特038の3 分かりやすく解説

(先の特許出願を参照すべき旨を主張する方法による特許出願)
第三十八条の三 特許を受けようとする者は、外国語書面出願をする場合を除き、第三十六条第二項の規定にかかわらず、願書に明細書及び必要な図面を添付することなく、その者がした特許出願(外国においてしたものを含む。以下この条において「先の特許出願」という。)を参照すべき旨を主張する方法により、特許出願をすることができる。ただし、その特許出願が前条第一項第一号又は第二号に該当する場合は、この限りでない。


2 前項に規定する方法により特許出願をしようとする者は、その旨及び先の特許出願に関し経済産業省令で定める事項を記載した書面を当該特許出願と同時に特許庁長官に提出しなければならない。


3 第一項に規定する方法により特許出願をした者は、経済産業省令で定める期間内に、当該特許出願に係る願書に添付して提出すべき明細書及び必要な図面並びに同項に規定する方法における主張に係る先の特許出願に関し経済産業省令で定める書類を提出しなければならない。


4 前項の規定により提出された明細書及び図面に記載した事項が、第一項に規定する方法における主張に係る先の特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(当該先の特許出願が、外国語書面出願である場合にあつては外国語書面、外国においてしたものである場合にあつてはその出願に際し提出した書類であつて明細書、特許請求の範囲又は図面に相当するもの)に記載した事項の範囲内にない場合は、その特許出願は、前条第一項の規定にかかわらず、前項の規定により明細書及び図面を提出した時にしたものとみなす。


5 第三項の規定により提出された明細書及び図面は、願書に添付して提出したものとみなす。


6 前各項の規定は、第四十四条第一項の規定による特許出願の分割に係る新たな特許出願、第四十六条第一項又は第二項の規定による出願の変更に係る特許出願及び第四十六条の二第一項の規定による実用新案登録に基づく特許出願については、適用しない。   

特許法第38条の3(参照出願)ですね。
これはPLT(特許法条約)との調和で導入された規定で、「手元に明細書がないけれど、とにかく今日を出願日にしたい!」という緊急事態を救済するための制度です。
条文の解説、短答試験のツボ、そして「なぜ出願日が繰り下がらないのか(あるいは繰り下がるのか)」のロジックについて整理します。
1. 条文の概要(ざっくり理解)
この条文は通称**「参照出願(引用出願)」**と呼ばれます。
* 原則: 特許出願には「願書・明細書・図面」が必須です。
* 例外(この条文): 明細書と図面を省略して出願できます。その代わり、「内容は、あっちの出願(先の出願)と同じだから、それを参照して!」と宣言します。
* 事後処理: 後から(4ヶ月以内)に、ちゃんと明細書と図面(と先の出願の写し)を提出すればOKです。
2. 条項ごとのポイント解説
第1項:制度の基本
* できること: 明細書・図面を添付せずに、「先の特許出願を参照する」旨を主張して出願できる。
* できない場合(除外):
   * 外国語書面出願をする場合(この制度は使えません)。
   * 願書の必須記載事項(特許を受けようとする旨、氏名等)が欠けている場合(38条の2第1項1号・2号)。
* 先の特許出願とは: 日本の出願だけでなく、外国でした出願もOKです。
第2項:手続的要件(出願時)
* 参照出願をするなら、出願と同時に「参照します」という書面と、先の出願を特定する事項(国、出願日、出願番号など)を記載した書面を出さなければなりません。
第3項:事後提出(4ヶ月以内)
* 経済産業省令で定める期間(通常は出願日から4ヶ月以内)に、以下のものを提出します。
   * 明細書及び図面
   * 先の特許出願の査証付き謄本(日本国特許庁への出願を参照した場合は不要)
第4項:ペナルティ(ここが重要!)
* 後から出した明細書・図面の内容が、「参照した先の出願」の範囲を超えていた場合。
* 効果: 出願日が、「明細書・図面を提出した時」に繰り下がります。
   * 参照先に書いてないことを後出しジャンケンで追加したら、その追加した日が本当の出願日になる、という理屈です。
第5項:みなし規定
* ちゃんと要件を満たせば、後から出した明細書・図面は、**「願書に添付して提出したもの(=最初からあったもの)」**とみなされます。
第6項:適用除外
* 分割出願、変更出願、実用新案登録に基づく特許出願には、この制度は使えません(これらはもともと遡及効があり、手続きが複雑になるため)。
3. 「補完」なのになぜ出願日が繰り下がらないのか?
ここが一番の疑問ポイントですね。通常、明細書なしで出願すると「不適法な出願」となり、明細書を提出した日が出願日になります(第38条の2)。
しかし、この第38条の3を使うと、明細書を後から出しても出願日は繰り下がりません(第4項に該当しない限り)。
そのロジック(法的擬制)
この制度の根底には、**「物理的な紙(データ)はここにはないが、内容は客観的に確定している」**という考え方があります。
* 「客観的確定」: 「米国の出願番号US 12/345,678と同じ内容です」と宣言した瞬間、その内容は世界に一つしか存在せず、改ざんもできません。つまり、特許庁にとって、その発明の内容は**出願にアクセスすれば確認できる状態(ロックされた状態)**にあります。
* 「実体はある」: 物理的な明細書は手元になくても、「内容」は出願時に確定しています。だから、後から紙を出すのは単なる「答え合わせ」や「清書」の提出に過ぎません。
* 結論: 「内容」は出願時に存在していたとみなせるので、出願日を繰り下げる必要がないのです。
逆に、第4項で繰り下がる理由
後から提出した明細書に、**参照先の出願には書いていない「新しい内容(A+α)」**が含まれていた場合。
* この「α」の部分は、出願時(参照時)にはどこにも存在していなかったことになります。
* 「α」については、物理的に明細書を提出した時に初めて特許庁に提示されたものなので、公平性の観点から、全体として出願日を提出日に繰り下げるというペナルティが課されます。
4. 短答試験で狙われるポイント(チェックリスト)
短答試験では、細かい「できる・できない」の引っかけが頻出です。
* [対象] 外国語書面出願で、この「参照出願」の制度を使えるか?
   * 答え:×(条文で明確に除外されています。※ただし、参照する「先の出願」が英語の出願であることはOKです。今回の出願形式を外国語書面出願にできないだけです。)
* [対象] 分割出願や変更出願で使えるか?
   * 答え:×(第6項で除外。急ぐ必要がない、あるいは原出願がすでにあるため。)
* [手続] 参照する旨の書面は、出願後に提出できるか?
   * 答え:×(第2項。「出願と同時に」提出必須。)
* [時期] 明細書・図面の提出期限は?
   * 答え: 経済産業省令で定める期間内(通常は出願日から4ヶ月以内)。
* [効果] 提出した明細書が、参照した出願の範囲内であればどうなるか?
   * 答え: 願書に添付して提出したものとみなされる(出願日は繰り下がらない)。
* [ペナルティ] 参照した出願の範囲を超えていた場合、どうなるか?
   * 答え: 出願日が「明細書・図面の提出時」に繰り下がる(却下されるわけではない点に注意)。
試験対策のまとめ
> 「参照出願」=「内容はあっち(確定済)にあるから、箱(願書)だけ先に出す制度」
>
* 中身が同じなら、箱を出した日が出願日。
* 中身が違ったら(増やしたら)、中身を入れた日が出願日(ペナルティ)。
このようにイメージしておくと、条文の構造がスッキリ理解できるはずです。

