投稿者「PhD」のアーカイブ

遠隔医療(オンライン診療)の現在

 

遠隔治療のメリットとデメリット

  1. オンライン診療のメリット・デメリットにはどんなものがある? 2021年11月2日 (更新:2022年9月7日) CLIUS クリニック開業マガジン

遠隔医療の実際例

  1. 遠隔診療を利用したがんケアの急増とその今後 2022年3月31日 自宅から車で2時間半かけてナッシュビルに行って診察を受ける代わりに、LaBonne一家はVICCの小児腫瘍医とビデオ通話をした。
  2. “売れない”と言われた遠隔医療で母子の命を救うアジア広域医療DX周産期医療パーソナルヘルスレコード メロディ・インターナショナル株式会社 チェンマイ大学の医師がiCTGを活用し、約1500ケースのデータを取得した。そのデータをもとに、50名ほどに妊産婦がより大きな医療施設での診断が勧められ、うち10名ほどには実際に異常が見つかり、特に5人はiCTGのおかげで命が助かった 願いはみんな私たちと一緒。妊婦さんは健康な赤ちゃんを産みたいし、医療従事者は目の前の患者さんを助けたいんです。

遠隔医療を実現するテクノロジー(診察)・技術開発

  1. フィンガービジョンと光学的触覚計測による眼科疾患遠隔診断治療装置の開発 中澤 徹 東北大学 教授 「分野1:遠隔医療を実現するための医療機器・システム開発」 令和4年度 「医療機器等における先進的研究開発・開発体制強靭化事業 (基盤技術開発プロジェクト)」の採択課題(AMED)
  2. 在宅慢性心不全患者の心不全再入院抑制に資する五感を生かした遠隔診療システムの開発 桝田 浩禎 大阪大学 特任助教 「分野1:遠隔医療を実現するための医療機器・システム開発」 令和4年度 「医療機器等における先進的研究開発・開発体制強靭化事業 (基盤技術開発プロジェクト)」の採択課題 (AMED)
  3. 令和4年度 「医療機器等における先進的研究開発・開発体制強靭化事業 (基盤技術開発プロジェクト)」 分野1:遠隔医療を実現するための医療機器・システム開発 患者の医療機関へのアクセス改善や医師間の診断・治療スキルの共有等を目的とした遠隔医療を促進するため、在宅患者向けデバイスや五感を用いた治療・診断補助用デバイス、遠隔手術ロボット等を開発する。(AMED)

「遠隔診療の現在と高度化に向けて求められるデジタルツールの機能2021年1月14日」という記事で、実現している機能、実現が期待される機能についての話がありました。

  1. テレビ会話システム
  2. ダーモスコピー 患部を拡大
  3. 皮膚の温度や乾燥具合 サーモグラフィー
  4. 肝臓や脾臓(ひぞう)の腫れや大きさ 超音波検査機
  5. デジタル聴診器 心音や呼吸音
  6. 検査機器をEMR(Electronic Medical Record)にオンライン接続
  7. デジタル聴診器 数万円
  8. 自宅、避難場所や公的場所、調剤薬局に検査機器を設置し診察
  9. AIを使って顔の映像から脈拍や血圧、体温を計測
  10. 歩行映像から神経疾患や四肢の痛み
  11. 音声から呼吸数
  12. 自動問診システムもAI
  13. スマートフォンなど手近なツールでバイタルチェック「mobile health」
  14. 毎日のモニタリングデータはオンライン診療 血圧、体重、体温
  15. 加速度センサー 運動量
  16. 位置情報 生活の動き
  17. 生活の動き 精神疾患 うつ病
  18. マイクや振動 睡眠状態 睡眠データ
  19. パルスオキシメータ SpO2測定、
  20. 電極の付いた下着で心電図や筋電図
  21. Multisensor Monitoring(マルチセンサー・モニタリング)
  22. 運動をしていないのに体温や脈拍が上昇  適時な介入 timely intervention(タイムリー・インターベンション)

遠隔診療の現在と高度化に向けて求められるデジタルツールの機能 2021年1月14日 クリニック開業マガジン

遠隔医療ビジネス

  1. 国で遠隔医療などのデジタルヘルス市場が成長  2022年11月29日 JETRO 遠隔医療市場は896億ドル規模 COVID-19(新型コロナウイルス)はイノベーションへの変化と適応を加速させた。10年かかると言われていた遠隔医療の実装がわずか3カ月で達成された」
  2. 遠隔医療は世界で拡大、がっかり足踏み日本市場 日経ヴェリタスセレクト 2022年4月11日 4:00  [有料会員限定] 日本は医療機関のデジタル化への消極姿勢や診療報酬の低さなどから普及のペースは世界に比べ周回遅れ
  3. 遠隔医療フェア 2020年には135億円だった遠隔医療市場が急拡大し、2025年には約3倍の400億円を超えると言われています

2022年10月開催 第5回 医療と介護の総合展 東京 -メディカルジャパン- 会場風景

参考

  1. 医師の偏在と僻地医療の課題にVirtual Careで立ち向かう 2022.09.12 BY SALESFORCE

遠隔医療ビジネスの動き

  1. 2021年5月 大手小売業ウォルマートが遠隔診療大手ミーMD(MeMD)を買収し。店舗併設の簡易診療所「ウォルマート・ヘルス」の拡大

遠隔医療と医師法との関係

  1. 遠隔医療の現在と在宅医療での立ち位置 2020年2月28日 メドアグリケアグループ 専門医が総合医の診断をサポートDoctor to Doctor:D to D、へき地の患者さんを診察するDoctor to Patient:D to P 医師法20条「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方箋を交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。ただし、診療中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りではない。」 診察とは従来、問診・視診・触診・聴診など様々な方法で行われること 遠隔医療は診察に該当するという解釈 遠隔医療は医師法で規定されている「無診察医療禁止」をクリアしているという解釈になりました

医師対医師D to D の遠隔医療

  1. 遠隔医療モデル参考書 -医師対医師(DtoD)の遠隔医療版 2022年4⽉28⽇ 総 務 省(PDF136ページ)

