科研費申請書の書き方:学術的な問いを書いて、差別化をはかろう

採択されるための科研費申請書の書き方のコツですが、簡単にライバルの応募書類との差をつける方法があります。

それは、学術的な問いをしっかり書くこと。「学術的な問いが明確か?」は、審査のポイントの一つであるにもかかわらず、そしてまた申請書を作成している本人が「研究の背景および核心をなす学術的な問い」というセクションタイトルをわざわざ書いているにも関わらず、学術的な問いが何であるのかを書いていない計画調書が多数あります。審査委員に「読み取れよ」と言うつもりなのでしょうか?なんて傲慢な態度だこと!審査委員に対してリスペクトがない申請書が高い評価を得られるでしょうか?

実際のところ、審査委員一人に割り当てられる申請書の数は100件程度もあるのだそうで、しかも、申請書の大部分は当落線上に並んでしまうそうです。つまり、多くの場合、紙一重の差で採否が決まるのです。評価が甲乙つけがたい申請書を振り分けるために、審査委員(によって)は不採択にする理由がないかどうか探し始めるのだそうです。最近読んだ科研費の教科書「狙って獲りに行く!科研費」に、審査委の実情が説明されていました。

学術的な問いがちゃんと書いてある申請書と、学術的な問いが文章中に埋め込まれていて容易には読み取れない申請書とが、全体的な評価は五分五分だったとして、審査委員はそれらを「採択」と「不採択」に振り分けなければなりません。「様式の指示に従っていない」ことは、マイナスに評価するための格好の理由になります。

様式の指示に忠実に従って、学術的な問いはきちんと書きましょう。「本研究の学術的な問いは、~である」と書いたり、「本研究では、~を学術的な問いとする。」などと書けばよいでしょう。

学術的な問いの妥当性

さて、学術的な問いは~である と書いたからといって、問いが明確になったといえるでしょうか?実はそれだけではまだまだ不十分なのです。「本研究の学術的な問いは、メガネケースの開閉に適したメカニズムが、マグネット式か、ばね式かを明らかにすることである。誰も論文報告していないので独自性が高い。」と書いてあっても、誰もそれが科研費研究に値するとは思わないでしょう。

問いは書くだけでなく、その問いの妥当性を説明することまでが必要です。問いの妥当性を説明する場所はどこか?もちろん、それは「学術的背景」の部分です。つまり、学術的背景を書く理由というのは、学術的な問いの妥当性を審査委員に納得してもらうためだったのです。これをわかっていない人が非常に多いです。そういう調書は、背景と問いが解離していて、問いの重要性がまったく伝わりません。個人的な体験談だけ書いても誰も信用しませんので、背景では、自分および他人の文献をきちんと引用して論を組み立てましょう。問いに出てくるトピックは全て背景で説明されていないとおかしいということはわかるでしょう。文献を引用して論を立てて問いを導くことができないような研究テーマであれば、それはそもそも科研費研究に適していないのかもしれません。「背景、問い」のセクションで大事なのは、客観性と論理性です。

学術的問いは明確か?

公開されている「審査の手引き」を読むと、評定要素として(1)研究課題の学術的重要性という項目があり、1点から4点までが付けられます。採点のポイントがいろいろ書いてある中に、学術的問いが明確かどうかというものがあります。学術的な問いをしっかり書いたので明確に伝えられたと思うのは、まだ早い!です。問い=研究目的(問いに答えるために行うこと)と考えて良いわけですが、問いや研究目的が申請書全体を通じて一貫していない人が非常に多いのです。

研究目的を書く場所は申請書の中に複数個所あります。研究課題名、概要の中、学術的問いのセクション、研究目的のセクション、何をどのようにどこまで(研究計画欄)の冒頭や締めの部分、その他自分が書いたところ。つまり5~6回、研究目的を書いているはずなのですが、これら5~6個の研究目的が、統一感がなくて、言っていることがバラバラ!ということが非常に多いのです。毎回言うことが違っている人が信用してもらえるでしょうか?そんな人がいう学術的な問いが明確だと言えるでしょうか。なぜバラバラなのかというと、各セクションを書いているときに考えていたことが違っていたからです。つまり、何を明らかにしようかというアイデアがまだ固まっていなくてふらふらと彷徨っていたせいで、こういった整合性のなさが生じてしまうのです。自分は大丈夫などとたかをくくらずに、謙虚に一度自分の申請書を読み返してみてください。10人中3人くらいは、致命的な失敗を見つけて青ざめることでしょう。自分で確認する自信がない人は、他人に頼んで読んでもらうといいです。

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