研究助成」カテゴリーアーカイブ

当たり前すぎて誰も教えてくれない科研費申請書の書き方の作法、暗黙のルール

当たり前なので誰も言わないけれども、初心者にとっては当たり前でないことが、科研費研究計画調書(申請書)の執筆において重要になります。

申請書を書く際の態度について(*最重要)

研究計画だから、まだデータが出ていないことを書くべきだと誤解する初心者が多いですが、そうではありません。実験データが得られていても「論文化(受理;アクセプト)されていないものは、何も行われていないものと同じ」いうスタンスで書くのが、申請書を書く際の原則です。ですから、もう研究が一通り終わっていると思われると研究費がもらえないのではないか?という初心者にありがちな心配は無用です。

建前の本音が大きく矛盾しているのですが、だからこそ公で誰もはっきりとは言わないことなのですが、ほとんど研究が上手くいっているくらいの状態でデータをバンバン申請書に盛り込んでいるほうが採択されます。なぜなら、研究計画の実現可能性に疑問が挟まれないからです。実験なんてほとんどは思った通りの結果は出ないということは審査委員もみな知っていますので、机上の空論を書かれても真に受けるわけにはいかないのです。

事務が聞いたら怒りそうですが、研究費が得られたら本来の計画書に書いた実験ではなく、「次の」研究のアイデアを纏めるための新たな実験に使ったほうがいいのです。そうしないと、次の申請のときに採択可能性がさがります。「研究費をもらって、実験して論文化」というサイクルではなく、「研究費をもらって、さっさと論文化を済ませて、次に申請するための実験をして論文化の準備をする」というサイクルを回し続けることが、研究者として生き残るための条件なのです。

これは成功している研究者を見れば、皆があたりまえにやっていることです。悪い環境で研究を孤独にやっていると、こういう当たり前のことを教えてくれる人がいないという不幸なことになります。

自分はアメリカのRO-1(大型研究予算)の申請書や、日本の基盤研究(A)の申請書などを見たことがありますが、ぱっと見ほとんど「論文」でした。主要なデータがきちんと論文レベルのクオリティで図として埋め込まれているのです。金額が大きければおおきいほど「ほとんど論文」の傾向が強い(それが要求される)と思いますが、少額である基盤研究(C)や若手研究であっても、基本的な考え方は同じです。

申請書に書くべきこと

申請書には、やることを書きます。また、なぜやるのかという理由も書きます。なぜその研究が大事なのかという説明を書きます。科研費の申請書は、将来の希望を書くための書類ではありませんし、心情を吐露するためでもありません。主観を排して客観的に、すなわち、文献や予備実験データに基づいて、論理的に話を進める場所です。唯一主観を交えて書いても良い場所が、本研究の着想に至った経緯のセクションです。申請者が何を考えているのかを書くべきですが、それは根拠のない思い付きや心情を書くということではなく、どうロジカルに考えた結果そのような主張をしているのかがわかるように書くべきなのです。

3年なら3年という限られた年数の間に、何をやって何を明らかにするつもりなのかを書く代わりに、医療の発展に寄与したいとか、あやふやな願望ばかり書いていては、採択はおぼつきません。

申請書はいくつかのセクションに分かれていて、このセクションにはこれを書くというのがある程度決まっています。研究目的なら、研究目的のセクションに書くわけです。当たり前ですね?このあたりまえのことを守らない人も結構います。書くべきことを書いていなかったり、逆に、書く必要のないことを書いていたりします。そんな申請書は、もちろん採択されるわけがありません。

申請書作成にあたっての態度

なぜ申請書に書かれた指示を守らない書き方を平気でするのか?それは一言でいうと、独りよがりだからです。独りよがりは物事に対する態度なので、申請書のいたるところでその独りよがりぶりが見てとれます。例えば、論文の図などをコピペした際の英語のフォントが小さく読めないのに気にしないなど。独りよがりでない、すなわち、読み手を意識して読みやすい申請書を作成する心の態度ができている人は、ちゃんと読める大きさに図を作ったり、理解しやすいように英語の部分を全部日本語に直したりといった工夫をするわけです。「独りよがりな人=実験データを客観的に解釈できず、自説に引き寄せてしまう人」の恐れが大きいため、研究者としての評価が低くなり、審査委員にしてみれば研究費をあげたい人には入らないでしょう。

