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先行研究を調べる方法

臨床研究を行う際に出発点となるのは「診療上の疑問」、すなわちクリニカル・クエスチョン(Clinical question)を抱くことです。Clinical questionが生じたら、今度は、それが既に誰かによって答えられていないかどうかを調べなければなりません。つまり先行研究の論文があるかどうかです。

クリニカルクエスチョンは、漠然としたものですが、それをもう少し具体的な形に落とし込んで検証可能な形にしたものが、リサーチ・クエスチョンと呼ばれます。リサーチ・クエスチョンは、いわゆるPECO/ PICOの構造を持ちます。

  • P: Patients あるいは Participants 患者 あるいは 研究への参加者
  • E: Exposure 暴露因子
  • I: Intervention 介入
  • C: Control 比較対照
  • O: Outcome イベントなどの結末

簡単に言えば、「E/IによってOがどうなるかをPとCで比較して調べる」というのがリサーチ・クエスチョンの典型です。さて話を先行研究の調べ方に戻しますと、このPECO/PICOのうちのE/IとOにあたる語句をキーワード検索に用いて検索すれば、関連論文が拾ってこれます。

先行研究を調べるためには文献データベースを検索してヒットするかどうかを見ます。また論文がヒットしたらその論文が引用している論文を調べます。最新のレビュー論文を見るのも、手っ取り早く過去の論文を調べる方法です。類似論文をもとに、それが最近のどの論文で引用されたかを検索することもWeb of Scienceを使えば可能です(つまり過去の文献から、現在の方向に向かって検索)。

先行研究をチェック

自分が抱いたクリニカルクエスチョンが既に誰かによって答えられていないかどうかを調べるためには、先行研究をチェックする必要があります。既に論文になっていればまた別のクエスチョンを考えるか、論文化された内容の先をいくクエスチョンを考えなおすことになります。一つもの問題を考えたときに、それに対する答えが得られると、また新たなその先の疑問が生じるものです。突き詰めてものを考えるようにすれば、疑問がすべて解き明かされることはそうそうないのです。

先行研究の検索で難しいのは、先行研究や類似研究が存在しない場合に、本当に存在しないという確証を得ることです。慣れていないと単に検索のやり方がまずかっただけということが十分考えられます。研究開始時には検索しても先行研究がないと思っていたのに、研究を始めて改めて検索したら実はすでに同じ研究が論文になっていたことに気付くということが起きると悲劇です。

自分が思いついた研究は、本当に誰も行ったことがない研究なのかどうか、また、先行研究があったとしても、新しい視点で再検討する価値のある領域なのかどうか、系統的に確認を取っておく必要がある。(138ページ 先行研究の調査 『臨床研究と論文作成のコツ』)東京医学社 2011年)

参考

  1. Evidnce-Based Dentistry入門 世界のエビデンスを日々の診療にいかす 角舘直樹
  2. 臨床研究と論文作成のコツ 東京医学社 2011年 先行研究の調査 138~141ページ
  3.  臨床研究アウトプット術 中外医学社 2020年 6章 研究論文を読む 先行研究サーチ法 311~318ページ

クリニカル・クエスチョン(Clinical Question; 臨床疑問)を見つける方法

臨床医が臨床研究を始めるスタートは、クリニカル・クエスチョンを抱くことです。

クリニカル・クエスチョンをどうやって見つけるか

臨床医が患者を前にして抱いた「診療上の疑問」のことをクリニカル・クエスチョンと呼びます。

目の前の患者に本当に必要な(検査)治療は何なのか、それがクリニカルクエスチョンです。その他にも、通常通り診療をしていて、予想と違う検査結果、意外な治療効果が見られた例行った治療が予想と反し無効だった症例はないでしょうか。どうしてこんな結果が出たのか?どうしてこんな効果が見られたのか、見られなかったのか?それもクリニカルクエスチョンです。診察、検査、などで患者に向き合う時間が多ければ多いほど、また注意深く結果を観察すればするほど、このような状況に出会う機会も増えます。(48ページ 臨床研究アウトプット術 中外医学社 2020年)

