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科研費申請書の書き方:業績欄をどう書くか

科研費の基盤Cや若手研究は、業績欄が2ページあります。研究者の遂行能力と研究環境を書きなさいというセクションです。2つ書くから1ページずつ、じゃあありません。遂行能力と研究環境のどっちが審査委員にとって重要かといえば、もちろん遂行能力(=過去の業績)なわけですから、分量としては、1.5ページ以上を業績の記述に割き、半ページ~4分の1ページ程度、環境について書くくらいが適当なバランスだと思います。

臨床系の人は、原著論文と、症例報告と、総説その他エディトリアルなどをごちゃまぜに書く人がいますが、それは全くお勧めしません。なぜなら、原著論文こそが最重要であって、それ以外は、さほど重みがないからです。審査委員がこのセクションで知りたいことは、ファーストオーサーの論文が何本あるのか、どのジャーナルに出しているのか(トップジャーナルに出しているか)、最近の仕事かどうかです。それが瞬時にわかるように書かないと、意味がないのです。古い先生は昔と同様に論文リストを書いてお終いにする人が多いのですが、それだけだとアピール不足。やはり、過去の論文のどれが、どんなふうに今回の研究計画に関連するのかをしっかり日本語の文章でも書いたほうが良いです。科研費の採択は、他人の書いた申請書と比べられて決まるわけですから、楽して書いたものと精魂込めて丁寧に書かれたものとが比べられたときに、どちらが好印象を残すかは明らかでしょう。

審査委員目線で自分が書いた申請書をチェックできる客観性を備えた人のほうが、採択される可能性は高いといえます。

論文業績が無い場合の書き方

博士号を持っていないため基盤研究(C)に出すのだが、英文の原著論文が筆頭では一方もないとか、若手研究に出すのだが博士論文の一報しか発表論文がないとか、業績が少なくて困っている人は、どう業績欄を埋めればいいのでしょうか。

まず大事なことは、業績がなくても業績欄の2ページは最後の行まで書ききることです。業績はなくても誠意、熱意があることを示しましょう。で、何を書くかですが、一報でも論文があるのなら、その論文の紹介を図なども交えてしましょう。研究計画と関連性が薄くても構いません。研究遂行能力、計画の実現可能性を示すことが、このセクションを書く目的だからです。論文がないなら学会発表の内容でもいいので、とにかく書きましょう。論文になっていないけれどもデータが何かあるのなら、その図を載せて解説しましょう。臨床経験しかないのなら、日常の臨床業務のことでも書いたほうが、余白を残すよりはましです。基盤研究(C)で研究分担者を置いている場合は、もちろん研究分担者の業績も書きます。ただし、研究代表者よりも多くのスペースを割くのはバランスが悪いので気を付けましょう。

科研費申請書の書き方:勝てないケンカはしない

書き方というよりも、採択されるための戦略の話なのですが。どんなに頑張って科研費の申請書を書いても、しょせん科研費にはライバルが存在しており、相対的な評価で序列が付けられて採否が決まります。研究テーマや研究計画が十分練られた研究計画調書が集まってくると、最後は業績の良し悪しが効いてきます。つまり、どれほど申請書の完成度を上げたとしても、かなわないときにはかなわないのです。

自分は神経内科医だから神経内科学関連、自分は循環器医だから循環器内科学関連などと、科研費を応募する審査種目を決めつけてしまってはいませんか?自分の研究計画のキーワードを用いて、KAKENを検索してみてください。類似した研究テーマは実はいろいろな審査種目で採択されていることがあります。

そして採択課題、研究代表者、リサーチマップ(もしリンクがなければグーグル検索)、あるいはその研究者の所属する大学の教員データベースなどを調べて、どれくらい業績のある人がその審査種目で採択されているかを眺めてみましょう。もちろん、ここでのポイントは、どれくらい業績が無い人でも採択されているのか?です。

審査種目の競合の強さを調べて、ここなら自分の業績でも太刀打ちできると思えるような、勝てる土俵で勝負しましょう。科研費は参加することに意義があるオリンピックではないのです。応募して採択されてナンボです。

同じような申請書を、不採択になった翌年、審査種目を変えて出しただけで採択されたという例があることは、皆さんも聞いたことがあるはず。世の中は、不均一にできているのです。

科研費申請書の書き方

 

科研費の教科書

 

科研費申請書の書き方:業績をアピールせよ!