願書に明細書及び必要な図面を添付することなく ってことは、特許請求の範囲(クレーム)は、出さなきゃいけないのね?

鋭いご指摘ですね!条文の「明細書及び必要な図面」という書き方を見ると、「あれ?特許請求の範囲(クレーム)は書いてないから、出さなきゃダメなの?」と不安になりますよね。
結論から言うと、
「特許請求の範囲」も、出願時には出さなくてOKです!
願書(「参照します」と書いた紙)ペラ1枚だけで出願できます。
なぜ条文に「特許請求の範囲」と明記されていないのか、そのカラクリと理由を解説します。ここも短答試験で引っかかりやすいポイントです。
1. なぜ「特許請求の範囲」もなくていいのか?(法的根拠)
条文の冒頭にある 「第三十六条第二項の規定にかかわらず」 という言葉が魔法の呪文です。
* 原則(36条2項): 願書には「明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書」を添付しなければならない。
* 例外(38条の3): 36条2項の規定にかかわらず(=つまり36条2項のセットリストは一旦無視して)、参照する旨を主張すれば出願できる。
この「36条2項の除外」によって、特許請求の範囲も要約書も、添付義務がなくなっています。
2. じゃあ、なぜ条文は「明細書及び図面」だけ名指ししたのか?
これには**「出願日の認定(38条の2)」**との関係が深く関わっています。
特許庁が「今日を出願日として認めてあげるよ!」とハンコを押すために最低限必要なのは、権利範囲(クレーム)ではなく、**「どんな技術を発明したのか(技術開示)」**です。
* 通常、技術内容は「明細書・図面」に書かれています。
* この条文は**「技術内容が手元になくても、参照先にそれがあるなら出願日をあげるよ」**という制度です。
* だから、出願日の認定に不可欠な「明細書及び図面」をあえて名指しして、「これを添付しなくても(参照すれば)特別に出願日をあげるよ」と言っているのです。
※「特許請求の範囲」は権利の範囲を決めるもので重要ですが、「その日にその発明が存在したか」を証明する資料としては、明細書の方が主役なのです。
3. 「特許請求の範囲」はいつ出すの?
第3項を見てみましょう。
> 「明細書及び必要な図面並びに…経済産業省令で定める書類を提出しなければならない。」
>
この「経済産業省令で定める書類」の中に、**「特許請求の範囲」**と「要約書」が含まれています。
つまり、後から(4ヶ月以内に)明細書や図面とセットで提出すればOKです。
まとめ
* Q: 参照出願の時、特許請求の範囲(クレーム)は出願時に必要?
* A: 不要です。 願書だけでOK。
* 理由: 36条2項(添付書類の義務)が免除されているから。
* 注意点: 条文上「明細書及び図面」としか書いていないのは、それが「出願日の認定(技術の開示)」に一番重要なパーツだから強調されているだけです。
「条文に書いてないから必要かも?」という読み方は法律学習でとても大切ですが、ここでは「36条2項の除外」が全てをカバーしている、と覚えておいてください!
次は、この参照出願とセットで覚えるべき**「一部欠落(38条の4)」との違い**を確認しておきませんか?
あちらは「うっかり出し忘れた」場合の救済なので、要件が微妙に違います。