申請書の言葉遣いに関する掟

研究目的のセクションに、研究目的を書かずに、研究目的の意義を書く人もたくさんいます。「細菌叢を解析することにより、疾患Aとの関連性を明らかにする」というのが研究目的だったとしたら、研究目的のセクションに「細菌叢を解析することにより、疾患Aとの関連性を明らかにすることにより効果的な治療戦略の開発に貢献できる」などと書くのが典型的な失敗例です。研究目的の文と、その意義を述べる文は一続きの文にせず、2文に分けましょう。

プロポーズするときに、「あなたと結婚したらきっと幸せな家庭が築けると思うよ」と言っても、言われた相手はプロポーズされたとは思わないでしょう。「あなたと結婚したい」と言わなきゃだめです。科研費の研究目的の書き方も、それと同じです。

申請書は書き言葉で書きます。話し言葉やくだけた表現を用いてしまうのもよくある失敗例です。また、ラボで飛び交う日常語と正式な言葉とは使い分けましょう。ラボでは、「サザン」をするというかもしれませんが、書くとときは「サザンブロット法」です。「それで、」とは書かず、「そこで、」と書きます。「そして」も普通使いません。「また」あるいは「その後」といった言葉を使います。使う言葉で、その人がプロフェッショナルな研究者なのかそうでないのかは、一瞬でバレてしまいます。

概要で書くべきこと

概要は、指示にもある通り、本文の要約です。この指示を無視して、本文に書いていない情報を盛り込む人が多数います。これは申請書に整合性がないもの判断される材料になるでしょう。

概要で大動脈弁狭窄症(Aortic Stenosis; AS)と書いたからといって、本文でいきなりASと書くのは、「概要は本文の要約」という鉄則に反した行為です。本文でも繰り返しになって全然OKなので、初出時は大動脈弁狭窄症(Aortic Stenosis; AS)と書きましょう。そもそも本文のスペースが十分余裕があるのであれば、わざわざASなどど略さなくてもよいでしょう。

概要のところを10行分くらい空けておき、本文4ページ分を書きあげてから4ページ分の要約を概要に書けば、上のようなつまらないミスは起こしようがありません。様式をダウンロードしたあと、まず概要を書き、続けて本文を書き進むといった作成方法をしている人は要注意です。

背景に書くべきこと

その次に来る学術的な問いの妥当性を客観的に説明するために書きます。客観性を出すためには、文献を引用しながら書くのが鉄則です。自分の個人的な体験や考えをただ書いても説得力が出ません。

ただし2025年度科研費から、着想に至った経緯が(1)に入ってきたので、ある程度自由度があるかもしれません。

着想に至った経緯

業績がほぼない臨床医であれば、日常臨床でどのようなクリニカルクエスチョンを得てそれをリサーチクエスチョンとしたのかを書いてもいいでしょう。しかし、研究業績のある人で、テーマに関連する論文の積み上げがある人であれば、自分の論文業績に基づいて書くのが普通です。

2025年度科研費(2024年度応募)から様式に変更があり、着想に至った経緯は、(3)の中ではなく、(1)に書くことになりました。毎年、前年度の申請書のコピペで申請書を作っている人は要注意です。背景~着想~問い はひと続きに書いても、それぞれ分けて書いても、どちらでもいいと思います。ただし、背景を書く目的がそもそも問いを導くためなので、このセクションは一まとまりで書くほうが自然のような気がします。

学術的な問いに書くべきこと

あくまで明らかにしたい学術的な問いであって、「こんな研究は可能か?」という疑問を書くのではありません。日常語としての「問い」の意味に引きずられないようにしましょう。

学術的な問いは、文字通り「学術的な問い」です。ある実験系においてどういう結果が出るか?という具体的なものではなく(それは研究目的)、もっとその研究領域の他の研究者とも共有されるような大きなものであるべきです。「抽象度ー具体度」の軸で考えると、研究目的よりも学術的な問いのほうが抽象度が高くないとおかしいのです。思い付きで例を挙げると、以下の項目は上ほど抽象度が高く、下に行くほど具体性が増します。

  • がんの撲滅
  • 抗体医薬の開発
  • 免疫チェックポイント阻害抗体の効果の検証
  • ヒト大腸がんの細胞株を用いた免疫チェックポイント阻害抗体の効果の検証
  • ヒト大腸がんの細胞株の担癌マウスを用いた免疫チェックポイント阻害抗体の効果の検証

学術的問いと研究目的を設定する場合、どの「大きさ」で設定するかは本人次第ですが、どうであれ、問いは目的より抽象度を高くした記述になっているのが普通です。ただし、「同じ」というのもあり得ます(問いと研究目的が、言葉としては裏返しの関係)。

