樹状細胞というのは風変わりな名前で、高校で生物をやらなかった自分には全く馴染みがない細胞の種類でしたが、実は免疫系において非常に重要な役割を担います。当然、高校の生物の免疫の授業でも登場するようです。
- 高校生物基礎 免疫by 池田博明
- 樹状細胞 単球から分化。食作用だけでなく,抗原提示を行います。(22 免疫のしくみ 第 3 章 生物の体内環境の維持 旺文社)
- 5分でわかる!自然免疫(先天性免疫) 高校生基 トライ 動画付き
- 高等学校理科 生物基礎/免疫 WIKIBOOKS
ちなみに神経細胞には樹状突起と呼ばれる、他の神経細胞からの入力を受ける部分がありますが、それと免疫細胞である樹状細胞とはなんの関係もありません。細胞の形態が樹状であるという点が共通していて、どちらにも樹状という言葉が用いられただけです。
自分が免疫学の教科書を初めて読んで、樹状細胞の役割を知ったときは、その出来過ぎた話に「ほんとかよ!?」と驚きました。そんな巧妙なことが起きているなんて、というわけです。自然免疫と獲得免疫をつなぐポジションにいるというのも、なんとも魅力的なストーリーです。
樹状細胞は体内に入ってきた異物を食べて無毒化する「食細胞」であると同時に、その異物を分解した一部を抗原として提示する「抗原提示細胞」としての働きも持っています。前者は「自然免疫」と呼ばれる機構であり、後者は「獲得免疫」と呼ばれる機構ですので、自然免疫と獲得免疫の両方において重要な役割をする、さらには、自然免疫と獲得免疫とを結びつけるポジショニングをとっているキープレーヤーと言えます。
樹木の枝のような突起を持っているので、樹状という名前が付けられました。樹状細胞は食細胞の仲間ですが、体に侵入した病原体を排除するしくみである適応免疫がスタートする際の、きっかけとなる免疫細胞です。いわば、自然免疫と適応免疫とを結び付けて、橋渡しをする、要の役割を担った細胞です。(第26回 適応免疫 (1) ~細胞性免疫~ 生物基礎監修:東京都立八王子東高等学校教諭 長尾 嘉崇 NHK高校講座 生物基礎)
大学レベル、研究レベルになると、シグナリングに使われる分子が多数登場して、話がかなりややこしくなります。高校生物の免疫の話は細かいことを全部端折っていたようです。
樹状細胞は、病原体侵入に素早く応答してサイトカインやケモカインを産生することにより自然免疫に関わると同時に、代表的な抗原提示細胞として侵入した異物の情報をT細胞に提示しエフェクター化を促すことによって獲得免疫の方向性を制御する役割を担っています。(Chiharu Nishiyama Laboratory 東京理科大学)
- 自然免疫と獲得免疫 MBL
- 細胞内に入り込んだ病原体でも、感染細胞が死んだら病原体そのものやその破片を免疫系が取り込むことができます。樹状細胞は、そうして取り込んだ病原体の情報をヘルパーT細胞とキラーT細胞に伝えます。(獲得免疫の働き 一般の方向け記事:免疫のしくみを学ぼう! 京都大学再生医学研究所再生免疫分野河本宏研究室)
参考
- https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2118351/
- https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5032838/
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22326169/ Cell Immunol . 2012;273(2):95-8. doi: 10.1016/j.cellimm.2012.01.002. Epub 2012 Jan 28. The road to the discovery of dendritic cells, a tribute to Ralph Steinman
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/4573839/ J Exp Med 1973 May 1;137(5):1142-62. doi: 10.1084/jem.137.5.1142. 新しい細胞を発見し、その形態的な特徴から「樹状細胞」と名付けたことを報告した論文 ”we noticed a large stellate cell with distinct properties from the former cell types. ” Figure 1a
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/4589990/ 発見を報告した論文
- https://www.nobelprize.org/uploads/2018/06/steinman_lecture.pdf 研究のストーリーが詳細に解説されています。
- https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/2011/press-release/ ノーベル賞
- https://www.drugtargetreview.com/news/58894/researchers-identify-target-to-improve-dendritic-cell-ability-to-fight-tumours/
- しなやかに、たおやかに、樹状細胞と共に Inaba Kayo 稲葉 カヨ 免疫学 / 細胞学 京都大学理事・副学長 一つのことに答えが出るとすぐにまた次の問いが生まれ、80年代は筆頭著者として1年に2本ずつくらい論文を書き続けました。仮説を立て、実験でそれを確かめる過程は面白くて仕方ありませんでしたね。とはいえたくさんの細胞や分子がはたらく免疫の研究は、実験で仮説通りの結果が出ることの方が稀です。あらゆる可能性を想定し、それを一つ一つ否定していくことでしか前進できませんから、私は常にいくつもの実験を並行していました。同時に世界では、大勢の研究者がそれぞれの視点で知識や手技をどんどん発達させていたので、それらをいかに上手く取り入れ、タイムリーに成果を出し続けられるかも試されていると感じました。‥人生も研究も、一つの可能性だけに固執すると上手くいかないときに落ち込んでしまいます。‥どんな状況も自分次第ですから、しなやかに、たおやかに、折れないように生きて欲しいと願っています。