原尿の形成と再吸収に関する素朴な疑問として、グルコースとかアミノ酸とかアルブミン(タンパク質)、ミネラルなどの物質の移動が、もし仮にですが、血管やボーマン嚢、尿細管の上皮細胞の細胞膜を通過するのだとすると、
- 血管内皮細胞を通過
- 血管内皮細胞の反対側の膜を通過して細胞外へ、ボーマン嚢の表皮細胞に入る
- ボーマン嚢の表皮細胞から出て、ボーマン嚢の中に入る(つまり尿が溜まる部分)
- 尿細管の上皮細胞の中にはいる
- 尿細管の上皮細胞の反対側から出る
- 血管内皮細胞に入る
- 血管内皮細胞の反対側から出て、血中に入る
と、8回も細胞膜を通過することになるはずです。実際のところ、どうなのでしょうか。どんな輸送システムが働いているのでしょうもちろん、細胞膜を通過するのではなく、細胞と細胞の隙間を通る可能性もあります。
Geminiに訊いてみました。以下、Geminiの回答です。
ご指摘の通り、腎臓での原尿形成(糸球体濾過)と再吸収の過程では、物質が複数の障壁(主に細胞と細胞膜)を通過します。しかし、必ずしもご提示の8ステップすべてで細胞膜を通過するわけではなく、物質の性質や部位によって輸送経路(細胞内経路または細胞傍経路)と輸送システムが異なります。
特に、糸球体濾過の過程(ステップ1~4)は、ご提示の「細胞膜を通過」というよりも、特殊な三層の障壁を水圧で通過する濾過の仕組みが中心です。
以下に、主要な物質に焦点を当て、それぞれのステップと輸送システムについて網羅的に説明します。
1. 糸球体濾過のシステム(原尿形成)
糸球体では、血圧(水圧)を駆動力として、血液中の水と小分子物質が濾過されます。物質は、以下の三層の濾過バリアを通過します。この過程では、細胞膜を通過するというより、バリアを物理的に通過するのが主です。
経路の実際
血液→【1. 血管内皮細胞の穴】→【2. 基底膜】→【3. ボーマン嚢上皮細胞(足細胞)の隙間】→ボーマン嚢内(原尿)
ステップ(ご提示) | 物質の移動と実際の障壁 | 輸送システム/メカニズム |
1. 血管内皮細胞を通過 | **窓(Fenestration)**を通過 | 水圧による濾過 |
2. 細胞外へ | **糸球体基底膜(GBM)**を通過 | 物理的バリア(コラーゲン線維と負電荷) |
3. ボーマン嚢上皮細胞(足細胞)に入る | 濾過スリットを通過 | 物理的バリア(スリット膜/ネフリン) |
4. ボーマン嚢の中に入る | ボーマン嚢内へ(原尿) | – |
主要な物質の通過(濾過)
物質 | 濾過バリア通過の可否 | 輸送システム/メカニズム |
水、ミネラル(Na+, Cl-など)、グルコース、アミノ酸 | 自由に濾過される | 水圧による濾過(分子量、結合水の大きさは小さい) |
アルブミン(タンパク質) | 濾過されない(あるいはごくわずか) | サイズと電荷による排除(分子量が大きい、負電荷を持つ) |
血球 | 濾過されない | サイズによる排除(最も大きい) |
2. 尿細管再吸収のシステム
ボーマン嚢に入った原尿(ステップ4の先)は、尿細管を流れる間に、体に必要な物質が尿細管上皮細胞を通過して血液(周囲毛細血管)に戻されます。
ここでは、物質は基本的に尿細管腔(尿が流れる側)から上皮細胞内に入り(細胞内経路、ステップ5)、細胞の反対側(血管側)から出て(ステップ6)、周囲毛細血管に入ります(ステップ7, 8)。
また、物質によっては細胞と細胞の隙間(細胞傍経路)を通る場合もあります。
経路の実際
原尿(尿細管腔)→【5. 尿細管上皮細胞の管腔膜】→【細胞質】→【6. 尿細管上皮細胞の側底膜】→【7. 間質液】→【8. 周囲毛細血管内皮細胞】→血中
ステップ(ご提示) | 物質の移動と実際の障壁 | 輸送システム/メカニズム |
5. 尿細管の上皮細胞の中に入る | 尿細管上皮細胞の管腔膜(アピカル膜)を通過 | 能動輸送、共輸送、促通拡散、受動拡散 |
