科研費計画調書(申請書)の書き方」カテゴリーアーカイブ

科研費申請書の書き方:業績をアピールせよ!

科研費が採択されるために必要な要素は、人によって考えかたがいろいろでしょうが、業績が大事だということに異論を唱える人はいません。じゃあ、業績があれば採択されるのかというと、そうでもないのです。業績があることが伝わって初めて採択に近づきます。業績欄のページに業績リストを載せて安心していませんか?

業績欄は、科研費の申請書の後ろのほうにあります。審査委員によっては業績を気にせずに最初のページから順番に読んでいく人も結構います。そして、途中まで読んで良い印象を持たなかった場合には、業績のページに到達する前に「不採択」の判断を下してしまっているかもしれません。ページをめくって業績が多少あることに気付いたとしても、一度決めた決定を覆すのは難しいでしょう。

今どきの科研費は業績だけ見せれば通るほど甘くはないのです。研究目的や研究計画がきちんと説明できていない研究者にたとえ業績が多少あったとしても、それは指導者が論文を書いてあげていただけなんじゃないの?と勘繰られます。論理的な文章を書けない人に論文業績だけあるのは不自然だからです。

そんなわけで、業績がありますアピールは、申請書の最初のほうからしておく必要があります。どのくらい最初かというと、概要でもいいです。市販されている科研費の教科書を読むと、概要では文献の引用はしないと教えているものもありますが、それは別に絶対的なルールではありません。絶対に見落とされたくない素晴らしい論文を最近出したのであれば、概要で(もちろん本文でも)示してあげて、業績アピールしても全然かまいません。あとは、背景、着想に至った経緯、独自・創造性、国内外の研究動向と本研究の位置づけ、研究計画、準備状況、どこでも構いません。自分の論文業績を引用できそうなところで、どんどん引用してアピールしましょう。

謙虚な性格な人は、そんなにアピールしたら審査委員が反感をもったり嫌悪感を持ったりするのではないかと心配してしまうかもしれません。まあ、日常生活や学会で会って話をしているときに、最近論文を出しましたアピールをすると、場合によっては嫌な感じと思われるかもです。しかし、科研費の申請書というのは特別な場所です。どれだけ自分の業績をアピールしても、それが嫌味になることはありません。審査委員が審査するのを楽にしてあげるだけのことです。

業績欄に、最近出した素晴らしい論文や、総説や、症例報告が入り混じった十数報のリストがあったとして、審査委員がその中からパッとトップジャーナルの論文を見つけ出してくれるでしょうか?審査委員は審査の作業でくたくたに疲れているので、おそらく、なんだ臨床報告のリストかと思って素通りするだけでしょう。審査委員の興味はファーストオーサーでトップジャーナルもしくはその研究領域で認められているジャーナルに最近論文がどのくらい出ているのかです。それが一瞬でわかるような業績リストでなければ、業績リストを載せた効果はあまりありません。査読付き原著論文と総説と症例報告は、分けて、別々のリストとして表示しましょう。

科研費の教科書

  

科研費申請書の書き方

科研費申請書(研究計画調書)の書き方セミナースライド集・ノウハウ記事

科研費申請書(研究計画調書)の書き方のセミナーを毎年開催する大学が多いですが、ネット上に公開されているセミナースライドをまとめておきます。

科研費セミナースライド

  1. 岡山大学 科学研究費獲得法2020 Essential版 科学研究費申請スキル強化書︓2021申請に向けて 科研費講演会2020年8月19日 研究協⼒部⻑⽇本危機管理⼠機構員危機管理⼠1級DRII認定ABCP(事業継続プロフェッショナル)⼭﨑淳⼀郎 (スライド80枚)
  2. 信州大学 K3茶論第15回 科研費申請書作成のポイント 加藤鉱三 信州大学高等教育システム開発部 審査員を知れ 450字の審査意見を書く 審査員は審査しなければならない⇒審査ポイントがどこに書いてあるのか一発で分かるように⇒審査意見は「写すだけ」にしてあげる