科研費が採択されるために必要な要素は、人によって考えかたがいろいろでしょうが、業績が大事だということに異論を唱える人はいません。じゃあ、業績があれば採択されるのかというと、そうでもないのです。業績があることが伝わって初めて採択に近づきます。業績欄のページに業績リストを載せて安心していませんか?

業績欄は、科研費の申請書の後ろのほうにあります。審査委員によっては業績を気にせずに最初のページから順番に読んでいく人も結構います。そして、途中まで読んで良い印象を持たなかった場合には、業績のページに到達する前に「不採択」の判断を下してしまっているかもしれません。ページをめくって業績が多少あることに気付いたとしても、一度決めた決定を覆すのは難しいでしょう。

今どきの科研費は業績だけ見せれば通るほど甘くはないのです。研究目的や研究計画がきちんと説明できていない研究者にたとえ業績が多少あったとしても、それは指導者が論文を書いてあげていただけなんじゃないの?と勘繰られます。論理的な文章を書けない人に論文業績だけあるのは不自然だからです。

そんなわけで、業績がありますアピールは、申請書の最初のほうからしておく必要があります。どのくらい最初かというと、概要でもいいです。市販されている科研費の教科書を読むと、概要では文献の引用はしないと教えているものもありますが、それは別に絶対的なルールではありません。絶対に見落とされたくない素晴らしい論文を最近出したのであれば、概要で(もちろん本文でも)示してあげて、業績アピールしても全然かまいません。あとは、背景、着想に至った経緯、独自・創造性、国内外の研究動向と本研究の位置づけ、研究計画、準備状況、どこでも構いません。自分の論文業績を引用できそうなところで、どんどん引用してアピールしましょう。

謙虚な性格な人は、そんなにアピールしたら審査委員が反感をもったり嫌悪感を持ったりするのではないかと心配してしまうかもしれません。まあ、日常生活や学会で会って話をしているときに、最近論文を出しましたアピールをすると、場合によっては嫌な感じと思われるかもです。しかし、科研費の申請書というのは特別な場所です。どれだけ自分の業績をアピールしても、それが嫌味になることはありません。審査委員が審査するのを楽にしてあげるだけのことです。

業績欄に、最近出した素晴らしい論文や、総説や、症例報告が入り混じった十数報のリストがあったとして、審査委員がその中からパッとトップジャーナルの論文を見つけ出してくれるでしょうか?審査委員は審査の作業でくたくたに疲れているので、おそらく、なんだ臨床報告のリストかと思って素通りするだけでしょう。審査委員の興味はファーストオーサーでトップジャーナルもしくはその研究領域で認められているジャーナルに最近論文がどのくらい出ているのかです。それが一瞬でわかるような業績リストでなければ、業績リストを載せた効果はあまりありません。査読付き原著論文と総説と症例報告は、分けて、別々のリストとして表示しましょう。

科研費の教科書

  

科研費申請書の書き方

科研費申請書(研究計画調書)の書き方セミナースライド集・ノウハウ記事

科研費申請書(研究計画調書)の書き方のセミナーを毎年開催する大学が多いですが、ネット上に公開されているセミナースライドをまとめておきます。

科研費セミナースライド

  1. 岡山大学 科学研究費獲得法2020 Essential版 科学研究費申請スキル強化書︓2021申請に向けて 科研費講演会2020年8月19日 研究協⼒部⻑⽇本危機管理⼠機構員危機管理⼠1級DRII認定ABCP(事業継続プロフェッショナル)⼭﨑淳⼀郎 (スライド80枚)
  2. 信州大学 K3茶論第15回 科研費申請書作成のポイント 加藤鉱三 信州大学高等教育システム開発部 審査員を知れ 450字の審査意見を書く 審査員は審査しなければならない⇒審査ポイントがどこに書いてあるのか一発で分かるように⇒審査意見は「写すだけ」にしてあげる

科研費の書き方・ノウハウ(ウェブ記事)

  1. 羊土社 科研費獲得の方法とコツ 科研費申請応援サイト
  2. 科研費.COM
  3. 「科研費が採択されない人」が陥りがちなNG思考 2022.02.02 (Wed) 分析計測ジャーナル 専門用語ばかりで論理的でない文章、写真や図の挿入もなし、あってもわかりにくい 同じ専門分野同士でもわかってもらえていないことのほうが圧倒的に多い 読み手のことを想像しながら、わかりやすく理屈をたてて順番に書いていく 内容がすばらしいかどうかの前に、読んでわかるかどうか 自分がわかりにくい文章を書いていることに気づかずに「これでいい」と思っている 必要に応じて言葉を変える

