電子伝達系(酸化的リン酸化)をどう捉えるか

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グルコースのエネルギー代謝でATPが多量に産生されるのは、電子伝達系においてです。炭水化物からエネルギーを取り出すのに、解糖系、クエン酸回路、電子伝達系と3つの全く異なるシステムが登場して、正直、あまりの複雑さに頭が混乱してしまいました。もうこれは、自然界はこんな巧妙な方法を編み出したんだと驚嘆して受け入れるしかないのでしょう。

大雑把にとらえると、グルコースという分子をつくる原子間の結合(つまり、電子の位置エネルギー)が、組み替えられて二酸化炭素と水になり(つまり、電子の位置エネルギーが一番低い状態にになり)、そのエネルギーの差が、取り出されるわけです。グルコースをもし本当に火をつけて燃やしてしまうと、一挙に大量の熱が発生してそのエネルギーは熱という形態だとなんの役にもたちません。そこで、ちまちまと段階的な化学反応によってエネルギーを取り出していこうというわけです。解糖系でもATPが2当量できますが、ほとんどはクエン酸回路で還元型の電子運搬体をつくり(NADHとFADH2)、これらの電子運搬体が電子伝達系に電子を渡すことで、電子伝達系の複合体の中を電子がポテンシャルエネルギーの勾配を「下り降りて」、その位置エネルギーの差の分で、プロトン勾配にさからってプロトンを輸送しているだけです。そしてプロトン勾配として蓄えられたエネルギー(ミトコンドリア膜電位)を利用して、ADPと無機リン酸をつかって、ADPをリン酸化してATPをつくっています。

ポイントをかいつまむと、炭水化物は酸化され(=電子がヒドリドイオンすなわちH-として奪われ)、電子(すなわちヒドリドイオン)を受け取ったNAD+やFADが還元型(NADH, FADH2)となって「電子運搬体」の役割を果たして、電子伝達系の複合体I,III,IVに渡し、複合体が「電線」として働いて電子がその中を流れて、プロトンをくみ出して、プロトン勾配として蓄えられたエネルギーを利用して(プロトンが勾配によって流入するときのエネルギーを利用して)ATPを作ります。

 

高校や大学の生物の授業で多分説明を受けたのだと思いますが、こんなことが起きているなんて全然想像もつかず、理解できていなかったと思います。

電子伝達系の複合体は電線

複合体は電位差のある地点同士をつなぐ電線に過ぎないと捉えると、物理の電流がする仕事と同じことになり、理解ができます。

電子伝達系と呼ばれるものがその名の通り電子を伝える(electrontransfer)系であるならば,そこは電流の通路ということになる.電流の通路の典型的なものは電線である.電子伝達系というと何か摩訶不思議な構造物を想像するであろうが,これは絶縁物で被われた何の変哲もない電線であると思えばいいつまり,内膜を貫いて電線があると思えばいい.このことを明確に表現している文を目にしたことは未だにない.(「生理学ものがたり」第 2 回 電子伝達系とミトコンドリアの膜電位 滋賀医大名誉教授 北里 宏 日生誌 Vol. 69,No. 12 2007

下の説明は非常に明解でわかりやすいと思いました。電子伝達系はまさに、「電線」として描かれています。

有機物の酸化分解反応と酸素の還元反応という2つの化学反応をリンクさせ、そこから電気化学エネルギーを取り出しているのです。これは、負極の化学反応と正極の化学反応をリンクさせ、その間の電位差分のエネルギーを得る電池と同じ構造です(図を参照)。細胞の中で有機物の酸化により放出された電子は、ミトコンドリア内膜の電子伝達系(負極と正極をつなぐ電線)を経て、酸素に渡されます。(東京薬科大学 生命科学部 生命科学部 学科紹介 応用生命科学科 キーワード解説 生体エネルギー

下の総説(同じ薬科大の先生の論文)でも同様の図がありました。

呼吸鎖電子伝達系はいわば細胞内の電線として機能し,生物はその電線に電流を流すことによってエネルギーを取り出しているとも言える.(微生物の発電 高妻 篤史 東京薬科大学生命科学部 日本物理学会誌 Vol. 71, No. 5, 2016)

こういう説明は概念がつかみやすいと思いますが、生化学の教科書を見てもあまりこういう説明の仕方は見当たらないように思いますので、この解説論文は貴重だと思いました。下のウェブサイトでも同様の説明がなされていました。

ミトコンドリアでNADHがもつ過剰な電子は「呼吸酵素複合体(電子伝達系)」を通じて酸素分子へ流れることでATP合成のためのエネルギーに変換されるが、その様子は電池のマイナス極から+極へ電子が流れる様子と似ている。電池ならマイナス極と+極が電線でつながれてその間にある電球が光ったりする。ミトコンドリアでは電子伝達系の複合体(鉄などの金属原子を含むので、電線のように電子が流れる)が「電線と電球を一体化したもの」に相当する。電球はエネルギーを光のエネルギーに変えるが、電子伝達系の複合体は水素イオンをミトコンドリア内膜の内側から外側へ輸送することによって「水素イオン濃度の差」というエネルギーに変える。(Column1__細胞とエネルギーの結びつき – https://home.hiroshima-u.ac.jp/naka/wiki/wiki.cgi)

電子運搬体と電線(複合体)

電子運搬体であるNADHが複合体Iに電子を渡し、電子は複合体Iの中をながれてユビキノンに電子を渡します。複合体II(コハク酸脱水酵素)が産生する電子運搬体FADH2も電子をユビキノンに渡します。ユビキノンは複合体III(シトクロムc還元酵素)に電子を渡します。電子は複合体IIIの中を流れ、こんどはシトクロムcに電子が渡ります。シトクロムcは電子を複合体IVに渡します。電子は複合体IVの中を流れて最後は酸素分子に渡されて、水が産生されます。

 

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