研究のネタを見つける一つの方法は、診療ガイドラインを読んで、エビデンスの有無や信頼性の強さを知ることです。

「clinical questions」に対するanswersには、まだevidenceが全然ないもの、evidenceはあるがまだその根拠が弱いもの、なども多い。そして、十分なevidenceがない分野こそ、「臨床研究の課題」となり得る。(119ページ 臨床研究テーマの選び方 臨床研究と論文作成のコツ 東京医学社 2011年)

クリニカルクエスチョンが浮かんだら、次にやるべきはそのクエスチョンに対する答えがすでに世の中にあるかどうかを知ることです。そのため、先行研究を検索することになります。

記事 ⇒ 先行研究を調べる方法

臨床医が臨床疑問を持ってから論文化するまでの一連の流れ

臨床医は患者さんの治療がメインなのでみながみな臨床研究をする必要はないわけです。しかし最近は特に大学においては臨床医も研究を行うことが重要視されてきているように思います。助教、講師、准教授、教授と昇進していくためには論文業績が欠かせません。もちろん臨床研究を行う理由は昇進に必要だからというだけではないのですが。

この記事では全く研究がどういうものかわからない臨床医向けに、どうやって研究テーマを見つけ、研究計画を立てて研究を実施するか、さらにそれを論文化するかという一連の流れを解説したいと思います。まず最初に、臨床研究はどんな順序でどんなステップで進んでいくものなのかを簡単に説明します。

  1. 日常の臨床において、習った通りでない、あるいは習ったことがないことに遭遇し、さまざまな疑問(臨床疑問;クリニカル・クエスチョン;Clinical Question)を抱く。
  2. PubMedなどの文献データベースにあたって、自分の疑問が既に研究報告されていないかどうか、先行研究を調べる
  3. 論文報告がないクリニカル・クエスチョンであれば、それを研究によって答えられるような「リサーチ・クエスチョン(Research Question)」の形にまとめる。
  4. 研究のデザインを考える。
  5. リサーチ・クエスチョンと研究のデザインに基づき、より具体的な研究計画書を作成する。
  6. 所属する機関の倫理委員会に研究計画書を提出して承認を得る。
  7. 必要に応じて患者さんからインフォームド・コンセントを得る。
  8. 実験を実施する。患者さんからのデータの収集、分析を行う。
  9. 論文を作成する。データの分析結果を図表にまとめ、本文を執筆する。
  10. 論文を投稿する。査読者のコメントに従い論文を改訂し、再投稿して、最終的に論文受理(アクセプト)に漕ぎ着ける。

さらに細かいステップに分けようと思えば分けられますが、だいたい上記のようなステップを考えることになります。

なぜ臨床医が研究をするのか 臨床研究の意義

論文の形に仕上げることが臨床研究の基本です。いったん文献の形となると、その表現は時空を超えます。(17ページ 第1章 臨床研究の意義 『臨床研究アウトプット術 中外医学社 2020年』

エビデンスの本質を知るには、どのようにそのエビデンスが作られているのかを知らなければいけません。そのあめに臨床研究を行う必要があるのです。(8ページ 原正彦『臨床研究立ち上げから英語論文発表まで最速最短で行うための極意 金芳堂 2017年』

クリニカル・クエスチョンをどうやって見つけるか

独立した記事に纏めました ⇒ クリニカル・クエスチョン(Clinical Question; 臨床疑問)を見つける方法

先行研究を調べる方法

独立した記事に纏めました ⇒ 先行研究を調べる方法

研究のデザインはどれを選ぶか

記事 ⇒ 臨床研究のデザイン:介入研究、観察研究、横断研究、縦断研究、前向きコホート研究、症例対照研究、ほか

多くの医学研究は観察研究である。(中略)臨床専門の学術雑誌に掲載された論文のうち約10分の9は、観察研究による研究を記したものである。

(観察的疫学研究報告の質改善(STROBE)のための声明:解説と詳細)

 

単刀直入に言います。先生個人が単一施設で行う研究デザインとしては

2群比較の観察研究

に的を絞って研究を行っていくのがよいと思います。(中略)さらに言うと、新規に患者さんをエントリーして今を起点として将来にわたってデータを取得していく前向き(prospective)研究ではなく、過去に遡って既にカルテに記載のあるデータを取得していく後ろ向き(retrospective)観察研究がより初学者向けでおススメです。

