ビタミンAとは?構造、作用

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ビタミンは13種類あり、9つは水溶性、4つが脂溶性です。脂溶性ビタミンのうちの一つがビタミンAです。化合物の名称は、レチノール。名前が示すように網膜(レチナ)に関係し、オールという語尾からわかるようにアルコールつまり水酸基(-OH)を持っています。

ビタミンA(レチノール)およびビタミンA誘導体の構造

レチノール(ビタミンA)が酸化されるとレチナールになります。水酸基ーOHがアルデヒドーCHOになった形です。レチナールのアルデヒドがさらに酸化されてカルボキシ基になったものがレチノイン酸です。レチノール、レチナール、レチノイン酸は合わせてレチノイドという総称でも呼ばれます。

  1. Vitamin A (Retinol) (vivo.colostate.edu)

ニンジンなどの野菜にふくまれるβカロチンはレチノイドが2つ合わさった形をしており、プロビタミンAと呼ばれます。プロは前という意味なので、ビタミンAの前段階の化合物という意味です。ビタミンAを食事から摂取する方法に関していえば、動物性食品からビタミンAを直接接種するだけでなく、野菜などからβカロチンを摂取してもいいというわけです。βカロチンは体内で半分に分解されてビタミンAとして働きます。

 

ビタミンAの生体内の働き方は大きく分けると2つあります。一つは視細胞において、光を受容する働きです。私たちが物を見ることができているのは、ビタミンA誘導体レチナールが光を吸収しているのからです。二重結合の両側がトランスの配向かシスかということですが、光を受容するとトランスが11-シスになります。炭素の番号のつけ方は、6員環のメチル基が2つついた炭素が1番で、反時計回りに2,3,4,5,6、枝のほうに出て、7,8,9,10,11,12,13,14、15です。メチル基の枝は無視して、主鎖に最初に番号を振っていきます。上の図で11番と12番の間の二重結合に関してシスに変化しています。

  1. A Quantum Chemical Study of the Retinal of Squid Rhodopsin Fig. 15

もう一つの働き方は、細胞を分化させるなどの細胞の運命を調節する働きです。

ビタミンAの構造式をどうやって覚えるかですが、6員環から枝が伸びていて二重結合が全部に入ると思えばいいでしょう。主鎖の炭素が15番までと覚えて、あとは視覚的にメチル基の枝の場所を覚えられるのではないかと思います。

視細胞におけるビタミンA誘導体レチナールの働き

ビタミンAの働きは何かというと、ひとつはレチナ(網膜)で光を感じるのに必要です。私たちは普段、目でものをみていますが、これは外界から入ってきた光を捕獲しているということにほかなりません。光を捕獲する物質こそがレチナールなのです。光を受け取る前はシス型になっていますが、光を受け取るとオールトランス型に変わります。レチナールはオプシンというタンパク質に結合しており(レチナールが結合した桿体細胞のオプシンをロドプシンと呼ぶ)、レチナールが光を受容して形がかわったことで視細胞の膜状にあるロドプシンは細胞内へシグナルを伝えます。視細胞は、この変化を電気的な活動に変換します(過分極応答)。これが私たちがものを見えているときに起きている現象なのです。錐体細胞も同様で、オプシンに11-シスレチナールが結合しています。錐体のオプシンは3種類あり赤、緑、青の色覚を受け持っています。ロドプシンは色は感じません。同じレチナールが同じようにオプシンに結合しているのになぜ違う色が見えるのかはかなり不思議なことですが、それぞれのオプシンの違いがレチナールの周囲の環境の違いとなって、吸収される波長が変わるのだそうです。

Though all of these opsins bind the same 11-cis-retinal chromophore, their absorption properties are uniquely modulated by the protein environment and its coordinated water molecules of each of the opsins to produce the set of pigments that enable color vision []. (The photochemical determinants of color vision Bioessays. 2014 Jan; 36(1): 65–74.)

