人間や動物が感覚情報を処理したり、考えごとをしたり、体を動かしたりするのは、すべて脳を構成する神経細胞の活動(活動電位の発生)によるものです。脳の活動を計測するには、神経細胞の膜電位変化を記録測定することが最も直接的な方法ですが、脳活動が高まっている部位ではエネルギー代謝が活発になることから酸素消費量の変化やグルコース代謝量を測定するという間接的な手法も用いられます。研究者が望む空間解像度、時間解像度、侵襲の有無、実験の簡便さ、実験目的などに応じて、様々な計測手法が用いられています。
MRIとは
緩やかな磁場(静磁場)をかけてあげると原子核スピンのある程度向きが揃います。これにある周波数のラジオ波をかけます。原子核スピンはそれに共鳴して静磁場の向きの方向にコマの様な運動(歳差運動)を行います。その周波数(ラーモア周波数)は組織ごとに異なり、かけたラジオ波の大きさに比例します。10-60MHzでラジオ波の周波数と同様となります。ラジオ波をかける事を止めると原子核スピンはコマ回し運動をやめて元の状態に戻りますがこの時間も組織ごとに差があるのです(緩和時間)。これらを検出する事で内部の組織の状態を知る事ができるのです(MRIについて 脳とこころの研究センター 名古屋大学)
fMRI (functional magnetic resonance imaging) 機能的磁気共鳴画像法とは
ヘモグロビンは酸素分子を結合している時には反磁性で、毛細管で酸素を放出した後(デオキシヘモグロビン)では常磁性になります。常磁性体であるデオキシヘモグロビンを多く持つ静脈側の血管の中及び周りには僅かながら磁場の歪をつくります。この歪の存在はそのあたりの水(のプロトン)の信号(MRIはこの水を対象にした磁気共鳴現象を測るものです)を弱めます。この現象をBOLD(Blood Oxygenation Level Dependent)効果と呼びました。 更に、脳の機能活動として神経細胞の周りのシナップス活動が増加しますと、そばに存在するアストロサイト(グリア細胞;神経細胞の働きを補助)やニューロンが感知して血管を拡げる物質を血管の壁におくり、結果として血流の増加がおきます。この血流増加による酸素の供給は神経活動の増加に伴う酸素消費の増加を遥かに凌ぎ(過剰の酸素供給)ます。その結果、デオキヘモグロビンの量が減り、先に述べた磁場の歪の減少をもたらし、MRI信号が僅かに増えます。この信号変化が機能活動の増加に対応したものとして画像化されるのです、すなわちfMRIによる脳機能測定となります。(fMRIとは 社会的・職業能力育成プログラムに資する認知・脳科学的エビデンス情報提供基盤の構築)
- 社会的・職業能力育成プログラムに資する認知・脳科学的エビデンス情報提供基盤の構築 研究代表者 東北福祉大学 特別栄誉教授 小川 誠二 (Seiji Ogawa) fMRIとは
- CiNet アドバイザー 小川 誠二
- Volume 84, Issue 2, 22 October 2014, Pages 262-274 Journal home page for Neuron Perspective The Chronnectome: Time-Varying Connectivity Networks as the Next Frontier in fMRI Data Discovery Author links open overlay panelVince D.Calhoun12RobynMiller1GodfreyPearlson4TulayAdalı3 NEURON
- S. Ogawa, D. W. Tank, R. Menon, J. M. Ellermann, S.-G. Kim, H. Merkle and K. Ugurbil. Intrinsic Signal Changes Accompanying Sensory Stimulation: Functional Brain Mapping With Magnetic Resonance Imaging. Proc. Natl. Acad. Sci. (USA), 89, 5951-5955 (1992).
- S. Ogawa, T. M. Lee, A. R. Kay and D. W. Tank. Brain Magnetic Resonance Imaging with Contrast Dependent on Blood Oxygenation. Proc. Natl. Acad. Sci. (USA), 87, 9868-9872 (1990)
PET (Positron Emission Tomography )陽電子放出断層撮影とは
SPECTとPETはどちらもアイソトープトレーサの体内分布を描記するイメージング技術である. ‥ PETとSPECTの基本的な相違は測定の対象とな るアイソトープにある.PETはその名のとおり, positron emitter,つまり陽電子を放射する種類のア イソトープが対象である.この種のアイソトープから 放射される陽電子はさまざまなエネルギーをもつが, その飛程はたかだか数mmであり,人体内に存在する 核種からの陽電子を体外測定することはできない.つ まりPETで測定するのは陽電子自体ではない.陽電 子が飛程の最後でそのへんに多数存在する電子の1つ と結合して質量を失い,その質量分のエネルギーが 1対の消滅放射線として放射されるのを測定する.消 滅放射線はエネルギーが511keVと一定の光子であ るので,PET装置ではpositron emitterなら何でも 測定可能である. ‥ PETで利用されている核種としては,臨床医学の 興味が有機化合物に集中している状況を反映して,有 機化合物標識RIとして便利な11C, 13N, 15O, 18Fが 中心である.(PET/SPECTによる脳活動計測 舘野之男 計測と制御31(2)1992年)
- 2006_PET薬剤と動物用イメージング装置 2002年4月に2-deoxy-2-18F-fluoro-D-glucose (FDG)を用いるPositron Emission Computed Tomography (PET)検査が保険適用を受けるにあたり,PETという言葉自体が一般社会に急速に広まってきた。今ではPETといえば, FDG-PETを指すといっても過言ではない状況になりつつある。
- PETによる脳機能計測-分子イメージング 福田寛 計測と制御 第42巻 第5号 2003年5月号 ある種の課題を実行している時の脳血流を測定し,さらにこの課題に対してコントロール状態の脳血流を測定する.くり返し脳血流を測定するために,半減期が2分のO-15で標識した水を用いる.ついで両者の差分画像を作成し,差があった脳部位がその課題遂行に関連して血流が上昇した部位,すなわち機能部位と考えるわけである.