”炎症性腸疾患”を知る〜どこにいても同じ治療を!遠隔医療の今 UHB北海道文化放送

遠隔医療の経緯

  1. 遠隔診療の今とこれから 2018/10/20 重症化してから病院に来院 患者さんの日常生活 薬をきちんと飲んでない患者
  2. 2016 年4 月医政局「対面診療なしは医師法に抵触する」
  3. 2015 年8月 厚生労働省医政局長「離島や僻地に限らない」「特定疾患に限らない」「対面診療と適切に組み合わせればよい」
  4. 1997年 厚生省健康政策局長 遠隔診療通知

国家政策・議論・研究

  1. 遠隔医療、「基本方針」策定に向け議論始まる 2022/08/22 中西 亜美=日経メディカル 厚生労働省は2022年8月17日に社会保障審議会医療部会を開催し、遠隔医療のさらなる活用に向けて新たに定める「基本方針」について議論した。
  2. 2022年3月28日 第87回社会保障審議会医療部会  オンラインによる開催とし、傍聴は報道関係者のみ デジタル田園都市国家構想実現会議 遠隔医療の活用促進に向けて、ICT機器の導入支援
  3. 遠隔医療技術活用に関する諸外国と我が国の実態の比較調査研究(H22-医療-指定-043)平成22-23年度 総合研究報告書主任研究者 酒巻 哲夫平成24(2012)年 3月 厚生労働科学研究費補助金地域医療基盤開発推進研究事業

参考

  1. 日本遠隔医療学会

解糖系、TCA回路、電子伝達系で産生されるATPの総数は38分子?36?34?32?31?30?28?

生化学の教科書をあれこれ見ていると、解糖系、TCA回路、電子伝達系で産生されるATPの総数がまちまちです。最大38分子、36分子、34分子、32分子、31分子、30分子、28分子といった記述を見たことがあるような気がします。

  1. グルコース1モルから好気的解糖系・クエン酸回路で38モルのATPが産生。shinshu-u.ac.jp
  2. グルコース1モルから38モルのATPを生成する(実際には30モル程度になる)kyoto-u.ac.jp
  3. 好気呼吸でのATPの収支は、グルコース1分子あたり解糖系で2分子のATP、クエン酸回路で2分子ATP、電子伝達系で最大34分子ATPであり、合計で最大38分子のATPになる。wikibooks.org

 

レーヴン/ジョンソン『生物学』にわかりやすい説明がありました(176ページ)。

  1. グルコース1分子あたり、解糖系でまず正味2分子のATPが産生されます。
  2. また解糖系でNADHが2分子産生されます。NADH1分子あたり、ATP3分子が産生される換算だそうなので、ここでATP6分子になるはずのところですが、実際には、細胞質に存在するNADHをミトコンドリアの内部へ輸送する際に、NADH1分子あたりATP1分子を消費するため、このNADH2分子から産生される正味のATPは2x3-2=分子なります。
  3. ピルビン酸が脱炭酸反応で酸化されてアセチルCoAがつくられるときに2つのNADHが産生しますので、2x3=6 で、ATP6分子に相当します。
  4. TCA回路では(グルコース1分子あたり)GTPが2分子できてこれがATPに変わるので、ATP2分子が産生。
  5. TCA回路ではNADHは(グルコース1分子あたり)6分子産生するので、6x3=18で、ATP18産生。
  6. TCA回路ではFADH2が(グルコース1分子あたり)2分子でき、FADH2の1分子につきATPが2分子産生される換算なので、2x2=4で4分子のATPが産生されます。

これらを合計すると36分子ということになります。最大38と言う言い方がなされるのは、細胞質のNADHをミトコンドリアに輸送するときに消費されるNADHを勘定に入れていないということなのでしょうか。この教科書の説明によれば、実際にはプロトン勾配のプロトンが必ずATP産生に使われるとは限らず、一部は単純に漏れ出てしまって何にもつかわれなかったり、あるいは、他の仕事に使われることもあるため、換算式としては、NADH1分子からATP2.5個FADH21分子からATP1.5個で計算して、

  1. 解糖系ATP 2 ATP
  2. 解糖系NADH 2×2.5ATP – 2ATP(輸送料)=
  3. ピルビン酸の脱炭酸反応 NADH 2個x2.5 ATP =5
  4. TCA回路 GTP 2x1 ATP =2
  5. TCA回路 NADH 6個x2.5 ATP  = 15
  6. FADH2 2個x1.5 ATP =3

この計算だと、30個のATPができるということになります。

ATPの個数に関する参考資料

  1. 呼吸で生じるATPの数とエネルギー変換の効率 早稲田大学 園池弘毅

エネルギー変換効率

看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。 糖質や脂質がもつ結合エネルギーの約70%がATPに変換され、約30%が熱になる。ATP1モルの加水分解で得られるエネルギーを-7.3kcal/molとして計算している文献もあるが、その場合は、糖質および脂質がもつ結合エネルギーのATPの化学エネルギーへの変換効率(図1の70%)を低く見積もることになる。(熱産生|体温とその調節 看護roo!)

水1分子と反応して、図2の右上のようにADPとPi(無機リン酸)に分解(加水分解)するときにエネルギーを放出します。これが、ATPのエネルギーとよんでいるものの正体です。このエネルギーの値は、ATPやADPの濃度にもよりますが、-10 kcal/molぐらいです。‥ イオンの価数が-4のATPやピロリン酸を例にとって考えましょう。3つのリン酸基に-4の負電荷が存在する電子状態は電子間のクーロン反発により極めて不安定です。これが、-1価のPiと-3価のPPiに分解すると、この反発が軽減されて大きく安定化します。しかし、この安定化の自由エネルギー∆Geleは、-10 kcal/molどころではなく、ピロリン酸でおよそ -300 kcal/mol, ATPで -170 kcal/molほどもあります。-10 kcal/molという程良い大きさになる為には、加水分解に伴って不安定化する要因が他にある筈です。‥ 水和に起因する自由エネルギーの不安定化∆Gsolが先の∆Geleの寄与と絶妙に相殺することにより、加水分解自由エネルギー∆Gが -10 kcal/molとなります。しかも、非常に面白いことに、ATPやピロリン酸の総電荷を様々に変えても、放出される自由エネルギーは-10 kcal/molで一定に保たれることが明らかになりました。(生命エネルギーの通貨ATP 〜ATPのエネルギー放出の分子メカニズム〜 東北大学理学研究科)

エネルギー代謝の基本原理:炭水化物はどのようにエネルギーを蓄えていて、それを解糖系、TCA回路、電子伝達系がどのように取り出しているのか?