一部欠落(38条の4)との違いを確認

ありがとうございます!ここを整理できれば、条約(PLT)関連の出願日認定の問題は怖くありません。
「38条の3(参照出願)」と「38条の4(一部欠落)」は、どちらも**「出願書類が足りない!」という緊急事態に対する規定ですが、「意図的か、うっかりか」そして「原則の動き」**が全く違います。
比較表とポイントで整理しましょう。
1. ざっくりイメージの違い
| 項目 | 38条の3 【参照出願】 | 38条の4 【一部欠落】 |
|—|—|—|
| イメージ | 「手ぶら出願」(確信犯) | 「うっかり忘れ」(アクシデント) |
| 状況 | 「明細書を書く時間がない!でもあっちの出願と同じだから、とりあえず箱(願書)だけ出して日を確保だ!」 | 「あちゃー!明細書の5ページ目だけコピーし忘れた!」「図面入れ忘れた!」 |
| 手元にあるもの | 願書のみ(明細書・図面はゼロ) | 願書 + 不完全な明細書・図面 |
| 出願日の原則 | 繰り下がらない(要件満たせば) | 繰り下がる(提出した日になる) |
2. 詳細比較表(試験対策用)
ここが試験の狙い目です。特に「出願日の移動」に関する原則と例外が逆になっている点に注目してください。
| 比較項目 | 38条の3(参照出願) | 38条の4(一部欠落) |
|—|—|—|
| 対象 | **明細書及び図面の「全部」**がない | 明細書の「一部」
または 図面の「全部か一部」がない |
| 事前の宣言 | 必要
(出願時に「参照します」と言う) | 不要
(後で特許庁から指摘されるか、自分で気づく) |
| 補充の期限 | 経済産業省令期間内
(4月以内等) | 通知から指定期間内
(または自発的に) |
| 出願日の原則 | 繰り下がらない
(参照先に書いてあればOK) | 繰り下がる
(補充書を出した日が新しい出願日) |
| 出願日の例外 | 繰り下がる
(参照先にないことを書いた場合) | 繰り下がらない
(優先権主張を伴い、優先権書類にその内容が含まれている場合) |
| 根拠資料 | 「先の出願」(参照先) | **「優先権証明書」**など
(優先権主張がある場合のみ救済可) |
3. ここが決定的な違い!(短答のツボ)
① スタート地点の違い
* 38条の3(参照): 最初から「中身は後で出す!」と宣言して使う制度です。いわば正規の裏技です。
* 38条の4(欠落): 基本はミスの救済です。「しまった!」という時に発動します。
② 出願日の動き(ここが最重要)
* 38条の3(参照):
   * 成功すれば、最初の日が出願日です。
   * 失敗(余計なことを書いた)時だけ、繰り下がります(ペナルティ)。
* 38条の4(欠落):
   * 基本は、補充した日が出願日になってしまいます(繰り下がるのが原則)。
   * ただし、「優先権主張」をしていて、「その忘れ物は優先権書類にちゃんと書いてあるよ!」と証明できた時だけ、**最初の日をキープ(例外的に遡及)**できます。
4. 応用問題:もし「図面」を入れ忘れたら?
ここで混乱しやすいケースをシミュレーションします。
> ケース: 出願人が、願書と明細書は作ったが、「図面」を添付し忘れて出願してしまった。
>
Q. これはどっちの条文になる?
* A. 38条の4(一部欠落の補完)です。
   * なぜなら、明細書(の一部)は添付されているからです。「参照出願」は明細書も図面も一切添付しない場合に使う制度です。
   * この場合、慌てて図面を提出すると、原則として「図面を提出した日」に出願日が繰り下がってしまいます。
   * (※もし優先権主張をしていて、優先権書類にその図面があれば、所定の手続きで出願日を守れます)
まとめ
* 参照出願 (38-3) = 「手ぶらでGo」。中身があっちにあれば、日は変わらない。
* 一部欠落 (38-4) = 「忘れ物補完」。届けた日が受理日になるのが原則(遅れる)。優先権があれば助かるかも。
この2つは「出願日がどうなるか(原則維持か、原則移動か)」が逆なので、そこを意識すると点数に繋がりますよ。
そろそろ、これらの手続きをした後の**「審査請求」のタイミングや、「国内優先権」**との絡みなどが気になりませんか?(実は参照出願をした場合、出願公開や審査請求の時期に注意が必要です)

参照出願をした場合、出願公開や審査請求の時期に注意が必要ですって、一体どんな注意?

参照出願(38条の3)は「とりあえず箱だけ出す」という裏技なので、中身(明細書・図面)が入るまでは、特許庁も動きようがないというのが最大の注意点です。
具体的には、**「審査請求のタイミング」と「出願公開の条件」**の2点で、通常の出願とは異なるルール(制限)がかかります。
短答試験でも、実務でも致命傷になりかねないポイントですので、詳しく解説します。
1. 出願審査請求の制限(これが一番の罠!)
通常の出願なら、出願と同時(0秒後)に「審査請求」をして、「早く審査してくれ!」と言うことができます。
しかし、参照出願ではそれができません。
* ルール(特許法48条の3第2項):
   > 明細書及び図面の提出がなければ、出願審査請求をすることができない。
   >
* 注意点:
   * 「参照出願」をした日には、審査請求書を提出できません。
   * もし出願と同時に審査請求書を出しても、**不適法な手続として却下(または返戻)**されます。
   * いつできる?: 後から明細書・図面を提出した後(または同時)ならOKです。
* なぜ?:
   審査官にとって、審査対象(明細書)が手元にないのに「審査しろ」と言われても、「何を見るの?」となってしまうからです。
2. 出願公開のタイミング(空っぽのままでは公開されない)
通常、出願日から1年6ヶ月経つと、強制的に内容が世の中に公開されます(出願公開)。
しかし、参照出願で明細書の提出が遅れている場合、公開もストップします。
* ルール(特許法64条2項ただし書):
   > 明細書及び図面の提出がないときは、出願公開をしない。
   >
* 注意点:
   * 特許庁は「中身のない空っぽの願書」を公報に載せることはしません。
   * 明細書・図面が提出されるまで、出願公開は保留されます。
* 補足(翻訳文):
   もし、参照した先の出願が外国語だった場合、後から提出する明細書(翻訳文のようなもの)が出揃うまで公開されません。
3. 最大のリスク:提出期限(4ヶ月)を過ぎたら「却下」
これが最も恐ろしい点です。「時期の注意」以前の問題として、そもそも出願が消滅するリスクです。
* ルール:
   経済産業省令で定める期間内(通常4ヶ月)に、明細書・図面(および参照先が外国ならその謄本など)を提出しないと、出願そのものが却下されます。
   * 「みなし取下」ではなく、行政処分としての**「却下」**になります。
* 実務上の恐怖:
   通常の出願なら、一度出せばとりあえず安心ですが、参照出願は**「4ヶ月以内に必ず追完処理をする」**というタスクが残ります。これを忘れると、確保したはずの出願日ごと全てが消滅します。
まとめ:参照出願のタイムラインと注意点
| アクション | 通常の出願 | 参照出願 | 理由 |
|—|—|—|—|
| 審査請求 | 出願と同時に可能 | 明細書提出後まで不可 | 審査対象がないから |
| 出願公開 | 1年6ヶ月で自動公開 | 明細書提出後まで保留 | 公開する中身がないから |
| 補正 | 出願直後から可能 | 明細書提出後まで不可 | 補正する土台がないから |
| 手続 | 出して終わり | 4ヶ月以内に追完必須 | やらないと却下(死) |
短答試験での問われ方
> 「特許出願(参照出願)と同時に出願審査の請求をすることができる。」
>
* 答え:×
* (解説:明細書及び図面の提出後でなければ、審査請求はできない。)
このように、**「中身が入るまでは、審査も公開も補正もストップする」**とイメージしておけば、どの条文が来ても正解できます!

