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酸化還元電位とは

酸化還元電位は高校の化学では大きなトピックでしたが、もうすっかり忘れてました。

酸化還元反応は、一方が酸化されていれば、他方は還元されているという表裏一体の関係があります。生化学を理解するためには、酸化還元順位の理解は必須です。例で理解するのが楽なので、亜鉛と銅の組み合わせで考えてみます。

Cu2+ + 2e- ⇔ Cu

Zn ⇔ Zn2+ + 2e-

銅で電極をつくり銅イオンの水溶液につけます。他方、亜鉛で電極をつくり亜鉛イオンの水溶液を作ります。この2つを塩橋でつなぎ、2つの電極を導線でつなぎます。すると、亜鉛側では

Zn →Zn2+ + 2e- 酸化反応(電子が亜鉛原子から奪われた)

の反応がおきて電子がつくられて、導線を伝わって銅の電極のほうに移動します。銅電極ではその電子が水溶液中の銅イオンにわたされて銅が析出します。

  1. Figure 20.3.3 : The Reaction of Metallic Zinc with Aqueous Copper(II) Ions in a Galvanic Cell.   この図はわかりやすい。亜鉛電極がやせ細り、銅の電極が太っている写真がよい。

Cu2+ + 2e- → Cu 還元反応(銅イオンが電子を受け取った)

なぜこういうことになるかというと、「イオン化傾向」というものがあって、亜鉛のほうが銅よりもイオン化傾向がつよいのでした。受験化学で、「リッチに貸そうかな まああてにすんな ひどすぎる借金」とか覚えたような気がします。

Li(リッチに) > K(貸そう) > Ca(か) > Na(な) > Mg(ま) > Al(あ) > Zn(あ) > Fe(て) > Ni(に) > Sn(すん) > Pb(な) > (H2)(ひ) > Cu(ど) > Hg(す) > Ag(ぎる) > Pt(借) > Au(金)

  1. イオン化傾向の覚え方とは?語呂合わせや金属の反応性について解説! 受験のミカタ

頭の文字しかないと覚えるのも危ういので、読み方としては、リッチに貸そうかな、ま(ぐ)あ(る)あ(えん)てにすんな(む)ひどすぎ(ん)るしゃっきん などと元素名に引きずられつつ覚えたような。

すっかりこんなごろあわせすら忘れていましたが、亜鉛のほうが銅よりもずっとイオン化傾向が大きいので、亜鉛側でイオンになって電子を出すということがわかります。

銅と亜鉛では酸化還元電位も銅のほうが高いです。電位が高いということはポテンシャルエネルギー準位が高いということで、正荷電粒子は高い位置エネルギーから低い位置エネルギーの方向へ移動します。電子は負電荷なので逆に参加還元電位が高いほうに移動します。これは、生化学のエネルギー代謝で出てくるミトコンドリアの電子伝達系で起こることです。

  1. イオン化傾向と電極電位
  2. 酸化還元平衡電位 銅 Cu2+ + 2e- → Cu 0.34V 亜鉛 Zn2+ + 2e- → Zn -0.76

さて、正極、陰極、アノード、カソードはどっちがどっちでしたっけ?下のウェブ記事がわかりやすい説明をしてくれていました。

高校化学における電池での定義:導線に向かって電子が流れ出る電極が負極であり,導線から電子が流れ込む電極が正極である。化学電池の負極では酸化反応,正極では還元反応が起こる。

高校化学における電気分解での定義:電源の正極は導線から電子が入ってくる電極。陽極では電子が奪われる酸化反応が起こる。負極は電子が流れ出る電極。そこにつながる陰極では還元反応が起こる。

正極・負極は、それぞれ電位の高い側と低い側を表す。

還元が起こる電極をカソード(cathode),酸化が起こる電極をアノード(anode)と呼ぶ。んげん,ソード。

(参照:Chemist Eyes

  1. 0005.0001. 電池式の書き方と電極の呼び方

酸化還元電位の測定の原理に関しては下のスライドの図もわかりやすいです。水素電極を基準として、表します。

  1. 11.3 酸化剤,還元剤の強さの定量化 11.4 標準電極電位 doshisha.ac.jp
  2. 第11章 酸化と還元 (電気化学・分析化学参照) oshisha.ac.jp
  3. 19.1.1 Describe the standard hydrogen electrode. ibchemistry-review.blogspot.com/
  4. 6.2: Standard Electrode Potentials

下のBrainKart.comの説明は、生化学の文脈の中で酸化還元電位の説明をしていて、理解しやすいと思いました。

If we had two potential electron carriers, such as NADH and coenzyme Q, for example, how would we know whether electrons would be more likely to be transferred from the NADH to the coenzyme Q or the other way around? This is determined by measuring a reduction potential for each of the carriers. A molecule with a high reduction potential tends to be reduced if it is paired with a molecule with a lower reduction potential. (Reduction Potentials in the Electron Transport Chain

下の解説記事も非常に明解な説明でわかりやすい。

fumarate + 2H+ + 2 e–     succinate    E°’ = 0.030 V
FAD + 2H+ + 2 e–    F ADH2    E°’ = -0.180 V
remember the rule that a higher E°’ value indicates a stronger tendency for the compound to gain electrons.
fumarate + FADH2 succinate + FAD
Redox Reactions (https://sceweb.sce.uhcl.edu/wang/biochem/redox/4_reduction_potential.html University of Houston-Clear Lake Dr. Wang’s Homepage)

  1. 標準酸化還元電位 (pH = 7) dbp.akita-pu.ac.jp/ フマル酸 / コハク酸 +0.03  FAD / FADH2 -0.22
  2. http://www.fumi-theory.com/img/TYV.pdf

まとめ

ここまで勉強したことを自分なりに纏めておきます。結局、酸化還元反応を行う物質A,Bがあったとき、半反応をそれぞれに関しして書き出してみて、

AH2 ⇔ A2+ + 2H + 2e-    酸化還元電位=a

BH2 ⇔ B2+ + 2H + 2e- 酸化還元電位=b

どっちが酸化される側で、どっちが還元される側になるかを考えるわけですが、それはそれぞれの酸化還元電位できまります。これは実験的にきまるので表を参考にします。

酸化還元電位がaのほうが高い、a>bだとすれば、電位が高いほうから低いほうに正電荷が流れる(すなわち、電子は電位が低いほうから高いほうに流れる)ので、Aのほうが電子を受け取る側、つまり還元される側になります。つまりBのほうは電子を取られる(酸化される)側になるので、

BH2 → B2+ + 2H + 2e-

という反応が起きて、その電子をAのほうに渡しますのでAのほうは電子を受け取ります。つまり

A2+ + 2H + 2e- → AH2

という反応が起きるわけです。こう書いてみれば、酸化の定義として、電子を奪われる、水素をとられる、還元の定義が電子をもらう、水素をもらうというのも納得がいきます。酸化が酸素が結合することでなくても良いのも当然で、酸素は