科研費応募書類の書き方(書籍)

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  1. 狙って獲りにいく! 科研費 採択される申請書のまとめ方 2022/8/20 すばる舎
  2. 科研費獲得の方法とコツ 改訂第8版〜実例とポイントでわかる申請書の書き方と応募戦略 2022/7/14 児島将康 羊土社
  3. 科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第2版  2019/7/28 児島将康 羊土社
  4. 科研費 採択される3要素: アイデア・業績・見栄え 第2版2017/7/3 郡 健二郎 医学書院
  5. 科研費改革と研究計画書の深化―新審査の要点と留意点/研究PDCA/新調書のチェックと進化策 (高等教育ハンドブック)  2018/10/15 牛尾 則文, 長澤 公洋, 大澤 清二, 岡野 恵子 地域科学研究会

科研費申請書の書き方

 

科研費の教科書

 

科研費の応募で研究分担者を置くべきかどうか、採否への影響は?

科研費を応募する際、申請書を作成していて頭を悩ませることの一つが、「研究分担者」を置くべきかどうかです。分担者がいたほうが採択される可能性が上がるのか?あるいは下がるのか?などと考える人がいることと思います。答えは、「単純に採択されやすくくなるということはない」です。それよりも大事なのは、なぜ分担者を置く必要があるのかです。分担者を置く必然性があればOK,なければNGなのです。

 

分担者を置くことで、採択可能性が下がる例

助教や講師、准教授が研究代表者で、教授を研究分担者とし、教授に対する役割として「ご指導を仰ぐ」ためと書く。こう書けば、申請書の他の部分がどれほどよくても、一発で落ちることでしょう。

研究分担者を置いているのに、計画欄のところで分担者の役割を全く書いていない計画調書もありますが、これもなぜ分担者が必要なのかが不明瞭なので、かなり印象が悪くなります。

 

分担者を置かないほうが不自然な例

例えば臨床医とAIの専門家がそれぞれ専門知識を生かして研究プロジェクトを計画したとします。臨床医が研究代表者になるのなら、AIの専門家が研究分担者として参加していないと、実験計画の実現可能性は低く感じられることでしょう。

 

研究分担者を置くほどのこともない例

「研究分担者」は、科研費に採択されたときに研究費を分けあうわけですから、お金が対してかからないような役割しか担っていないのであれば、わざわざ研究分担者にするのは不自然でしょう。その場合、「研究協力者」として、本文中に役割を記載するにとどめれば十分です。完全に一人でできる研究などそうそうなく、たいてい、複数の人達の協力によって研究がなりたっています。ですから、論文を書くときには単著ということはあまりなくて、たいてい共著論文になります。共著者たちがかならず研究分担者になっていないとおかしいということはありません。

 

結論

研究分担者をおくべきかどうかの判断は、実験計画との整合性で決めるのが良いでしょう。分担者を置く理由が言えないのなら、置くべきではない。分担者がいないと研究計画が実行できないのなら、共著者になるのか、お金が必要かなども含めて考えたうえで、分担者を置くかどうかを考えればよいのです。

 

科研費申請書作成の疑問:「着想に至った経緯」や「国内外の研究動向と本研究の位置づけ」は、「本研究の学術的背景」とどう書き分ければよいのか?

科研費の申請書を書いている研究者の方々の多くが悩んでいることの一つが、「着想に至った経緯」や「国内外の研究動向と本研究の位置づけ」は、「本研究の学術的背景」とどう書き分ければよいのか?という点です。背景も経緯も似たようなものですし、背景と動向も似たようなものです。内容がそもそも被っているからといって同じことを繰り返し書いてもいいのでしょうか。全く同じことを書くのは、芸が無さすぎです。審査委員だって、同じような記述が2回も3回も繰り返されていたら、面白くないでしょう。