参照出願(38条の3)は「とりあえず箱だけ出す」という裏技なので、中身(明細書・図面)が入るまでは、特許庁も動きようがないというのが最大の注意点です。
具体的には、**「審査請求のタイミング」と「出願公開の条件」**の2点で、通常の出願とは異なるルール(制限)がかかります。
短答試験でも、実務でも致命傷になりかねないポイントですので、詳しく解説します。
1. 出願審査請求の制限(これが一番の罠!)
通常の出願なら、出願と同時(0秒後)に「審査請求」をして、「早く審査してくれ!」と言うことができます。
しかし、参照出願ではそれができません。
* ルール(特許法48条の3第2項):
   > 明細書及び図面の提出がなければ、出願審査請求をすることができない。
   >
* 注意点:
   * 「参照出願」をした日には、審査請求書を提出できません。
   * もし出願と同時に審査請求書を出しても、**不適法な手続として却下(または返戻)**されます。
   * いつできる?: 後から明細書・図面を提出した後(または同時)ならOKです。
* なぜ?:
   審査官にとって、審査対象(明細書)が手元にないのに「審査しろ」と言われても、「何を見るの?」となってしまうからです。
2. 出願公開のタイミング(空っぽのままでは公開されない)
通常、出願日から1年6ヶ月経つと、強制的に内容が世の中に公開されます(出願公開)。
しかし、参照出願で明細書の提出が遅れている場合、公開もストップします。
* ルール(特許法64条2項ただし書):
   > 明細書及び図面の提出がないときは、出願公開をしない。
   >
* 注意点:
   * 特許庁は「中身のない空っぽの願書」を公報に載せることはしません。
   * 明細書・図面が提出されるまで、出願公開は保留されます。
* 補足(翻訳文):
   もし、参照した先の出願が外国語だった場合、後から提出する明細書(翻訳文のようなもの)が出揃うまで公開されません。
3. 最大のリスク:提出期限(4ヶ月)を過ぎたら「却下」
これが最も恐ろしい点です。「時期の注意」以前の問題として、そもそも出願が消滅するリスクです。
* ルール:
   経済産業省令で定める期間内(通常4ヶ月)に、明細書・図面(および参照先が外国ならその謄本など)を提出しないと、出願そのものが却下されます。
   * 「みなし取下」ではなく、行政処分としての**「却下」**になります。
* 実務上の恐怖:
   通常の出願なら、一度出せばとりあえず安心ですが、参照出願は**「4ヶ月以内に必ず追完処理をする」**というタスクが残ります。これを忘れると、確保したはずの出願日ごと全てが消滅します。
まとめ:参照出願のタイムラインと注意点
| アクション | 通常の出願 | 参照出願 | 理由 |
|—|—|—|—|
| 審査請求 | 出願と同時に可能 | 明細書提出後まで不可 | 審査対象がないから |
| 出願公開 | 1年6ヶ月で自動公開 | 明細書提出後まで保留 | 公開する中身がないから |
| 補正 | 出願直後から可能 | 明細書提出後まで不可 | 補正する土台がないから |
| 手続 | 出して終わり | 4ヶ月以内に追完必須 | やらないと却下(死) |
短答試験での問われ方
> 「特許出願(参照出願)と同時に出願審査の請求をすることができる。」
>
* 答え:×
* (解説:明細書及び図面の提出後でなければ、審査請求はできない。)
このように、**「中身が入るまでは、審査も公開も補正もストップする」**とイメージしておけば、どの条文が来ても正解できます!

38条の3の使い方として、外国で出願したものを参照するのはわかるけど、国内でさきに出願したものという場合は、どういう時?