1/2 O2 + 2H+ + 2e- → H2O

という反応で、電子を受け取っているわけです。電子を受け取るものでありさえすればなんでもいいので、別に酸素でなくても、酸化反応というのは成り立つというわけ。だいぶ頭が整理されてすっきりしました。

主な物質の酸化還元電位

  1. 酢酸/アルデヒド -0.60V
  2. 水素イオン/水素 -0.42V
  3. NAD+/NADH -0.32V
  4. アセトアルデヒド/エタノール -0.20V
  5. ピルビン酸/乳酸 -0.19V
  6. FAD/FADH2 -0.16V  別の資料だと -0.06V
  7. デヒドロアスコルビン酸/アスコルビン酸 0.08V
  8. ユビキノン(酸化型)/ユビキノン(還元型) 0.10V
  9. シトクロムc(酸化型)/シトクロム(還元型) 0.22V
  10. Fe3+ / Fe 2+   0.77V
  11. 酸素/水  0.82V

参考

  1. 酸化還元酵素反応と電極反応

酸化還元電位測定に関する論文

  1. Amperometric Biosensors Based on Direct Electron Transfer Enzymes  Molecules 202126(15), 4525; https://doi.org/10.3390/molecules26154525
  2. Extremophilic Oxidoreductases for the Industry: Five Successful Examples With Promising Projections Front. Bioeng. Biotechnol., 12 August 2021 Sec. Industrial Biotechnology Volume 9 – 2021 | https://doi.org/10.3389/fbioe.2021.710035
  3. An uncharacteristically low-potential flavin governs the energy landscape of electron bifurcation PNAS March 15, 2022 119 (12) e2117882119 https://doi.org/10.1073/pnas.2117882119
  4. Reversible, Electrochemical Interconversion of NADH and NAD+ by the Catalytic (Iλ) Subcomplex of Mitochondrial NADH:Ubiquinone Oxidoreductase (Complex I) J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 20, 6020–6021 Publication Date:April 30, 2003 https://doi.org/10.1021/ja0343961

カルボン酸とアルコールが脱水縮合するエステル化の反応機構

カルボン酸R1-C(=O)-OHとアルコールR2-OHが脱水縮合すると、エステルR1-C(=O)-O-R2になりますが、どのような反応機構に基づいてエステル化が起きるのでしょうか。H2SO4などの酸が触媒になる反応です。

  1. カルボン酸のカルボニル基の酸素の非共有電子対が酸触媒のH+イオンにわたされて結合をつくります(プロトン化と呼ぶ)。
  2. カルボニル基の酸素の部分でプロトン化されたカルボン酸は、カルボニル基の二重結合のうちのひとつの電子対が酸素に渡されてカルボニル基の炭素が正電荷を帯びた状態と共鳴して安定化し、カルボカチオンとなります。
  3. アルコールの酸素原子上の非共有電子対がカルボカチオンを攻撃し結合します(求核付加)。
  4. 求核付加したアルコールの水酸基の水素Hと酸素の結合の電子対は酸素に渡され、水素は酸触媒HSO4-から電子をもらいます。
  5. これでカルボニル炭素に水酸基が2つ結合した状態になりましたが、水酸基のうちのどちらかの酸素が非共有電子対を酸の水素イオンに渡して結合をつくります(プロトン化
  6. 他方の水酸基の酸素が非共有電子対を炭素にあたえ(酸素と炭素の間が二重結合になり、酸素にはプロトンが結合している)、プロトン化したほうの水酸基の酸素と炭素の間の共有電子対は酸素にわたされて水として脱離します。
  7. 二重結合をつくっている酸素に結合したプロトンに対して酸触媒のHSO4-が電子を与えることにより、酸素とプロトンの間の結合が切れ(結合に使われていた電子対は酸素に渡され)ます。これによりエステル化が完成します。

なるほど確かにH2SO4は触媒として働いていて、プロトン化でH+が使われてもまた、HSO4-が塩基として働いてプロトンを取り戻すということをしているので、反応前後で酸触媒の変化はプラスマイナスゼロになっています。

R1-C(=O)-OH と  HO-R2との脱水で、H2Oが外れるわけですが、外れる酸素Oは、カルボン酸とアルコールのどちらのOだろうと疑問がありましたが、この反応機構からすると、アルコールの酸素ではなく、カルボン酸の酸素が外れるということがわかります。カルボン酸の2つの酸素のうちどちらの酸素かというと、反応の途中段階でカルボニル基の酸素はプロトン化して水酸基が2つとうい状態になるので、必ずどちらの酸素ともいえないようです。

参考図書:基礎講座有機化学 403~404ページ

窒素を含む有機化合物、生体に重要な化合物の構造を全部、丸暗記する方法

アンモニア、尿素、尿酸、ニコチン、ビタミンB3(ニコチン酸)、アデニン、グアニン、トリプトファン、ヒスチジンなどなど、窒素を含む生体化合物は多数あります。その化合物の性質や反応性を考えるためには、構造を覚えていないと始まりませんが、どうすればスムーズに暗記できるでしょうか。

6角形の環構造で骨格に窒素原子が含まれるもの

炭素が6つで六角形の形をしたベンゼンC6H6はすでに覚えています。ここから始めてみましょうか。

ピリジン(pyridine):ベンゼンの6個の炭素の内の一つが窒素に置き換わった構造をしているのがピリジンです。ベンゼン同様、二重結合しています。

ニコチン酸:ピリジンカルボン酸の異性体のうち3位にカルボキシ基がついたもの。

ニコチンアミド:ニコチン酸のCOOHのOHがNH2になったもの。ニコチン酸とニコチンアミド(ニコチン酸アミド)を合わせて、ビタミンB3(ナイアシン)と呼ぶ。NAD+はニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの略で、ニコチンアミドの4位の炭素がヒドリド(H-イオン)を受け入れて還元されてNADHになります。

ピリミジン(pyrimidine):ピリジンの1位の窒素の2つ目(3位)も窒素で置き換わったものがピリミジン。

ピリミジン塩基:ピリミジンの骨格を持ち、DNAの塩基になっているものの総称。リボースの1’の炭素と結合するのは、ピリミジンの1位にある窒素。

ウラシル:ピリミジンの2位と4位に酸素が二重結合した構造。

チミン(thymine):ウラシルの5位にメチル基が結合した構造。

シトシン:ウラシルの4位の酸素のかわりにアミノ基が結合したもの。

  1. ピリミジン塩基(ウィキペディア)