研究目的に書くべきこと

初心者でときどき勘違いしている人がいて、研究目的として、がんを撲滅して人類に貢献したいといった内容を書く人がいます。これは将来の願望や希望であって、このセクションに書くべきことではありません。通常の日本語でいう「目的」であれば、がんの撲滅は立派な目的ですが、申請書における研究目的とは、「何をどう研究して何を明らかにするのか」という意味です。研究期間内(3~4年)の間に何をやるかを書くのです。将来的な目標を書く場所ではありません。通常の日本語に惑わされないようにしましょう。これは、採択されている人間にとっては当たり前すぎることですが、初めて科研費に応募する人の中にはわかっていない場合があります。どうしても将来的な目標まで書きたければ、期間内の目標と将来のことをハッキリと書き分けましょう。

「研究目的は、~を目的として~を行うことである。」と書いてしまうと、前半部分だけが目的のようになって、分かりにくくなりますので、「研究目的は、~を明らかにするために~を行うことである。」と書いたほうがよいでしょう。

独自性に書くべきこと

「他に論文報告がない研究だから独自性がある」と書くのがダメです。重要な研究なのになぜ誰もやっていないのか、できなかったのか、なぜ自分ならできるのかを説明しましょう。誰もやっていないということは、誰も興味を持たないくらいに面白くない研究テーマであることが多いはずです。

「本研究は~を~して~を明らかにする点で独自性がある」と書く人も多数います。「本研究は~を~して~を明らかにする」の部分が、単に研究目的に書いたことそのままだとしたら、それは独自性を説明したことには全くなりません。AならばAである、とトートロジーを述べているようなものです。独自性=他者と比べて何がどうなのか という説明が必要です。

創造性に書くべきこと

創造性という言葉の意味が広すぎて、人によって書くべきことのイメージが大きく異なる可能性があります。アイデアの斬新さや、研究成果の波及効果(社会に対する貢献や、おなじ研究領域の他の研究者に対する貢献、ベネフィット)を書けば良いでしょう。ぶっちゃけ、審査委員(=同じ研究領域の研究者)が自分たちの役に立つと思ってくれればよいのです。

もう一つの考え方として、自分の研究に将来的な広がりがあるという観点で書くのもありでしょう。しかし、上で書いたことのほうが強力です。自己的な人より他己的な人のほうが評価されるのは当たり前。

創造性という言葉はかなりビッグワードなので、~という点で創造性があると書いても、日本語として不釣り合いなことが多いです。そういうときは、~という点に特色がある。程度で済ませましょう。いろいろな意味でバランスが悪い人は、研究能力も低いのではないかと疑われます。

 

研究動向と位置づけ

他人の研究と自分の研究を紹介すればそれが動向であり位置づけになりますので、動向と位置づけは表裏一体であって、分けて書かないほうがいいと思います。また研究動向はあくまでその申請書の研究テーマに関する研究動向(それくらい広く捉えるかはケースバイケースで正解はない)であって、あまり関係がない研究を紹介するのは意味不明です。

「着想に至った経緯や、研究動向と位置づけ」という指示があるせいか、着想を書いて、そのあと書くことがなくてなのかスペースがなんとなく埋まったせいなのか、動向・位置づけを何もかかずに済ませる人がいます。これは絶対にダメです。着想は主観を書く場所なので、評価のポイントになりえません。しかし動向と位置づけは、客観性をもってその研究の意義をアピールするために必須なので、それを書かなければ採択されるはずもありません。

本研究で何をどのように、どこまで明らかにするのか

このセクションはいわゆる研究計画欄であって、方法や計画、実験課題を具体的に書きます。具体的といっても何を何ml採取して何と混ぜてとか、何gで遠心してなどとプロトコールを書いてはいけません。実験をやり慣れている人が読んだときに何をするのかが分かる程度の詳しさで十分です。遺伝子発現を調べるのであれば、RNAseqなのかreal time PCRなのかウエスタンブロットなのか免疫組織なのかといったことを書く必要があります。関連する実験の論文を多数出している人は、細かいことを書かなくても信用してもらえますし、関連論文ゼロの人は自分がその実験をできるんだというアピールが必要です(予備データを見せるとか、publishableなデータでなくても少なくとも自分のいる研究で自分自身で実験をこなせることを示す写真を見せるとか)。