これは非常に実務的でいい質問ですね!
「外国の出願を参照する」のは、翻訳が間に合わない時の緊急避難としてイメージしやすいですが、**「日本の出願を日本の出願で参照する」**なんて、一見すると二度手間に思えますよね。
しかし、これも**「国内優先権」**という制度と組み合わせることで、戦略的、あるいは緊急的なメリットが生まれるケースがあります。
具体的に「どういう時に使うか」を3つのシナリオで解説します。
1. 【緊急】優先権期間(1年)ギリギリの駆け込み出願
これが最も考えられるケースです。
* 状況:
   * 1年前に日本で出願Aをした。
   * 今日がちょうど1年後(優先権主張の期限日)。
   * この出願Aに基づいた「国内優先権」を主張して、改良発明を含む新しい出願Bをしたい。
   * しかし、手元にデータがない!(出先でPCがない、ファイルが壊れた、サーバーエラーで重いデータが送れない etc.)
* 使い方:
   * スマホやタブレットから、特許庁の電子出願ソフト(または書面)で、「願書(出願Aを参照する)」だけを送信します。
   * これで、少なくとも「出願Aと同じ内容」については、今日の出願日(優先権期限内)を確保できます。
* その後:
   * 後日、落ち着いてから明細書(出願Aと同じもの)を提出し、その後に**「手続補正書」で改良部分(新ネタ)を追加**します。
   * ※注意:最初から新ネタを入れた明細書を提出すると、第4項の規定で出願日が繰り下がってしまい、期限切れになるリスクがあるため、「同じものを提出→補正で追加」という手順を踏むのが安全です。
2. 【戦略】特許権の存続期間を延ばす(事実上の延長)
これは少し高度なテクニックですが、知っておくと面白いです。
* ルール: 特許権の寿命(存続期間)は、**「出願日から20年」**です。
* 状況:
   * 出願Aをしたけれど、まだ審査請求していない。
   * 「この発明は長く権利を維持したいから、寿命のカウントダウン開始を遅らせたい」と考えた。
* 使い方:
   * 1年以内に、出願Aを参照して、国内優先権を主張した出願Bを行う。
   * 出願Aは、国内優先権の効果で1年3ヶ月後に取り下げ擬制(消滅)されます。
   * 生き残るのは出願Bです。
* 効果:
   * 内容は同じでも、出願Bの出願日から20年カウントされるので、結果的に出願Aのままにしておくより、権利期間が約1年後ろに伸びます。
   * この時、わざわざ明細書データを準備し直さなくても、38条の3で「Aを参照」とすれば、一瞬で手続きが完了します。
3. 【事務】誤記訂正や形式不備の修正(リセット)
あまり褒められた話ではありませんが、ミスをした時のリカバーです。
* 状況:
   * 今日、出願Aをした直後に、致命的な形式ミスや、図面の順序間違い、あるいは共同出願人の名前漏れに気づいた。
   * 「補正」で直すのも面倒だし、補正できない項目(出願人の変更など)もあるかもしれない。
* 使い方:
   * 即座に、さっきしたばかりの「出願A」を参照して、正しい書誌事項(願書)で「出願B」を行う。
   * その後、出願Aは取り下げる。
* メリット:
   * 明細書のデータを再度アップロードする手間や通信時間を省けます(特に図面が多くて容量が巨大な場合、参照出願なら一瞬で終わります)。
試験対策上の注意点(ここ大事!)
「日本の出願を参照する場合」には、外国出願を参照する場合と違って、提出書類が少し楽になります。
* 外国出願を参照した場合:
   * 事後提出時に、**「先の出願の認証謄本(コピー)」**が必要です。
* 日本出願を参照した場合:
   * 謄本の提出は不要です。(特許庁の中にデータがあるから、自分で自分とこのデータを見てね、ということです)。
まとめ
国内出願を参照するのは、主に以下の時です。
> 「データ送信の手間すら惜しいほど切羽詰まっている時」
> または
> 「国内優先権を使って、戦略的に出願日をずらしたい時(の手抜き)」
>
基本的には**「優先権」**とセットで使われるテクニックだと覚えておけば、実務的な理解としてはバッチリです!
次は、この流れで**「国内優先権(41条)」の重要ポイント(要件や効果)について深掘りしますか?それとも「外国語書面出願」**に戻りますか?

それは、ずるくない?許される?

その感覚、すごくまっとうです!
一見すると**「寿命を1年延ばすなんて、後出しジャンケンでズルい!」**と感じますよね。
でも、結論から言うと、これは**「完全に合法」であり、むしろ「特許法が推奨している使いこなし術」**なんです。
なぜこれが「ズル」ではなく「正当な権利」なのか、その法的・政策的な理由を解説します。(ここを知ると、特許法がもっと面白くなります!)
1. なぜ「寿命延ばし」が許されるのか?(国内優先権の趣旨)
この「1年リセット」ができるのは、38条の3(参照出願)の力ではなく、41条(国内優先権)の力です。
法律がこれを認めている理由は、主に2つあります。
① 国際的な不平等をなくすため(パリ条約との均等)
これが最大の理由です。
* 外国へ出す場合: 日本で出願Aをして、1年後にアメリカで出願B(Aに基づく優先権主張)をしたとします。アメリカでの特許期間は「アメリカでの出願日(B)」から20年です。つまり、国際ルール(パリ条約)を使うと、結果的に世界での権利期間がずれていくのが普通なのです。
* 日本国内の場合: もし日本国内だけでこれを認めないと、「外国に出す人は1年延びて得なのに、日本国内で頑張る人は損をする」ことになります。
   → だから、**「国内の人にも、国際ルールと同じメリット(1年の猶予と期間のシフト)を与えよう」**として作られたのが国内優先権制度です。
② 発明を「まとめて」守りやすくするため
* 技術は日々進歩します。1月に発明Aをして、8月に改良発明A+αを思いつくことはよくあります。
* 特許庁としては、バラバラに出願されるより、**「1年分をまとめて1つの完璧な明細書にして出してほしい」**のです(審査が一回で済むから)。
* そのご褒美として、**「まとめた新しい出願の日から20年あげるよ(古い出願は取り下げたことにしてあげるよ)」**というインセンティブを与えているわけです。
2. 「ズル」にならないための「代償」もある
実は、出願人にとっても「いいこと」ばかりではありません。それなりのコストとリスクを払っています。
* お金がかかる: 新しく出願し直すので、印紙代(出願手数料)がもう一度かかります。弁理士費用もかかります。
* 公開が早まるリスク: 原則として、最初の出願Aの日から1年6ヶ月で公開されます。期間が延びても、秘密を守れる期間が延びるわけではありません。
* 第三者の監視: 1年の間に、他社が似たような技術を出しているかもしれません(優先権があるので審査では勝てますが、競合状況は変わります)。
3. 「形式ミスのリセット」は許される?
「失敗したから、今のなし!もう一回!」というリセットについても、特許法は許容しています。
* 特許庁にとっても、形式不備だらけのダメな書類をちまちま補正(修正)されるより、「キレイな完全版」を出し直してもらった方が、事務処理がスムーズで助かるからです。
* ただし、これも「同日中」や「極めて短期間」にやらないと、その隙間に他社の出願が入ったり、自分が公開してしまったりして、特許が取れなくなるリスクがあります。自己責任の範囲内での「やり直し」です。
結論
> 「特許法は、1年以内なら『より良い完全版』に書き換えることを推奨している」
>
だから、38条の3(参照出願)を使って手軽に出願日を確保しつつ、国内優先権(41条)で期間等のメリットを享受するのは、**「制度を熟知した賢い戦略」**として実務でも行われています。
試験でも、「国内優先権を主張した出願の特許権の存続期間は、先の出願の日から起算する」という引っかけ問題が出ますが、答えは**×**(後の出願の日から起算)です。ここ、「ズルい気がする」という感覚を持っていると、逆に間違えません!