科研費の書き方・ノウハウ(ウェブ記事)

  1. 羊土社 科研費獲得の方法とコツ 科研費申請応援サイト
  2. 科研費.COM
  3. 「科研費が採択されない人」が陥りがちなNG思考 2022.02.02 (Wed) 分析計測ジャーナル 専門用語ばかりで論理的でない文章、写真や図の挿入もなし、あってもわかりにくい 同じ専門分野同士でもわかってもらえていないことのほうが圧倒的に多い 読み手のことを想像しながら、わかりやすく理屈をたてて順番に書いていく 内容がすばらしいかどうかの前に、読んでわかるかどうか 自分がわかりにくい文章を書いていることに気づかずに「これでいい」と思っている 必要に応じて言葉を変える

科研費応募書類の書き方(書籍)

(アマゾンへのリンク)

  1. 狙って獲りにいく! 科研費 採択される申請書のまとめ方 2022/8/20 すばる舎
  2. 科研費獲得の方法とコツ 改訂第8版〜実例とポイントでわかる申請書の書き方と応募戦略 2022/7/14 児島将康 羊土社
  3. 科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第2版  2019/7/28 児島将康 羊土社
  4. 科研費 採択される3要素: アイデア・業績・見栄え 第2版2017/7/3 郡 健二郎 医学書院
  5. 科研費改革と研究計画書の深化―新審査の要点と留意点/研究PDCA/新調書のチェックと進化策 (高等教育ハンドブック)  2018/10/15 牛尾 則文, 長澤 公洋, 大澤 清二, 岡野 恵子 地域科学研究会

科研費申請書の書き方

 

科研費の教科書

 

科研費が採択されない理由:申請書作成でやりがちな8つの失敗

科研費に申請してもなかなか採択されない、あるいは、科研費に申請するのは今回が初めてという人が書いた研究計画調書を読ませていただくと、いろいろと「落とし穴」にはまっていることが多いようです。

自分では気付きにくい、申請書作成で失敗するポイントを挙げてみます。書き上げたあとのチェックリストとしてご活用ください。

研究テーマが科研費向きではない

個人の趣味だったり、製品の性能比較だったり、手技の比較だったり、手技の開発のための練習だったり、学術的な要素が無いもしくは少ないと採択されません。

解決方法:学術的な要素を入れる。プラスアルファの分析ができないか。ダメならテーマを変える。研究助成が必要ならば、科研費以外の研究助成を考える。テーマが科研費の趣旨にそぐわない場合は、いくら業績があっても、いくら申請書が良くかけていても採択されません。

研究目的が大きすぎる・小さすぎる

若手研究や基盤研究(C)の計画調書に、研究目的は「発がんのメカニズムを解明する」ことなどと書くと、大きすぎます。研究テーマは、論文というアウトプットを考えて、論文のタイトルになる程度の具体性、適度な大きさが必要です。実験内容がシンプル過ぎてテーマとして小さすぎるということはありがちなのですが、逆に、やりたいことが多すぎて実験課題を詰め込み過ぎという人もいます。研究内容が多すぎても、何を本当にやりたいのかがぼやけてしまったり、高々3年程度でそれ全部やって結果出すのは無理だよねという判断になります。

解決方法:アウトプットである論文の形をイメージして、論文タイトルと同等の大きさの研究課題名、研究目的とする。

研究目的と研究計画の不一致

研究目的が実験結果にサポートされないのに、書いた本人が気づけていないということがしばしば起こります。これは論文の査読ポイントと同じです。論文著者の主張は実験データによりサポートされているかどうかを査読者は見ます。同様に、研究計画が実施されて得られるであろう実験結果から、研究目的に書いた主張が言えるのかどうか。そこに乖離があると、即不採択です。どんなに業績のあるベテラン研究者だろうと、矛盾した計画書を書いていれば不採択にされるでしょう。