(原 正彦『臨床研究立ち上げから英語論文発表まで最速最短で行うための極意』2017年 金芳堂 41ページ)

practice gap とは?研究(成果)と臨床(実践)との間の溝

臨床研究は、日々の診療に役立てることを目的として行われています。それにも関わらず、臨床研究で得られた知見が、病院の医師たちによって直ちに受け入れられて診療に役立てられるかというと決しそんな単純に事は運ばないようです。

 

松原茂樹 編著『臨床研究と論文作成のコツ 読む・研究する・書く』で、研究と臨床との間のギャップが説明されていました。

  • せっかくの研究がしばしば生かされていない。いったい何のための研究だったのか。せっかくの貴重な研究結果が、臨床の現場で使われない。(25ページ)
  • Cochraneの主張は二つである。一つはRCTの必要性を強調したこと。もう一つは、その結果が放置されず、必要な人に利用されるようになることの重要性を説いたことである。(26ページ)
  • 研究され、その論文が必要な人に届けられ、読まれたとしても、適切に使わなければ、どうしようもない。(26ページ)
  • 研究をする人たちは新しいことが好きである。逆に実践する人は、そうそう毎日新しいことがあっては大変である。むしろあまり変わらない日々が重要である。(中略)研究者は新しいものにより批判的に、実践者は古いものにより批判的になる立場がもとめられる。(29~30ページ)

引用元:『臨床研究と論文作成のコツ 読む・研究する・書く』論文を読む 名郷直樹

 

 

プラクティス・ギャップ(Practice Gap)とは

A professional practice gap is the difference between a desirable or achievable state of practice and current reality. For example, “Current guidelines recommend X, but this is not commonly achieved in practice,” describes a practice gap. (エモリ―大学医学部)

 

参考

 

  1. Closing the Clinical Gap: Translating Best Practice Knowledge to Performance with Guidelines Implementation Lisa E. Ishii, MD, Published March 5, 2013  https://doi.org/10.1177/0194599813481203 本文有料 While thousands of clinical practice guidelines are in existence, a clinical gap exists between knowledge and clinical performance.
  2. What is a “Gap in Care?”

臨床研究のデザイン:介入研究、観察研究、横断研究、縦断研究、前向きコホート研究、症例対照研究、ほか

基礎生物学の研究をやっているときには、研究のデザインをわざわざ考える必要もなかったのですが、臨床研究の場合には、人を対象とするため研究のデザインにはいろいろな制約が生じることになり、典型的な研究の型というものが存在します。臨床研究は大きく2つにわけるなら、介入研究と観察研究に分けられます。基礎生物学の研究は、あえていうならほとんどが介入研究だったということになるでしょう。つまり実験動物を「対照群」と「実験群」とに分けて薬剤の効果を調べたり、遺伝子を破壊した効果を調べたりしていたわけです。ヒトを対象とする研究に比べれば動物を使った場合に倫理的な問題がほとんどないため、介入研究が一般的だったわけです。もちろん、ウニの発生をひたすら観察するといった、「観察研究」も当然あるわけですが、現代の生命科学研究ではメカニズムを調べないとなかなか良い研究だとみなされないため、マイナーな存在になっていると思います。

余談はさておき、臨床研究の種類を纏めておきます。研究のテーマから考えるか、研究のデザインから考えるか、どちらかといえば、まずは研究のテーマありきでしょう。日常の診療から生まれた素朴な疑問すなわちクリニカル・クエスチョンを、研究の対象となりえるような構造化されたリサーチ・クエスチョンにする際に、研究のデザインを考えることになります。

臨床研究の場合、研究テーマはいくつかのパターンに大きく分けて考えることができます。まずひとつは、「要因」と「アウトカム」との関係を調べること。例えば、何が原因で病気になるのか、予後予測因子が何か、といったことです。もうひとつが、治療や予防法の効果を調べること。どっちの治療が優れているのか、といったことです。臨床の目的がそもそも、病気の原因を知り、その治療法を考えることなので、この2つがメジャーな研究テーマになります。そのほかには、病気や診療の実態を調べる「記述研究」があります。例えば、川崎病を発見した川崎博士の症例報告は、このジャンルに分類されます。