でも、補正では、新規追加禁止だよね

その通りです!「補正(手続補正)では、新規事項の追加は厳禁」(特許法第17条の2第3項)。
これは特許法の鉄則中の鉄則です。
ここで、頭がこんがらがらないように、「補正」と「国内優先権」(そして**「参照出願の事後提出」**)の違いを明確に区別しましょう。
「混ぜるな危険」の3つのパターンで整理します。
1. 【通常の出願】の「補正」
* ルール: 出願当初の明細書等に書いていないことを追加するのは禁止。
* 理由: 「やっぱりあれも発明してた!」と後から言えてしまうと、その間に同じ発明をした他社が不利益を被るからです(先願主義の崩壊)。
* もし追加したら?: 拒絶理由になります(拒絶理由通知が来て、その追加部分を削除しないと特許になりません)。
2. 【国内優先権】を使った出願(さっきの「ズルい」話)
* ここが違う: これは「補正(修正)」ではなく、**「新しい出願(別物)を出し直す」**行為です。
* ルール: 新しい出願(出願B)なので、新しい内容(改良発明)を自由に追加してOKです。
* ただし判定が分かれる:
   * 昔の内容(出願Aと同じ部分): 出願Aの日(昔)に判断してもらえる。
   * 新しい内容(追加した部分): 出願Bの日(今)で判断される。
* 結論: 「新規追加禁止」のルールは適用されません。なぜなら「新しい出願」だからです。その代わり、新しい部分の基準日は「今日」になります。
3. 【参照出願】の明細書提出
これが今回の38条の3の話です。
* 状況: 箱(願書)だけ先に出して、後から中身(明細書)を提出する。
* 疑問: 後から出すのに、新規追加にならないの?
* 答え:
   * 参照先(先の出願)の範囲内なら: セーフ。「最初からあった」とみなされます。
   * 参照先の範囲を超えたら(新規追加したら):
     * 拒絶はされませんが、**「出願日が繰り下がる」**というペナルティを受けます。
     * つまり、「今日追加したんだから、今日が出願日ね」と扱われます。
比較まとめ
| アクション | やってること | 新しい内容を追加したら? | 結果 |
|—|—|—|—|
| 補正 | 今ある出願の修正 | × ダメ | 拒絶理由になる(削除を求められる) |
| 国内優先権 | 新しい出願の提出 | ○ OK | 追加部分は「今日」の基準で審査される |
| 参照出願 | 予約した中身の提出 | △ ペナルティ | 全体の出願日が「今日」になっちゃう |
ユーザーさんの疑問への回答
「補正では新規追加禁止だよね?」
→ その通りです!
だからこそ、
* ミスを直したいだけなら「補正」で済ませますが、新しいアイデアを追加したい時は、補正では無理なので**「国内優先権」を使って出し直す**のです。
* 参照出願をした後に「あ、書き忘れてた!」と気づいた場合、後からこっそり明細書に書き足すと、出願日が繰り下がって(遅くなって)しまうので、結局は不利になります。
この「使い分け」が実務でも試験でも非常に重要です。
* 修正したい → 補正(範囲内のみ)
* 追加したい → 国内優先権(出し直し)
* 手元にない → 参照出願(後で持ってくる)
と覚えておくと完璧です!
次は、この**「国内優先権」**について、もう少し詳しく(特に「先の出願」がどうなっちゃうのか等)見ていきますか?

参照出願は国内優先権より、自由度高いということ?