エネルギー代謝を一言で説明するなら、グルコースC6H12O6を二酸化炭素と水に分解する過程でエネルギーを取り出しているということになろうかと思います。しかし、グルコースのどこにそんなエネルギーが蓄えられていたのでしょうか。また、電子伝達系で電子がさまざまな物質を移動していくことでなぜ、エネルギーが取り出せるのでしょうか。自然が作り出した巧妙なエネルギー代謝の仕組みに驚く一方で、なんとなく腑に落ちないモヤモヤが残ります。しっくりこないということは、まだ理解が足りていないということでしょう。

生化学の教科書を読んでも、エネルギーがどうやって蓄えられているのかの説明があまり直接的ではないように感じます。明確に説明していると感じられるウェブ解説記事や教科書をいくつか紹介しておきます。

レーヴン/ジョンソン生物学

レーヴン/ジョンソン生物学』(上巻)原書第7版 培風館

レーヴン(Raven)/ジョンソン『生物学』では、重力による位置エネルギーの紹介と説明をまず最初にしていて、概念を導入します。マクロな話として運動エネルギーと位置エネルギーを説明しています。そして、本質的な部分で重力による位置エネルギーも電場による位置エネルギーも同じなので、電子のエネルギーに関しては位置エネルギーという概念で説明をしていました。エネルギー代謝を理解するうえで、このRavenの教科書の説明が一番すんなりと頭に入ってきました。重力による物体の位置エネルギーはイメージしやすいですが、電子の位置エネルギーも結局同じことで、電子の位置エネルギーの差が、取り出されているというわけです。

光合成では、光から得たエネルギーを利用し、小さな分子(水と二酸化炭素)をより複雑な分子(糖類)に化合させていく。つまり、得られたエネルギーは位置エネルギーとして糖分子の原子間結合に蓄えられるのである。(144ページ)

化学反応の過程では、化学結合に蓄えられたエネルギーが新しい結合に移動する。実際には、電子がある原子や分子からほかの原子や分子に渡される。(145ページ)

原子や分子が電子を失うことを酸化されるといい、この過程を酸化とよぶ。このよび方は、生物において酸素原子がもっとも一般的な電子の受容体となっていることを反映している。(145ぺージ)

北大オープンコースウェア(OCW)

北大のウェブ教科書でも同様の解説がありました。

電子は原子核の周りを回っています。そのため、運動エネルギーと引きつけられる力による位置エネルギーがあります。分子では、この電子の運動の位置が変わり、それに伴って位置も変わるため位置エネルギーが変化します。このような力は、電子の電荷と関係していますので、原子ごとに異なります。このため、分子をバラバラにして原子の状態にするのに必要なエネルギーは分子ごとに異なることになります。したがって、分子同士の結合の仕方を変えたときに、エネルギーの低い状態に移ろうとします。これはちょうど、
坂を転がるボールと同じようなものです。(第12章 炭素の化学と化学反応 ocw.hokudai.ac.jp)

名城大講義資料

この説明も非常にわかりやすいと思いました。

それぞれの原子軌道について、そこに電子が入った時の「エネルギー」の値が決まっている。普通はこれを略して「原子軌道のエネルギー」と呼ぶ。電子のエネルギーとは、電子が持つ運動エネルギーと位置エネルギーを足したものである。‥ エネルギーの高い電子は、そのエネルギーを他の電子に渡して、より安定な状態に移ろうとする。原子や分子のエネルギーも、その大部分は電子のエネルギーである。従って、原子や分子が化学反応を起こそうとする原動力は、それらを構成している電子がより安定な状態(つまり「エネルギーの低い状態」)に変化しようとすることである。(有機化学基礎 講義資料 第2章「電子構造と共有結合 (2)」 meijo-u.ac.jp/~tnagata/)

 

日本物理学会編『生体とエネルギーの物理』第5章「生体エネルギー変換の戦略」(垣谷俊昭 著)

この本によれば、グルコース中のC-H結合やC-C結合に存在する電子のエネルギー準位は、酸化されてCO2になったときのC-O結合やH2OになったときのH-O結合に比べて、高い状態にあります。酸素は電気陰性度が大きい(=電子のエネルギー準位が低い)ので、CやHの電子にしてみれば、酸素と結合したほうがエネルギーが低い状態になれるというわけです。

この本には酸化還元電位の解説もあり、電子を引き抜くのに必要な仕事という目安として考えればいいということです。酸素は電気陰性度が大きい(=エネルギー準位が低い)ので、電子を引き抜くには大きな仕事量が必要になります(すなわち、酸化還元電位が大きい)。酸化還元電位が大きい物質ほど、電子を受け入れやすいという関係になります。

「電気陰性度」や「酸化還元電位」などいろいろな概念が登場しますが、これらは便利だから使っているだけで、概念としては、「電子のエネルギー準位」という一つのものしかなく、いろいろ言い換えているだけのように思います。

 

生物物理43(3)150-153ページ(2003年) 談話室  グルコースのエネルギーとは?

と言う記事にも、エネルギーがどこに蓄えられているのか(=化学結合)に関する考察・解説があります。

グルコースがエネルギー物質であるというとき, それはグルコースの酸化反応 1/6 C6H12O6 + O2 → CO2 + H2O における∆rH˚<0をさしている(∆rH˚は反応によるエンタルピー変化の値). もとよりエネルギーは相対的な値であり, グルコースのエネルギーの絶対値を云々することはできないから, 酸化反応によっていかほどまでエネルギー水準が降下するか, これが意味のある設問である. (生物物理43(3)150-153ページ(2003年) 談話室  グルコースのエネルギーとは?

