アンモニア、尿素、尿酸、ニコチン、ビタミンB3(ニコチン酸)、アデニン、グアニン、トリプトファン、ヒスチジンなどなど、窒素を含む生体化合物は多数あります。その化合物の性質や反応性を考えるためには、構造を覚えていないと始まりませんが、どうすればスムーズに暗記できるでしょうか。
6角形の環構造で骨格に窒素原子が含まれるもの
炭素が6つで六角形の形をしたベンゼンC6H6はすでに覚えています。ここから始めてみましょうか。
ピリジン(pyridine):ベンゼンの6個の炭素の内の一つが窒素に置き換わった構造をしているのがピリジンです。ベンゼン同様、二重結合しています。
ニコチン酸:ピリジンカルボン酸の異性体のうち3位にカルボキシ基がついたもの。
ニコチンアミド:ニコチン酸のCOOHのOHがNH2になったもの。ニコチン酸とニコチンアミド(ニコチン酸アミド)を合わせて、ビタミンB3(ナイアシン)と呼ぶ。NAD+はニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの略で、ニコチンアミドの4位の炭素がヒドリド(H-イオン)を受け入れて還元されてNADHになります。
ピリミジン(pyrimidine):ピリジンの1位の窒素の2つ目(3位)も窒素で置き換わったものがピリミジン。
ピリミジン塩基:ピリミジンの骨格を持ち、DNAの塩基になっているものの総称。リボースの1’の炭素と結合するのは、ピリミジンの1位にある窒素。
ウラシル:ピリミジンの2位と4位に酸素が二重結合した構造。
チミン(thymine):ウラシルの5位にメチル基が結合した構造。
シトシン:ウラシルの4位の酸素のかわりにアミノ基が結合したもの。
- ピリミジン塩基(ウィキペディア)
5角形の環構造で骨格に窒素原子が1つ含まれるもの
ピロール(pyrrole):5角形の環構造で、骨格を形成する角の一つがNHで、二重結合が2つあります。
- pyrrole, any of a class of organic compounds of the heterocyclic series characterized by a ring structure composed of four carbon atoms and one nitrogen atom. (Britanica)
ピロリジン (pyrrolidine):タバコに含まれるニコチンの中にある骨格なのでここで紹介しておきます。飽和(二重結合を全く含まない)でNを一つ含む五角形の構造。ニコチンの構造の一部をなすのは、Nにメチル基がついた、1-メチルピロリジンです。
ニコチン:1-メチルピロリジンの2位の炭素がピリジンの3位の炭素に結合したもの。3-(1-メチル-2-ピロリジニル)ピリジン。タバコのニコチンです。
- Hantzsch–Widman nomenclature(ウィキペディア)5員環で不飽和のものは –oleと呼ぶ。5員環で不飽和のものは、-olane、骨格に窒素を含む場合は-olidineと呼ぶ。
- 3-(1-メチル-2-ピロリジニル)ピリジン(厚生労働省)
プロリン:プロリンはアミノ酸の一つで、側鎖は本来は3つの炭素の鎖ですが、α-アミノ基の窒素とつながって、α炭素を含めて5角形の環状になります。
5角形の環構造で骨格に窒素原子が2つ含まれるもの
イミダゾール(imidazole):1位にNHがあり、3位も窒素原子がある。1位の位置のNHのNがもつ孤立電子対(結合に関与していない電子対)は、面に垂直方向のp軌道であるためパイ電子雲の一部をなす。3位の位置にある窒素がもつ孤立電子対は環の面と同じ面上にあるためパイ電子雲の一部にはならない(外側に突き出している形)。
- Bruice Organic Chemistry 988ページ
imidazoleという名前と実際の構造とがなかなか頭の中で結びつきませんが、命名のされ方を知ると少しましになります。Hantzsch–Widman nomenclature(ウィキペディア)という命名法によれば、5員環で不飽和のものは –oleと呼ぶそうです。また、窒素を含む化合物の接頭語としてaza-を使います。aza- + -ole = azole は、窒素を一個含み、ほかにも炭素以外の何かの元素を含む5員環の化合物の総称です。炭素以外の何かがまたまた窒素の場合、窒素を意味する別の言葉imid-をつかって、imid + aza + ole =imiadzoleというわけでした。もし硫黄であればチアゾール(thiazole)となります。イミダゾールは1,3-diazoleとも呼ばれます。窒素が2つなのでdiがつくわけです。窒素3つならtriazole、4つならtetrazole、5個ならpentazole。窒素2つで隣合う位置にあるものはpyrazole。窒素1つの場合も 1H-azole と呼ぶようです。
