酸・塩基とは?酸化還元反応との違いは?

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酸やアルカリとは何でしょうか?お酢には酢酸が数%はいっていて、酸っぱい味がします。酸は酸っぱいというのは経験的に知っていることでしょう。アルカリはというと、実験をしたことがある人の場合、NaOHなどの強アルカリは手につくと手がヌルヌルするという経験をしたことがあるのではないでしょうか。

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酸やアルカリは子供でも聞いたことがあるくらい当たり前の概念ですが、高校、大学と勉強を深めるほど、話がややこしくなってきて、当たり前だったはずのことがだんだんわからなくなります。

アレニウスによる酸・塩基の定義

一番素朴な中学レベルの酸、アルカリの話がこれだったと思います。

酸は、水に溶けると水素イオンH+を生じる物質であり、塩基は、水に溶けると水酸化物イオンOHを生じる物質である。(酸と塩基 (acid and base)

HClは水に溶けるとH+ とCl-になるので酸です。NaOHは水に溶けるとNa+ とOH-になるので塩基です。この定義の方法だと、水に溶ける物質に関してしか酸や塩基が定義できません。

塩基とアルカリは同じ?違う?

塩基とアルカリの言葉の違いに関してですが、塩基のうちで水に溶ける性質を持つ物質をアルカリと呼びます。

  1. NHK高校講座 化学基礎 第25回 酸と塩基

ブレンステッド=ローリーによる酸・塩基の定義

高校で習う普通の酸、塩基の定義は、ブレンステッドさんと、ローリーさんが考えた定義のことで、水素イオンを相手に与える物質が「酸」、水素イオンを相手からもらう物質が「塩基」です。

例で考えると、塩化水素HClが水に溶けてイオンになる場合、

HCl + H2O → H3O+ + Cl-

という反応が起こります。HClはH+を見ずに与えたので、「酸」、水はH+を受け取ってH3O+になったので、「塩基」です。

水が塩基というのもなんだか変な気がしますが、定義に従うとそういうことになります。逆の反応を考えると、H3O+は、H+をCl-にわたしてH2Oになっているので、「酸」であり、Cl-は、H+をうけとってHClになっているので「塩基」の役割を果たしています。反応の前後で、酸が塩基になり、塩基が酸に変化する関係になっており、オキソニウムイオンH3O+(酸)は水(塩基)の「共役酸」、塩化物イオンCl-(塩基)は塩化水素(酸)の「共役塩基」と呼ばれます。

別の例としてアンモニアが水に溶けてアンモニウムイオンになる反応は、

NH3 + H2O → NH4+ + OH-

酸と塩基の関係を考えるとH+のやりとりで定義されるので、逆反応の場合も同様に考えると、

NH3(塩基) + H2O(酸) ⇔  NH4+(アンモニアの共役酸) + OH-(水の共役塩基)

となっています。ここで面白いのは、先ほどの反応では水は「塩基」だったのに、こんどの反応では水は「酸」になっています。酸や塩基というのは、物質ごとに固定された性質ではなくて、化学反応ごとにその物質が果たす役割のことなのですね。

水素イオンH+とオキソニウムイオンH3O+は同じ?違う?

教科書によってH+と書いていたりH3O+と書いていたりしますが、両者は同じものなのか違うものなのかで悩みます。結論をいうと同じものだそうです。H+(プロトン、陽子)は水の中で陽子としては存在できなくてかならずH3O+の形になっているようです。しかし、いちいちH3O+と書くのが大変なので、省略してH+と表記することが一般的だそう。

水溶液における水素イオン濃度 [ H ] は,ヒドロニウムイオン濃度[ H3O ](オキソニウムイオンともいう)で表記するのが通例であるが,以下の pH 関連の解説では,過去からの慣例に従い水素イオン濃度 [ H+ ] の表現を用いる。(第三部:化学反応 酸・塩基とは 情報技術館 SEKIGIN)

 

ルイスによる酸・塩基の定義

ブレンステッド=ローリーによる酸・塩基の定義では、プロトンH+のやり取りで定義されていました。ルイスによる定義では、「電子対」のやり取りで考えます。電子対を与えるものが塩基、受け取るものが酸です。先ほどの例、