また、実験の作業工程をえんえんと書いてお仕舞いにしても、読んだほうにはちんぷんかんぷんですので、それぞれの実験を行う意図や目的を必ず書きます。このセクションの最初と最後には実験目的や得られる結果の予測と結論などを書きましょう。

準備状況

予備実験データなどがあればそれを書いてもいいでしょう。予備実験データは計画欄においてもいいですし、背景などもっと前のほうにおいてもいいと思います。ただ単に、準備は万端整っていて採択されれば確実に研究計画を実施可能である。と書いてもあまり説得力がありません。準備できているのなららその中身を書いて、判断は審査委員に委ねましょう。

研究者の遂行能力

ここはいわゆる業績欄で、昔は単に論文のリストを書く場所でした。科研費の様式も変遷を経ていて、今ではかなり自由に何を書いてもよいことになっています。そうは言っても、論文リスト+それらの論文の解説というパターンで書く人がほとんどでしょう。

  1. 査読付き原著英語論文(筆頭著者論文、責任著者論文、共著論文)
  2. 査読付き原著和文論文、英語論文(総説)、症例報告論文、和文商業誌の記事、論文
  3. 学会発表(筆頭演者)

人によって考え方が違うかもしれませんが、上のようなことを書くといいと思います。特に、研究計画に関連する論文はしっかりとアピールします。関連論文がないなら、関連性が薄い論文でもなんでもとにかく余白を作らないように書けるだけ書きます。

関連論文の内容を、場合によっては図なども提示しながら日本語の文章で解説するというのもありです。論文数が少ないほど、日本語の文章が増えることになります。

研究分担者の業績も書きますが、分担者の業績が大半を占めるのはNGです。代表者の業績が少なければ、より詳細に説明することにより、スペース的には代表者がメインになるように印象付けましょう。分担者が他大学の他の専門領域の人の場合で、相補的な関係がある場合は、分担者も代表者と同じ程度にしっかりかくというのは当然のことです。

研究環境

2ページのうち1ページを遂行能力、1ページを環境に当てる人もいますが、それはバランスが悪すぎます。環境は半ページ以下で十分。4~5行でも十分です。研究遂行能力に十分なスペースを割きましょう。

経費

経費を非常に細かく人がいますが、ある程度ざっくりでも大丈夫です。分子生物学用試薬10万円など。抗体は一つ5万円くらいしますので、経費の説明で何に対する抗体かも書いたりしたほうが良いと思います。経費は雑に書いても採択される人は採択されますが、ボーダーライン上のどんぐりの背比べの中に入っている人は、少しでも印象を良くするために、経費の理由をきちんと、研究計画と整合性があるように書きましょう。誰であれ、整合性がないことを書くと、印象が非常に悪くなります。

国内学会の出張費に10万円などと書かれていると、自分はちょっと高くない?と思ってしまいます。東京の研究者が横浜の学会に行くのか、沖縄や札幌の学会に行くのかで旅費は全然違ってくるでしょうから、第XXX回XXX学会(福岡市)などと具体的に書いて常識的な経費を申請したほうが印象が良くなります。逆に海外の学会でヨーロッパ15万円などと書いていると、それで行けるの?と思ってしまいます。エコノミーの座席で格安航空券を買うにしても、宿泊代と航空運賃合わせて30~40万円はかかるのではないでしょうか。

基盤研究(C)や若手研究の助成金額の上限は500万円ですが、それを458万円などとしている人もいます。まず、金額を低くすれば採択可能性が上がるかと言うと、そういうことは全くありません。希望金額と採否は無関係です。また、採択された場合の充足率(実際にもらえる金額)は70%くらいです(最近の挑戦的研究は、100%の充足率になって、話題を呼びましたが)。真面目に書いてしまうと30%削られた金額しかもらえないので、馬鹿正直に書くより少し多めに書いておいてちょうどよくなるということは知っておくべきでしょう。採択されても30%減ということは、それくらいが誤差と考えて金額を書いてもいいのだと自分は思っています。英文校正費用が5万円で済むところを6万円と書いてもなんの問題もないでしょう。

熱量

レベルの高い競争だと、熱意があるのが当たり前なのでそこで差がつくことはないですが、若手研究くらいだと、きちんと申請書を書いていて熱意が感じられるほうが印象が断然よいと思います。採否のボーダーラインにたくさん並んでしまった場合には、熱量があるものが拾われることもあるのではないでしょうか。誠心誠意頑張っているのが伝わる申請書を採択させるという審査委員の言葉を聞いたことがあります。もちろんボーダーライン上でどんぐり状態になった場合の話だとは思いますが。熱量というのは言葉であからさまに表現するものではなくて、申請書の隅々にまで神経がいきわたっていることも、熱量を感じさせる大きな要素になります。

