アルツハイマー病の治療薬
- 認知症に使うお薬について 佐藤病院 (2017.12.01更新)現在、認知症(主にアルツハイマー型認知症)に使われるお薬は主に4種類あります。
- 【コリンエステラーゼ阻害薬】ドネペジル(商品名:アリセプト)、ガランタミン(商品名:レミニール)、リバスチグミン(商品名:リバスタッチ、イクセロン)
- 【NMDA受容体拮抗薬】メマンチン(商品名:メマリー)
アルツハイマー病の原因に関する仮説と仮説に基づく治療薬
アルツハイマー病の発症する原因は未だに、明らかになったと言い難いですが、いくつもの仮説が存在しています。
- cholinergic hypothesis
- amyloid hypothesis
- tau propagation hypothesis
- mitochondrial cascade hypothesis
- calcium homeostasis hypothesis
- neurovascular hypothesis
- inflammatory hypothesis
- metal ion hypothesis
- lymphatic system hypothesis.
(参考:Signal Transduction and Targeted Therapy 23 August 20)
- History and progress of hypotheses and clinical trials for Alzheimer’s disease Pei-Pei Liu, Yi Xie, Xiao-Yan Meng & Jian-Sheng Kang Signal Transduction and Targeted Therapy Published: 23 August 2019
- Progress toward Alzheimer’s disease treatment: Leveraging the Achilles’ heel of Aβ oligomers? Jacques Fantini,Henri Chahinian,Nouara Yahi Protein Science Volume 29, Issue 8 p. 1748-1759 First published: 21 June 2020 https://doi.org/10.1002/pro.3906
アミロイド仮説・アミロイドカスケード仮説
AD患者の剖検脳では,2大病理として“老人斑”と“神経原線維変化”が共通して観察される.それぞれの構成成分の主体は,アミロイドβペプチド(Aβ)および,過剰リン酸化タウタンパク質の凝集体である.すなわち,Aβやタウの凝集・蓄積をいかに抑制するかという方法が,ADに対する予防・治療法として重要視されている.多くの病理学的解析から,Aβの凝集・蓄積は神経細胞外(脳実質),タウの凝集・蓄積は神経細胞内で認められていて,AD発症の数十年前から蓄積が始まっていることが知られている.また,家族性ADの原因遺伝子変異が,Aβの前駆体タンパク質(APP)の遺伝子や,APPからAβを産生する際に関与するγ-セクレターゼ複合体の酵素本体であるプレセニリン遺伝子から相次いで同定されている.このことは,Aβの蓄積が,AD発症の引き金である可能性を示しており,アミロイドカスケード仮説として広く支持されている.すなわち,Aβの蓄積(老人斑の形成)からタウの蓄積(神経原線維変化),次いで神経変性・神経細胞死へ至るという時系列である.(アミロイドβ43によるアルツハイマー病の病態発症・促進機構 斉藤貴志 生化学 第85巻 第7号,pp.543―552,2013)
- アルツハイマー病のアミロイドβ仮説は死んだのか? 2017.11.01 小崎丈太郎 【日経バイオテクONLINE Vol.2795】Aβを標的とした最新の“失敗例”に、米Eli Lilly社の抗Aβ抗体のsolanezumabがあります。 2016年11月23日付けの同社の発表では、軽度のアルツハイマー病2100人の患者を対象としたフェーズIII試験であるEXPEDITION3試験において、プラセボ患者群と比較した認知機能(ADAS-Cog14で評価)の低下において、統計学的に有意な進行抑制が認められなかったということでした(p=0.095)。
- Alzheimer’s disease: The amyloid cascade hypothesis. Science. 1992;256:184–185. , .