  1. Infantile Acute febrile Muco-cutaneous lymph node syndrome: clinical observations of 50 cases. [英文抄録付き日本語論文] Jpn. J. Allerg. 1967; 16: 178–222. 英訳版 Pediatr Infect Dis J, 2002; 21(11):1–38(PDF)

また、診断法を評価する研究というものもあります。要因とアウトカムとの関係を調べる研究のデザインとしては、コホート研究(前向きコホート研究、後ろ向きコホート研究)が王道ですが、横断研究や症例対照研究も使われます。治療や予防法の効果を調べる研究は、介入研究が王道ですが、コホート研究も使われます。

記述研究 横断研究 コホート研究 症例対照研究 介入研究
病気や診療の実態
要因とアウトカムとの関係
治療・予防法の効果
診断法の評価

(参考:福原俊一『臨床研究の道標第2版下巻50ページ』

さて、研究の目的が決まったら次に研究のデザインを考えるわけですが、研究の型は上の表のようにいくつかに分類されており、その分類の基準となるのは、「介入」の有無(介入研究観察研究科)、「比較対照」の有無(分析的観察研究か記述研究か)、要因とアウトカムを一度に測るのか(横断研究)、時間的に異なるのか(縦断研究)。縦断研究の場合には、研究を始める時点でアウトカムが生じているか(後ろ向き研究)、それともこれからアウトカムが発生するのか(前向き研究)が分類のポイントになります。

  1. 福原俊一『臨床研究の道標第2版下巻』18ページ図5-1

研究の流れ

  1. Identification of research problem
  2. Carrying out a literature review
  3. Formulating the research question / research objective
  4. Proposal writing
  5. Institutional Review Board (IRB) approval and ethical consideration
  6. Data collection
  7. Data entry, cleaning, and management
  8. Data analyses
  9. Research dissemination

参考:INTRODUCTION TO CLINICAL RESEARCH FOR RESIDENTS 103 page PDF

臨床研究は、「介入」の有無により、介入研究(実験研究)と観察研究に大別されます。

 

介入研究

介入という言葉は、日常用語の意味、医師が良く使う意味、臨床研究の分類のために定義された意味の3つくらいの意味があるので注意を要します。日常用語としての「介入」は、割って入って何かをやることです。アメリカがベトナムに軍事介入した結果、ベトナム戦争が起きたといった具合です。医師が日常用語として使う「介入」は、患者に対して治療行為を行うことです。例えば、リハビリテーション治療介入を行ったり。そして3つ目が、臨床研究の分類としての介入研究です。「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」では次のように定義されています。

介入とは:

研究目的で,人の健康に関する様々な事象に影響を与える要因(健康の保持増進につながる行動,傷病の予防,診断や治療のための投薬・検査等)を制御する行為を行うこと.また,研究目的で実施される「通常の診療を超える医療行為」も含まれる.日本腹部救急医学会

この定義の前半部分は、傷病の治療方法,診断方法,予防方法,その他の研究対象者の健康に影響を与える要因に関して,作為又は無作為の割付けを行うことなどが含まれます。つまり、対照群と実験群とに分けて何かすればそれはすなわち介入というわけです。対照群を設けず単一群(シングルアーム)に特定の治療方法を割り付ける臨床研究も介入研究とみなされることになっています。

  1. 日本外科学会学術集会への演題応募における倫理的手続きに関するQ&A【令和元年7月9日改訂版】
  2. <介入の意味> 介入になる場合:対照群の無い単一群(シングルアーム)に特定の治療方法、予防方法など対象者の健康に影響を与えると考えられる要因を設定する場合も含まれます。 “通常の診療を超える医療行為”に該当しない場合でも、研究目的他の治療方法の選択を制約するか、研究計画書に基づいて作為又は無作為の割り付けを行うなど“制御”すれば「介入」 介入にならない場合:、研究目的で、診断及び治療のための投薬や検査等に関して“制御”することなく、その転帰や予後等の診療情報を収集するのみであれば、前向き(プロスペクティブ)に実施する場合も含めて「介入」を伴わない研究、すなわち観察研究