上記の指摘は当たり前なのですが、グルコースが蓄えているエネルギーという言い方をしてしまうと、グルコースに関して何か絶対的な数値を思い浮かべてしまうため、初めて学ぶ人に誤解させてしまいがちな物言いだと思います。そのことに注意して読めば、下の教科書の解説もわかりやすい(というか、他ではあまりあからさまに書いていない言葉遣いで書かれている)。

何故電子を失うことが酸化なのか、それは酸素の電気陰性度が大きい(異原子間の共有結合において、酸素は電子を自分のほうに引き付ける力が強い)からというわけです。

酸化還元反応は生命におけるエネルギーの流れにおいて重要な役割をになっている。というのは、原子から原子へ受け渡される電子自体がエネルギーを運ぶからである。(145ぺージ)

電子がある原子から飛び出し(酸化)ほかの原子に移動する(還元)と、電子に与えられたエネルギーも一緒に移動し、その電子は異動先の原子でエネルギーレベルの高い電子軌道に入ることになる。与えられたエネルギーは化学的な位置エネルギーとして蓄えられ、その電子が本来のエネルギーレベルに戻るときに原子からエネルギーが放出されるのである。‥ 還元型の分子は酸化型の分子に比べて多くのエネルギーを持っていることになる。(145ページ)

どんな教科書でも結局は同じことを説明しているはずなのですが、ちょっとした言葉遣いの違いによって、理解のしやすさがだいぶ変わってきます。もちろん、学ぶ側の予備知識の量の違いも大きく影響します。

電子のエネルギーと化学反応
電子は「低いエネルギーの状態」になろうとする
(水が「低い方に流れる」のと同じ)
(水:重力のエネルギー、電子:電気的エネルギー)
・「低いエネルギー」を目指して電子の状態が変わる
→ 原子間の結合が変わる
→ 化学反応が起きる

(https://www2.meijo-u.ac.jp/~tnagata/education/ochemb/2019/ochemb_02_slides.pdf)

上の説明は、とても分かりやすいです。当たり前すぎてなかなか教科書に書かれていないことが述べられていると思いました。

もう一つの説明

今までは(上の説明では)、炭水化物の中の炭素‐炭素間、あるいは炭素ー水素間で共有されている電子対のエネルギー準位について考えてきましたが、ネットをいろいろみていたら、酸素分子のもつ電子のエネルギーが最大であり従来の考え方は間違っているという議論がありました。

  1. Oxygen Is the High-Energy Molecule Powering Complex Multicellular Life: Fundamental Corrections to Traditional Bioenergetics Klaus Schmidt-Rohr* Cite this: ACS Omega 2020, 5, 5, 2221–2233 Publication Date:January 28, 2020 https://doi.org/10.1021/acsomega.9b03352

従来のエネルギー代謝の考え方に対する修正という過激な論文タイトルです。要旨も過激でした。

  • crucial role of the highest-energy molecule involved, O2
  • The chemical energy utilized by most complex multicellular organisms is not predominantly stored in glucose or fat, but rather in O2 with its relatively weak (i.e., high-energy) double bond.
  • Accordingly, reactions of O2 with organic molecules are highly exergonic, while other reactions of glucose, fat, NAD(P)H, or ubiquinol (QH2) are not, as demonstrated in anaerobic respiration with its meager energy output.
  • The notion that “reduced molecules” such as alkanes or fatty acids are energy-rich is shown to be incorrect
  • Glucose contains a moderate amount of chemical energy per bond (<20% compared to O2)
  • the “terminal” aerobic respiration reaction with O2 does a large free energy change occur due to the release of oxygen’s stored chemical energy
  • The actual reaction of O2 in complex IV of the inner mitochondrial membrane does not even involve any organic fuel molecule and yet releases >1 MJ when 6 mol of O2 reacts
  • The traditional presentation that relegated O2 to the role of a low-energy terminal acceptor for depleted electrons has not explained these salient observations and must be abandoned.
  • Its central notion that electrons release energy because they move from a high-energy donor to a low-energy acceptor is demonstrably false

https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsomega.9b03352

ちょっと意表を突かれた気分です。2020年の論文ですが、現在どのように評価されているのでしょうか。

  1. This article is cited by 52 publications.

炭水化物が燃焼して(=酸素分子の存在下で酸化されて)水と二酸化炭素が生じることによりエネルギーが取り出されるわけですが、その取り出されるエネルギーはもともと何だったかといえば、貢献度でいうと炭水化物が蓄えていたものよりも酸素が蓄えていたもののほうがはるかに大きいというのが著者の主張のようです。

  • O2という最も高エネルギーな分子の重要な役割
  • 化学エネルギーは、主にブドウ糖や脂肪にではなく、比較的弱い(つまり高エネルギーな)二重結合を持つO2に蓄えられている
  • アルカンや脂肪酸などの「還元された分子」がエネルギー豊富であるとする考え方は正しくない
  • O2を用いた「末端」の好気呼吸反応では、酸素の蓄えられた化学エネルギーの放出により大きな自由エネルギー変化が生じます
  • ミトコンドリア内膜の複合体IVでのO2の実際の反応には、有機燃料分子が関与しておらず、それでも6 molのO2が反応すると1 MJ以上が放出されます
  • O2が電子不足の末端受容体としての低エネルギーの役割に限定された従来の説明は、これらの観察を説明しておらず、放出されたエネルギーは高エネルギー供与体から低エネルギー受容体への電子の移動によるものとする中心的な概念は明らかに誤っています
  • 末端」の好気呼吸における低い「末端」還元ポテンシャルは、重要な反応物であるO2の非常に高いエネルギーに帰因できます。これは、O2のない対応する半反応との比較で確認されています。
  • 電子は主に酸素ではなく水素によって受け入れられます
  • 重要であるのは、グルコース、NAD(P)H、またはATPではなく、O2である。

(https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsomega.9b03352 英語要旨の一部をChatGPT-3.5で日本語に翻訳)

論文中では、下のthat以下の解釈は間違いだと断定しています。それこそ自分のこれまでの理解だったのですが。。。

If students combine these concepts, they may reasonably (but incorrectly) conclude that the energy of combustion mostly derives from the bond energies of organic “fuel” molecules and that the energy differences are due to different electron affinities; for instance, the final step of aerobic respiration with transfer of electrons to oxygen is interpreted as the low-energy endpoint of the sequence of reactions.