解決方法:計画欄に書いた実験結果から、最大限言える主張は何か?その主張が研究目的として書かれているかを自分でチェックする。研究目的を変えたくないのであれば、その目的が実現できるだけの実験を追加する。実験できることに限りがありそれ以上の実験をするつもりがないのであれば、研究目的に書いた主張を弱めるなりする。そのどちらかで対処するしかありません。

背景がダラダラ書かれている

ある疾患に関する科研費研究だった場合に、背景説明で、疾患の一般的な説明をしてしまうということはよくあります。しかし科研費の申請書は医学の教科書ではありませんし、その疾患のレビュー論文でもありません。漠然と背景を書いてはいけません。読んでいてどこに向かっているのかわからないような文章はNGです。

解決法:背景はそもそも何のためにあるのかという、原点に立ち返って考えてみましょう。論文の背景は、その論文で示す研究成果の「作業仮説」を導くために書かれます。同様に、科研費申請書においても、作業仮説や研究目的、学術的な問いを導くために書きます。科研費の様式では、背景と学術的な問いとを書けという指示がありますので、学術的な問いを導くように書くのが一番自然な流れになるでしょう。自分の書いた文章に方向性があるか?と自問しながら読み返してチェックしてみましょう。

先まで読まないと理解できない文章になっている

申請書は予備知識ゼロの審査委員が頭から読んだときに、既に読んだところと今読んでいるところに書いてある情報だけで意味を成さなければなりません。説明抜きで新しいことを書くと読んでも理解されません。先のほうまで読んで初めてさっき出てきた語句の説明が与えられるというのではいけません。

解決方法:応募者の頭の中には研究計画に関するあらゆる知識が詰まっているので、情報がどんな順番で紙に書いていても理解に困りません。しかし、その文章を初めて読む分野外の読者にしてみれば、書かれていることと書かれていたことだけしか手掛かりがありません。先のほうに書かれていることはまだ読んでいないので、理解の手助けにならないのです。当たり前すぎることですが、申請書を書いている本人にはなかなか気づけないものです。なので、その矛盾に気付くためには誰か専門外の人に読んでもらうしかありません。専門分野が離れた友達や家族に読んでもらって指摘してもらいましょう。

ページの下に余白がある

余白がある=書くことがない=熱意がない、よく練られた計画ではない という印象を与えてしまいます。業績欄のページの下に余白があると、業績が足りない人だと思われます。研究計画欄のページの下に余白があると、実験が少ないと思われます。

解決方法:余白を埋めるために、言葉遣いを冗長にするのはいけません。あくまで内容をしっかり書き込みましょう。ページの最下行まで書き切ることが大事です。最初に申請書のページに収まりきれなくらいの量を書いておいて、無駄な表現を削りに削ってページギリギリに収めると、応募者の熱意ややる気、研究の凄みが伝わります。

業績リストが分かりにくい

審査委員が業績を見るときに気にするのは、その応募者が最近、ファーストオーサーで論文をどれくらい出しているのか、応募者の論文がどの雑誌に掲載されているのかということです。それが一瞬で伝わるようなフォーマットで業績リストを見せるのが効果的です。

解決方法:論文タイトルの後に論文著者を書くのではなく、行の始めに論文著者を書くようにします。そうすれば、ファーストオーサーの論文がいくつもあれば、応募者の名前が一番左にきれいに揃うので、パッと見た瞬間に筆頭著者論文がどれか、いくつあるかがわかります。雑誌名も重要なので、太字にして斜体にするなど、周囲の文字から浮き立って見えるようにしましょう。

また、症例報告と総説と原著論文をごちゃまぜにする人がいますが、審査委員が一番知りたいのは原著論文の数とオーサー順、雑誌名、年です。審査委員が知りたいことが一瞬でわかるように書いていない申請書は、審査委員をイラっとさせます。イラっとした審査委員があなたの申請書に良い評価を与えてくれるでしょうか?結果は自明ですよね。