通常の診療を超える医療行為とは、

通常の診療を超える医療行為とは:

未承認医薬品未承認医療機器の使用,既承認医薬品・医療機器の承認等の範囲(効能・効果,用法,用量等)を超える使用,その他に医療保険の適応となっていない新規の医療行為を指す.即ち,既承認医薬品や既承認医療機器の適応外使用,医薬品の過量投与が含まれる.(日本腹部救急医学会

つまり、臨床現場での日常会話で、「治療介入」という言葉がありますが、別に、手術したからといって必ずしも介入とはならないわけです。通常の診療の範囲での手術であって、患者ごとに割付け(手術のあり、なし)などをしていないのであれば、その患者さんの経過についての研究を前向きに行ったとしても、介入研究とは呼ばないことになります。

 

侵襲を伴う研究

研究のデザインとは趣旨がズレますが、「介入研究」と「侵襲を伴う研究」の定義や区別は、「特定臨床研究」に該当するかどうかや、インフォームドコンセントの取り方などにも影響する重要なことなので、侵襲とは何かを理解することも大事です。

侵襲の定義:

あくまで研究目的で行われる,穿刺,切開,薬物投与,放射線照射,心的外傷に触れる質問等によって,研究対象者の身体又は精神に傷害又は負担が生じること(日本消化器病学会

 

「軽微な侵襲」の例:

  • 研究目的のみの少量の採血(ただし、年齢や体格によっては少量でも侵襲になり得る)
  • 研究目的で実施する単純X線撮影
  • 造影剤を使用しないMRI 検査(ただし、小児や妊婦においては画像検査そのものが侵襲に相当する可能性がある
  • 診療目的での穿刺,切開,採血等に、研究目的で採取量を上乗せすること

 

  1. 研究倫理Guide No.3 Oct 2009 侵襲性を有する研究とは何か 「侵襲」の2つの意味

 

介入研究と侵襲を伴う研究との違い

侵襲を伴う研究が全て介入研究というわけではありません。侵襲+ー、介入+ーの組み合わせで、4通りがあります。

 

特定臨床研究

臨床研究法」の対象となる研究は、「特定臨床研究」と呼ばれます。特定臨床研究に該当するかどうかの判断は、臨床研究法の対象となるかどうかにかかわるため大事です。特定臨床研究とは、介入研究の中でも特に、

特定臨床研究とは:

医薬品等を人に対して用いることにより,当該医薬品等の有効性又は安全性を明らかにする研究」であり,「医薬品等製造販業者又はその特殊関係者から研究資金等の提供を受けて実施する臨床研究」または「未承認又は適応外の医薬品等を用いて実施する臨床研究」のいずれかに該当する研究(臨床研究の実践知 [第15回] 臨床研究法の適用範囲と特定臨床研究の流れ 連載 有吉 恵介 医学界新聞

と定められています。

 

観察研究は、比較のための対照の有無により、分析的観察研究と記述研究とに分類されます。分析的観察研究はさらに、暴露とアウトカムを観察するタイミングにずれがあるかどうかで横断研究(同時に観察)と縦断研究(暴露とアウトカムの間には時間的な距離がある)に分かれます。横断研究の場合は、暴露とみなした因子とアウトカムとみなした因子の間に因果関係があるかどうかはわかりません。因果関係が予想の逆ということもあり得ます。

  1. 「侵襲」「介入」の例

 

RCT ランダム化比較試験

臨床試験ではRCTが一番強いエビデンスだと言われています。RCTというと仰々しいですが、動物実験など基礎系の生物実験をやる身としては、自分が今までやっていた普通の実験がまさにRCTということになりましょう。対象がヒトじゃないだけで。

