栄養と栄養素との区別

2018年 管理栄養士国家試験 問題70

栄養の定義、栄養と健康・疾患に関する記述である。正しいのはどれか。2つ選べ。

(1)栄養とは、生物が生命を維持するために摂取すべき物質のことをいう。
(2)栄養素には、生体内において他の栄養素に変換されるものがある。
(3)欠乏症は、潜在的な欠乏状態を経て生じる。
(4)エネルギーの過剰摂取は、マラスムスを誘発する。
(5)飽和脂肪酸の過剰摂取は、循環器疾患のリスクを下げる。

  1. 管理栄養士国家試験 過去問題&解説集 2023 [第32回ー第36回] SGS総合栄養学院 花伝社
  2. https://nstudy.info/32-70/
  3. 第32回管理栄養士国家試験の合格発表 厚生労働省 平成30年3月4日(日)第32回管理栄養士国家試験 受験者数17,222名 合格者数10,472名 合格率は60.8%です。

解説

栄養と栄養素との違いを知ってしっかりと区別しておく必要があります。3大栄養素といえば、糖質、脂質、タンパク質の3つであり、5大栄養素というと、それにビタミンとミネラルが加わります。

  1. 必須ミネラル16種を含む代表的な食品と、その主な働き 国立循環器病センター ナトリウム、塩素、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、硫黄、鉄、亜鉛、銅、マンガン、コバルト、クロム、ヨウ素、モリブデン、セレン

「栄養」とは、栄養素を消化吸収してエネルギー代謝や物質代謝を行って生体の恒常性を保ったり成長したりする「生命活動」、別の言葉で言えば「営み」のことです。しかし日常的には、「物質」である栄養素のことを栄養と呼ぶ場面が数多くあります。「栄養が足りていない」「栄養たっぷりの食事」といった具合です。日常語と専門用語の間に少しギャップがあり、それが問題として問われたということでしょう。つまり上の問題の選択肢の(1)の記述は正しくないということになります。

栄養とは、呼吸、消化吸収、排泄、運動、成長、繁殖などの生活現象を維持し、健康な日常生活を送るために必要な物質を外界から摂取し、これを利用し、不要なものを排泄しながら生命を維持していくこと

栄養素とは、生活現象を営むために外界から摂取しなければならない物質

エネルギー(カロリー)源となる「たんぱく質・脂質・炭水化物」を『エネルギー産生栄養素』と呼んでいます。以前は、三大栄養素とも言われていました。

(由田 克士 大阪公立大学大学院 生活科学研究科 食栄養学分野 教授 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/

三大栄養素のことを現在は、エネルギー産生栄養素と呼ぶというのは知りませんでした。教科書によっては今でも三大栄養素という言葉が教えられていると思います。たしかに、ビタミンやミネラルを、糖質・脂質・タンパク質と同じに並べるのはおかしい気がしますので、エネルギー産生栄養素という呼び名の方が推奨されて当然でしょう。

2番めの選択肢、「栄養素には、生体内において他の栄養素に変換されるものがある。」はどうでしょうか。糖質を過剰に摂取すると、解糖系でピルビン酸ができたあとアセチルCoAになりますが、エネルギーが足りている状態ならクエン酸回路を回してエネルギーをさらに作る必要がないので、アセチルCoAを材料として脂肪酸が合成されます。脂肪酸はグリセロールとエステル結合してトリグリセリド(中性脂肪)すなわち脂質になりますので、他の栄養素に変換されるということになります。もう少し正確にいえば、トリグリセリドの材料は脂肪酸とグリセロール3リン酸で、グリセロール3リン酸はグリセロールからもつくられますし、解糖系の中間代謝産物であるジヒドロキシアセトンリン酸からも作られます。

また、糖原性アミノ酸やケト原性アミノ酸という言葉があることからもわかるようにアミノ酸からグルコースやケトンも作られますし、逆もあります。よって選択肢(2)は正しいということになります。