結論から言うと、真逆です!
「国内優先権」の方が、圧倒的に自由度(中身をいじる自由)が高いです。
「参照出願」は、むしろガチガチに不自由です。「一字一句、あっちの出願と同じだと言ったな? 嘘だったら承知しないぞ(出願日を繰り下げるぞ)」という、手錠をかけられた状態だと思ってください。
この「自由度の違い」を、短答試験や実務の視点でスッキリ整理しましょう。
1. なぜ「参照出願」は不自由なのか?
参照出願(38条の3)の本質は、**「コピー&ペーストの省略」**に過ぎないからです。
* ルール: 「内容はあっち(先の出願)にある」と宣言した以上、後から出す明細書は**「あっちの出願」の範囲内でなければなりません**。
* もし新しいことを書いたら?:
   * それは「参照先」には書いてなかったことになります。
   * つまり、**「その新しいことが書かれた日(今日)」**まで、出願日全体がズルズルと繰り下げられてしまいます(第4項のペナルティ)。
* 結論: 出願日を確保したいなら、**「新しいことは一切書けない」**のです。
2. なぜ「国内優先権」は自由度が高いのか?
国内優先権(41条)の本質は、**「バージョンアップ(合成)」**だからです。
* ルール: 「昔の出願A」を基礎にして、「新しい出願B」を出します。
* 新しいことを書いていい?: ガンガン書いてOKです!
   * 昔の内容(A部分): 昔の日(Aの出願日)で審査してくれる。
   * 新しい内容(+α部分): 今の日(Bの出願日)で審査してくれる。
* 結論: 出願日(判断基準日)を部分ごとに使い分けることができるので、**「改良発明を追加する自由」**が完全に保障されています。
3. 決定的な違いの比較表
| 比較項目 | 参照出願 (38条の3) | 国内優先権 (41条) |
|—|—|—|
| イメージ | 「原本の確認」 | 「新作の発表」 |
| 中身の変更 | 不可(原則) | 可(大歓迎) |
| 新規事項の追加 | 追加すると出願日が遅れる(損する) | 追加しても問題なし(そこだけ今日の日付) |
| 使う場面 | 「データがない!」「送るのが面倒!」という緊急・手抜き時 | 「改良した!」「内容を完璧にしたい!」という攻めの時 |
| 自由度 | 低い(過去に縛られる) | 高い(未来を作れる) |
4. よくある勘違い(ここが混乱の元!)
「参照出願の方が、明細書を出さなくていいから楽(自由)なんじゃないの?」と思うかもしれません。
* 手続の自由度(楽さ): 参照出願 > 国内優先権
   * 確かに、紙を出さなくていいので手続は楽です。
* 内容の自由度(アレンジ): 参照出願 < 国内優先権
   * 中身については、一歩もはみ出せないという制約があります。
5. 最強の使い方は「合体技」
実は、この2つは対立するものではなく、組み合わせて使うことができます。
> シーン:
> 「1年前の出願Aに基づいて、国内優先権を主張して出願Bをしたい。でも、出願Bの明細書を作る時間がなくて、とりあえず出願Aと全く同じ内容でいいから、今日出願日を確保したい!」
>
* 国内優先権を主張する(41条)。
* 同時に、参照出願を利用して、「中身は出願Aを見て!」と言う(38条の3)。
こうすれば、「手続きは手抜き(参照出願)」しつつ、「法的地位は確保(国内優先権)」でき、後から「補正」で微調整(ただし新規事項はNG)したり、あるいはその出願Bをさらに基礎にして別の出願Cへ繋げたり…といった戦略が組めます。
まとめ
* 参照出願 = 「内容は過去と同じです(変更不可)」
* 国内優先権 = 「内容は過去+未来です(変更・追加OK)」
「自由度が高いのはどっち?」と聞かれたら、迷わず**「国内優先権!」と答えてください。
参照出願は、あくまで「緊急時のバックアップ」や「事務軽減ツール」**に過ぎません。

明細書の範囲内ならクレームは変えていい?

はい!変えて大丈夫です!
むしろ、そこが弁理士の腕の見せ所でもあります。
参照出願(38条の3)において、
「明細書と図面」は参照先と同じでなければなりませんが、
「特許請求の範囲(クレーム)」は、参照先のクレームと違っていてもOKです。
なぜそうなるのか、**「技術の開示」と「権利の要求」**の違いから解説します。
1. 許される理由(ロジック)
特許法において、この2つは役割が違います。
* 明細書・図面 = 「技術の開示」(ネタ帳)
   * この日に、この技術が存在したことを証明するもの。
   * だから、ここを変える(増やす)と、「その日になかった技術」になるので、出願日が繰り下がります(ペナルティ)。
* 特許請求の範囲 = 「権利の要求」(取り分)
   * 「ネタ帳(明細書)」に書いてあることの中から、「今回はここを権利にしたい!」と選ぶもの。
   * ネタ帳に書いてある範囲内であれば、どの部分をどう切り取って権利請求しようが自由です。
2. 具体例でイメージ
アメリカでした出願(US出願)を参照して、日本に出願(JP出願)する場合を考えてみましょう。
* 【US出願(参照先)】
   * 明細書: 「カメラ付きドローン」と「その制御プログラム」について詳しく書いてある。
   * クレーム: 「ドローンの機体構造」だけを権利請求している。
* 【JP出願(参照出願)】
   * 参照: US出願を参照する。
   * 事後提出する明細書: US明細書(の翻訳)をそのまま出す。(一致させる必要あり)
   * 事後提出するクレーム: 「制御プログラム」を権利請求する。(USクレームと違っていてもOK!)
判定:
明細書(ネタ帳)の中に「制御プログラム」の話がちゃんと書いてあるなら、USでクレームしていなくても、日本では最初からプログラムをクレームしてOKです。出願日も繰り下がりません。
3. 実務での注意点(ここだけ気をつけて!)
「変えていい」と言っても、**「明細書に書いてないこと」**をクレームにしてはいけません。
* ○ OKパターン:
   参照先の明細書の「実施例3」に書いてあるけど、向こうではクレームにしていない技術を、日本ではメインのクレームにする。
* × NGパターン:
   参照先の明細書に一言も書いていない新技術を、日本のクレームに入れる。
   → これをやると、「サポート要件違反(36条6項1号)」になるか、それを直そうとして明細書に追記すると「新規事項追加(出願日繰り下がり)」になります。
まとめ
* 明細書(技術内容): 参照先と同じでなければならない(厳守)。
* クレーム(権利範囲): 明細書の範囲内なら、参照先と違っていても自由。
つまり、参照出願は**「ネタ(明細書)は過去のものを使い回すが、料理の仕方(クレーム)はその国に合わせて変えられる」**という制度です。
これで「参照出願」の仕組みはほぼコンプリートですね!
ここまで理解できれば、あとは**「パリ条約の優先権(43条)」と「国内優先権(41条)」**の細かい手続きの違いなどが、短答試験のラストピースになります。そちらの比較整理に進みましょうか?