RCTの場合にはCONSORTという文書にまとめられた指針を守ることが大事です。

  1. CONSORT 2010声明ランダム化並行群間比較試験報告のための最新版ガイドライン

RCTの短所

RCT(ランダム化比較試験)が、ゴールドスタンダード(黄金律)として持ち上げられるのですが、実際にはRCTにも欠点があります。それは患者を組み入れる基準が厳格なため、ある特定の患者群における結果でしかなく、実際にリアワールドにおいて多様な臨床像を示す患者さんたちにそのまま当てはまるかどうかはわかないという点です。言い換えるなら、「外的妥当性」が低いのがRCTの短所であるともいえます。RCTが行われたからおしまいとはならず、RCTの結果を踏まえてリアルワールドデータを用いた研究によるエビデンスの構築が望まれるのです。例えば、糖尿病治療薬SGLT2阻害薬が腎保護作用を持つという結論がRCTにより得られましたが、その後、リアルワールドデータ(RWD)においてもそれが確かめられました。つまり、RCTとRWDは互いを補完する関係にある研究デザインだと言えます。

観察研究

観察研究というのは、臨床研究を大きく2つに分けた場合のタイプのうちの1つで、介入研究と観察研究というくくりになります。

観察研究を行う場合の指針としてSTROBEというものが制定されています。STROBEとは、 Strengthening the Reporting of Observational Studies in Epidemiologyの略です。

多くの医学研究は観察研究である。(中略)臨床専門の学術雑誌に掲載された論文のうち約10分の9は、観察研究による研究を記したものである。

(観察的疫学研究報告の質改善(STROBE)のための声明:解説と詳細)

  1. 観察的疫学研究報告の質改善(STROBE)のための声明:解説と詳細 原文は英文ですが、それの全訳および解説です。
  2. 疫学における観察研究の報告の強化(STROBE声明):観察研究の報告に関するガイドライン

 

横断研究

「横断研究」という研究デザインでは因果関係がわからないことを納得するために、身近な例を考えてみましょう。本か何かで例に挙げられていたのですが、テレビを近くで見ている人は目が悪くなるという仮説を考えます。横断研究により、テレビを近くで見ているかどうかと、目が悪いかどうかを調べたとしましょう。その結果、確かに眼が悪い人ほどテレビを近くで見ていたとという結果が得られたとします。しかしこの結果の解釈は、目が悪いからやむを得ずテレビに近づいてみていたのか、それとも、テレビを近くで見ていた結果として目が悪くなったのかは全くわかりません。

 

縦断研究

暴露群と非暴露群とを一定期間観察して、アウトカムの有無を調べるものを、縦断研究の中でも特にコホート研究といいます。コホートというのはある特徴・条件を満たす集団のことです。コホート研究は「前向き」コホート研究が多いため、単にコホート研究というと前向きコホート研究のことを指すような言葉遣いがなされることが多いようです。しかし実際には、後ろ向きコホート研究というものも存在します。

  1. コホート研究 cohort study
  2. Introduction to study designs – cohort studies
  3. What is a cohort study in medical research? Medical News Today
  4. Indian J Dermatol. 2016 Jan-Feb; 61(1): 21–25. doi: 10.4103/0019-5154.174011 PMCID: PMC4763690 PMID: 26955090 Methodology Series Module 1: Cohort Studies Maninder Singh Setia
  5. ケースコホート研究の理論と統計手法野間 久史 統計数理(2014)第62巻第1号25–44c©2014統計数理研究所
  6. サンプリングとコホート研究,ケース・コントロール研究 企画/コホート研究とケース・コントロール研究―研究デザインの最近の動向― 薬剤疫学Jpn J Pharmacoepidemiol,18�2� Dec 2013:95

 

前向き研究と後向き研究の言葉の定義

研究の起点が過去のものを後ろ向き研究と呼びます。

前向きと後向きの違いは、研究対象となる患者の観察が始まった時点(起点)の違いだけである(図4-4)。(『できる!臨床研究 最短攻略50の鉄則』康永秀生 著 60ページ)

 

教科書によってはやや異なる言葉遣いで説明しています。

「前向き」と「後ろ向き」の違いは、研究を始めた段階ですでに結果が起きているか否かだよ。(『ゼロからはじめる 臨床研究論文の読み方 浦島充佳 編著』40ページ)

つまりは暴露もイベントも過去と考えれば良いのでしょう。

 

