科研費に申請してもなかなか採択されない、あるいは、科研費に申請するのは今回が初めてという人が書いた研究計画調書を読ませていただくと、いろいろと「落とし穴」にはまっていることが多いようです。
自分では気付きにくい、申請書作成で失敗するポイントを挙げてみます。書き上げたあとのチェックリストとしてご活用ください。
研究テーマが科研費向きではない
個人の趣味だったり、製品の性能比較だったり、手技の比較だったり、手技の開発のための練習だったり、学術的な要素が無いもしくは少ないと採択されません。
解決方法:学術的な要素を入れる。プラスアルファの分析ができないか。ダメならテーマを変える。研究助成が必要ならば、科研費以外の研究助成を考える。テーマが科研費の趣旨にそぐわない場合は、いくら業績があっても、いくら申請書が良くかけていても採択されません。
研究目的が大きすぎる・小さすぎる
若手研究や基盤研究(C)の計画調書に、研究目的は「発がんのメカニズムを解明する」ことなどと書くと、大きすぎます。研究テーマは、論文というアウトプットを考えて、論文のタイトルになる程度の具体性、適度な大きさが必要です。実験内容がシンプル過ぎてテーマとして小さすぎるということはありがちなのですが、逆に、やりたいことが多すぎて実験課題を詰め込み過ぎという人もいます。研究内容が多すぎても、何を本当にやりたいのかがぼやけてしまったり、高々3年程度でそれ全部やって結果出すのは無理だよねという判断になります。
解決方法:アウトプットである論文の形をイメージして、論文タイトルと同等の大きさの研究課題名、研究目的とする。
研究目的と研究計画の不一致
研究目的が実験結果にサポートされないのに、書いた本人が気づけていないということがしばしば起こります。これは論文の査読ポイントと同じです。論文著者の主張は実験データによりサポートされているかどうかを査読者は見ます。同様に、研究計画が実施されて得られるであろう実験結果から、研究目的に書いた主張が言えるのかどうか。そこに乖離があると、即不採択です。どんなに業績のあるベテラン研究者だろうと、矛盾した計画書を書いていれば不採択にされるでしょう。
解決方法:計画欄に書いた実験結果から、最大限言える主張は何か?その主張が研究目的として書かれているかを自分でチェックする。研究目的を変えたくないのであれば、その目的が実現できるだけの実験を追加する。実験できることに限りがありそれ以上の実験をするつもりがないのであれば、研究目的に書いた主張を弱めるなりする。そのどちらかで対処するしかありません。
背景がダラダラ書かれている
ある疾患に関する科研費研究だった場合に、背景説明で、疾患の一般的な説明をしてしまうということはよくあります。しかし科研費の申請書は医学の教科書ではありませんし、その疾患のレビュー論文でもありません。漠然と背景を書いてはいけません。読んでいてどこに向かっているのかわからないような文章はNGです。
解決法:背景はそもそも何のためにあるのかという、原点に立ち返って考えてみましょう。論文の背景は、その論文で示す研究成果の「作業仮説」を導くために書かれます。同様に、科研費申請書においても、作業仮説や研究目的、学術的な問いを導くために書きます。科研費の様式では、背景と学術的な問いとを書けという指示がありますので、学術的な問いを導くように書くのが一番自然な流れになるでしょう。自分の書いた文章に方向性があるか?と自問しながら読み返してチェックしてみましょう。
先まで読まないと理解できない文章になっている
申請書は予備知識ゼロの審査委員が頭から読んだときに、既に読んだところと今読んでいるところに書いてある情報だけで意味を成さなければなりません。説明抜きで新しいことを書くと読んでも理解されません。先のほうまで読んで初めてさっき出てきた語句の説明が与えられるというのではいけません。
解決方法:応募者の頭の中には研究計画に関するあらゆる知識が詰まっているので、情報がどんな順番で紙に書いていても理解に困りません。しかし、その文章を初めて読む分野外の読者にしてみれば、書かれていることと書かれていたことだけしか手掛かりがありません。先のほうに書かれていることはまだ読んでいないので、理解の手助けにならないのです。当たり前すぎることですが、申請書を書いている本人にはなかなか気づけないものです。なので、その矛盾に気付くためには誰か専門外の人に読んでもらうしかありません。専門分野が離れた友達や家族に読んでもらって指摘してもらいましょう。
ページの下に余白がある
余白がある=書くことがない=熱意がない、よく練られた計画ではない という印象を与えてしまいます。業績欄のページの下に余白があると、業績が足りない人だと思われます。研究計画欄のページの下に余白があると、実験が少ないと思われます。
解決方法:余白を埋めるために、言葉遣いを冗長にするのはいけません。あくまで内容をしっかり書き込みましょう。ページの最下行まで書き切ることが大事です。最初に申請書のページに収まりきれなくらいの量を書いておいて、無駄な表現を削りに削ってページギリギリに収めると、応募者の熱意ややる気、研究の凄みが伝わります。
業績リストが分かりにくい
審査委員が業績を見るときに気にするのは、その応募者が最近、ファーストオーサーで論文をどれくらい出しているのか、応募者の論文がどの雑誌に掲載されているのかということです。それが一瞬で伝わるようなフォーマットで業績リストを見せるのが効果的です。
解決方法:論文タイトルの後に論文著者を書くのではなく、行の始めに論文著者を書くようにします。そうすれば、ファーストオーサーの論文がいくつもあれば、応募者の名前が一番左にきれいに揃うので、パッと見た瞬間に筆頭著者論文がどれか、いくつあるかがわかります。雑誌名も重要なので、太字にして斜体にするなど、周囲の文字から浮き立って見えるようにしましょう。
また、症例報告と総説と原著論文をごちゃまぜにする人がいますが、審査委員が一番知りたいのは原著論文の数とオーサー順、雑誌名、年です。審査委員が知りたいことが一瞬でわかるように書いていない申請書は、審査委員をイラっとさせます。イラっとした審査委員があなたの申請書に良い評価を与えてくれるでしょうか?結果は自明ですよね。
教授に指導していただく
応募者(研究代表者)が助教や講師、准教授で、研究分担者に教授を入れている場合に、教授の役割として、研究の指導、論文作成の指導などと書いてしまう人がいます。しかし、審査委員の立場からすると、独立した研究者になっていない人にあげるお金なんてありません。実際にはラボで指導を受けているとしても、申請書の上では研究リーダーは応募者その人なのです。研究代表者が研究分担者を従えて研究体制を構築しているというスタンスを崩してはいけません。
解決方法:人に指導して頂くという書き方は削除し、役割分担は敬語表現を使わずにニュートラルな記述にする。**は、***を行う、 **は***を担当する。などと書く。
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