NH3 + H2O → NH4+ + OH-

を考えるとNH3はH+を受け取るのでブレンステッド=ローリーの定義により塩基ですが、ルイスの定義によれば電子対を与えているので塩基ということになり、両者は当たり前ですが一致します。ルイスによる定義はブレンステッド=ローリーの定義を拡張したものなので、ブレンステッド=ローリーによる酸・塩基は、ルイスによる酸・塩基と一致します。

ルイスの定義が本領を発揮するのはH+が関与しない反応の場合です。

三フッ化ホウ素 BF3 + ジエチルエーテル C2H5-O-C2H5 → BF3-O-(C2H5)2

Bは原子番号5で、外側の殻には電子が3つあり、共有結合をFとつくっているので電子が6個あります。オクテット則によれば電子対を受け取ると安定化します。そこでジエチルエーテルの酸素から電子対をもらってマイナスになり、ジエチルエーテルの酸素はプラスになり、結合します(付加体)。三フッ化ホウ素は電子対をもらったので、酸(ルイス酸と呼ぶ)です。ルイスによる定義に基づいた酸なのでルイス酸と呼びます。

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酸化還元と酸・塩基との違い

ルイスによる酸・塩基の定義は電子対のやりとりがもとになっていました。それを聞くと、あれ、酸化還元反応も電子のやりとりだったよな、一体何が違うの?という素朴な疑問が生じます。自分に限らず、世の中の人もみなそう思うようです。

  1. ルイス酸、ルイス塩基の定義は、電子の授受で成されていますが、これは酸化還元の定義の1つでもあるものではないでしょうか?‥ この定義の存在意義が分からなくなってしまいました。 YAHOO!知恵袋 「電子」と「電子対」を混同してますよ。酸化還元反応は、一方の物質から他方に「電子が移動する」ものです。 ルイスの酸塩基反応は一方の物質が「電子対」を供与し、他方がそれを受容することで「結合をつくる」ものです。電子対は共有されるだけで一方から他方へ移動するわけではありません。
  2. 酸化還元反応と酸塩基反応との本質的な違いはあるんでしょうか?関わっている電子の数が異なるだけのように思えるのですが・・・ OKWAVE Lewisの酸塩基では、結合(共有結合、配位結合、イオン結合を含めて)が出来る。酸化還元は、電子の授受で結合は出来ない。

掲示板ですでに回答がなされていました。

酸化還元反応といったとき、電子のやりとりを問題にしています。ブレンステッド=ローリーによる酸・塩基の定義に基づいて塩基や酸というときは、プロトンを受け取る物質か、与える物質かということを問題にしています。もののやりとりという意味では似ていますが、渡されるものが電子か、プロトンかという違いがあります。

酸化:電子を奪われる;水素を奪われる;酸素が結合する;酸化数が増える

還元:電子を受け取る;水素を受け取る;酸素を奪われる

塩基:プロトン(陽子、H+)を受け取る

酸:プロトンを与える

ブレンステッド=ローリーの定義までであれば(=高校の化学までであれば)、酸化還元と酸塩基との違いは、電子かプロトンかの違いですよという理解もできたのですが、ルイスによる酸・塩基の定義にまで拡張すると(=大学で化学を勉強すると)、本質的な違いは何か?を再度考える必要があったというわけです。

酸・塩基のどの定義を使えばいいのか?

アレニウスの定義、ブレンステッド=ローリーの定義、ルイスの定義と拡張してきたので、結局大学生になったらルイスの定義で全てを済ませればいいのかというとそういうものでもないようです。多くの場合はブレンステッド=ローリーの定義によって化学反応を理解し、その定義に収まらない化学反応に関してはルイスの定義で理解するというスタンスみたいですね。

(特に水溶液系では)ブレンステッド・ローリーの定義は今でも大切です。そもそもルイスによる定義はプロトンが関与しないので,pH(水素イオン濃度)で酸の強さを表すことができず,それだけを考えても不便です。ですから概念としてはルイスで統一できたとしても,ブレンステッド・ローリーが使える範疇ではこちらを使うというのが実際です。(一般性を高めた酸・塩基 Chemist Eyes)

参考

  1. 基礎講座有機化学 化学同人
  2. 化学I 基礎理解 第2部 物質の変化 第9章 酸化還元反応 新興出版社 啓林館
  3. 酸化・還元と酸化数 NHK高校講座
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