科研費の教科書

いちばんわかりやすい科研費申請書の教科書」(amazon.co.jp)は発売日が2023年9月7日のため、まだ中身を読んでいませんが、科研費.comさんの著作ですので期待が持てます。アマゾンで予約購入すると発売日当日に到着するように発送してもらえるようです。 買って読みました。参考になること(他の類書に書いていないこと)がいくつもあって、自分には非常に参考になりました。

科研費 採択される申請書のまとめ方」(amazon.co.jp)は、近年のベストセラーだと思います。特に審査委員がどうやって審査しているのかという実際や審査委員がどう感じるのか、どう考えるのかといったことも細かく紹介されており、それを踏まえてどのように申請書を作成すればいいのかがわかるようになっています。繰り返し読んで血肉とすべき良書でしょう。

科研費獲得の方法とコツ」(amazon.co.jp)はベストセラーかつロングセラーで、系統だって書かれた正統派教科書の趣があります。初心者はまずこれを読んでから執筆にとりかかるのが良いでしょう。それに対して、「科研費 採択される申請書のまとめ方」は、何度も応募していて書きなれてはいるけれども採択されたことがない人に一番効果がありそうです。

科研費申請書の書き方

研究医や研究者のための海外研究留学助成情報:HFSP、JSPS海外学振、武田、内藤、上原、アステラス、第一三共、早石ほか

研究者業界では、海外でポスドクを行うことを一般的に「海外留学」と呼んでいます。海外の大学に進学するのも海外留学ですが、それとはことなり学ぶためにというよりも仕事しにいくわけです。しかし多くの場合は、日本で得られるよりも、より良い研究環境に身をおいて優れた研究成果を挙げてキャリアアップにつなげることが目的なので、そういう意味では学びに行くともいえます。

さて仕事にいくといっても、先方の受け入れ研究室が給与を払ってくれるとは限りません。これは先方の懐事情によります。一般論としていうと、人気の高い研究所、研究室ほど、ほっといても希望者が殺到するので給与を出してくれることは少ないです。逆に地理的に不人気だったり、ラボがまだ名声を確立していなくてなかなか人が集まらないようなラボだと給与は払うから是非来てくださいということもあります。相手先のボスが給与を出せないというからといって、「ケチなボスだ」などというのはとんでもない勘違いです。ポスドクに応募してくる研究者がフェローシップをとれるように、研究計画などで相談に乗ってくれるボスであれば、非常に良いボスだと言えます。

実際に聞く話ですが、給与を払うといってくれて留学したけれどもそのあとボスが次の研究費を獲れなくてポスドクをクビにされるという悲劇も起こります。ですから、自分の給料としてのフェローシップを自分で獲得してから研究留学するのは、自分と自分の家族の生活を守るためなのです。ボスが給与を出してくれると言っているときには、その財源が向こう何年間分確保されているのかを確認したほうが無難です。

海外への研究留学を計画している研究者むけのフェローシップを出してくれる財団はどんなところがあるか紹介します。フェローシップは当然のことですが希望者が殺到するので厳しい競争になります。応募者の論文業績、先方の業績、研究計画の妥当性などが問われます。申請書の書き方がまずいと折角、本人にある程度の論文業績があったとしても採択されにくくなります。

また、多くの場合若手重視で年齢制限を設けています。海外へ武者修行に行きたければ、若ければ若いほど良いのです。

以下に、海外での生活費を想定した数百万円程度の助成を行う財団とプログラムを紹介します。多くは1年間の生活費のみですが、複数年にわたってサポートしてくれる財団もいくつかあります。

複数年の海外研究留学をサポートするフェローシップ

HFSP Postdoctoral Fellowships

ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラムは、非常にステータスの髙い助成です。HFSPの助成を受けた研究者がその後、何人もノーベル賞を受賞していると言えば、そのレベルの高さがわかるでしょう。手当も厚いですが、競争率も高いです(応募者のレベルや受け入れ先のラボのレベルが極めて高い)。もともと日本の元首相、中曽根氏が提言してつくられたものであり日本が一番たくさん拠出金を出しています。日本人で生命科学者を志す若者は是非チャレンジしてほしいと思います。

