酸素が結合するのが酸化、もしくは水素が取られるのが酸化、もしくは電子を取られるのが酸化という習い方をしたように思います。
酸素と結合することがなぜ電子を奪われたことになるのか
水素と結合していた炭素は、お互いの電気陰性度が同程度なので共有結合によって共有されている電子対がどちらかの原子に偏って存在しているということはありません。それに対して、相手が変わって炭素が酸素が結合したときには酸素は電子を引っ張る力が強い(電気陰性度が大きい)ので、酸素と結合した炭素にしてみれば、共有電子対をつくっても全体としては酸素原子のほうに電子が分布した状態になり、電子を取られた状態になっているというわけです。
酸化の定義がなぜ電子が奪われること、または、水素が奪われることなのか
酸化の定義として2つの言い方を同時に習うと、どっちなの?同じなの?なぜ同じなの?という疑問が湧きます。自分の理解としては H → H+ + e- と分けて考えられるのでHが引き抜かれるのと電子が奪われるのが同じです。例えばアルコールの酸化の場合
CH3CH2OH → CH3CHO + 2H で水素が2個引き抜かれていますが、
2H =2H+ + 2e- と考えれば電子が2個奪われたともいえます。
酸化還元について考えると、”水素原子”は”水素イオン”(H+)と電子(e-)に等価である(H原子=H+ + e-)ことを知っておくことは重要である。
(マクマリー生化学反応機構 第2版 106ページ)
酸化数
酸化された還元されたというのをわかりやすくするために「酸化数」というものが考えだされました。電気陰性度が小さい水素(原子価1)の酸化数は+1、電気陰性度が大きい酸素(原子価2)はー2です。電気陰性度が大きい窒素(原子価3)の酸化数はー3です。また、分子全体の酸化数の合計は0.例えばメタンCH4ですと、水素の酸化数が+1で4個あるので、メタンの炭素の酸化数はー4になります。メタンが完全に酸化されて二酸化炭素CO2になると、酸素の酸化数がー2なので二酸化炭素の炭素の酸化数は+4になります。変化としては、ー4から+4に酸化数が増加しました。「酸化数の増加」=酸化された ということになります。
- https://www.nhk.or.jp/kokokoza/kagakukiso/assets/memo/memo_0000002069.pdf
- https://www.daido-it.ac.jp/~yocsakai/qa008.html
よく「酸化数の絶対値=原子価」と思っている人がいますが間違いです。Yahoo!知恵袋
同じ原子同士が結合しているときは酸化数の寄与はありません。炭素―炭素結合間に関しては酸化数は数えません。例えばプロパンCH3CH2CH3のそれぞれの炭素原子の酸化数を考えてみると、同種原子からの酸化数計算の寄与はないので、結合している水素(酸化数+1)だけから計算して、それぞれー3,-2,-3となります。真ん中の炭素は酸化数がー2であって、のこり2つの炭素原子とは酸化数が異なっているということになります。
別の例を考えると、過酸化水素水H2O2の場合は、水素の酸化数は+1ですが、酸素原子は他方の酸素原子とも結合しているので、自分が結合している水素の酸化数のみ考慮して、酸素の酸化数はー1になります。
結合している相手への酸化数の寄与はその結合に関して0になるような値と考えればいいのではないでしょうか。
- https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q14239225319
酸化数の考え方を使うと、有機化合物の場合、水素を奪われた炭素は酸化数が+1増加(か相手によってそれ以上)するので「酸化された」(酸化数が増加した)とわかります
酸化数の定義
化学における酸化数の定義をちゃんと見ておきます。以下の通りでした。
酸化数 (oxidation number )
(a ) 原 子 X と原子 Y の 結合に お い て ,Y の 方が よ り陰 性で あれ ば ,両 原子問 に あ っ て 結合に 関与 し て い る と考え られ る電子 はすべ て Y に 与 え られ る 。 た だ し陰性 の大小は“ 電気陰性度”(表 4 )に よ っ て 判定 され る。
(b ) 化合物中におけるO原子 の酸化数は 一2 とする (た だ しF2Oと過酸化 物 M2(I)O2,のばあいを除く)。
(c ) 化合物中にふくまれ るH原子 の酸化数は +1とす る (ただし金属水素化物のばあいを除く)。
(d ) 元素のままの状態における酸化数はゼロで あ る 。
(e ) 中性分子中にふくまれる各原子の酸化数を総和した値はゼロである 。
