説明・同意がないまま、26名の肺癌患者さんに対し、手術中に肋骨から骨髄液を採取 コントロールデータも必要ということから、研究対象ではない5名の良性肺疾患の患者さんから、2011年11月28日~同年12月20日の期間に、臨床研究に関する説明・同意がないまま、手術中に肋骨から骨髄液を採取 2名の分担研究者および1名の個人情報管理者について、本人の承諾なしに倫理審査申請書にその氏名を記載
  2. 臨床研究の不祥事はなぜなくならないのか 金沢大学で起きた厚労省「臨床研究倫理指針」違反の抗がん剤療法の背景 金沢大学病院「倫理指針逸脱の先進医療」(1) 出河 雅彦(いでがわ・まさひこ) (2019/12/06) 法と経済のジャーナル

そのほかの指針としては以下のものがあります。

ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針

遺伝子治療等臨床研究に関する指針手術等で摘出されたヒト組織を用いた研究開発の在り方

異種移植の実施に伴う公衆衛生上の感染症問題に関する指針

ヒト受精胚の作成を行う生殖補助医療研究に関する倫理指針ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針

厚生労働省の所管する実施機関における動物実験等の実施に関する基本指針

研究機関等のおける動物実験等の実施に関する基本指針

研究活動における不正行為への対応等に 関するガイドライン

  1. 研究活動における不正行為への対応等に 関するガイドライン 平 成 2 6 年 8 月 2 6 日 文 部 科 学 大 臣 決 定

研究不正の事例

  1. 当院にて発生した論文不正と臨床研究についてのご報告 2020年08月18日 大阪大学医学部付属病院 令和2年8月18日 大阪大学医学部附属病院 病院長  土岐 祐一郎 論文執筆時に所属していた大阪大学および国立循環器病研究センターで調査を行った結果、5編の論文に不正(データのねつ造、改ざん)が見つかりました。5編の不正論文のうちの1編が当院を研究代表施設とする臨床研究「非小細胞肺がん手術適応症例に対する周術期hANP(ハンプ)投与の多施設共同ランダム化第Ⅱ相比較試験(JANP study)」の計画書に参考論文として用いられており、この不正により、肺がん手術の際に試験薬を投与する上での安全性判断の基礎となるデータに疑問が生じることになりました。

 

参考

  1. 臨床研究に関する法令・指針等の改正について 学校法人日本医科大学研究統括センター副センター長日本医科大学医療管理学特任教授松山琴音 令和 年度認定倫理講習会資料1教育研修資料