選択肢(3)「欠乏症は、潜在的な欠乏状態を経て生じる。」はどうでしょうか。これも日常用語としての「潜在的」と、専門用語としての「潜在的な欠乏状態」とが異なるということを理解しておく必要があります。専門用語として定義された言葉なので、日常語の常識で考えても無駄なのです。

潜在的栄養欠乏:明確な症状が発現していないが,諸種の検査により栄養欠乏と認定される状態.(コトバンク

潜在性栄養素欠乏状態 marginal nutrient deficiency:なんらの臨床的な徴候はみられないが,その栄養素の欠乏に伴い,生化学的な機能に変化のみられる状態(コトバンク

英語だとmarginalなので病気と健康の境界と言った意味でしょう。日本語の訳語の当て方が良くなかったために、意味がわかりにくくなっていると思います。

欠乏気味・不足気味→病気ではないが検査では引っ掛かる程度の欠乏状態(潜在的な栄養の欠乏状態)→欠乏症(病気)

というわけですので、選択肢(3)の記述は正しいです。

選択肢(4)「エネルギーの過剰摂取は、マラスムスを誘発する。」はどうでしょうか。マラスムスって何?というところから勉強する必要があります。まず、クワシオルコルマラスムスはセットで覚えておきましょう。

低栄養状態(malnutrition)には2つのタイプがある。marasmusとkwashiorkorである。(身体所見としての体格・体型・栄養 med.teikyo-u.ac.jp)

クワシオルコル(kwashiorkor):タンパク質の摂取量が十分でないためにおきる栄養失調の一形態(ウィキペディア

マラスムス(marasmus):体に備蓄されたエネルギーとタンパク質がいずれもすべて枯渇するもの(ウィキペディア

  1. 低栄養 MSDマニュアル家庭版
  2. クワシオルコルの機序と我が国での症例
  3. 【臨床】クワシオルコルとマラスムス SGS総合栄養学院 クワシオルコル:低栄養性の脂肪肝や低アルブミン血症、浮腫

いずれにせよ低栄養のことなので、選択肢(4)も正しくありません。選択肢(5)「飽和脂肪酸の過剰摂取は、循環器疾患のリスクを下げる」は、これは、脂肪の摂りすぎは良くないということが巷でいつも言われていることだと思いますので、逆だということがすぐにわかります。

脂質のとりすぎは、肥満生活習慣病につながります。特に動物性脂肪パーム油などに多く含まれている飽和脂肪酸をとりすぎると、血液中のLDLコレステロールが増加し、その結果、循環器疾患のリスクを増加させることが示されています。(脂質やトランス脂肪酸が健康に与える影響 農林水産省)

LDLというのは低密度リポタンパク質のことで、肝臓から末梢へとコレステロールを運ぶときの複合体です。肝臓で合成された脂質(中性脂肪やコレステロール)は、最初は超低密度リポタンパク質(VLDL)として血中を流れます。血管の内皮細胞にはリポプロテインリパーゼという酵素があって、この酵素によってVLDLから中性脂肪が引き抜かれてグリセロールと脂肪酸とに分解され、組織(細胞)に取り込まれます。そうやって中の組成が変わっていってVLDLは、IDL(中間密度リポタンパク質)となり、さらにLDLになるというわけです。LDLになったときは内容物はコレステロールが主要なものとなっています。なおコレステロールはコレステロールエステルの形で運ばれています。コレステロールエステルというのは、脂肪酸のカルボキシ基とコレステロールにある水酸基とがエステル結合をした形をとっています。

  1. 栄養士のための生化学テキスト 宇部フロンティア大学出版会 2018
  2. リポ蛋白の性質と組成 HDL/LDL 循環器用語ハンドブック
  3. リポタンパク質と脂質の輸送 Bio-Science~生化学・分子生物学・栄養学などの『わかりやすい』まとめサイト~