特許化戦略」タグアーカイブ

論文発表済みの遺伝子破壊マウスで見つかった新しい表現型で特許化は可能か?

質問:ある遺伝子Aの遺伝子破壊マウスを論文発表済みで、何年もしてから実はそのマウスに新たな表現型が見つかりそれが人疾患モデルになるということがわかったとき、このマウスを疾患モデルとして特許化することは可能?

Gemini:「マウスそのもの(物質としてのマウス)」の特許化は不可能ですが、「そのマウスを使ったスクリーニング方法(使用方法)」としての特許化は十分に可能です。知財の用語では、これを「用途発明(あるいは属性による発明)」の考え方で捉えます。しかし、医薬品の用途発明とは少し勝手が違うため、注意が必要です。以下に、なぜそうなるのか、どのような戦略(クレーム)で権利化を目指すべきかを整理しました。

1. なぜ「マウスそのもの」は特許にならないのか?

【壁:新規性の喪失】

すでに論文発表済みで、その遺伝子破壊マウスの作製方法や存在が世の中に知られている場合、そのマウスは「公知(みんなが知っている)」の状態にあります。

  • 物質特許(物の発明): 「遺伝子Aを欠損したマウス」という請求項(クレーム)を立てても、「そのマウスなら、数年前の〇〇先生の論文に載っているよね(新規性なし)」と審査官に拒絶されます。

  • たとえ発見したのが「全く新しい表現型(病気)」であっても、マウスの遺伝子構成や物質としての実体が変わったわけではないため、物質としての特許は取れません。

2. では、何を特許にするのか?

【解:スクリーニング方法の発明】

マウス自体は公知でも、「そのマウスを〇〇病のモデルとして使うこと(新たな用途)」は誰も知りませんでした。この「新しい使い方」に特許性を見出します。具体的には、以下のような「方法のクレーム」を立てるのが定石です。

【特許請求の範囲のイメージ】

  • 請求項1(方法): 被験物質を、遺伝子A機能欠損マウスに投与する工程、前記マウスにおける〇〇病の症状(またはマーカー)の変化を測定する工程、を含む、〇〇病治療薬のスクリーニング方法。

この戦略のポイント:

  • 新規性: 「このマウスを使って〇〇病の薬を探す」という手法は、過去の論文には書かれていないため、新規性が認められます。

  • 進歩性: もし遺伝子Aの機能から「その病気になること」が容易に予測できなかった場合(意外な発見だった場合)、進歩性(特許の高さ)も認められやすくなります。

3. 「疾患モデルマウス」という物のクレームは取れないか?

医薬品であれば、「成分Xを含有する〇〇病治療剤」という形で、成分が公知でも「医薬用途」として物の特許が取れます。しかし、動物の場合は少し事情が異なります。

  • 日本の審査実務:「〇〇病モデルとしての遺伝子A欠損マウス」というクレームを立てた場合、審査官によっては「用途(〇〇病モデル)が書いてあるけれど、結局は『遺伝子A欠損マウス』という物を指しているよね? それなら公知だからダメ」と判断されるリスクが高いです(物の特定に用途限定が効きにくい)。
  • 安全策:したがって、無理に「モデル動物」という物の権利を狙うより、前述のスクリーニング方法で権利化し、製薬会社などがそのマウスを使って薬の開発(スクリーニング)を行う際にライセンス料を求めるビジネスモデルが一般的です。

4. 権利化のための重要な条件

この特許を通すためには、以下のデータを明細書(特許出願書類)に記載する必要があります。

  1. 表現型の実証: そのマウスが本当にその疾患(または類似の症状)を発症していることを示すデータ(病理画像、生化学データなど)。

  2. 相関関係の証明: その遺伝子破壊と疾患発症の因果関係。

  3. 有用性の証明(できれば): 既存の薬を投与したら症状が改善した、あるいはターゲットとなるメカニズムがヒトの疾患と類似しているなどの「モデルとして使える根拠」。

まとめ

クレームの種類 権利化の可能性 理由
物質(マウスそのもの) × 不可 論文発表済みのため「新規性」がない。
用途限定の物(〇〇病モデルマウス) △ 厳しい 日本では「物」そのものとみなされ、新規性欠如とされるリスク大。
方法(スクリーニング方法) ◎ 可能 「そのマウスを使って薬を探す」という行為は新しい知見であるため。

このケースは、大学や研究所でよくある「宝の持ち腐れ復活パターン」です!古いマウスでも、新しい「創薬ターゲット」としての価値が見つかれば、スクリーニング方法の特許として非常に強力な権利になり得ます。特に、その病気の良いモデル動物が他に存在しない場合、製薬企業からのライセンス需要は高くなります。