さて、経緯や動向と背景とをどう書き分ければいいのかという疑問を抱くのは当然のことです。というのもこの悩みは2018年度科研費の様式の変更に伴って必然的に発生したものだからです。変更前の2017年度の科研費の申請書を見てみると、セクションの割り振りが今とは大きく違っていて、最初の2ページは「研究目的」を書くページです。指示としては3つのことを書くようになっていて、①研究の学術的背景(本研究に関連する国内・国外の研究動向及び位置づけ、応募者のこれまでの研究成果を踏まえ着想に至った経緯、これまでの研究を発展させる場合にはその内容等) と明確な指示がありました。つまり、様式を作った側も、動向や位置づけ、着想を学術的な背景の中身として考えていたのです。もともと同じ場所に書く内容だったのですから、同じに感じるのは当たり前。

このような科研費申請書の様式の変遷を考えれば、多少の内容のオーバーラップは当然だと思います。しかし、同じことを3回繰り返し記述するのはばかげていますので、やはり書き分けたいところです。書き分けるヒントですが、同じことでも違う角度で見れば、違うものように見えます。同じこと内容を書くにしても、書く目的が異なればおのずと力点を置く場所が変わってきます。

書き分けるべきは、「内容」ではないのです。内容は同じでいい、いやむしろ同じでないとおかしいのです。変えるべきは、「切り口」、「視点」です。

科研費申請書の研究計画欄に纏わる混乱「何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか」には何をどのように書けばよいのか?

科研費の様式は、2018年度に非常に大きな変更がありました。そのため、以前から科研費に応募してこられた方は、何をどこに書けばいいのかわからず戸惑っているかもしれません。2018年度科研費以降に初めて様式を見た人も、どこに何を書けばいいのやらわからないという人が多いはずです。そのわかりにくさ、もやもやの一番の原因は何かというと、研究計画や研究方法をどこに書いたらいいのかの明確な指示がない!というところにあると思います。

2017年度科研費の基盤研究(C)の様式(様式S-1-8)を見てみると、3ページ目と4ページめが、「研究計画・方法」のページになっていて、「本欄には、研究目的を達成するための具体的な研究計画・方法について、冒頭にその概要を簡潔にまとめて記述した上で、平成29年度の計画と平成30年度以降の計画に分けて、適宜文献を引用しつつ、焦点を絞り、具体的かつ明確に記述してください。」という明確な指示がありました。

ところが、2018年度以降の科研費の基盤研究(C)の様式(様式S-14)を見ても、「研究計画」の欄がないのです。様式の名として「研究計画調書」とあるほかには、研究計画という言葉が、この様式の中にはそもそも見つかりません。最初の3ページは「1 研究目的、研究方法など」を書くようになっていて、指示としては、

本欄には、本研究の目的と方法などについて、3頁以内で記述してください。冒頭にその概要を簡潔にまとめて記述し、本文には、(1)本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」、(2)本研究の目的および学術的独自性と創造性、(3)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか、について具体的かつ明確に記述してください。

とあります。「計画」という言葉はなくても「方法」という言葉は「1 研究目的、研究方法など」の中にあるので、方法はこの3ページの中のどこかに書かないといけないことは明らかです。そして、(1)、(2)、(3)という項目の説明を読むと、どうやら方法を書くべき場所は(3)以外には無さそうです。つまり、「(3)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか」が、2017年度科研費まであった「研究計画・方法」に相当するセクションだと考えられます。

ところが、紛らわしいことに2017年度科研費までの様式だと、「②研究期間内に何をどこまで明らかにしようとするのか」を「研究目的」(基盤研究(C)の場合2ページ分)の中に書くことになっていたのです。2017年度までは「研究計画・方法」というページが2ページ分用意されていたので、「②研究期間内に何をどこまで明らかにしようとするのか」は、文字通り何をどこまで明らかにしようとするのかをサラッと書いておけばよかったのでした。しかし、2018年度科研費以降は、「(3)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか」のセクションには研究計画・方法をしっかりと具体的に書きこまないといけないはずです。何しろ研究計画・方法を書く欄は他に見当たらないのですから。

このような事情があるために、科研費の申請書で何をどこに書けば良いのかに関して、非常にわかりにくさ、もやもや、が発生しているものと思われます。

そのせいかどうかわかりませんが、(3)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか のセクションに非常に大雑把な記述しかしていない人が結構います。審査委員が読んだときに、計画が具体的に説明されていないと判断されて採択の可能性は大幅に下がることでしょう。さて、言いたいことを最後に繰り返しておくと、(3)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのかのセクションには研究計画や方法を具体的にしっかりと書きましょうということになります。

科研費申請書の書き方

 

科研費の教科書