前向き、後ろ向きの用語の意味の混乱

前向きといえば前向きコホート研究であったり、後ろ向きといえば、症例対照研究を指すつもりで使われることがあります。しかし厳格に言えば、コホート研究にも前向きと後ろ向きの2者があり、症例対照研究であっても2通りあります。そのため、これらの言葉が使われているときには、何を指しているのかを意識する必要があります。

われわれは研究を単純に「前向き(prospective)」とか「後ろ向き(retrospective)」と呼ぶことを勧めない。なぜなら、これらの用語の定義が明確ではないからである。
第1の使われ方では、前向きという用語はコホート研究を意味し、後ろ向きという用語はケース・コントロール研究を意味する。
第2の使われ方は、前向きコホート研究と後ろ向きコホート研究の区別であり、研究のアイデアが出た時期とデータ収集のタイミングにより区別している。
第3の使われ方は、前向きケース・コントロール研究と後ろ向きのケース・コントロール研究の区別であり、ケースが選択された時点で関心のある曝露についてのデータが存在するかどうかにより区別している。これらの用語の使われ方に対して、コホート研究を記述する際には「同時的(concurrent)」と「歴史的(historical)」で代用しようという意見もある。STROBEでは「前向き」あるいは「後ろ向き」という用語は使わず、さらに、その代用である「同時的」や「歴史的」という用語も用いていない。われわれは、著者がこれらの用語を使う際にはいつでも、これらの用語をどのような意味で用いたのかを定義して用いることを推奨する。(観察的疫学研究報告の質改善(STROBE)のための声明:解説と詳細

 

後ろ向きコホート研究

たまに外科領域の臨床研究で、症例マッチングなどを行って2群間のアウトカムを比較する研究を「症例対照研究」と銘打って論文化しているモノもありますが、私の理解ではそのネーミングは誤りかと思います。その典型例がこの研究です。タイトルには、胃癌に対する腹腔鏡手術VS開腹手術の長期成績を比較したケースコントロール・ケースマッチド研究となっていますが、術式選択は「アウトカム」ではなく、要因です。要因の有り無し(腹腔鏡か開腹か)で症例をマッチさせて、アウトカムを比較するわけですから、これは過去起点コホート研究ということになります。(研究デザインの「型」smallaki1003.sakura.ne.jp

始めて医師が臨床研究を行う場合のお勧めの研究デザインが、この後ろ向きコホート研究なんだそうです。

単刀直入に言います。先生個人が単一施設で行う研究デザインとしては

2群比較の観察研究

に的を絞って研究を行っていくのがよいと思います。(中略)さらに言うと、新規に患者さんをエントリーして今を起点として将来にわたってデータを取得していく前向き(prospective)研究ではなく、過去に遡って既にカルテに記載のあるデータを取得していく後ろ向き(retrospective)観察研究がより初学者向けでおススメです。

(原 正彦『臨床研究立ち上げから英語論文発表まで最速最短で行うための極意』2017年 金芳堂 41ページ)

  1. Terminology 101: Retrospective cohort study design. Apr 01, 2014 By Maher M. El-Masri, RN, PhD
  2. Retrospective cohort study From Wikipedia
  3. Literature Review: Observational Retrospective Cohort Studies

症例対照研究

症例対照研究とは、何かイベントが起った集団を「症例(ケース)」とし、同様にat riskな集団にも関わらずイベントが起らなかった集団を「対照(コントロール)」とし、そのイベントのリスク要因などを解析する研究を指します。(研究デザインの「型」smallaki1003.sakura.ne.jp

ケース・コントロール研究では,ケースの定義は比較的分かりやすいが,どうすればそのケースに適切なコントロール選択が可能かがいつも問題となる.しかし,コントロールは「もし疾病を発生すれば,ケースとしてその研究に登録されるであろう集団」から選択すれば妥当であるので,ケースが発生する背景にある仮想的なコホートを想定すれば,ケース・コントロール研究は常にコホート研究の一部と考えることができる(Rothman and Greenland, 1999).(疫学理論の発展と計量生物学 佐藤俊哉