(f ) イオン中にふくまれる各原子 の酸化数総和 はイオンの 荷電数(符号をふくむ )に 等 し い 。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakukyouiku/15/1/15_KJ00003479165/_pdf/-char/ja
酸化反応とエネルギーとの関係
電子を取られる酸化反応がなぜ自然に起こるのかというと、電子にしてみれば、位置エネルギーが高い状態から、位置エネルギーが低い状態に移るからです。例えるなら、机の上に置いたコップは、机の下つまり床の上に置かれたときよりも、机の高さ分の位置エネルギーを持っているわけで、机の支えがなくなったら床にむかって落ちていきます。
化学実験における燃焼(酸化)と生体内における”燃焼”(酸化)との違い
酸素が存在する条件下で炭化水素や糖などを燃やして酸化し、二酸化炭素と水にする反応は、実験室でおきようが生体内で起きようが、反応物と生成物(最終的な)だけ見ると全く同じです。違いは何かというと、活性化エネルギーを得るために火をつけて(高温にして)燃やすということは、生体ではできないことです。何しろ体温が37度なのですから。そこで一気に酸化するのでなく部分的に部分的に、段階的に酸化していきます。それぞれの化学反応は酵素が司るのでそれぞれの反応の活性化エネルギーも小さくなっています。よって体温の温度で反応を進めることができるわけです。
また、一気に酸化して熱エネルギーを貰っても使いようがないので、ちょっとずつ酸化してATPを作ります。実際にはNAD+やFADといった「還元剤」を使ってエネルギーを一度NADHやFADH2といった還元型の物質に蓄えておき、それらをさらに酸化してエネルギーを取り出していくわけです。
The biological oxidation reactions occur in a stepwise fashion using not O2 directly, but rather less potent oxidizing agents like NAD+ and FAD.
Jakubowski Fundamentals of biochmistry II: Bioenergetics and metabolism (LibreTexts) 17.2: OXIDATION OF FATTY ACIDS 17.2.1:INTRODUCTION page 306
上のLibreTextsの教科書の説明は明解で理解しやすいと思いました。
化学反応のエネルギーと仕事
エネルギーはいろんな形態をとるので、別の例で考えてもいいはずで、例えで考えるとわかりやすいです。位置エネルギーが高いところから位置エネルギーが低いところに移動して、その分、運動エネルギーになります。運動エネルギーをもったコップは、何か他のものを動かしたり仕事ができます。
電子も同様で、電気的な位置エネルギーがたかいところから低いところに移動する間に、その差となるエネルギーを使ってほかの何かの仕事ができる、もしくはそのエネルギーを他のものに与えるというわけ。
- 12.1: Introduction to Redox (LibreText Chemistry) Electrons in an organic redox reaction often are transferred in the form of a hydride ion – a proton and two electrons. Because they occur in conjunction with the transfer of a proton, these are commonly referred to as hydrogenation and dehydrogenation reactions: a hydride plus a proton adds up to a hydrogen (H2) molecule.
- Lecture 15B – Electron Reduction Potentials Thomas Mennella チャンネル登録者数 1.2万人 酸化還元電位の表の見方、共役させたときの電位差とギブス自由エネルギーとの関係
- WHAT IS THE REDOX POTENTIAL OF A CELL? CELL BIOLOGY BY THE NUMBERS
- 酸化還元反応 (eng.hokudai.ac.jp/)
- Microbial electron transport and energy conservation – The foundation for optimizing bioelectrochemical systems FIGURE 3
- 標準電極電位とは?電子のエネルギーと電位の関係から解説 電池の情報サイト