5角形の環構造で骨格に窒素原子が1つ含まれるもの

ピロール(pyrrole):5角形の環構造で、骨格を形成する角の一つがNHで、二重結合が2つあります。

  1. pyrrole, any of a class of organic compounds of the heterocyclic series characterized by a ring structure composed of four carbon atoms and one nitrogen atom. (Britanica)

ピロリジン (pyrrolidine):タバコに含まれるニコチンの中にある骨格なのでここで紹介しておきます。飽和(二重結合を全く含まない)でNを一つ含む五角形の構造。ニコチンの構造の一部をなすのは、Nにメチル基がついた、1-メチルピロリジンです。

ニコチン:1-メチルピロリジンの2位の炭素がピリジンの3位の炭素に結合したもの。3-(1-メチル-2-ピロリジニル)ピリジン。タバコのニコチンです。

  1. Hantzsch–Widman nomenclature(ウィキペディア)5員環で不飽和のものは –oleと呼ぶ。5員環で不飽和のものは、-olane、骨格に窒素を含む場合は-olidineと呼ぶ。
  2. 3-(1-メチル-2-ピロリジニル)ピリジン(厚生労働省)

プロリン:プロリンはアミノ酸の一つで、側鎖は本来は3つの炭素の鎖ですが、α-アミノ基の窒素とつながって、α炭素を含めて5角形の環状になります。

5角形の環構造で骨格に窒素原子が2つ含まれるもの

イミダゾール(imidazole):1位にNHがあり、3位も窒素原子がある。1位の位置のNHのNがもつ孤立電子対(結合に関与していない電子対)は、面に垂直方向のp軌道であるためパイ電子雲の一部をなす。3位の位置にある窒素がもつ孤立電子対は環の面と同じ面上にあるためパイ電子雲の一部にはならない(外側に突き出している形)。

  1. Bruice Organic Chemistry 988ページ

imidazoleという名前と実際の構造とがなかなか頭の中で結びつきませんが、命名のされ方を知ると少しましになります。Hantzsch–Widman nomenclature(ウィキペディア)という命名法によれば、5員環で不飽和のものは –oleと呼ぶそうです。また、窒素を含む化合物の接頭語としてaza-を使います。aza- + -ole = azole は、窒素を一個含み、ほかにも炭素以外の何かの元素を含む5員環の化合物の総称です。炭素以外の何かがまたまた窒素の場合、窒素を意味する別の言葉imid-をつかって、imid + aza + ole =imiadzoleというわけでした。もし硫黄であればチアゾール(thiazole)となります。イミダゾールは1,3-diazoleとも呼ばれます。窒素が2つなのでdiがつくわけです。窒素3つならtriazole、4つならtetrazole、5個ならpentazole。窒素2つで隣合う位置にあるものはpyrazole。窒素1つの場合も 1H-azole と呼ぶようです。

イミダゾールってなんだっけ?となった場合、英語を思いだhして、imid + az + ole このように分解して、窒素を含む(az)不飽和の5員環(ole)でもう一つ窒素(imid)を含むものと思い出しましょう。

  1. azole(ウィキペディア)
  2. imidazole (ウィキペディア)imidazoleの名称は1887年にドイツの化学者Arthur Rudolf Hantzsch (1857–1935)によって付けられた。
  3. 基礎講座有機化学466ページ
  4. Alkylimidazoles

ヒスチジン:イミダゾールの5位の炭素がアラニンの側鎖のメチル基に結合した形。

6員環と5員環がつながった構造

インドール:ピロール(5角形)の横にベンゼン環が接した形をしたものがインドール環です。骨格を形成する炭素や窒素の番号は、NHの窒素が1番で、5角形のほうから数えて、接しているところはとばして、6角形のほうまで一周しますので、1~7番の数字が与えられます。indoleという名称の由来は、染料「藍」(indigo)から。インディゴの構造は、インドールが酸化されたもの(3位に酸素が二重結合)が(2重結合でつながって)2量体になった形をしています。

トリプトファンインドール環が(インドール環の3位の位置で)アラニンの側鎖のメチル基の先に結合した形。

プリン(purine):ピリミジンとイミダゾールが合わさった形をしているのがプリン。六角形を上下に角がくるように描いて、10時の位置の炭素から半時計まわりに1~6番までつけて、頂点5-4に接するように五角形を描く。5角形の位置は、今度は時計回りに7,8,9とつける。窒素の位置は、1,3,7,9(全部奇数)で、DNAなどを構成する場合には9の位置の窒素で結合する。9の位置はNH。これで構造が描けます。

アデニン:プリンの6位にアミノ基がついたもの。

グアニン:プリンの6位に酸素を二重結合、2位にアミノ基。

尿酸:ヒトの場合、プリンの代謝(分解)は尿酸までで、尿酸は尿に排出されます。アデニンやグアニンはプリンの2位と6位にアミノ基や酸素がついていましたが、それらが全部酸素になったものがキサンチンで、8位にも酸素がついて酸化されたものが尿酸です。二重結合は5-4間のみ残っています。尿酸は水に溶けにくく、過剰にできて体内でちくせきしてしまうと痛風という病気になります。尿酸の結晶が関節に析出して痛みを引き起こすとされています。

環状ではない低分子の化合物

尿素(urea):H2N-C(=O)-NH2 両生類などは尿酸を尿素にまで分解します。海産無脊椎動物あh、さらに尿酸をアンモニア塩にまで変換します。

アンモニア:NH3

これで窒素が含まれる生体物質をほぼ網羅したのではないでしょうか。

ヒスチジン、トリプトファンは既にみたので、窒素を側鎖に含むほかのアミノ酸をみておきます。

アスパラギン:酸性アミノ酸であるアスパラギン酸(側鎖 -CH2-COOH)のカルボキシ基にアミノ基が結合したアミド。-CH2-CONH2

グルタミン:酸性アミノ酸であるグルタミン酸(側鎖 -CH2-CH2-COOH)のカルボキシ基にアミノ基が結合したアミド。-CH2-CH2-CONH2  アスパラギンよりも側鎖が炭素一個分長いと覚えています。

リシン:側鎖 -CH2-CH2-CH2-CH2-NH2   炭素4つブタンの先にアミノ基がついた形。

アルギニン:側鎖 -CH2-CH2-CH2-NH-C(-NH2)=NH2+ 炭素3つに窒素に炭素でその先にアミノ基が2つついた構造。

 

6員環3つが並んだ構造

フラビン (flavins)は、FADやFADH2、FMN,FMNH2の構成要素です。リボースがついたリボフラビンはビタミンB2と呼ばれるビタミン。3つのうち両側はベンゼンとウラシルで間が窒素2つ向き合った形をしています。ベンゼンのほうにはメチル基が2つ。これでなんとか覚えられそう。

