不斉炭素を含む化合物には鏡像異性体が存在し、D体(D型)、L体(L型)と呼んで区別します。生体物質の場合は、この区別は非常に重要で、一方の構造しか酵素で認識されないため、他方は存在しないということになります。例えばアミノ酸であればL型しか存在しませんし、グルコースでいえばD型しか存在しません。
D体とL体の定義
DL型の区別方法ですが、グリセルアルデヒド CH(=O)-C(-OH)-CH2OHを基準に決められています。グリセルアルデヒド をフィッシャーの投影式で描いたときに、水酸基ーOHが右側にくるものをD体としています。
不斉炭素を真ん中に置き4つの結合を十字型で描いたとき、紙面で上下に結合したものは、紙面の向こう側に飛び出しているものとします。紙面で水平方向の結合は左右手前に飛び出しているものとします。アルデヒド基を上に描き、-CH2OHを下に描きます。水素を左に、水酸基を右に描きます。この描き方で、水酸基が右に来るものが「D体」になります。
グルコースのように不斉炭素がたくさんある場合は、縦軸に主鎖(炭素鎖)を描き、フィッシャー投影式で一番下にくる不斉炭素に注目して、それに結合する水酸基が右側にあればD体とします。
グリセルアルデヒドの構造の覚え方
グリセルアルデヒドはよく出てきますが、それ何だっけ?炭素数いくつだっけ?と思い出せないことがあります。グリセルアルデヒドの英語名は、glyceraldehydeで、glycer- と aldehydeの2つに分けて考えて、glycerol(グリセロール、グリセリン)の水酸基が酸化されてアルデヒドになったものと考えると、グリセロールがCH2OH-CHOH-CH2OH(炭素数3、それぞれに水酸基がついている)であることを知ってさえいえれば、グリセルアルデヒドの構造は暗記する必要がなくなります。
同じようなこととして、retinol(-ol はアルコール)とretinal(-al はアルデヒド)の関係があります。
乳酸はL体
解糖系で産生されるピルビン酸(CH₃-CO-COOH 不斉炭素はなし)が乳酸脱水素酵素(LDH)によって還元された場合に乳酸(CH₃-CH(OH)-COOH 不斉炭素あり)が生じますが、この乳酸はL-乳酸です。これはこの酵素反応にそういう立体選択性がたまたまあったからです。
アミノ酸のD体とL体の定義
アミノ酸の場合も、同様に考えます。不斉炭素を真ん中に置いて、一番酸化された炭素であるカルボキシ基を上に描きます。側鎖を下に描きます。水平軸に関して、左に水素、右に(特徴を決める官能基である)アミノ基が右側にくるように描いたものをD体とします。自然界に存在するアミノ酸は、D体ではなくL体です。つまり水平方向に関してアミノ基が左に来て、水素原子が右に来るものです。
L型 L体?
どちらも使われますが、文脈によって少し使い分けがあります。
L体(エルたい)が化学・生化学では一般的で、特定のエナンチオマーの「その物質」を指すニュアンスが強いです。「D体のグルコース」「L体の乳酸」のように使います。
L型(エルがた)も広く使われますが、こちらはやや分類・タイプ分けのニュアンスがあります。「L型アミノ酸」「D型糖」のように、グループとしてまとめて言うときに自然に使われる印象です。
実際のところ、化学の教科書や論文でも両方混在していて、厳密な使い分けのルールがあるわけではありません。同じ文章の中で「L-乳酸」「L体の乳酸」「L型乳酸」が互換的に出てくることもあります。
英語では単に L-lactic acid や L-glucose のようにハイフンで繋ぐだけなので、「体」と「型」の区別は日本語特有の問題ですね。強いて言えば、有機化学・生化学の文脈では**「体」**の方がやや標準的だと思います。
(Claude Opus 4.6)
D体、L体の旋光性(d-, l-)
溶液に対して偏向した光を通した場合に、偏光面が右に回転するか(d-)、左に回転するか(l-)で旋光性を決めます。紛らわしいですが、立体構造のDやLと、旋光性のdやlは全く別もので無関係です。DLとdlの対応は物質ごとに決まるものです。
D-(+)-グリセルアルデヒド
のようにD体であることを示します。その次の(+)は旋光性を表していますが、DLとの関連性はありません。D-グリセルアルデヒドの旋光性がたまたま(+)だったのでこのように表記しているのです。D-(-)-グリセルアルデヒドなる物質が別に存在するというわけでもありません。
L-システイン のようにL型であることを示すことがあります。全然関係ないのですが、α‐アミノ酸という言い方をすることがあります。混乱しないように、ここで説明しておきます。αの意味は、アミノ基がα位の炭素に結合しているという意味です。α位というのは、カルボキシ基がついている炭素のことです。生体を構成するタンパク質を構成する20個のアミノ酸はすべて、αアミノ酸ですので、わざわざαアミノ酸と呼ばずに単にアミノ酸と呼ぶことが多いです。わざわざαアミノ酸と呼ぶことがある理由は、アラニンのように炭素鎖がある場合、側鎖であるメチル基の炭素(β位)にアミノ基がつく異性体β‐アラニンが考えられるからです。