6. 尿細管の上皮細胞の反対側から出る | 尿細管上皮細胞の側底膜(バソラテラル膜)を通過 | 能動輸送(ポンプ)、促通拡散 |
7. 血管内皮細胞に入る | 間質液を通り、周囲毛細血管の内皮細胞を通過 | 受動拡散、溶媒牽引(水と共) |
8. 血管内皮細胞の反対側から出て、血中に入る | 血漿に入る | 拡散、溶媒牽引 |
3. 主要な物質の輸送システム(近位尿細管の例)
再吸収の大部分は近位尿細管で行われ、特に**–
-ATPaseが細胞内から$\text{Na}^+
\text{Na}^+$濃度勾配を作り出すことが、多くの物質輸送の駆動力**となります(二次性能動輸送)。
物質 | 経路 | ステップ5:管腔膜(再吸収の取り込み口)のシステム | ステップ6:側底膜(血液への排出口)のシステム |
グルコース | 細胞内経路(ほぼ100%再吸収) | グルコース輸送体 ( |
|
アミノ酸 | 細胞内経路(ほぼ100%再吸収) | アミノ酸輸送体:促通拡散 | |
細胞内・細胞傍経路 | |||
細胞内・細胞傍経路 | 細胞傍経路:$\text{Na}^+ |
– | |
水 | 細胞内・細胞傍経路 | アクアポリン(水チャネル)または細胞傍:浸透圧勾配に従う受動輸送 | アクアポリンまたは細胞傍:浸透圧勾配に従う受動輸送 |
小分子タンパク質 ( |
細胞内経路(アルブミンはほぼ濾過されないが、ごく微量に濾過されたものは再吸収) | エンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれ、アミノ酸に分解された後に側底膜の輸送体を介して排出 | |
アルブミン | 濾過されない(健康な場合) | 濾過されないため、基本的に尿細管では再吸収プロセスは不要 |
細胞傍経路の可能性
ご指摘の通り、細胞と細胞の隙間(細胞傍経路/Paracellular pathway)を通過する輸送は非常に重要です。
- 水:細胞傍経路を通る水分子は、再吸収された溶質(特にNa+)の浸透圧効果によって引っ張られます(溶媒牽引)。
- Cl-やCa2+、Mg2+などのミネラル:近位尿細管やヘンレ係蹄の一部では、電気化学的勾配に従って細胞傍経路を通って再吸収されます。これは受動輸送にあたります。
まとめ
- 糸球体濾過は主に水圧による非選択的濾過であり、サイズと電荷に基づいて物質を選別する物理的バリアを通過します。
- 尿細管再吸収は、主にATPaseによって生じるNa+勾配を駆動力とする二次性能動輸送により、グルコースやアミノ酸などの有用物質を選択的かつ完全に回収します。
- Na+などのミネラルや水は、能動輸送、受動輸送、細胞傍輸送などを組み合わせて再吸収されます。
- アルブミンなどの大分子タンパク質は通常濾過されません。
ご提示いただいた8つのステップは、物質が血液から原尿になり、再び血液に戻る際の経路を非常によく表しています。ただし、物質の性質や経路によって「細胞膜の通過」ではなく、「細胞間の隙間を通る」細胞傍経路や、特殊な「濾過バリアを通過する」ステップが存在します。
主要な物質(グルコース、アミノ酸、アルブミン、ミネラル)に焦点を当て、それぞれのステップと輸送システムを説明します。
1. 糸球体濾過(ステップ1〜4):主に物理的なバリアを通過
糸球体では、血圧(水圧)を駆動力として、血液中の水と小分子物質が濾し取られます。これは、ご提示の「細胞膜を通過」というよりも、特殊な三層の濾過バリアを通過する物理的なプロセスです。
ステップ(ご提示) | 物質の移動と実際の障壁 | 物質の通過状況と輸送システム |
1. 血管内皮細胞を通過 | 血管内皮細胞の**窓(フェネストラ)**を通過 | 水圧による濾過。分子量の大きなアルブミンや血球は通過できない。 |
2. 細胞外へ | 糸球体基底膜を通過 | 物理的・電荷バリア。コラーゲンとプロテオグリカン(負電荷)により、タンパク質(アルブミンも負電荷)を排除する。 |