  1. https://www.researchgate.net/publication/320453769_Electron_transfer_pathways_in_a_light_oxygen_voltage_LOV_protein_devoid_of_the_photoactive_cysteine/figures?lo=1

かなり複雑な構造の化合物に思えても、自然界は基本的な構造の物質を組み合わせているだけなので、覚えるときも要素に分解してみると案外頭に入ってくるようです。

問題

次の化合物の構造式を描け。ピリジン、ピリミジン、ウラシル、チミン、シトシン、ピロール、イミダゾール、ヒスチジン、インドール、トリプトファン、プリン、アデニン、グアニン、尿酸、尿素、アスパラギン、グルタミン、リシン、アルギニン。

反応機構の表し方(巻矢印)

有機化学では化学反応を示すときによく矢印で電子の動きを示しています。あれがどういう原理原則に基づいて描かれているのかがよくわかっていませんでした。基礎講座有機化学(化学同人)という教科書の51ページ~に丁寧な説明がありました。

巻矢印:電子対(対になった電子2個!)の動きを表す。

  • 矢印の根元(始点)は電子対で、矢印の示す先は、電子対を受け取る原子。
  • 例えば、A-Bという分子がA+とB-にイオン化するのであれば、結合を示す棒線が巻矢印の始点になり、負に帯電する原子Bに向かう矢印を書く。

巻矢印(片羽の矢頭):電子1個の動きを表す。

例:プロペンと臭化水素の反応

プロペン H3C-CH=CH2 と臭化水素 H-Brとが反応する場合は二重結合のパイ電子が臭化水素のHを「攻撃」してH-Br間の電子対はBrに渡されて臭化物イオンBr-ができ、臭化水素の水素は、プロペンに付加して、カルボカチオン中間体ができる。付加するHが二重結合をつくっていた2つの炭素のどちら側に結合するが問題。描かれた巻矢印の解釈の約束事として、巻矢印の弧の内側の炭素のほうが結合をつくる炭素(57ページ)。どちら側に結合するかは、わかっていないと巻矢印を描けないということになります。

例:アルドール反応

アルドール反応(380ページ)で巻矢印を自分で考えて描こうとしたときに、あれ?どっちの炭素が結合するんだろうと疑問を持ちました。この場合はカルボニル基の炭素ではないほうの炭素がアニオンとなりその電子が求核反応を行い結合をつくるようです。

  1. エノール・エノラートの反応 (www2.meijo-u.ac.jp/~tnagata)

教科書を目で追うだけだとサラッと読み飛ばしてしまいますが、さてさて、と思いながら実際に手を動かして、化合物の構造を書いて、電子の動きを巻矢印で示そうとすると、あれれ?と疑問がたくさん湧いてきて、教科書に書いてあったことが簡単に自分で再現できないことに気付きます。勉強するときは、白い紙とペンが必須ですね。

有機化合物の名称のつけ方、IUPACの規則

有機化合物は名称を覚えるのが大変です。同一の化合物なのに正式名称(国際純正・応用化学連合(IUPAC)が決めた規則に基づいた名称)と通称とがあったりよくします。しかしある程度名称のつけ方の規則を覚えてしまうと、楽になりますので、ここで知識を整理しておきたいと思います。

有機化合物とは

もともと有機物(organic)とは生き物のという意味なので、有機化合物は生物にしか合成できない生体を構成する物質という意味合いでした。具体的には炭素の骨格でできた化合物で、水素、酸素、窒素などを含んだものです。ただしCO2など単純な構造は除外して考えます。尿素も有機化合物ですが、無機物と見なされる材料から尿素という有機化合物が人工的に合成されるに至って、生物にしか合成できない物質という概念はなくなりました。生体内でおきる反応も実験室で起きる反応も、本質的な違いは何もないというわけです。これは、地上で起きることと天空(宇宙)で起きることとが、同じ物理法則に従っていることにも似ています。昔は、地上と天界とは異なる原理が支配していると思われていたからです。

通称と正式名称

通称名はもう丸暗記するしかなさそうです。語源がわかれば多少、馴染みになりますが。

グルタル酸(Glutaric acid)は通称名で、構造式は HOOC–(CH2)3–COOHですが、IUPAC名は1,5-ペンタン二酸(1,5-pentanedioic acid)もしくはプロパン-1,3-ジカルボン酸(propane-1,3-dicarboxylic acid)。

グルタルアルデヒド (glutaraldehyde) は通称名で、構造式はHOC-(CH2)3-CHOですが、IUPAC名 1,5-ペンタンジアール (1,5-Pentanedial)。

グルタルなんちゃらというのは、炭素3つの鎖に何かついたものみたいですね。あまりそのあたりを解説したものが見つからないのですが。

グリセロール(glycerol)は、グリセリン(glycerine, glycerin)とも呼ばれますがどちらも一般名で、3価のアルコールです。IUPAC名は 1,2,3-プロパントリオール (propane-1,2,3-triol) のようですが、あまりこんな呼び方は聞かないですね。

グリセルアルデヒド (glyceraldehyde)は一般名で、構造式はHO-CH2-CH(-OH)-CHOであり、 IUPAC名は(R)-2,3-ジヒドロキシプロパナール 語尾のアールはaldehydeのal-から来ていて、アルデヒドであることを示しています。2位と3位の炭素にヒドロキシ基が結合しており、1位の炭素がアルデヒドであるプロパン(炭素4つの鎖)というわけです。

パルミチン酸(palmitic acid 16:0)は通称名で、炭素数16の飽和脂肪酸ですが、IUPAC名はヘキサデカン酸(hexadecanoic acid)。hexaは6、decaは10、hexadecaは16の意味。水素のみ結合したアルカンの名称は、ヘキサデカンで、カルボン酸にする場合はalcaneの語尾-eを-oicに変える規則から、hexadecanoic acidになります。

 

官能基

日本語で官能というと違った意味を持ちますが、化学では官能基は英語functional groupの訳に過ぎず、文字通り特徴的な性質を持ち、機能的にふるまう原子団というものです。自分が高校時代に覚えたカルボキシル基は、現在はカルボキシ基と、「ル」がなくなるという名称変更がなされていました。

官能基の名称と、その官能基を持つ化合物の一般的な総称とが混乱しがちです。

水酸基(ヒドロキシ基 hydroxy group)(旧称:ヒドロキシル基 hydroxyl group)を持つ化合物の総称がアルコール。例:エタノール、メタノール、グリセロール

カルボキシ基(carboxy group 旧称:カルボキシル基 carboxyl group)を持つ化合物の総称が、カルボン酸。例:ギ酸、酢酸。

カルボニル基(carbonyl group) -C(=O)- をもつ化合物のうち一方が水素である化合物の総称はアルデヒド、両方とも炭素である化合物の総称はケトン(ketone)。一方が水素であるカルボニル基のことは、ホルミル基と呼ばれる。