電子が流れるとなぜ仕事ができるのか

生化学の教科書を読むと、電子が移動していくということが書かれていますが、それがなぜエネルギーを取り出す(仕事をする)ことになるのでしょうか。電子が移動する際に、位置エネルギーの高いところから低い所へ移動するので、それにより失われたエネルギーは何か別の形になっているはずです(エネルギーは形態がかわるだけで、量的には不変なので)。電子伝達系では、プロトン勾配に逆らってプロトンを輸送したりする仕事がなされるわけです。つまりプロトン勾配によってエネルギーが蓄えられるようになったのですね。

  1. 電力と電力量 高校物理をあきらめる前に(yukimura-physics.com)

生きることの意味

人間は生きている限り、栄養素からエネルギーを取り出し続けています。どうやってそうしているのかといえば、有機物の炭素―炭素間、あるいは炭素ー水素間の電子(これらの位置エネルギーは比較的高い)が、組み替えられて二酸化炭素や水といった、炭素ー酸素間、あるいは、水素ー酸素間の電子(これらの位置エネルギーは低い)になったときの、その位置エネルギーの差を別のエネルギーの形(ATPの高エネルギーリン酸結合)にしているわけです。つまり、電子が落ち着くべき場所(=一番位置エネルギーが低い場所)に落ち着くことが、生きているということだと言えます。それを端的に表現したのが、ノーベル賞を受賞しているハンガリーの生理学者の言葉です。

「人生とは、電子が自分の居場所を探しているだけのことだ。」

Life is nothing but an electron looking for a place to rest. Hungarian Nobel prize winner, Albert Szent-Györgyi

https://blogs.scientificamerican.com/thoughtomics/a-spoonful-of-molybdenum-some-ulysses-and-the-origin-of-life/

https://asm.org/Articles/2019/November/Microbial-Extracellular-Electron-Transfer-is-a-Far

https://www.scirp.org/(S(lz5mqp453edsnp55rrgjct55.))/reference/referencespapers.aspx?referenceid=2744912

生化学を学んでエネルギー代謝の原理を知ると、セント=ジェルジ・アルベルトのこの言葉が深く心に染み入ります。

参考サイト

  1. 酸化還元反応式 だいたいわかる高校化学(基礎)
  2. 呼吸鎖の各酸化還元電位 スライドプレーヤー 酸化還元対NAD+/NADH + H+ の標準酸化還元電位E0’= -0.32 V, 酸化還元対1/2 O2 / H2O の標準酸化還元電位E0’=0.82 V など

大腸癌・直腸がんの手術について

下の動画が非常にわかりやすいと思いました。

専門医が教える直腸がん手術~イラストで分かりやすく解説~【国立がん研究センター中央病院】国立がん研究センター公式

上の動画のキーワード:大腸外科、直腸がん、腹膜、消化菅、胃、肝臓、脾臓、小腸、大腸、盲腸、上行結腸(じょうこうけっちょう)、横行結腸(おうこうけっちょう)、下向結腸(かこうけっちょう)、S状結腸、直腸、直腸S状部、上部直腸、下部直腸、肛門、肛門管(こうもんかん)、直腸がん、血便、便柱狭小化(べんちゅうきょうしょうか 便が細くなること)、血管、リンパ節、転移、肛門温存、腸管切離ライン、口側、肛門側、内肛門括約筋(ないこうもんかつやくきん)、外肛門括約筋(がいこうもんかつやくきん)、括約筋間直腸切除術(ISR)、排便機能、直腸切断術(肛門を含めて直腸を切断するため、永久人工肛門になる)、切除後の再建吻合部、縫合不全、吻合、人工肛門、一時的人工肛門、永久人工肛門、根治

 

直腸間膜全切除total mesorectal excisionTME

  1. 腹腔鏡下括約筋間直腸切除術(ISR)に必要な局所解剖 (手術 第74巻第13号 2020年12月号)肛門管近傍の腫瘍に対する括約筋間直腸切除術intersphincteric resection;ISR)は,1994 年のSchiessel らによる報告以降,腹会陰式直腸切断術(abdominoperineal resection;APR)に代わる肛門温存手術として広く普及してきた。内視鏡外科手術の拡大視効果によって,狭い骨盤内でも精細な解剖認識が可能になり,ISRの根治性向上と機能温存が治療成績向上につながっている2)。さらに近年では,ISRの新しいアプローチとして経肛門的に直腸間膜全切除total mesorectal excisionTME) を 行うtaTME(transanal TMEや,ロボット支援手術が普及しつつある。
  2. Total Mesorectal Excision  Society of American Gastroint 2011/06/24 PG Colon Course – R. Larry Whelan(YOUTUBE)
  3. Laparoscopic TME Society of American Gastrointe Laparoscopic TME Society of American Gastrointe(YOUTUBE)

 

その他

  1. 大腸がんの手術について腹腔鏡(ふくくうきょう)手術について (国立がん研究センター 東病院)イレウス:術後に腸管が麻痺することで腸がむくんでしまい、食事がとれなかったり嘔吐してしまう状況です。以前は腸閉塞(ちょうへいそく)と呼んでいましたが、腸管の癒着による腸閉塞と区別するため、最近では「イレウス」という言葉を使うことが多くなっています。

運動時のエネルギー代謝の変化 ATP,クレアチンリン酸、グリコーゲン、酸化的リン酸化、脂肪酸

庭で木を切っていたら、半分もきらないうちに筋肉が披露して、腕が動かなくなりました。エネルギーの枯渇です。若いときに比べたら、持続的に運動できる時間が本当に短くなったと思います。バス停まで走るときも、数十メートルも走ると足が止まってしまいます。20代後半にサッカーをやっていたときは、ボールを追いかけて長い距離を走ったら突然体が動かなくなってバランスを失い倒れたことがあります。小学校の頃にサッカーをやっていたときは、こういうエネルギーの枯渇を経験したことはありませんでした。サケが産卵で河を上ってきて、産卵を終えた後、ばたばたと死んでいくのも不思議でした。さっきまで普通に生きていたサケがなぜ、数分後にはエネルギーが枯渇して死んでしまっているのでしょうか。若いときは、エネルギーが枯渇するということがあまり実感できませんでしたが、歳をとると、突然エネルギーが切れて、体や頭が全く動かなくなるということを普通に経験するようになります。そうなって初めて、エネルギー代謝のありがたみを感じるのです。

エネルギー代謝って大事だなと思う今日この頃です。運動時のエネルギー代謝の変化としては、ATPの枯渇が数秒でおき、ATPを再生させる系であるクレアチンリン酸の枯渇が数十秒で起き(激しい運動時の話)、グリコーゲンが分解されてグルコースを供給しますが、それも数十分で枯渇し、酸化的リン酸化、脂肪酸などが大事になります。また、血中のBCAA(分岐鎖アミノ酸)を筋肉の細胞が取り込んでエネルギー源として使うほか、それも枯渇すると筋肉は筋肉のタンパク質を分解してBCAAを産生しそれをエネルギー源にします。