The dominant physical mechanism responsible for the opsin shift in color vision is the interaction of dipolar amino acid residues with the ground- and excited-state charge distributions of the chromophore.How color visual pigments are tuned Gerd G. Kochendoerfer, Steven W. Lin, Thomas P. Sakmar, Richard A. Mathies Volume 24, Issue 8, 1 August 1999, Pages 300-305 Journal home page for Trends in Biochemical Sciences Review )

  1. 第1回 色覚はなぜ、どのように進化してきたのか ナショナルジオグラフィック
  2. 哺乳類の眼においての光情報伝達 光受容細胞 (photo1.biophys.kyoto-u.ac.jp/)

 

胚発生におけるレチノイン酸の働き

目で光を感じるときにレチナール(ビタミンAの誘導体)が必要なことから、ビタミンAが欠乏すると光を受容する感度が下がってしまい、暗い場所や光が少ない夜間にはものがみえない夜盲症という病気になります。しかし、ビタミンAの重要性は、視覚での働きだけではありません。胚の発生にも重要な働きがあります。レチノイン酸には催奇性があり、妊婦がビタミンAを過剰に摂取すると、奇形児になる恐れがあります。多すぎもダメなんですね。

  1. 動物の体作りに重要なレチノイン酸の可視化に成功—脊椎動物の胚でレチノイン酸が直線的な濃度勾配を形成— 平成25年4月8日 独立行政法人 理化学研究所 独立行政法人 科学技術振興機構 <原論文情報> Satoshi Shimozono, Tadahiro Iimura, Tetsuya Kitaguchi, Shin-ichi Higashijima & Atsushi Miyawaki “Visualization of an endogenous retinoic acid gradient across embryonic development” Nature,2013, doi: 10.1038/nature12037

 

皮膚の細胞におけるレチノイン酸の働き

レチノイン酸はまた、皮膚の細胞を分化させ角質のタンパク質であるケラチンを発現させる働きもあります。

When human keratinocytes are grown on their dermal equivalent (fabricated collagen lattices), physiologic concentrations (1–10 nm) of RA result in an epithelium very similar to that in normally keratinized epidermis (Retinoic Acid-Induced Epidermal Transdifferentiation in Skin J. Dev. Biol. 2014, 2(3), 158-173; https://doi.org/10.3390/jdb2030158)

  1. Regulation of keratin expression by retinoids Dermatoendocrinol. 2011 Jul-Sep; 3(3): 136–140. Published online 2011 Jul 1. doi: 10.4161/derm.3.3.15026 PMCID: PMC3219164 PMID: 22110773
  2. Retinoids as important regulators of terminal differentiation: examining keratin expression in individual epidermal cells at various stages of keratinization. R Kopan, G Traska, E Fuchs Crossmark: Check for Updates Author and Article Information J Cell Biol (1987) 105 (1): 427–440. July 01 1987  https://doi.org/10.1083/jcb.105.1.427
  3. 表皮ケラチノサイトのビタミンA結合蛋白に関する実験的研究 研究課題 サマリー 研究課題/領域番号 61570492 研究種目 一般研究(C) 1986年 ビタミンAには表皮の分化調節作用があることは明らかである、この作用は細胞内のレセプター蛋白を介して発現すると考えられている。

 

ビタミン誘導体の薬理作用

ビタミンAは生体内で多彩な働きをしていることからビタミンAに関連した薬物を治療薬として使うという戦略があります。

  1. ビタミンA関連医薬の現状と展望 香月博志 熊本大学大学院生命科学研究部薬物活性学分野教授 ファルマシア Vol.51 No.3 2015

 

ビタミンAに関する参考記事

  1. Vitamin A (Oregon State university Linus Pauling Institute » Micronutrient Information Center)
  2. Vitamin A: β-Carotene (LibreText Chemistry)
  3. Mechanisms of Transport and Delivery of Vitamin A and Carotenoids to the Retinal Pigment Epithelium Mol Nutr Food Res . 2019 Aug;63(15):e1801046. doi: 10.1002/mnfr.201801046. Epub 2019 Feb 14. Vision depends on the delivery of vitamin A (retinol) to the retina. Retinol in blood is bound to retinol-binding protein (RBP).
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