アシル基(acyl group)とはカルボン酸からヒドロキシ基を除いてできる部分構造のこと。酢酸(acetic acid)の構造はCH3COOHで、-OHを除いた CH3C(=O)-がアセチル基(acetyl group)

  1. 基礎講座有機化学395ページ

エステル(ester)は R1-C(=O)-O-R2 の構造を持つ化合物の総称または、この構造のこと。カルボン酸R1-COOHとアルコールR2-OHとが脱水縮合して得られる構造になっています。

 

官能基を含む化合物の名称

カルボニル基を主鎖に含む場合は接頭語oxo-(オキソ)をつける。例 2-オキソグルタル酸(2-oxogluraric acid 別称:α‐ケトグルタル酸)HOOC-CH2-CH2-C(=O)-COOH (=O)はオキソ基(oxo-)

 

アルカン

炭素の鎖と水素のみからなり、二重結合などを含まないものはアルカン(alkane)と呼ばれます。有機化合物の名称がつけられるときの名前の土台になるので、これはもう丸暗記するしかありません。ただし、通称も存在するのでそれも知っておく必要があります。

  1. CH3 メタン
  2. CH3CH3 エタン
  3. CH3CH2CH3 プロパン
  4. CH3CH2CH2CH3 ブタン
  5. CH3CH2CH2CH2CH3 ペンタン
  6. CH3CH2CH2CH2CH2CH3 ヘキサン
  7. 炭素数11 ウンデカン
  8. 炭素数12 ドデカン
  9. 炭素数15 ペンタデカン (pentadecane)
  10. 炭素数20 エイコサン(eicosane, またはイコサン icosane)

 

有機化合物命名法の理解度チェック

記憶力に自信がなくなった年配の人向けのサプリに「記憶の番人」というものがあります。たもぎ茸エキスが入っている機能性食品で、有効成分はエルゴチオネイン。IUPACによる化学名は、(2S)-3-(2-sulfanylidene-1,3-dihydroimidazol-4-yl)-2-(trimethylazaniumyl)propanoateというものだそう。IUPAC名から構造がわかるはずなのですが、実際のところどうでしょうか。

プロパン酸の2位に窒素を含む何かの構造でそこにメチル基が3つついているもの、プロパン酸の3位の炭素にイミダゾール誘導体がついていること、それはイミダゾールの4位で結合していること。イミダゾールの1位と3位の窒素には水素が結合していること、イミダゾールの2位になにか硫黄を含み二重構造を含むものがあること、くらいしかわかりませんでした。構造式を見てしまって逆にわかったのは、sulfanylideneというのは硫黄Sが二重結合したものでした。azaniumというのはアンモニウムイオンの別名でした。下のリンク先の有機化合物命名法が詳細かつ簡潔まとまっています。

  1. 有機化合物命名法 (PDF) (maruzen-publishing.co.jp) カチオン 接尾語 –onium(オニウム)、ヘテロ原子の種類を示す接頭語 窒素 aza(アザ) 、語尾 –yl、一つの炭素から2個の水素を除いてできる2価の基は,1価の基名に-idene(イデン)をつけて命名、1993年の補足ではalkanylideneという命名は二重結合につながる場合に限定、
  2. Thiol prefixes for nomenclature (chemistry.stackexchange.com) Mercapto- and sulfanyl- are both prefixes for use with the −SH group (known as a thiol), while thio- is used to denote the “sulfur” equivalent of an oxygen-containing functional group. Sulfanyl- “In these [1993] recommendations, the prefix “sulfanyl-” is preferred to “mercapto-” which was used in previous editions of the IUPAC Nomenclature of Organic Chemistry.”
  3. アンモニウム(ウィキペディア)代置命名法においては、NH4+はアザニウム(azanium)と呼ばれる。
  4. 厚生労働科学研究費補助金(医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究事業) 分担研究報告書 分担研究課題 食薬区分の判断に関する検討 エルゴチオネインは,L-Ergothioneineの別名を持ち,化学名をIUPAC命名法にて表記すると(2S)-3-(2-sulfanylidene-1,3-dihydroimidazol-4-yl)-2-(trimethylazaniumyl)propanoateとなる.エルゴチオネインについて,LD50が2000mg/kg(Rat,oral)以上と報告され,また,亜慢性毒性としてNOAELが800mg/kgbw/day(Rat,oral)と報告されている.また,エルゴチオネインについて,国内外で医薬品としての使用実績はなく,また,国内外で食経験もない.国外でサプリメントとして販売されているが,特段に健康被害は報告されていない.エルゴチオネインは,キノコインゲン豆などの多くの食品に含有され,例えば,シイタケ,エリンギ,ブナシメジ,ナメコ,マッシュルーム,タモギタケなどの食用のキノコに含まれ,特にタモギタケに豊富に含まれている.
  5. (2R)-3-(2-sulfanylidene-1,3-dihydroimidazol-4-yl)-2-(trimethylazaniumyl)propanoate pubchem.ncbi.nlm.nih.gov エルゴチオネインの構造式

 

分子模型

INKTOR

教学用 学生学習用 実験用 有機化学 無機化学 分子構造模型 分子モデルセット 化学元素電子雲模型 444個セット 水素40個、炭素34個、酸素17個、窒素10個、硫黄6個、フッ素6個、塩素6個、ホウ素3個、金属4個、リン8個、ヨウ素2個 

酸素、窒素、硫黄などの数が多くて、生化学によさげ。

Sumnacon

分子構造模型 分子モデルセット 有機化学 無機化学 教学用 学生用 実験用 (440) 水素(ホワイト)*40炭素(ブラック)*34酸素(レッド)*17窒素(ブルー)*10硫黄(イエロー)*6(パープル)*4弗素(オレンジ)*6塩素(グリーン)*6沃素(ダークパープル)*2メタル(グレー)*4臭素(ブラウン)*3

 

ケニス株式会社

分子構造模型 生化学セットKI-Z Molecular Model 6,600円 https://www.kenis.co.jp/onlineshop/product/11380524 No.1炭素(入数:14、色:黒、穴数:4、大きさ:φ22mm)、No.2炭素(入数:10、色:黒、穴数:3、大きさ:φ22mm)、No.3水素(入数:25、色:白、穴数:1、大きさ:φ15mm)、No.4水素(入数:3、色:白、穴数:2、大きさ:φ15mm)、No.5酸素(入数:12、色:赤、穴数:2、大きさ:φ20mm)、No.6酸素(入数:2、色:赤、穴数:1、大きさ:φ15mm)、No.7窒素(入数:3、色:青、穴数:4、大きさ:φ22mm)、No.8窒素(入数:2、色:青、穴数:2、大きさ:φ20mm)、No.9窒素(入数:6、色:青、穴数:3、大きさ:φ22mm)、No.10硫黄(入数:1、色:黄、穴数:2、大きさ:φ22mm)、No.11リン(入数:1、色:紫、穴数:4、大きさ:φ22mm)、No.12ボンド(ミディアム)(入数:44、色:灰)、No.13ボンド(ロング)(入数:12、色:灰)