教授に指導していただく 

応募者(研究代表者)が助教や講師、准教授で、研究分担者に教授を入れている場合に、教授の役割として、研究の指導、論文作成の指導などと書いてしまう人がいます。しかし、審査委員の立場からすると、独立した研究者になっていない人にあげるお金なんてありません。実際にはラボで指導を受けているとしても、申請書の上では研究リーダーは応募者その人なのです。研究代表者が研究分担者を従えて研究体制を構築しているというスタンスを崩してはいけません。

解決方法:人に指導して頂くという書き方は削除し、役割分担は敬語表現を使わずにニュートラルな記述にする。**は、***を行う、 **は***を担当する。などと書く。

科研費申請書の書き方

 

科研費の教科書

 

科研費申請書の書き方:学術的な問いを書いて、差別化をはかろう

採択されるための科研費申請書の書き方のコツですが、簡単にライバルの応募書類との差をつける方法があります。

それは、学術的な問いをしっかり書くこと。「学術的な問いが明確か?」は、審査のポイントの一つであるにもかかわらず、そしてまた申請書を作成している本人が「研究の背景および核心をなす学術的な問い」というセクションタイトルをわざわざ書いているにも関わらず、学術的な問いが何であるのかを書いていない計画調書が多数あります。審査委員に「読み取れよ」と言うつもりなのでしょうか?なんて傲慢な態度だこと!審査委員に対してリスペクトがない申請書が高い評価を得られるでしょうか?

実際のところ、審査委員一人に割り当てられる申請書の数は100件程度もあるのだそうで、しかも、申請書の大部分は当落線上に並んでしまうそうです。つまり、多くの場合、紙一重の差で採否が決まるのです。評価が甲乙つけがたい申請書を振り分けるために、審査委員(によって)は不採択にする理由がないかどうか探し始めるのだそうです。最近読んだ科研費の教科書「狙って獲りに行く!科研費」に、審査委の実情が説明されていました。

学術的な問いがちゃんと書いてある申請書と、学術的な問いが文章中に埋め込まれていて容易には読み取れない申請書とが、全体的な評価は五分五分だったとして、審査委員はそれらを「採択」と「不採択」に振り分けなければなりません。「様式の指示に従っていない」ことは、マイナスに評価するための格好の理由になります。

様式の指示に忠実に従って、学術的な問いはきちんと書きましょう。「本研究の学術的な問いは、~である」と書いたり、「本研究では、~を学術的な問いとする。」などと書けばよいでしょう。

学術的な問いの妥当性

さて、学術的な問いは~である と書いたからといって、問いが明確になったといえるでしょうか?実はそれだけではまだまだ不十分なのです。「本研究の学術的な問いは、メガネケースの開閉に適したメカニズムが、マグネット式か、ばね式かを明らかにすることである。誰も論文報告していないので独自性が高い。」と書いてあっても、誰もそれが科研費研究に値するとは思わないでしょう。

問いは書くだけでなく、その問いの妥当性を説明することまでが必要です。問いの妥当性を説明する場所はどこか?もちろん、それは「学術的背景」の部分です。つまり、学術的背景を書く理由というのは、学術的な問いの妥当性を審査委員に納得してもらうためだったのです。これをわかっていない人が非常に多いです。そういう調書は、背景と問いが解離していて、問いの重要性がまったく伝わりません。個人的な体験談だけ書いても誰も信用しませんので、背景では、自分および他人の文献をきちんと引用して論を組み立てましょう。問いに出てくるトピックは全て背景で説明されていないとおかしいということはわかるでしょう。文献を引用して論を立てて問いを導くことができないような研究テーマであれば、それはそもそも科研費研究に適していないのかもしれません。「背景、問い」のセクションで大事なのは、客観性と論理性です。

学術的問いは明確か?