  1. BCAAとは?大塚製薬
  2. 必須アミノ酸BCAAとは BCAAとは、筋肉のエネルギー源 大塚製薬 BCAAとは、運動時の筋肉でエネルギー源となる必須アミノ酸である、バリン、ロイシン、イソロイシンの総称です。
  3. 筋肉量を増やすために必要な栄養素「分岐鎖アミノ酸(BCAA)」 環境再生保全機構 すこやかライフ  BCAAは、筋肉の分解を抑制して、筋肉のエネルギー源となります。COPDの人は、呼吸筋を激しく使うため呼吸筋の損傷を防ぐ、という意味でもBCAAは欠かせない栄養素です。

実際どういうふうに使い分けされているのか、ChatGPTに聞いてみました。以下はその答え。

During exercise, the body utilizes a variety of energy sources to meet the increased energy demands. The specific utilization of energy sources can vary depending on factors such as exercise intensity, duration, and individual fitness level. Here’s a breakdown of how different energy sources are differentially used during exercise:

  1. ATP (Adenosine Triphosphate): ATP is the primary source of energy for muscle contractions. It is stored in limited quantities within the muscles and is rapidly used during short bursts of high-intensity exercise. The body can generate ATP through different metabolic pathways, including the phosphocreatine system, glycolysis, and oxidative phosphorylation.
  2. Creatine: Creatine phosphate, stored in muscles, serves as a quick energy source for immediate ATP production. During short-duration, high-intensity exercises, such as weightlifting or sprinting, creatine phosphate rapidly donates its phosphate group to ADP (adenosine diphosphate), forming ATP.
  3. Glycogen: Glycogen is the storage form of glucose in muscle and liver tissues. It serves as an essential energy source during moderate to high-intensity exercise. Glycogen stored in the muscles can be broken down through glycolysis to produce ATP. The liver can also release glucose from glycogen into the bloodstream to maintain blood glucose levels during prolonged exercise.
  4. Glucose: Glucose is a simple sugar derived from dietary carbohydrates or glycogen breakdown. It circulates in the bloodstream and is taken up by working muscles to be used as an energy source. Glucose can be metabolized through glycolysis to produce ATP, providing energy during moderate to high-intensity exercise.
  5. Ketone Bodies: Ketone bodies, such as beta-hydroxybutyrate and acetoacetate, are produced by the liver during periods of prolonged fasting, low carbohydrate intake, or ketogenic diets. During exercise, the utilization of ketone bodies as an energy source becomes more prominent, especially during longer-duration, low-to-moderate intensity activities. However, the reliance on ketone bodies for energy may vary depending on an individual’s metabolic state and adaptation to utilizing fats for fuel.
  6. Branched-Chain Amino Acids (BCAAs): BCAAs, including leucine, isoleucine, and valine, are essential amino acids that can be metabolized by muscles during exercise. They can serve as a minor source of energy during endurance exercise, particularly when glycogen stores become depleted. BCAAs can be oxidized within the muscles to produce ATP, helping to spare muscle glycogen.
  7. Fatty Acids: Fatty acids are the main fuel source during low-to-moderate intensity and longer-duration exercises. Adipose tissue releases stored triglycerides, which are broken down into fatty acids and transported to the muscles for oxidation. Fatty acids undergo beta-oxidation in the mitochondria, generating ATP. However, high-intensity exercise relies more on carbohydrates and glycogen as a primary energy source, and fatty acid utilization decreases accordingly.

It’s important to note that the body dynamically shifts its reliance on different energy sources based on exercise duration, intensity, and individual factors. The interplay between these energy sources allows the body to meet the energy demands of various types of exercise.

 

ChemSketch(ケムスケッチ)でリン酸基の中の水酸基をイオンにする方法

ChemSketch(ケムスケッチ)では、どうすればリン酸基の中の水酸基をイオン化できるんだろうとしばらく悩んで、やっと方法を見つけました。

  1. メニューで Structure と Drawのうち、Structureを選ぶ。
  2. 変更したい水酸基-OHにカーソルをもっていくと、OHが四角い枠で囲われた状態になるので、(左)クリック。すると、点々で囲われたように表示が変わるので、この状態で右クリックし、現れるメニューからObject Propertiesを選択。
  3. C H n q V I N Aとならんでいるメニューのなかの、q (Charge)をクリック。
  4. すると今の場合 Value は0になっている(電荷はゼロ)ので、数値を-1に変更すして、applyをボタンを押す。

これで、 OH が  O- となり、めでたくイオン化されました。

 

ケムスケッチで水酸基をイオン化する方法がわかったところで、なぜカルボキシ基やこのリン酸の中の水酸基ーOHはHが電離するのに、アルコールの水酸基は電離しないんだろうという素朴な疑問が生じました。ネットであれこれしらべたら、要は、どっちがエネルギー的に安定か?という話です。アルコールの水酸基の水素が電離しないのは、電離してしまうとエネルギー的に安定しないから。一方、カルボキシ基やリン酸基の場合は、電離したほうが安定化するから。なぜ安定化するのかというと、「共鳴」するから。共鳴というのは、複数の同等の電子の配置が存在していて、電子がそれらの状態を全部とれるからということみたいです。カルボン酸だと、-C(=O)OHよりも -C(=O)O- のほうが、C(-O-)(=O)の配置もとれて共鳴できるというわけです。リン酸基も同様です。

補酵素NADHとNADPHとの違いは?NADPHは、脂肪酸、コレステロール、ヌクレオチドなど同化反応(高分子の生合成)で使われる電子供与体

生化学の勉強をしていると、NAD+, NADH, NADPH+, NADPH, FAD, FADH2といろいろ似たものが登場して頭が混乱させられます。たいていの場合、まずは解糖系、TCA回路、電子伝達系というエネルギー代謝経路を学び、その際にNAD+/NADH、FAD/FADH2が登場します。ところが、そのご、何かの機会でNADP+/NADPHが登場してきて、こんがらがるわけです。何が共通点で、何が相違点なのかを纏めておきます。