  1. 2023年3月21日:申請者登録番号(compulsory initiation: 7桁のLoI ID番号)の取得期限
  2. 2023年3月30日:研究概要申請(Letter of Intent)の提出期限
  3. 例年2023年9月中旬頃までに、招待された申請者のみ、ProposalCentralを通じて、詳細申請書(Full Proposal)を提出
  4. AMEDによるHFSP紹介サイト https://www.amed.go.jp/news/program/20221228.html

 

日本学術振興会 海外特別研究員(海外学振)

  • 対象分野:人文学、社会科学及び自然科学の全分野
  • 学位取得後5年未満
  • 職歴 2024年4月1日現在、大学等研究機関の任期の定めの無い常勤研究職の職歴が過去通算して5年未満の者(令和6年度(2024年度)採用分)
  • 海外留学先からの応募の可否:すでに海外等の大学で研究を行っている人の海外からの応募もOK
  • 助成金額:留学する国により異なるが、年額約450万円~約620万円 *年額の上限を甲地方の額(約620万円)から、指定都市相当区分の額(約750万円)に変更
  • 派遣期間:2年間
  • 採用予定数:約130名
  • 併願:海外特別研究員―RRA・特別研究員―PD・特別研究員―RPDいずれも併願可能
  • 応募時期:令和6(2024)年度採用分 令和5年3月中旬~5月15日
  • 過去の採択者:海外特別研究員 新規採用者一覧
  • ウェブサイト:https://www.jsps.go.jp/j-ab/index.html

 

武田科学振興財団 海外研究留学助成

  • 趣旨:海外に研究留学する若手MD&PhDに最長4年間の留学助成
  • 年齢制限:日本国籍保持者、または永住者で、留学出立年度末に37歳以下の者。
  • 助成金額:海外渡航費往復40万円+滞在費480万円x最長4年間
  • 収入制限:留学中の年間収入が本奨学金を除いて600万円以下の者。
  • 採択件数:毎年新たに10件
  • 選考基準:業績のみでなく、信条、留学中の研究予定内容など、多様な観点で選考
  • 海外留学先からの応募の可否:募集する留学出立年度内(4月1日~翌年3月31日)に海外へ出立できる者(海外からは応募できません。FAQ
  • ウェブサイト:https://www.takeda-sci.or.jp/fellowship/study-abroad.php

 

第一三共生命科学研究振興財団 海外留学奨学研究助成

  • 日本国内在住の若手研究者(35歳以下(申請年度4月1日現在)6年制学部卒業者は37歳以下)
  • 過去に海外留学の経験がなく、かつ助成採択後(翌年度4月以降)に出国する研究者
  • 海外留学先からの応募の可否:不可
  • 特に疾病の予防と治療に関する諸分野の基礎的研究並びに臨床への応用的研究
  • 助成金額:年額750万円x2年間
  • 助成件数:5件程度(うち2割程度は女性優先枠)
  • 留学期間2年以上
  • 応募期間:2023年6月1日~7月31日
  • 重複制限:他財団等からの重複受給は、渡航費用等の小額助成を除き原則認められない
  • 過去の採択者:助成実績
  • ウェブサイト:https://www.ds-fdn.or.jp/support/studying_abroad.html 

 

国際医学研究振興財団

  • 年齢制限等:書類締切日に満40歳未満の者(女性研究者は45歳未満)あるいは、学位取得後5年未満の者
  • 出立時期:翌年1月から12月末までに出立し、2年以上の海外留学を予定している者
  • 応募時期:2022年度の例 2022年6月10日~2022年8月19日、結果の通知:11月上旬
  • 助成金額:1年あたり最大600万円/名 (税金、保険料は個人負担) x 2年間
  • 採択件数:5名
  • 過去の採択者:2022年度 海外留学助成対象者(PDF)
  • 2022年度 海外留学助成 募集要項 http://ifpmr.or.jp/abroad/
  • 国際医学研究振興財団ウェブサイト:http://ifpmr.or.jp/ 

 

以上は、複数年をサポートしてくれるフェローシップ。

1年間の海外研究留学をサポートするフェローシップ

以下は、1年間分(1件)の助成。この場合は、1年後の生活のために、海外からも応募可能な別のフェローシップに応募するか、所属ラボのボスから給料をもらえるならもらうということになります。

内藤記念科学振興財団 内藤記念海外研究留学助成金

内藤記念海外研究留学助成金 (700万円/件) 若手研究者が海外の大学等研究機関に長期間留学する渡航費、留学に伴う経費ならびに研究費を補助する助成金です。博士号を取得し8年未満もしくは出発日までに博士号取得見込でかつ1982年4月1日以降出生の研究者を対象としています。留学期間は、1年以上とします。(2022年度助成金事業の紹介)