公開されている「審査の手引き」を読むと、評定要素として(1)研究課題の学術的重要性という項目があり、1点から4点までが付けられます。採点のポイントがいろいろ書いてある中に、学術的問いが明確かどうかというものがあります。学術的な問いをしっかり書いたので明確に伝えられたと思うのは、まだ早い!です。問い=研究目的(問いに答えるために行うこと)と考えて良いわけですが、問いや研究目的が申請書全体を通じて一貫していない人が非常に多いのです。

研究目的を書く場所は申請書の中に複数個所あります。研究課題名、概要の中、学術的問いのセクション、研究目的のセクション、何をどのようにどこまで(研究計画欄)の冒頭や締めの部分、その他自分が書いたところ。つまり5~6回、研究目的を書いているはずなのですが、これら5~6個の研究目的が、統一感がなくて、言っていることがバラバラ!ということが非常に多いのです。毎回言うことが違っている人が信用してもらえるでしょうか?そんな人がいう学術的な問いが明確だと言えるでしょうか。なぜバラバラなのかというと、各セクションを書いているときに考えていたことが違っていたからです。つまり、何を明らかにしようかというアイデアがまだ固まっていなくてふらふらと彷徨っていたせいで、こういった整合性のなさが生じてしまうのです。自分は大丈夫などとたかをくくらずに、謙虚に一度自分の申請書を読み返してみてください。10人中3人くらいは、致命的な失敗を見つけて青ざめることでしょう。自分で確認する自信がない人は、他人に頼んで読んでもらうといいです。

科研費の教科書

採択される科研費の書き方に関する教科書・日本語の文章力を身に付けるためのお勧めの本(レビュー記事 別記事)

科研費申請書の書き方

絶対に採択されない科研費計画調書(申請書)の特徴

科研費の季節なので、絶対に採択されない科研費計画調書(申請書)の特徴について考察してみたいと思います。

まず、余白が目立つもの、スカスカな印象を受けるもの、これは大抵読んでみても中身が薄いです。ページ数が多すぎてスペースを埋めるのに苦労しているようでは、採択はおぼつきません。書きたいことがありすぎてスペースが足りないので、無駄な表現を削って、削って、ギューッと濃縮して仕上げましたという申請書にするのがベスト。そういう計画調書って、読んだときにその濃縮度が読み手に伝わります。それくらいに濃縮度が高いにも関わらず、適度な余白があるので読み易い、そんな計画調書が理想です。

あと、本人がなぜ自分が落ちるのかわからないというタイプの採択調書の特徴は、研究目的が不明瞭なもの、つまり何をやりたいのかが読者に伝わらない調書です。研究目的のセクションには確かに、本研究目的はなになにしかじかですと書いてあります。しかし、だからといって目的が明確かというとそういうものでもないのです。研究目的の明確さは、申請書の隅々まで、一貫した主張になっているかどうかで決まります。研究目的の欄には〇〇をしますと書いていたのに、研究計画・方法のセクションを見ると、××をしますなどと、違うことを平気で書いていた李するのです下手すると、研究課題名に書いた内容が、計画欄には書かれていないということもあります。このように、研究課題名、研究目的、研究計画に書かれて内容が首尾一貫していない申請書、これが実に数多くあるのですが、こういったものは確実に不採択になると思います。別に自分は審査委員をやったことはないのですが、もし自分審査したら一発で落とすだろうと思いますし、きっと他の先生方も同じことを考えるでしょう。

科研費の書き方に関する記事

科研費計画調書「関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ」欄の書き方

「着想の経緯」と、「動向・位置づけ」の2つに分けて書く

科研費申請書(研究計画調書)の「1研究目的、研究方法など」の(3)として、「本研究の着想に至った経緯や、関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ」を書く欄があります。(3)は2つに分けて、「本研究の着想に至った経緯」、「関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ」のそれぞれの項目を立てたほうが、審査委員にとって読みやすくなることでしょう。