Molymod

MMS-007 Biochemistry Model, Teacher Set (262 atom parts) https://www.indigoinstruments.com/molecular_models/molymod/sets/Biochemistry-Molecular-Biology-Models-Set-62007.html 

Molymod MKS-122-10 10層DNA分子モデル

丸善

HGS分子構造模型 A型セット 有機化学入門用 定価:1,760円 水素24個、炭素12個、酸素2個、窒素2個 C-H(110pm)25本、C-C(154pm)20本、C=C(133pm)6本

HGS分子構造模型 有機化学学生用セット 定価:2,640円 水素30個、炭素(4穴)9個、炭素(5穴)6個、窒素2個、酸素4個、硫黄1個、塩素2個 C-H(110pm)30本、C-C(140pm)7本、C-C(154pm)20本、C=C(133pm)12本

HGS分子構造模型 C型セット 有機化学実習用 定価:4,400円 水素30個、炭素(穴4)30個、炭素(穴5)14個、窒素(穴4)4個、窒素(穴5)2個、酸素4個、塩素4個、金属2個

HGS分子構造模型 B型セット 有機化学研究用 定価:7,700円 水素60個、炭素(穴4)38個、炭素(穴5)14個、窒素(穴4)4個、窒素(穴5)2個、酸素6個、ケイ素2個、リン2個、硫黄2個、塩素4個、ホウ素2個、金属2個 O-H(96pm)10本、C-H(110pm)60本、C=C(133pm)白10本、C=C(133pm)青30本、C-C(154pm)60本、C-C(140pm)20本、C-O(N)(145pm)10本、C-Cl(S)(180pm)10本、C-Br(190pm)10本、C-I(210pm)10本

活性酸素種(ROS)とは?ROS,酸素分子、ラジカルなどについて

活性化酸素種(ROS)とは

活性化酸素種( reactive oxygen species; ROS) は、酸素原子を含む反応性の高い化合物の総称です。

通常、三重項酸素が励起してできる一重項酸素(1O2)、酸素が一電子還元された超酸化物スーパーオキシド(O2)、スーパーオキシドが不均化して生じた二電子還元種である過酸化水素(H2O2)、過酸化水素より生成するヒドロキシラジカル(HO・)の4つを指します。(’活性酸素(かっせいさんそ)  e-ヘルスネット 厚生労働省)

活性酸素種(ROS)の種類の覚え方

活性酸素種(ROS)という言葉は、日常的に非常によく目にする言葉ですが、一重項酸素、スーパーオキシド、過酸化水素、ヒドロキシラジカルの4つが活性酸素種(ROS)と呼ばれると言われても互いの関係がわかりにくいと思います。

活性酸素「種」というくらいなので、種類がたくさんあることが理解しにくい原因です。しかし、酸素分子O2がどの程度還元されたか(電子をいくつもらったか)という段階で分けて考えるとすっきり整理できます。

まず酸素が水になるのは、酸素が完全に還元された状態です。「還元される=電子をもらう」が定義でした。酸素分子O2が、電子を1個ずつもらう(還元される)ステップで考えます。

「電子を1つ貰う」=「e-  + H+ をセットでもらう」の意味です。

  1. 酸素分子 O2
  2. スーパーオキシド ・O2 ー  + H+ (酸素分子O2が、電子をひとつ貰った)
  3. 過酸化水素 H2O2 (スーパーオキシドが電子を一つもらった。もとのO2で考えると、電子を2つもらった)
  4. ヒドロキシラジカル ・HO (過酸化水素が電子を一つもらった。もとのO2で考えると、電子を3つもらった。2つ貰ったらH2O(完全に還元)ができて、のこりがヒドロキシラジカル)
  5.  H2O (ヒドロキシラジカルが電子を1つもらた。もとのO2から考えれば電子を合計4つ貰った。もとから考えればH2O分子が2つできたことになります。)

(生体における活性酸素フリーラジカルの産生と消去 図1 より)

参考記事

  1. 最近よく耳にする活性酸素とは: 岡山理科大学
  2. 生体における活性酸素フリーラジカルの産生と消去 (PDF) 今田 伊助, 佐藤 英介, 井上 正康 大阪市立大学医学部

次亜塩素酸 hypochlorous acid について

「次亜塩素酸」という単一の物質名が書かれた水溶液は、しばしば pH が異なりしかも pH の違いによって殺菌に要する時間が数十倍となる 11) ことがあるため、市場に混乱を生じさせる要因となっている。pHの違いによって殺菌効果の差は、次亜塩素酸の性質である、非解離の次亜塩素酸(HClO)とプロトン(H+)が解離した次亜塩素酸イオン(ClO-)との間の平衡が大きく影響している(式 2)11-13)。

𝐇𝐂𝐥𝐎 ⇄ 𝐇+ + 𝐂𝐥𝐎− ········· (式 2)

非解離の次亜塩素酸のほうが、解離型の次亜塩素酸イオンよりも殺菌効果が高く、Marks は pH
に依存した非解離の次亜塩素酸の濃度のみが殺芽胞速度に影響すると報告している 14)。

https://www.thcu.ac.jp/uploads/imgs/20200622122100.pdf

Marks HC, Wyss O, Strandskov FB. Studies on the Mode of Action of Compounds Containing Available Chlorine. J Bacteriol. 1945 Mar;49(3):299-305. doi: 10.1128/jb.49.3.299-305.1945. PMID: 16560921; PMCID: PMC374040.

次亜塩素酸も活性酸素種の一つとされるようです。

次亜塩素酸の殺菌効果は,活性酸素ラジカル種の一つであるヒドロキシルラジカル(・OH)によるタンパク質,核酸の分解・変性によるものであると報告されている https://www.jstage.jst.go.jp/article/electrochemistry/73/11/73_962/_pdf

好中球にはミエロパーオキシダーゼという酵素が大量に存在し、活性酸素の一種である過酸化水素を塩素イオンと反応させ次亜塩素酸を作り出すからです。なぜ好中球は次亜塩素酸を発生させるこの酵素を大量に有しているか考えたとき、理由はまさに「除菌作用の為」と言えます。https://www.disolva.jp/space/shikumi.html

  1. 生体における活性酸素フリーラジカルの産生と消去 今田 伊助, 佐藤 英介, 井上 正康 大阪市立大学医学部 https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/37/6/37_6_411/_pdf
  2. Sin-Yi Liou, Michael C. Dodd, Evaluation of hydroxyl radical and reactive chlorine species generation from the superoxide/hypochlorous acid reaction as the basis for a novel advanced oxidation process, Water Research, Volume 200, 2021, 117142, ISSN 0043-1354, https://doi.org/10.1016/j.watres.2021.117142.