2021年度からは一件あたり700万円と大幅に増額されています(これまでの受領者)。40歳未満という年齢制限があるようです。

 

上原記念生命科学財団 海外留学助成

若手向けと、ある程度実績がある研究者向けとに分かれています。

リサーチフェローシップ (1件 600万円以内) 博士号または同等以上の業績を有する若手研究者。 当年3月31日時点で37歳未満。(6年制学部卒の場合、39歳未満)

ポストドクトラルフェローシップ (1件 600万円以内) 博士号を有するか、翌年4月までに取得見込みの若手研究者。 当年3月31日時点で33歳未満。(6年制学部卒の場合、35歳未満)

東洋紡バイオテクノロジー研究財団 長期研究助成(留学、招聘)

  • 年齢制限:応募時8月31日現在満39歳以下
  • 応募期間:毎年7月1日~8月31日
  • 助成金額:550万円x1年間
  • 海外からの応募の可否:翌年4月以降新たに海外留学に出立する者、但し、応募年9月~翌年3月末に出立する者については、事情によっては助成の対象とする
  • 過去の採択者:東洋紡バイオテクノロジー研究財団 2021 年度研究助成
  • 参考:2022年度 長期研究助成(留学、招聘)募集要項 https://www.toyobo.co.jp/biofund/recruit/

日本生化学会 早石修記念海外留学助成

 

アステラス病態代謝研究会

  • 年齢制限なし
  • 海外留学先からの応募の可否:留学開始日が募集開始日以降の場合は可(応募要領
  • 推薦不要
  • 助成状況:2021年度の海外留学補助金 応募142件(男性111名、女性31名)、採択者11名(男性4名、女性7名)へ200万円から450万円(総額3,666万円)
  • 留学先及び日本の所属機関から得られる給与・手当、日本国内で活動する助成機関等(日本学術振興会を含む)からの海外留学助成など、収入の総額が1,000万円を超えない範囲で補助
  • https://www.astellas-foundation.or.jp/assist/abroad.html
  • 募集期間の例:2022年4月1日(金)9時 ~ 5月31日(火)(2022年度 海外留学補助金応募要領)
  • 2022年度募集要領:https://www.astellas-foundation.or.jp/uploads/2022/04/yoko2022_kaigai.pdf
  • 過去の採択者:海外留学補助金交付対象者 一覧
  • ウェブサイト:https://www.astellas-foundation.or.jp/assist/abroad.html

中谷医工計測技術振興財団 技術交流助成留学プログラム【海外留学】

  • 年齢制限:留学者本人が募集締切日に40歳以下の方で、日本国籍または永住権を有する方。
    海外留学先からの応募の可否:既に留学中の方は除きます。
  • 助成金額:滞在費 月額25万円 + 渡航費 上限30万円
  • 助成期間:1ヶ月以上〜1年未満(11ヶ月間)
  • 過去の採択者:助成実績
  • ウェブサイト:https://www.nakatani-foundation.jp/business/grant_exchange_04/

山田科学振興財団 海外研究援助

  • 助成金額:<個人B>研究者個人が海外の研究機関を拠点として6カ月~1年間、研究活動を行うための滞在費・渡航費・研究費等を援助します。援助額は200万円/件を上限とします。
  • 助成件数:個人・グループに関わらず6件程度(女性研究者2名以上を含む)
  • ウェブサイト:https://yamadazaidan.jp/requirements/grant-bosyu_kaigai/

 

少額(150万円以下)の助成金額のフェローシップ

さて、海外にいくには生活費だけでなく渡航費もかかります。以下では、おそらく渡航費用を想定していると思われる比較的少額100万円以下のものを紹介します。

持田記念医学薬学振興財団 留学補助金

  • 助成額:1件50万円 x 20件
  • 研究期間:1年以上
  • 公募時期:2022年度の例 2022年3月1日~2022年5月11日、採否通知:2022年9月12日
  • ウェブサイト https://www.mochidazaidan.or.jp/ryugaku.html

安田記念医学財団 海外研究助成

  1. 各150万円 x 3件以内
  2. 募集時期:令和4年度の例  締切日令和4年 6月30 日
  3. 参考 令和4年度(2022年度)安田記念医学財団応募要項 海外研究助成