なお、動向と位置づけは表裏一体なので、「動向」と「位置づけ」を分けて書くことはお勧めできません。

上手く書けていないことをセルフチェックで知る方法

さて、その「関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ」をどう書くかについてですが、失敗例から考えるのがわかりやすいです。

一番初歩的なミスは、文献の引用が全く行われていないというもの。研究動向を説明する以上、発表論文の紹介がゼロというのはあり得ません。

次にありがちなのが、関連する論文の紹介の羅列になっているもの。~という報告がある。~という報告もある。と言った感じです。

自分を含めたその研究領域の共通の目標は何か

このセクションを書き始める前に考えるべきことは、一体関連論文というのは何に関連した論文ということか?ということです。それはもちろん、申請者の提案する研究計画に関連した論文です。言い換えると、申請者の研究目的と同じ研究目的をもった世界中の人たちは、どんな研究論文を発表しているのか、そんな中にあって申請者の提案する研究はどう位置づけられるのかを書かないといけないのです。競争がない研究というものはあまりありません。大抵の場合、世界中でみんなが同じようなことを考えて、同じような目標に向かって思い思いのアプローチで研究を進めているわけです。ですから、そういった他人の研究のアプローチの限界や弱点を指摘して、自分の研究アプローチの利点を明確に述べることによって自分の位置づけを明確にすることが求められているのです。。別に他人をディスれと言っているのではありません。他のアプローチの限界点を示し、自分がその限界をどう突破する研究方法を使うのかを書きなさいということです。

関連する国内外の研究動向は、研究のゴールを意識していないと書けません。そしてここでいう「研究のゴール」の捉え方は、広くもとれるし、狭くもとれます。例えば、がんの遺伝子治療に関する科研費テーマで申請書を書いているとします。そのとき研究のゴールは、「がんの治療」と大きくとらえることもできますし、「がんの遺伝子治療」と狭めることもできます。さらに自分の計画が遺伝子治療の中でもウイルスベクターを用いるものなのであれば「ウイルスベクターを用いたがんの遺伝子治療」にまで狭めることもできます。ゴール設定の大きさによって、紹介すべき関連論文も変わってきます。

このセクションの書き方でよくある失敗として、もう一つあげるなら、それは研究のゴールがズレた内容に関して書いてしまっているというもの。書いている本人は、関連した内容を書いているので案外気付かないのです。例えば、がんの遺伝子治療について書かないといけないのに、なぜか、がんの疫学的研究を紹介しているといった具合です。フォーカスする内容がちょっとズレるだけで、説得力が激減するので要注意です。

科研費の教科書

  

科研費申請書の書き方

科研費申請書の研究計画欄に纏わる混乱「何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか」には何をどのように書けばよいのか?

科研費の様式は、2018年度に非常に大きな変更がありました。そのため、以前から科研費に応募してこられた方は、何をどこに書けばいいのかわからず戸惑っているかもしれません。2018年度科研費以降に初めて様式を見た人も、どこに何を書けばいいのやらわからないという人が多いはずです。そのわかりにくさ、もやもやの一番の原因は何かというと、研究計画や研究方法をどこに書いたらいいのかの明確な指示がない!というところにあると思います。

2017年度科研費の基盤研究(C)の様式(様式S-1-8)を見てみると、3ページ目と4ページめが、「研究計画・方法」のページになっていて、「本欄には、研究目的を達成するための具体的な研究計画・方法について、冒頭にその概要を簡潔にまとめて記述した上で、平成29年度の計画と平成30年度以降の計画に分けて、適宜文献を引用しつつ、焦点を絞り、具体的かつ明確に記述してください。」という明確な指示がありました。

ところが、2018年度以降の科研費の基盤研究(C)の様式(様式S-14)を見ても、「研究計画」の欄がないのです。様式の名として「研究計画調書」とあるほかには、研究計画という言葉が、この様式の中にはそもそも見つかりません。最初の3ページは「1 研究目的、研究方法など」を書くようになっていて、指示としては、