亜塩素酸について

亜塩素酸(HClO₂)の活性分子種は、塩素過酸化ラジカル(ClOO・)であるということが、最近の研究によって分かり https://www.sankei-group.com/corp/products/asui/

酸素分子の性質

  1. 基礎無機化学第13分子構造と結合(回V)分子軌道法(I):分子軌道法の基礎と二原子分子 molecularscience.jp ペアを作っていない電子(不対電子)を2つもち,このスピンが磁性を示す.(液体酸素は磁石にくっつく
  2. 酸素分子の電子配置   かがくののおと 8 軌道に1つしか電子が入っていないとき,その電子をラジカルとよぶ.ラジカルは,普通は反応中間体のような,不安定な分子に現れ,反応性が高い.酸素分子はいろんな反応をしやすい.

電子のスピンの多重度とは

電子の多重度Mは、

M=1+2∑s(ただしsはスピン量子数で1/2か-1/2をとる)

で定義され、M=1のときを一重項状態M=3のときを三重項状態と呼ぶそうです。電子が軌道間を遷移する場合は、多重度が変化することは通常許されない(=低い確率でしか起きない)という原理が、蛍光と燐光の違いを生み出しています。一重項励起状態から一重項基底状態に遷移する場合に起こる発光が蛍光です。一重項励起状態から系間移動で三重項励起状態に移りそこから一重項基底状態に遷移する場合に起こる発光が燐光です。蛍光は許容遷移のためミリ秒より短い時間で起きるのに対し、燐光は禁制遷移のため遅く、ミリ秒より長い時間で起きるのだそう。下のリンクの説明が非常にわかりやすかったです。

  1. 一重項、三重項有機分子の発光の物理 電光石産小さな石たちの物語-半導体のお話
  2. 多重度 (化学)(ウィキペディア) 多重度は、全スピン角運動量をSとしたとき、2S+1で定義される。全ての電子が対になっている場合はS = 0で、多重度は1である。この場合は一重項(singlet)と呼ばれる。分子が1個の不対電子を有している場合はS = 1/2で、多重度は2S + 1 = 2(二重項、doublet)である。不対電子が2個の場合は同様に三重項(triplet)と呼ばれる。

三重項(トリプレット)酸素

基底状態の酸素分子は三重項酸素と呼ばれ、3O2で表される。これは2つ存在するπ*2p軌道を1個ずつの電子が占有しており、全スピン量子数が1の状態(一重項酸素 ウィキペディア)

偶数個の電子をもつ原子,分子において,電子の多重度D=2S+1=3となるような,スピン量子数S=1の状態三重項状態 コトバンク)

三重項(基底状態)、一重項(励起状態)のうちのΔ状態と、Σ状態を説明する下図がわかりやすいです。

(画像:CC BY-SA 3.0 Molekülorbital-Sauerstoff.png

  1. 一重項酸素 Singlet Oxygen けむすて
  2. 一重項と三重項とは 物理のかぎしっぽ

三重項酸素は、軌道に電子が単独で存在する状態なのでフリーラジカル2つの不対電子を有するのでビラジカルと呼ばれる。ただし、三重項分子は一般的に一重項である有機化合物(生体分子を含む)と反応しないのだそう。

  1. 三重項酸素 薬学用語解説 日本薬学会

一重項(シングレット)酸素

分子軌道の1つπ*2p軌道上の電子が一重項状態(=全スピン量子数が0)で占有されている励起状態。一重項状態は、2つ存在するπ*2p軌道をそれぞれ1個ずつの電子が占有しているΣ状態と、2つ存在するπ*2p軌道の一方のみを2個の電子が占有し、もう一方のπ*2p軌道は空軌道のΔ状態の2種類ある。(参照:一重項酸素 ウィキペディア)

多電子原子や分子の全電子のスピン量子数の和(合成スピン角運動量S)が0である状態.この状態の多重度(2S+1)は1なので,一重項状態といわれる.(一重項状態 コトバンク)

酸素分子は基底状態が三重項状態であり、三重項状態では反応性はあまり高くないのですが、励起状態である一重項酸素分子は、反応性が高く、いわゆる活性酸素の一つです。

  1. 一重項酸素の研究(活性酸素分子の生成,検出,定量)(akikuchi.ynu.ac.jp)

Δ1状態よりΣ1状態の方がエネルギーが高いため、Σ1状態は速やかにΔ1状態に遷移する。このため一重項酸素といえば通常Δ1状態のものを指す。一重項酸素(Δ1)は活性酸素の一種ではあるが、軌道上に単独の電子を持たず、フリーラジカルではない。(一重項酸素 薬学用語解説 日本薬学会)

ややこしいですね。酸素の基底状態は三重項状態で、フリーラジカルであるが、反応性は高くない。酸素の励起状態は一重項状態で、フリーラジカルではないが反応性が高く、活性酸素種の一つである。とまとめられそうです。

  1. 生体における一重項酸素の生成と消去 ー酸化ストレスとの関わりを考えるー 2016

 

酸素分子の分子軌道に関する参考サイト

  1. 【分子軌道論】結合性、反結合性軌道の解説と窒素、酸素の分子軌道例 化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ
  2. 酸素分子O2 eng.kagawa-u.ac.jp 酸素原子の1s軌道同士、2s軌道同士および2pz軌道同士から3組のσ-σ*軌道を作り、2px軌道同士および2py軌道同士から2組のπ-π*軌道を作ります。
  3. 酸素の分子軌道 第一部:化学と物質構造・共有結合 sekigin.jp

分子軌道法に関する参考サイト

  1. 分子軌道法(ウィキペディア)分子軌道波動関数は、既知のn個の原子軌道の線形結合(重ね合わせ)で表せると仮定する。LCAO(原子軌道の線型結合、Linear Combination of Atomic Orbital)近似と呼ばれる。原子価結合法(1927年)の後、フント、マリケン、スレイター、レナード-ジョーンズらによって開発された。当初は「フント-マリケン理論」と呼ばれていた。
  2. 原子構造と化学結合 .doshisha.ac.jp
  3. 分子軌道理論を用いた有機反応機構の考察 園田 高明
  4. 【量子化学】分子軌道法とエネルギー準位図の書き方をわかりやすく解説 大学生のための量子化学

その他の参考

混乱しやすい概念、関連するトピックなど。

  1. フロンティア軌道 化学反応における役割 米澤貞次郎

 