抗アミロイドβ(Aβ)抗体donanemab
- 抗Aβ抗体donanemab、半数例で薬剤を中止可能 2023年10月11日 MedicalTribune イーライリリー・アンド・カンパニー エグゼクティブ・バイスプレジデント ダニエル M. スコブロンスキー氏「donanemabは迅速かつ高率に脳内のアミロイドプラークを除去できるのが特徴。同薬投与例の半数で投与1年後にアミロイドプラークを除去できたことが確認されており、アミロイド除去例では投与をやめる(離脱)こともできる」「脳内にタウ蛋白質の蓄積が認められない早期ADの段階であれば効果が期待される一方で、タウ蛋白質が脳内に認められた状態では抗Aβ抗体に抗タウ薬を組み合わせた治療が必要になる」
- Donanemab in Early Symptomatic Alzheimer Disease The TRAILBLAZER-ALZ 2 Randomized Clinical Trial July 17, 2023 https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2807533 第Ⅲ相試験TRAILBLAZER-ALZ 2 donanemabの有効性と安全性を検討 8カ国においてPET検査によりAβおよびタウ蛋白質蓄積が認められる軽度認知障害(MCI)および軽度認知症を含む60~85歳の早期症候性AD患者1,736例(平均年齢73.0歳)を対象
アデュカヌマブ
大きな期待に押されてFDA承認された抗体薬ですが、認知症の改善効果のエビデンスが不十分ではないかという議論があります。FDAに助言を与える委員会の委員を務めていた3人の科学者が、アデュカヌマブの承認に意義を表明して辞任するという事態になりました。
- 新Mmの憂鬱、アルツハイマー病治療抗Aβ抗体「ADUHELM」で1例死亡報告 2021年11月12日 今年米国で迅速承認(条件付き承認)を受けたアルツハイマー病治療薬、「ADUHELM」(アデュカヌマブ)を投与された患者1例が、MRI画像上でARIA(脳浮腫や脳出血を示すアミロイド関連画像異常)を示した後に死亡しました。
- Treatments for Alzheimer’s disease emerge DENNIS J. SELKOE SCIENCE • 6 Aug 2021 • Vol 373, Issue 6555 • pp. 624-626 • DOI: 10.1126/science.abi6401 アルツハイマー病の治療薬に関する総説。
- Group Wants FDA Leaders Ousted Over Alzheimer’s Drug Approval By Alicia Ault June 17, 2021 — A high-profile Washington-based consumer advocacy group is calling for the removal of the FDA’s acting commissioner and two other top officials, saying the agency’s approval of the Alzheimer’s drug aducanumab (Aduhelm) was “reckless.”
- Three F.D.A. Advisers Resign Over Agency’s Approval of Alzheimer’s Drug By Pam Belluck and Rebecca Robbins Published June 10, 2021 Updated Sept. 2, 2021 The New York Times “This might be the worst approval decision that the F.D.A. has made that I can remember,” said Dr. Aaron Kesselheim, a professor of medicine at Harvard Medical School and Brigham and Women’s Hospital, who submitted his resignation Thursday after six years on the committee.
- The Controversy Over the FDA’s Approval of The First Alzheimer’s Treatment Keeps Growing BY ALICE PARK JUNE 11, 2021 TIME Neurology and dementia experts, as well as statisticians who have looked at the data the drug makers submitted for approval are more skeptical. They note that the two large studies of the drug were hardly convincing in showing effectiveness. One study showed no significant benefit among people who received the drug compared to those getting a placebo, while the other showed only marginal improvement in cognitive tests among people getting the drug.
- アルツハイマーに”世界初”治療薬 2021年6月9日 日テレNEWS24 「アルツハイマー型認知症の病理に作用する初めてかつ唯一の治療薬」(エーザイ)
- The FDA Has Approved A New Alzheimer’s Drug — Here’s Why That’s Controversial Updated June 7, 20213:11 PM ET Heard on All Things Considered NPR 3-Minute Listen
- https://youglish.com/pronounce/aducanumab/english?