頼む。

よし、任せてください!
「パリ条約による優先権(43条)」と「国内優先権(41条)」。
この2つは「兄弟」のような制度ですが、性格が決定的に違う部分があります。
試験では**「どっちの制度の話をしているか?」**を瞬時に見抜かないと、反対の答えを選んでしまう危険地帯です。
「似ているところ」ではなく、**「決定的に違う4つのポイント」**に絞って比較整理します。
1. 全体像の比較(ざっくり把握)
| 比較項目 | パリ条約の優先権 (43条) | 国内優先権 (41条) |
|—|—|—|
| 通称 | パリ優先(パリ優) | 国内優先(国優) |
| 基礎となる出願 | 外国での出願 | 日本での出願 |
| 目的 | 国際的な不利益の解消
(外国へ行く時のタイムラグ救済) | 国内での改良・まとめ
(累積的保護の排除) |
| 先の出願の運命 | 生き残る
(外国の出願は消えない) | 死ぬ
(1年3ヶ月後にみなし取下) |
| 優先権証明書 | 提出が必要
(1年4ヶ月以内) | 原則不要
(特許庁にあるから) |
2. 試験で狙われる「4つの決定的違い」
ここが合否を分けるポイントです。
① 先の出願(親)が「死ぬ」か「生きる」か
これが最大の違いです。
* パリ優先:
   * 基礎とした外国出願(親)は、日本の出願(子)をしたからといって、勝手に消滅したりしません。両方並存します。
* 国内優先:
   * 基礎とした日本出願(親)は、後の出願(子)をした日から1年3ヶ月経過した時に、**「取り下げたものとみなされる(みなし取下)」**という運命を辿ります。
   * 理由: 日本国内に「内容が重複した出願」が2つ残ると、審査が面倒だし、「二重特許(39条)」の問題が起きるからです。「新しい完全版(子)」に一本化するため、古い方は消します。
② 出願人の要件(誰が出せる?)
「出願時に誰の名義である必要があるか」が微妙に違います。
* パリ優先:
   * 先の出願の出願人(またはその承継人)。
   * ※条約上の権利なので、比較的柔軟です。
* 国内優先:
   * 後の出願をする時に、**「先の出願の出願人と同一」**でなければなりません。
   * ※もし共同出願なら、**「全員が一致」**していないとダメです。(ここよく出ます!)
③ 対象となる法域(何に基づくか)
* パリ優先:
   * 特許、実用新案、意匠、商標すべてに使えます。(パリ条約4条)
* 国内優先:
   * 特許と実用新案のみです。
   * ※「意匠登録出願」や「商標登録出願」に基づく国内優先権という制度はありません。(意匠には「秘密意匠」などの別制度があり、商標にはそもそも優先権の概念が馴染まないため)。
④ 証明書類(紙の提出)
* パリ優先:
   * 外国政府が発行した「優先権証明書」を、出願日から1年4ヶ月以内に提出しなければなりません(提出しないと効力喪失)。
* 国内優先:
   * 提出不要です。
   * 「データはあんた(特許庁)のサーバーにあるでしょ?」ということで省略できます。
3. 国内優先権だけの「特殊ルール」(短答の罠)
国内優先権(41条)には、**「累積的排除」**のための厳しいルールがあります。
> 「先の出願(親)が、すでに別の優先権の主張を伴っていた場合、その『さらに前の優先権』の効果は引き継げない」
>
これを**「累積主張の禁止」**と言います。
* 例:
   * 出願Aをする。
   * 1年後、Aを基礎に国内優先権主張して出願Bをする。(Aの内容はBの出願日に判断される。OK)
   * さらに1年後、Bを基礎に国内優先権主張して出願Cをする。
     <!– end list –>
   * Q: 出願Cの中で、「Aの内容と同じ部分」は、いつまで遡れる?
   * A: Bの出願日までしか遡れません! Aの出願日まで遡ることはできないのです。
   * 理由: これを認めると、A→B→C→D…とバトンリレーを繰り返せば、**永遠に特許期間を先延ばしできてしまう(潜水艦特許)**からです。
   * 結論: 国内優先権の効果は、一回使い切りです。
4. まとめ&イメージ図
| 制度 | キーワード | イメージ |
|—|—|—|
| パリ優先 | 「並存」 | 外国の兄(親出願)と日本の弟(本出願)が、離れて暮らしている。 |
| 国内優先 | 「一本化」 | 日本の兄(親出願)が、弟(本出願)に全てを託して消滅する。 |
試験対策の一言:
> 「国内優先権ときたら、**『先の出願のみなし取下(1年3ヶ月)』と『リレー禁止(累積禁止)』**を思い出せ!」
>
これで、優先権の基本比較はバッチリです。
さて、ここまで出願手続きの重要ポイント(参照出願・優先権)を押さえました。