本欄には、本研究の目的と方法などについて、3頁以内で記述してください。冒頭にその概要を簡潔にまとめて記述し、本文には、(1)本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」、(2)本研究の目的および学術的独自性と創造性、(3)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか、について具体的かつ明確に記述してください。

とあります。「計画」という言葉はなくても「方法」という言葉は「1 研究目的、研究方法など」の中にあるので、方法はこの3ページの中のどこかに書かないといけないことは明らかです。そして、(1)、(2)、(3)という項目の説明を読むと、どうやら方法を書くべき場所は(3)以外には無さそうです。つまり、「(3)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか」が、2017年度科研費まであった「研究計画・方法」に相当するセクションだと考えられます。

ところが、紛らわしいことに2017年度科研費までの様式だと、「②研究期間内に何をどこまで明らかにしようとするのか」を「研究目的」(基盤研究(C)の場合2ページ分)の中に書くことになっていたのです。2017年度までは「研究計画・方法」というページが2ページ分用意されていたので、「②研究期間内に何をどこまで明らかにしようとするのか」は、文字通り何をどこまで明らかにしようとするのかをサラッと書いておけばよかったのでした。しかし、2018年度科研費以降は、「(3)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか」のセクションには研究計画・方法をしっかりと具体的に書きこまないといけないはずです。何しろ研究計画・方法を書く欄は他に見当たらないのですから。

このような事情があるために、科研費の申請書で何をどこに書けば良いのかに関して、非常にわかりにくさ、もやもや、が発生しているものと思われます。

そのせいかどうかわかりませんが、(3)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか のセクションに非常に大雑把な記述しかしていない人が結構います。審査委員が読んだときに、計画が具体的に説明されていないと判断されて採択の可能性は大幅に下がることでしょう。さて、言いたいことを最後に繰り返しておくと、(3)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのかのセクションには研究計画や方法を具体的にしっかりと書きましょうということになります。

科研費申請書の書き方

 

科研費の教科書

 

科研費申請書のお手本をKAKENやプロジェクトウェブサイトで見つけて真似しよう

大型の科研費を採択されている人は例外なく、説明の文章のわかりやすさがずば抜けています。ですから、大型プロジェクトのウェブサイトで読める文章は、科研費申請書の書き方の良いお手本になります。

基盤研究(S)組織修復・再生における間葉系細胞のダイナミズム:統合型研究
概要を説明したウェブページですが、何が問題点なのか、何を明らかにしたいのかが非常に明瞭に示されています。

KAKENデータベースも、科研費申請書を書く際のお手本となる文章の宝庫です。こちらは、自分の研究テーマのキーワードや、自分が応募予定の審査種目、研究種目(基盤研究(C)とか挑戦的研究(萌芽)など)に合わせて検索可能なので、自分と同じような立場の人が、どれくらいうまい文章を書いて採択されているのかを見ることができます。

KAKENの採択課題を眺めていて、「研究開始時の研究の概要」などの文章のうまさが印象的だったものを紹介します。

難治性免疫疾患の原因である、IL-17産生性ヘルパーT細胞 (Th17)は、生体内で長期間生存する「しつこさ(persistency)」を示し、これが免疫難病の治療抵抗性および治療後再発の主因と考えられる。予備検討で、T細胞の副刺激阻害薬(CD28阻害薬)であるアバタセプトが、Th17依存性自己免疫マウスモデルの発症を抑制するにもかかわらず、治療後のマウスには、抑制されたTh17が「しつこく生存」しており、この細胞が、治療終了後に分裂、活性化して再発の原因となると考えている。本研究では、治療後に残存した自己反応性メモリーT細胞の生存機構を解析し、これをターゲットとする新規治療法を目指す。https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22K19446/