3. ボーマン嚢の表皮細胞に入る | ボーマン嚢上皮細胞(足細胞)の濾過スリットを通過 | 物理的バリア。スリット膜のネフリンなどがバリアを構成。 |
4. ボーマン嚢の中に入る | 原尿となる | – |
主要な物質の通過(濾過)
物質 | 濾過の可否 | メカニズム |
水、ミネラル(Na+、Cl-など)、グルコース、アミノ酸 | 自由に濾過される | 水圧による受動的な濾過。分子量が小さいため。 |
アルブミン(タンパク質) | 濾過されない | サイズと負電荷による排除。濾過バリアの網目より大きく、かつバリアと同じ負電荷を持つため反発される。 |
2. 尿細管再吸収(ステップ5〜8):輸送体やチャネルを利用
ボーマン嚢に入った原尿から、体に必要な物質が尿細管上皮細胞を通過して血液(周囲毛細血管)に戻されます。ここでは、物質に応じて細胞内経路(細胞膜を通過)と細胞傍経路(細胞間隙を通過)が使われます。
輸送の駆動力
多くの再吸収の駆動力は、尿細管細胞の側底膜(血管側)にあるNa+-K+-ATPaseです。これは一次性能動輸送(ATPを直接使う)により、細胞内のNa+を血液側に排出し、細胞内に低いNa+濃度勾配を作り出します。この勾配を利用して、他の物質が細胞内に入ってきます(二次性能動輸送)。
主要な物質の輸送システム(近位尿細管の例)
物質 | 経路 | ステップ5:管腔膜(再吸収の取り込み口)のシステム | ステップ6:側底膜(血液への排出口)のシステム |
グルコース | 細胞内経路(ほぼ100%再吸収) | Na+-グルコース共輸送体(SGLT):Na+の勾配を利用した二次性能動輸送で細胞内に取り込む。 | グルコース輸送体(GLUT):濃度勾配に従う促進拡散で血液側に出る。 |
アミノ酸 | 細胞内経路(ほぼ100%再吸収) | Na+-アミノ酸共輸送体:Na+の勾配を利用した二次性能動輸送で細胞内に取り込む。 | アミノ酸輸送体:濃度勾配に従う促進拡散で血液側に出る。 |
Na+(ミネラル) | 細胞内・細胞傍経路 | Na+/H+交換輸送体など:二次性能動輸送で細胞内に入る。 | Na+-K+-ATPase(ポンプ):一次性能動輸送で血液側に出る(再吸収の駆動力)。 |
Cl-(ミネラル) | 細胞傍経路が多い | 細胞内経路:Cl-輸送体を介した二次性能動輸送もある。 | 細胞内経路:Cl-チャネルなどを介した受動輸送。 |
水 | 細胞内・細胞傍経路 | アクアポリン(水チャネル)または細胞傍経路:溶質による浸透圧勾配に従う受動輸送。 | アクアポリンまたは細胞傍経路:受動輸送。 |
小分子タンパク質 | 細胞内経路 | エンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれ、アミノ酸に分解された後に再吸収される。 | – |
最終ステップ:血液への流入
ステップ(ご提示) | 物質の移動と実際の障壁 | 輸送システム/メカニズム |
7. 血管内皮細胞に入る | 間質液を通り、周囲毛細血管の内皮細胞を通過 | 受動拡散。水は溶質と共に溶媒牽引として内皮細胞間を通過。 |
8. 血管内皮細胞の反対側から出て、血中に入る | 血漿に入る | 拡散。 |
細胞膜を通過しない経路(細胞傍経路)について
ご指摘の通り、物質は必ずしも細胞膜を通過するわけではありません。
細胞傍経路(Paracellular pathway)は、尿細管上皮細胞の細胞と細胞の間の隙間(タイトジャンクション)を通り抜ける経路です。
- 水やCl-などのミネラルの一部は、主にこの細胞傍経路を通って再吸収されます。
- これは、細胞内外の電気化学的勾配や浸透圧勾配に従う受動輸送で行われます。
- 特に近位尿細管はタイトジャンクションの透過性が高いため、この経路での再吸収の割合も大きくなります。