レカネマブ Lecanemab
- Lecanemab(BAN2401)の早期アルツハイマー病に対する18カ月の臨床第Ⅱb相試験の結果が査読学術専門誌Alzheimer’s Research and Therapy誌に掲載 進行中のLecanemab臨床第Ⅲ相試験(Clarity AD)は被験者登録を完了 2021年4月20日 エーザイ:抗アミロイドβ(Aβ)プロトフィブリル抗体lecanemabによる早期ADに対する無作為化、二重盲検、POC臨床第Ⅱb相試験すの結果がAlzheimer’s Research and Therapy誌に掲載。
- Lecanemab(BAN2401)の臨床効果について 2021年07月30日 Biogen:エーザイとバイオジェンは、アルツハイマー病協会国際会議2021において、抗アミロイドβ(Aβ)プロトフィブリル抗体lecanemabについて、早期ADを対象とした臨床第Ⅱb相POC試験後のOpen-Label Extension試験における18ヵ月投与の臨床効果の予備解析結果を発表しました。
タウ仮説
- Alzheimer’s Disease: An Overview of Major Hypotheses and Therapeutic Options in Nanotechnology 2.2 The Tau Hypothesis
グルタミン酸仮説
メマンチン(NMDA受容体拮抗薬)
- 【薬の知識】認知症に関わる薬 Vol.4 – 中核症状に使われるお薬④ メマリー 2017/09/22 Careritz Partners アルツハイマー病の患者では、このグルタミン酸の放出が常に活発になってしまっていることがわかっています。すると、神経細胞内のCa2+濃度が異常に高まり、それにより神経細胞が死んでしまう、ということが起こります。また濃度のメリハリもなくなってしまうため、どのタイミングで学習が行われているのかもわかりません。これが「グルタミン酸仮説」というものです。メマリーの作用機序は、Mg2+の代わりに、NMDA受容体の蓋の役割を果たすというものです。しかしもちろん、一切Ca2+の流入がなくなってしまえば今度は学習ができません。なんと都合の良いことに、メマリーはグルタミン酸の濃度がさらに高まった時には蓋から外れる仕組みになっているので、学習はちゃんと行うことができる、というわけです。
コリン仮説
ドネペジル(アセチルコリンエステラーゼ阻害剤)
- ドネペジル:開発と治療の発展 杉本 八郎 日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)124,163~170(2004)
- アルツハイマー病治療薬ドネペジル(アリセプト)の研究開発(日本で生まれた医薬品) 杉本 八郎 著者情報 杉本 八郎 エーザイ株式会社筑波探索研究所 化学と教育/47 巻 (1999) 11 号 アルツハイマー病患者の死後脳にはコリン作動性神経の異常が報告されている。このことからコリン仮説が提唱された。このコリン仮説に基づいて治療薬の開発を始めた。偶然発見されたリード化合物を手がかりにドラグデザインを展開し約1000化合物の中からきわめて強力で選択性の高いアセチルコリンエステラーゼ阻害剤であるドネペジルの創出に成功した。
新しいアルツハイマー治療薬開発のための基礎研究
- アルツハイマー病の新しい治療標的を発見-悪性因子アミロイドβペプチドの分解を促進-2021年11月9日理化学研究所 これまでに西道隆臣チームリーダーらは、脳内のAβの責任分解酵素としてネプリライシンを、その活性制御因子として脳内ペプチドであるソマトスタチンを同定していました。‥ ネプリライシンの活性調節に関わるKATPチャネルのサブタイプの特定を試み、SUR1/Kir6.2のサブタイプを同定しました。同定したサブタイプがADの治療標的となり得るのかを調べるために、KATPチャネルの開口薬であり、高インスリン血性低血糖症治療薬の「ジアゾキシド」をADモデルマウスに投与したところ、ネプリライシンの活性が高まり、Aβ蓄積が減少し、認知機能の異常が回復しました。『Molecular Psychiatry』オンライン版(11月4日付)掲載