NAD+/NADH、FAD/FADH2、NADP+/NADPH は酸化還元反応で活躍する補酵素です(電子受容体(酸化型)/電子供与体(還元型))。酸化反応や還元反応では電子のやり取りがありますので、電子の担体(運び屋さん)という言い方もされますし、電子の受容体、電子の供与体などと言われることもあります。

NADHは、Nicotineamide Adenine Dinucleotideの略。水素Hがついているので還元型(還元された状態)。NADHという名前の文字のうち、N,A,Dは略号で、Hだけは水素そのもので、還元型であることを示しています。

NAD+(酸化型)  + 2e + H+ ⇔ NADH(還元型)

FADH2は、Flavin Adenine Dinucleotideの略。で水素が2つついているので(H2)、還元型。

FAD(酸化型)  + 2e 2H+ ⇔ FADH2(還元型)

NADPHは、Nicotineamide Adenine Dinucleotide phosphateの略。水素Hがついているのは、還元型。

NADP+(酸化型)  + 2e + H+  ⇔ NADPH(還元型)

NAD,NADP,FADはアデニンやリボース、リン酸エステルなど複雑な構造で圧倒されますが、これらは酵素による構造認識で重要なだけで反応に重要なのはニコチンアミドの部分やフラビンの部分だけです。それを知れば、複雑な構造を目にしてビビらなくて済みます。また、構造が異なるということは、その構造を認識できる酵素も異なるというわけなので、これらの補酵素が関与する化学反応も異なるということは理解できます。

下のの図中のニコチンアミドの6員環の中の炭素に、還元型では水素がひとつ付加して、N+の電荷もゼロになっています(NADHの構造式に描かれた2つの水素のうちの一つは、もともとついていたもの。NAD+では描かれていなかっただけです。)。

NADPは、NADにリン酸基がついたもので、それ以外の部分の構造はNADと同一です。このリン酸は、補酵素NADPが酵素に認識される際の構造的な特異性を生み出すために存在するものであって、リン酸基を他に供与したりするのに使われるものではありません。NAD+/NADHがエネルギー代謝(リン酸基が転移される反応が多い)で登場するため、紛らわしいので要注意。

  1. Protein Engineering for Nicotinamide Coenzyme Specificity in Oxidoreductases: Attempts and Challenges. Andrea M. Chánique1 and Loreto P. Parra Front Microbiol. 2018; 9: 194. Published online 2018 Feb 14. doi: 10.3389/fmicb.2018.00194 Different structural motifs enable the union of the coenzyme and give the specificity for NAD or NADP. Usually, enzymes preferring NADP have larger pockets with positively charged or hydrogen bond donating residues that interact with the phosphate group of the adenine ribose (Pick et al., 2014). NAD preferring enzymes contain negatively charged amino acids that generate repulsion toward NADP and form hydrogen bonds to the 2′-OH and 3′-OH of the adenine ribose (Petschacher et al., 2014).

NADHとNADPHとの違いは何かというと、NADHはエネルギー代謝(異化、つまり高分子の分解)の際に、電子受容体としてつかわれ、NADPHは同化反応(生体高分子の合成)の際に電子供与体として使われるという、使い分けです。

  1. Better than Nature: Nicotinamide Biomimetics That Outperform Natural Coenzymes. J Am Chem Soc. 2016 Jan 27; 138(3): 1033–1039. Published online 2016 Jan 3. doi: 10.1021/jacs.5b12252 Oxidoreductases, for example, rely on the nicotinamide coenzymes to supply them with the redox equivalents required to sustain their catalytic cycles. Two forms of natural coenzymes exist: the phosphorylated (NADP+/NADPH) and nonphosphorylated (NAD+/NADH) forms (Figure​Figure11A). Nicotinamide coenzymes essentially contain two structural motifs, the nicotinamide moiety conferring their electrochemical function (i.e., serving as an electron source or sink in the form of a hydride) and the adenosine dinucleotide moiety conferring the separation between anabolic and catabolic pathways. NADP is involved in anabolic redox processes, whereas NAD is mostly found in processes dealing with energy metabolism.

NADHとFADH2は、TCA回路で作られます。一方、NADPHは、ペントースリン酸回路で作られます。

NADPHの役割

NADPHの還元作用は、生体内で様々な役割を果たしています。

  1. 高分子の生合成(脂肪酸、コレステロール、アミノ酸、ヌクレオチドなどのde nove合成)
  2. 活性酸素種H2O2の消去(捕捉) (還元型グルタチオンGSHを再生あるいは抗酸化タンパク質チオレドキシン(TRX)を還元することによって)
  3. NADPH oxidases (NOXs) によるスーパーオキサイド (O2) 産生の際の補酵素として

NADHやFADH2と違って、ATP産生に使われるわけではありません。

  1. NADPH-The Forgotten Reducing Equivalent. Cold Spring Harb Perspect Biol . 2021 Jun 1;13(6):a040550. doi: 10.1101/cshperspect.a040550. Navdeep S Chandel (PubMED)
  2. SOSA (Superoxide Radical Scavenging Activity) 技術用語解説 活性酸素消去(活性酸素捕捉)フリーラジカルとは対になっていない孤立した電子を持っている物質の総称で、一般的に不安定で反応性が高い。一重項酸素は酸素ラジカルではないが、広義の活性酸素に含まれる。

アミノ酸20個の構造式の覚え方:官能基や基本骨格で分類して覚えると簡単!必須アミノ酸9個(10個)も。

蛋白質を構成するアミノ酸は20個あります。丸暗記するのはきついですが、構造が似ているものを分類しながら覚えれば、なんとか覚えられそうです。

1番簡単な構造のグリシンとアラニン

一番簡単な構造のアミノ酸1つ:グリシン

側鎖はH-  なので、20個のアミノ酸の中で唯一α炭素が不斉炭素ではありません。

炭素の鎖のみからなるアミノ酸4つ:アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン

アラニンは、側鎖がメチル基のみ  CH3-。グリシンの次に簡単な構造と言えます。

分枝(ぶんし)鎖アミノ酸3つ

分枝(ぶんし)鎖アミノ酸(Branched Chain Amino Acids; BCAA)は、サプリなどでBCAAとしてお馴染みだと思います。アラニンの先にメチル基が2つついて枝分かれした構造なのが、バリン (CH3)2-CH2-