ちなみにこの研究課題名は、

アバタセプト抵抗性「しつこい」記憶T細胞を除去する方法の探索

というもので、アバタセプトって何?しつこいって何?と思いながら読み始めたのですが、それらの語句が丁寧にわかりやすく文章中で説明されていました。文章の体1文の冒頭に「難治性免疫疾患」という言葉があり、これが主題であることがわかります。しつこさという言葉はかなり砕けた物言いなので、インパクトがあるわけですが、原語persistencyという言葉も併せて紹介していて、この分野で使われている言葉であろうことが推測されます。2文めで予備検討の結果を紹介することにより、自分たちの研究成果に基づいた研究計画の提案であることをしっかりとアピールしています。また、「しつこい」ということが実験的に何を意味するのかも明確に説明されています。最後の文で、何をやるのか、どのようなモチベーションでそれをやるのかが述べられています。「しつこい」という日常語でもある言葉がもつインパクトを利用して、非常に印象に残る説明になっていると思いました。

別の例を紹介します。

腸内細菌叢腸管バリア機能は相互に影響し合って恒常性を維持しているが、腸管バリア機能を維持する機序の全容は未解明である。腸管バリア機能の低下は、消化管疾患のみならず全身の疾患の発症に関わることから、腸管バリア機能低下に働く腸内細菌を明らかにし、この腸内細菌が腸管バリアの破綻に働く機序の一端を明らかにすることが出来れば、炎症性腸疾患、アレルギー、ガン、神経変性、老化などの病態の理解と治療法の開発に貢献することになり、科学的および社会的インパクトを有する創造性ある研究課題である。https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22K19420/

これも第1文の冒頭で、腸内細菌叢腸管バリア機能の相互作用について述べられているので、これが主題であることがわかります。そして相互作用があることはknownであるけれども、腸管バリア機能が維持される機序の全容はunknownであると説明して、knownとunknownとの間の知識のギャップを示して問題提起をしています。2文めは、1文で説明した内容を受けて、腸内細菌が腸管バリアの破綻に働く機序を調べることが目的であること、さらに、その研究の意義を説明しています。オーソドックスな書き方ですが、文章中では先に述べたことをきちんとあとで受けて、論理的に整合性のある文章になっていて、パズルのピースがきっちり合わさった印象を持ちました。

もう一つ別の例を紹介します。

B型肝炎ウイルス(HBV) は、ヒトを宿主とするウイルスでありマウスには感染しない。HBV感染症で最も問題となるのは、肝硬変や肝細胞癌などの重症肝疾患である。この病態を実験的に解明するためには動物モデルが欠かせないが、現在実用的な動物モデルがない。本研究では、HBV複製を支える上でヒト肝細胞には存在するが、マウス肝細胞に欠けている宿主因子を見つけ、それをマウス肝細胞に補填することで、HBVマウス感染モデルを作ることを目指す。https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22K19447/

B型肝炎ウイルス(HBV)がどんなウイルスなのかを自分は全然知らずに読み始めましたが、そのような無知な自分でも蚊帳の外に置かれないような、丁寧な説明になっています。今回の研究目的にとって一番重要な「マウスには感染しない」ということが第1文で説明されています。次の文で、HBVの重大さが簡単に説明されています。さらに、適切な動物モデルが存在しないという、問題提起がなされています。そして、その問題を解決する方法の提案が次に述べられます。何をするのか、どうしてするのか、どうやってするのか、どんな意義があるのかが、完全に予備知識ゼロの人間が読んでも伝わるように書かれており、印象に残りました。

 

KAKENデータベースを眺めていると、必ずしも全ての文章が上手く書けているとは思いません。お手本になると自分で思える文章を探して、なぜその文章がわかりやすかったのか、なぜ説得力があると思えるのかを分析して、そのカラクリを真似して自分の申請書を書いてみるといいでしょう。

 

科研費申請書の書き方

 

科研費の教科書