2段階ケース・コントロール研究

症例対照研究はそのまま英語でケース・コントロール研究とも呼ばれます。

  1. 疫学理論の発展と計量生物学 佐藤俊哉

参考

  1. 人を対象とする医学系研究に関する倫理指針 平成26年12月22日 (平成29年2月28日一部改正) 文 部 科 学 省  厚 生 労 働 省
  2. 医学界新聞 研究デザインの選び方(小山田隼佑)連載2019.06.03
  3. )福原俊一.臨床研究の道標 第2版〈下巻〉.特定非営利活動法人健康医療評価研究機構;2017.
  4. 特定臨床研究の該当性に関するチェックリスト(厚労省)
  5. 第3話 研究編 「研究デザインって何?」 〜研究デザインについて〜 神奈川県臨床作業療法大会
  6. 臨床研究:実戦的 基礎知識 国立国際医療研究センター「初期臨床で身につけたい臨床研究のエッセンス」Vo l . 2第4章より抜粋・改変
  7. 国立研究開発法人国立国際医療研究センターにおける臨床研究に係る標準業務手順書第1.0版文書管理番号:CCS第0002号国立研究開発法人国立国際医療研究センターにおける臨床研究に係る標準業務手順書2016年8月24日第1.0版作成国立研究開発法人国立国際医療研究センター臨床研究センター
  8. INTRODUCTION TO CLINICAL RESEARCH FOR RESIDENTS 103 page PDF
  9. Module 4 – Epidemiologic Study Designs 1: Cohort Studies & Clinical Trials 非常にわかりやすい図を用いた解説

関連書籍

  1. Introduction to Health Research Methods: A Practical Guide by Kathryn H. Jacobsen | Feb 20, 2020
  2. Introduction to Clinical Research for Medical Students, Residents and Fellows. Tetyana L. Vasylyeva. 2012/2/1 アマゾン在庫切れ
  3. Introduction to Research and Medical Literature for Health Professionals 5th Edition March 25, 2019 by J. Glenn Forister (Author), J. Dennis Blessing (Author)
  4. Designing Clinical Research Fourth Edition July 10, 2013by Dr. Stephen B Hulley MD MPH (Author), Steven R Cummings MD (Author), Warren S Browner MD MPH (Author), Deborah G Grady MD MPH (Author), Thomas B Newman MD MPH (Author)
  5. Essential Concepts in Clinical Research: Randomised Controlled Trials and Observational Epidemiology 2nd Edition by Kenneth Schulz PhD MBA (Author), David A. Grimes MD (Author) October 17, 2018
  6. Publishing and Presenting Clinical Research Third Edition by Warren S. Browner MD (Author) May 15, 2012
  7. How to Read a Paper: The Basics of Evidence-based Medicine and Healthcare 6th Edition
  8. Fundamentals of Clinical Trials 5th ed. 2015 Edition by Lawrence M. Friedman (Author), Curt D. Furberg (Author), David L. DeMets (Author), David M. Reboussin (Author), Christopher B. Granger (Author)
  9. The Handbook of Clinical Trials And Other Research | Alan Earl-Slater | 2002/1/31

 

心臓CT (Cardiac CT, Cardiovascular CT)

心臓CTの原理

Cardiac CT: Current Technology & Principles (Faisal Nabi, MD, FACC) September 11, 2018 2018/09/12ライブ配信 Houston Methodist DeBakey CV Education

 

Cardiac CT: Current Technology & Principles (Faisal Nabi, MD) October 4, 2016 2016/10/27 Houston Methodist DeBakey CV Education

https://www.imaios.com/en/e-Anatomy/Thorax-Abdomen-Pelvis/Coronary-CT

 

心臓CTによるアトラスの見方

How to identify normal heart structures on a cardiac CT scan. 2017/12/19 Medmastery 

射精障害と射精誘発刺激

男性不妊の原因となるEDはErectile Dysfunction(勃起障害)の略として良く知られていますが、もう一つのEDすなわちEjaculatory Dysfunction(射精障害)の略でもあります。

 

射精障害

  1. α2-アドレナリン受容体拮抗薬の射精障害治療への応用 2003年
  2. 特集:機能的電気磁気刺激
  3. 射精誘発モデルを用いた機能評価法の確立とその創薬ならびに副作用解析への応用
  4. 射精の研究 東北大学

 

勃起障害

クエン酸シルフィナデル