バリンより一つ分、炭素の主骨格が長いのがロイシン。(CH3)2-CH2-CH2-

ロイシンの枝分かれしたメチル基がひとつ根元側にずれたのがイソロイシン。

CH3-CH2(-CH3)-CH2-

これで6個覚えられました。

*自分はうっかり間違えて、Branchedの「分枝」を「分岐」と書き間違えて「ぶんき」と呼んでいたことに最近気づきました。「分枝」は「ぶんし」で、「ぶんき」は「分岐」ですね。日本語はややこしい。

硫黄を含むアミノ酸2つ

つぎに、硫黄を含む2つを覚えましょう。

HS-C- の構造をもつのがシステイン。HS-CH2-

ちょっとかわっていて炭素と炭素の間に硫黄が挟まれて、

H3C-S-CH2-CH2- の構造をもつメチオニン。

水酸基を含むアミノ酸2つ

つぎは、水酸基をもつアミノ酸を覚えましょう。ベンゼン環に水酸基がついたチロシンはあとまわし。

アラニンの先端に水酸基がついた HO-CH2- を側鎖にもつのがセリン

炭素2個からなる骨格の内側のほうに水酸基がついた H3C-CH(-OH)- が スレオニン

さて、いよいよ、酸性アミノ酸と塩基性アミノ酸を覚えましょう。

酸性アミノ酸2つ

酸性になる理由はカルボキシ基を持つからです。アラニンの先にカルボキシ基がついたらアスパラギン酸(英語だとaspartate)。HOOC-CH2-

炭素の鎖が一つ分ながいのがグルタミン酸。HOOC-CH2-CH2-

酸性アミノ酸がアミドになった 2つ

カルボキシ基のOHがH2N-とおきかわってアミドになったもののうち、アスパラギン酸に対応するのが、アスパラギン。2HN-C(=O)-CH2-

グルタミン酸に対応するのが、グルタミン。2HN-C(=O)-CH2-CH2-

塩基性アミノ酸2つ

塩基性、いきます。炭素4つの鎖の先にアミノ基がついてイオン化しているのが

H3N(+)-CH2-CH2-CH2-CH2-  リジン。炭素4つの鎖。

側鎖の先のほうから考えた場合、先端の炭素に2つのアミノ基がついて、窒素を介したあと炭素が3つつながる主骨格の構造を持つのが、アルギニン。

H2N-C(=NH2 +) -NH- CH2-CH2-CH2- これも間にNが入っていますが、炭素の数は4つ。

ベンゼン環をもつアミノ酸2つ

さて次にベンゼン環をもつ2つを覚えます。

アラニンの先端にフェニル基がついた、そのまんまの名前のフェニルアラニン

フェニルアラニンのパラの位置に水酸基がついた、チロシン。さきほど水酸基をもつアミノ酸として、セリンとスレオニンを覚えましたが、チロシンにも水酸基があります。ただし、覚える都合上ベンゼン環をもつ2つとして覚えておくほうが覚えやすいと思います。

これで17個覚えました。残り3つは、環状構造を持ったアミノ酸です。

他の環の構造を持つアミノ酸3つ

イミダゾール(五員環で、Nが2つ)と炭素がつながったものを側鎖にもつのが、ヒスチジン。

インドール(六員環と五員環が複合した構造で五員環の角のひとつが窒素)と炭素を側鎖にもつのがトリプトファン。

さて20個目が、プロリンです。プロリンは構造が、ほかと比べると異質です。なにしろアミノ酸の共通要素であるαアミノ基が、側鎖と合体して環状構造を作ってしまっているのです。α炭素もその環状構造の一部になっています。

以上20個のアミノ酸でした。

ヒスチジン(イミダゾール)とトリプトファン(インドール)は少し覚えにくいので、何回も構造を紙に書き出してみる必要があります。窒素が入った環構造の化合物は一気に覚えたほうが、苦手意識が払しょくできます。

  1. 窒素を含む有機化合物、生体に重要な化合物の構造を全部、丸暗記する方法

あとは、比較的覚えやすいと思います。視覚的に形で覚えることプラス、構造を要素(官能基)にわけて、どんな要素(官能基)からなるかを覚えること。その際、酸性、塩基性などの性質も併せると頭の中で整理しやすいと思います。

必須アミノ酸

20個のアミノ酸、グリシン、アラニン、バリンロイシンイソロイシン、システイン、メチオニン、セリン、スレオニン、アスパラギン酸、グルタミンサン、アスパラギン、グルタミン、リジン、アルギニン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジントリプトファン、プロリンの内、必須アミノ酸は、9個あり、バリンロイシンイソロイシンメチオニンスレオニンリジンフェニルアラニンヒスチジントリプトファンです。乳幼児の場合はこれらに加えてアルギニンも必須アミノ酸になります。

必須アミノ酸9個の覚え方ですが、構造を先に覚えていれば、

炭素の分岐を持つアミノ酸:バリンロイシンイソロイシンスレオニン

二重結合を含む環を持つアミノ酸、ただしチロシンはフェニルアラニンを水酸化すればいいので除外:フェニルアラニンヒスチジントリプトファン

塩基性アミノ酸ただしアルギニンは乳幼児のみ:リジン、(アルギニン)

残り一つがメチオニンです。

炭素の枝分かれだったり、二重結合を含む環だったり、ぱっと見複雑な構造を持つものというイメージでいいのではないでしょうか。それプラス、塩基性アミノ酸、そして、メチオニンと。

なお、上の構造式の図はケムスケッチ(Chem-Sketch)を利用しました(デフォルトで用意されているアミノ酸の構造式そのままです)。折れ線の角の点や分岐の中心の点は、炭素およびそれに結合した水素が省略されています。つまり折れ線の角の点は、-CH2- の意味です。分岐の場合(他の官能基が付いている場合)は、もちろん、炭素の手の合計が4本になるように水素の数がかわります。折れ線の端のメチル基CH3- は、省略してしまう描き方もありますが、ここではわかりやすさのためにあえて描いているようです。

また、アミノ酸のカルボキシ基やアミノ基は、生理的な条件下では電離していると思いますが、ここでは電離していない状態の構造が描かれています。

参考資料

  1. Chem-Sketch(構造式を描画するソフトウェア)
  2. Bruice Organic Chemistry