イミダゾールってなんだっけ?となった場合、英語を思いだhして、imid + az + ole このように分解して、窒素を含む(az)不飽和の5員環(ole)でもう一つ窒素(imid)を含むものと思い出しましょう。
- azole(ウィキペディア)
- imidazole (ウィキペディア)imidazoleの名称は1887年にドイツの化学者Arthur Rudolf Hantzsch (1857–1935)によって付けられた。
- 基礎講座有機化学466ページ
- Alkylimidazoles
ヒスチジン:イミダゾールの5位の炭素がアラニンの側鎖のメチル基に結合した形。
6員環と5員環がつながった構造
インドール:ピロール(5角形)の横にベンゼン環が接した形をしたものがインドール環です。骨格を形成する炭素や窒素の番号は、NHの窒素が1番で、5角形のほうから数えて、接しているところはとばして、6角形のほうまで一周しますので、1~7番の数字が与えられます。indoleという名称の由来は、染料「藍」(indigo)から。インディゴの構造は、インドールが酸化されたもの(3位に酸素が二重結合)が(2重結合でつながって)2量体になった形をしています。
トリプトファン:インドール環が(インドール環の3位の位置で)アラニンの側鎖のメチル基の先に結合した形。
プリン(purine):ピリミジンとイミダゾールが合わさった形をしているのがプリン。六角形を上下に角がくるように描いて、10時の位置の炭素から半時計まわりに1~6番までつけて、頂点5-4に接するように五角形を描く。5角形の位置は、今度は時計回りに7,8,9とつける。窒素の位置は、1,3,7,9(全部奇数)で、DNAなどを構成する場合には9の位置の窒素で結合する。9の位置はNH。これで構造が描けます。
アデニン:プリンの6位にアミノ基がついたもの。
グアニン:プリンの6位に酸素を二重結合、2位にアミノ基。
尿酸:ヒトの場合、プリンの代謝(分解)は尿酸までで、尿酸は尿に排出されます。アデニンやグアニンはプリンの2位と6位にアミノ基や酸素がついていましたが、それらが全部酸素になったものがキサンチンで、8位にも酸素がついて酸化されたものが尿酸です。二重結合は5-4間のみ残っています。尿酸は水に溶けにくく、過剰にできて体内でちくせきしてしまうと痛風という病気になります。尿酸の結晶が関節に析出して痛みを引き起こすとされています。
環状ではない低分子の化合物
尿素(urea):H2N-C(=O)-NH2 両生類などは尿酸を尿素にまで分解します。海産無脊椎動物あh、さらに尿酸をアンモニア塩にまで変換します。
アンモニア:NH3
これで窒素が含まれる生体物質をほぼ網羅したのではないでしょうか。
ヒスチジン、トリプトファンは既にみたので、窒素を側鎖に含むほかのアミノ酸をみておきます。
アスパラギン:酸性アミノ酸であるアスパラギン酸(側鎖 -CH2-COOH)のカルボキシ基にアミノ基が結合したアミド。-CH2-CONH2
グルタミン:酸性アミノ酸であるグルタミン酸(側鎖 -CH2-CH2-COOH)のカルボキシ基にアミノ基が結合したアミド。-CH2-CH2-CONH2 アスパラギンよりも側鎖が炭素一個分長いと覚えています。
リシン:側鎖 -CH2-CH2-CH2-CH2-NH2 炭素4つブタンの先にアミノ基がついた形。
アルギニン:側鎖 -CH2-CH2-CH2-NH-C(-NH2)=NH2+ 炭素3つに窒素に炭素でその先にアミノ基が2つついた構造。
6員環3つが並んだ構造
フラビン (flavins)は、FADやFADH2、FMN,FMNH2の構成要素です。リボースがついたリボフラビンはビタミンB2と呼ばれるビタミン。3つのうち両側はベンゼンとウラシルで間が窒素2つ向き合った形をしています。ベンゼンのほうにはメチル基が2つ。これでなんとか覚えられそう。
- https://www.researchgate.net/publication/320453769_Electron_transfer_pathways_in_a_light_oxygen_voltage_LOV_protein_devoid_of_the_photoactive_cysteine/figures?lo=1
かなり複雑な構造の化合物に思えても、自然界は基本的な構造の物質を組み合わせているだけなので、覚えるときも要素に分解してみると案外頭に入ってくるようです。
問題
次の化合物の構造式を描け。ピリジン、ピリミジン、ウラシル、チミン、シトシン、ピロール、イミダゾール、ヒスチジン、インドール、トリプトファン、プリン、アデニン、グアニン、尿酸、尿素、アスパラギン、グルタミン、リシン、アルギニン。