ROSの生理作用

  1. Circadian Rhythm Connections to Oxidative Stress: Implications for Human Health Melissa Wilking,1 Mary Ndiaye,1 Hasan Mukhtar,1,2 and Nihal Ahmadcorresponding author1,2,3 Antioxid Redox Signal. 2013 Jul 10; 19(2): 192–208. PMCID: PMC3689169 doi: 10.1089/ars.2012.4889

 

RS表示法

化合物をネットで調べていると、化合物の名称の前にRやSがついていることがよくあります。これはRS表示法に基づく記載方法です。RS表示法は、不斉炭素をもつ化合物の原子団の向きをきめるもので、かりに不斉炭素Cに4つの原子団L1,L2,L3,L4があったとします。ここで1~4の番号付けは、CIP順位則(Cahn–Ingold–Prelog priority rule)というルールに従います。

CIP順位則では、原子番号が大きいものの順位を高くする(小さい番号を与える)ことになります。例えば、メチル基 (−CH3)、アミノ基 (−NH2)、ヒドロキシ基 (−OH) の場合、炭素(原子番号6)、窒素(原子番号7)、酸素(原子番号8)なので、順位はヒドロキシ基が1番、アミノ基が2番、メチル基が3番です。同順位の場合には、その原子団についている他の原子で順位を決めます。

次にL4を紙面の置く方向に配置して、L1,L2,L3を見ます。1,2,3が時計回りならR, 反時計回りになっていればSと決めています。

  1. 基礎講座有機化学 化学同人 158ページ

DL表示法

不斉炭素を含む化合物には鏡像異性体が存在します。生体物質の場合は、この区別は非常に重要で、一方の構造しか酵素で認識されないため、他方は存在しないということになります。例えばアミノ酸であればL型しか存在しませんし、グルコースでいえばD型しか存在しません。

DL型の区別方法ですが、グリセルアルデヒド CH(=O)(-OH)(-CH2OH)を基準に決められています。グリセルアルデヒド をフィッシャーの投影式で描いたときに、水酸基ーOHが右側にくるものをD体としています。

グルコースのように不斉炭素がたくさんある場合は、フィッシャー投影式で一番下にくる不斉炭素に結合する水酸基が右側にあればD体とします。

アミノ酸の場合は、どうようにアミノ基が右がわにくるものをD体とします。

D-(+)-グリセルアルデヒド

のようにD体であることを示します。その次の(+)は旋光性を表していますが、DLとの関連性はありません。D-グリセルアルデヒドの旋光性がたまたま(+)だったのでこのように表記しているのです。D-(-)-グリセルアルデヒドなる物質が別に存在するというわけでもありません。

L-システイン のようにL型であることを示すことがあります。全然関係ないのですが、α‐アミノ酸という言い方をすることがあります。混乱しないように、ここで説明しておきます。αの意味は、アミノ基がα位の炭素に結合しているという意味です。α位というのは、カルボキシ基がついている炭素のことです。生体を構成するタンパク質を構成する20個のアミノ酸はすべて、αアミノ酸ですので、わざわざαアミノ酸と呼ばずに単にアミノ酸と呼ぶことが多いです。わざわざαアミノ酸と呼ぶことがある理由は、アラニンのように炭素鎖がある場合、側鎖であるメチル基の炭素(β位)にアミノ基がつく異性体β‐アラニンが考えられるからです。

 

制御性T細胞(Treg)とは

 

Tregとがんとの関係

制御性T細胞(Treg)は免疫を抑制する方向で働き、過剰な免疫応答を抑制しています。しかし、がんにおいては、がんと闘うべき免疫システムを抑制するという好ましくない状態を作り出してしまします。

Regulatory T cells (Tregs) were initially identified in both mice [1] and humans [2] as CD4+ T cells constitutively expressing the α receptor to IL-2 (CD25) and inhibiting the immune response of effector T cells, notably their production of interferon-γ. These cells are known to be a key contributor to the maintenance of immune tolerance, preventing the emergence of organ-specific auto-immune disease. However, in cancer-bearing animals or patients, Tregs expand, migrate to tumor sites and suppress antitumor immune response mediated by NK cells, CD4+ and CD8+ T cells, and myeloid cells, through different molecular mechanisms [3]. The discovery that the transcription factor forkhead box P3 (FOXP3) was a more specific marker for distinguishing Tregs from other populations of T lymphocytes [4] strengthened their identity. Thus, nuclear immunolabeling with anti-FOXP3 antibodies has been widely used to characterize Treg cells on tissue sections, notably in human tumors.(Prognostic role of FOXP3+ regulatory T cells infiltrating human carcinomas: the paradox of colorectal cancer Cancer Immunology, Immunotherapy volume 60, pages909–918 (2011))

  1. CD4 and FOXP3 as predictive markers for the recurrence of T3/T4a stage II colorectal cancer: applying a novel discrete Bayes decision rule BMC Cancer volume 22, Article number: 1071 (2022) 18 October 2022
  2. The prognostic value of tumor-infiltrating lymphocytes in colorectal cancer differs by anatomical subsite: a systematic review and meta-analysis World Journal of Surgical Oncology volume 17, Article number: 85 (2019)
  3. FOXP3+ Tregs: heterogeneous phenotypes and conflicting impacts on survival outcomes in patients with colorectal cancer Immunologic Research volume 61, pages338–347 (2015) 大腸癌における制御性T細胞の役割に関する相反する報告のレビュー
  4. CD4+ T Cells Expressing Latency-Associated Peptide and Foxp3 Are an Activated Subgroup of Regulatory T Cells Enriched in Patients with Colorectal Cancer Published: September 30, 2014 https://doi.org/10.1371/journal.pone.0108554
  5. Expression of Foxp3 in Colorectal Cancer but Not in Treg Cells Correlates with Disease Progression in Patients with Colorectal Cancer Published: January 30, 2013 https://doi.org/10.1371/journal.pone.0053630
  6. Regulatory (FoxP3+) T-cell Tumor Infiltration Is a Favorable Prognostic Factor in Advanced Colon Cancer Patients Undergoing Chemo or Chemoimmunotherapy J Immunother. 2010 May; 33(4): 435–441. doi: 10.1097/CJI.0b013e3181d32f01 PMCID: PMC7322625 NIHMSID: NIHMS1597178 PMID: 20386463
  7. High density of FOXP3-positive T cells infiltrating colorectal cancers with microsatellite instability British Journal of Cancer volume 99, pages1867–1873 (2008) Published: 04 November 2008

制御性T細胞に関する論文

  1. Immunologic self-tolerance maintained by activated T cells expressing IL-2 receptor alpha-chains (CD25). Breakdown of a single mechanism of self-tolerance causes various autoimmune diseases S Sakaguchi 1, N Sakaguchi, M Asano, M Itoh, M Toda J Immunol . 1995 Aug 1;155(3):1151-64.