細胞科学研究財団 育成助成

  • 国内外において更に高度の育成を受けようとするもの
  • 公募開始時9月1日現在 満40才以下の研究者
  • 助成金額:1 件120万円/年 x 10 件
  • 公募時期:令和5年度の例 令和4年9月1日(木) より 10月31日(月)
  • 参考 令和5年度 公募要項 https://www.shionogi.com/content/dam/shionogi/jp/sustainability/society/social-contribution-activities/foundation/zaidan/pdf/bosyu/R5bosyu-ikusei.pdf
  • ウェブサイト:https://www.shionogi.com/jp/ja/sustainability/society/social-contribution-activities/foundation/zaidan/bosyu/bosyu2.html

 

地域限定のフェローシップ

三越厚生事業団 三越海外留学渡航費助成

  1. 申請資格:(1)東京都並びに東京都近隣4県(千葉、埼玉、山梨、神奈川)に所在の大学医学部・薬学部、 医学研究施設(他県に本校のある東京都内所在の附属研究機関を含む) に所属する職員 (2)東京都内の病院に所属する職員 (3)東京都近隣4県(千葉、埼玉、山梨、神奈川)に所在する300床以上を有する病院等に所属する職員
  2. 助成金額:渡航費
  3. 応募時期:2022年度の例 2022年6月30日
  4. 参考:令和4(2022)年度 第23回  申請要領 https://www.mhwf.or.jp/research-assist/overseas-assist/application-99916-16101/
  5. 三越厚生事業団ウェブサイト https://www.mhwf.or.jp/

採択される科研費の書き方に関する教科書・日本語の文章力を身に付けるための本

科研費の書き方の教科書が何冊も出版されています。抜け目なくこういった書籍を読んで科研費を書いている人もいれば、これほど有名な本なのに知らずに一人で科研費の申請書を書いている人もいて、情報格差の大きさに驚かされます。

中嶋 亮太『狙って獲りにいく! 科研費 採択される申請書のまとめ方』 2022/8/20

これは名著だと思います。なにより、実践的。審査委員がどんな気持ちで、何を考えて審査しているのかが赤裸々に述べられていますので、それに対処する形で申請書を作ればよいのだということがよくわかりました。そこまでしゃべっていいのか?というくらいに審査委員の本音が炸裂しています。

狙って獲りにいく! 科研費 採択される申請書のまとめ方(アマゾン)

 

科研費に毎年応募して毎年不採択になっている人の中には、日本語で文章を書くのが苦手という人が結構な割合います。日本の学校教育では、日本語の文章を書く訓練はほとんどなされていないので、日本語が書けない研究者がいても何ら不思議ではありません。教育を受ける機会がなかった以上、自分で自学自習するしかないわけですが、今更日本語をどうやって学べばいいのかとっかかりがわからない人が多いと思います。

科研費の研究計画調書を書く上で、直接役立つ日本語の書き方の本を紹介しておきます。

酒井 聡樹『100ページの文章術 -わかりやすい文章の書き方のすべてがここに-

わかりにくい文章がなぜわかりにくいのかを分析して、その解決方法を示しています。きっちり100ページなので、簡単に読めて得るものが大きいです。文例は理系の学部学生さんが書いたようなものが多い印象。

『100ページの文章術 -わかりやすい文章の書き方のすべてがここに- 』(アマゾン)

 

林 健一『こうすれば医学情報が伝わる!! わかりやすい文章の書き方ガイド』 (ライフサイエンス選書) 2014/10/8(アマゾン

この本をしっかり読みこんで、自分なりに文を改訂したりといった練習をすれば、科研費の申請書を書くときに日本語で悩むことはなくなるでしょう。文の書き換えの練習などもきちんと実践しながら読み切るのは、それなりの労力が必要ですが、努力は報われます。

こうすれば医学情報が伝わる!! わかりやすい文章の書き方ガイド』(アマゾン)

 

古賀 史健『20歳の自分に受けさせたい文章講義』星海社新書 2012/1/26

この本はフリーランスのライターが書いたノウハウ本ですが、論理展開をしっかり書くことの大事さなどが強調されていて、まさに科研費の書き方にそのまま通じる内容。

20歳の自分に受けさせたい文章講義』(アマゾン)

 

木下 是雄『理科系の作文技術』 (中公新書 624)  1981/9/22

この本を知らない人は研究者の中にはいないだろうというくらいに有名なロングセラーです。研究者でこの本を持っていない人はいないかもというくらいによく読まれています。

理科系の作文技術』(アマゾン)