- PETと脳波を用いた脳機能計測 長田乾 計測と制御 第42巻 第5号 2003年5月号
- PET/SPECTによる脳活動計測 舘野之男 計測と制御31(2)1992年
- PETによる脳機能イメージング 1988年
- PETとは 大阪医科薬科大学 PET検査では、まず、陽電子(ポジトロン)(※1)を放出する検査薬(おもにブドウ糖と結合させた18F-FDG(※2))を静脈から注射します。細胞内に取り込まれる検査薬の量が細胞によって異なりますので、体内に検査薬(ブドウ糖)を多量に取り込む細胞があれば、その細胞から陽電子が多く放出され、その陽電子が消滅する際にガンマ線(※3)を体外に放出します。そのガンマ線を検出器でスキャンすると、多く放出される部分が光って見えることを利用した検査です。がん細胞は正常な細胞に比べて約3~8倍のブドウ糖を取り込む性質があり、検査薬を多く取り込みます。ガンマ線が多く体外に放出される部位を同定することにより、がんの早期発見が可能となります。そのためPET検診では主にがん検診として利用されています。
- 脳血流計測法としてのPETとMRI NIPS システム脳科学研究領域心理生理学研究部門定藤研究室
SPECT (single photon emission computed tomography) 単一光子放射断層撮影とは
単一光子を放射するアイソトープが測定対象である. ‥ 現実のSPECT装置で対応できるガンマ線のエネルギーは数10keVからせいぜい400keVぐらいまでである. ‥ SPECTでも有機化合物のトレーサへの要求はし烈 であるが,残念ながらH, C, O, Nなどの元素に SPECT向きの核種はない.SPECT向きのガンマ線 を出し,かつ適当な長さの半減期(患者被曝線量と 検査効率の観点からいえば半減期は短いほどよいが, メーカでの製造,出荷などの関係からいえば長い方が よく,現実にはその妥協点として半減期3日ぐらいの ものが好んで使われている)の核種として,67Ga(半 減期3.26日),99mTc(半減期6時間,ただし親核種の 99Moの半減期が2 .75日),123I(半減期13時間), 201Tl(半減期3 .04日)などが広く使われている.(PET/SPECTによる脳活動計測 舘野之男 計測と制御31(2)1992年)
- PET/SPECTによる脳活動計測 舘野之男 計測と制御31(2)1992年
EEG (Electroencephalogram) 脳波とは
- EEG and MEG: Relevance to Neuroscience 2013年 NEURON VOLUME 80, ISSUE 5, P1112-1128, DECEMBER 04, 2013 総説論文 電気生理のデータとMEGのデータとEEGのデータを比較している。
- Review Article Published: 25 June 2018 Investigating large-scale brain dynamics using field potential recordings: analysis and interpretation Bijan Pesaran, Martin Vinck, Gaute T. Einevoll, Anton Sirota, Pascal Fries, Markus Siegel, Wilson Truccolo, Charles E. Schroeder & Ramesh Srinivasan Nature Neuroscience Here, our goal is to provide best practices on how field potential recordings (electroencephalograms, magnetoencephalograms, electrocorticograms and local field potentials) can be analyzed to identify large-scale brain dynamics, and to highlight critical issues and limitations of interpretation in current work. We focus our discussion of analyses around the broad themes of activation, correlation, communication and coding. 総説論文
- Human Brain MappingVolume 38, Issue 11 p. 5391-5420 Research Article Open Access Deep learning with convolutional neural networks for EEG decoding and visualization 2017年
near-infrared spectroscopy (NIRS) 近赤外分光法とは
神経活動が起こると、その周囲にある血管が拡張し、エネルギー源となる酸素やグルコースを含む多くの動脈血を供給する調整機構が働く。そして、活動神経近傍の組織では、血流量・血液量が増大し、血液の酸化状態(オキシヘモグロビン濃度[oxy – Hb]とデオキシヘモグロビン濃度[deoxy – Hb]の比率)が変化すると仮定されている(小泉、1997)。一般に、このような神経活動と脳血液反応の関係は、ニューロバスキュラーカップリング(neuro – vascular coupling)と呼ばれている。 fMRIやPETなどと同様に、NIRSによる計測では、ニューロバスキュラーカップリングが存在するという仮定に基づいて、脳の局所ヘモグロビン濃度(Hb)を捉えている。‥ 頭皮上から近赤外光を照射すると、(a)の特性により、その光成分は、脳組織内に拡散していき、頭皮上から約20 ~30 mm 深部にある大脳皮質に到達するといわれている(渡辺・室田・中島、2005)。また、(b)の特性により、照射点からおよそ3 cm離れたところで計測すると、乱反射して戻ってきた光成分を検出することができる(渡辺・室田・中島、2005)。 NIRSでは、この検出光から、大脳皮質のOxy – Hb、Deoxy – Hb、また、これらを合わせた総ヘモグロビン濃度(total – Hb)の3つのHbの変化を推定している(山下・牧・山本・小泉、2000)。ただし、照射から検出までの光路長は計測できないため、得られるデータは、Hbの絶対値ではなく、相対的な濃度変化である(山下・牧・山本・小泉、2000)。‥ 多チャンネル同時計測装置である日立メディコ製「光トポグラフィ装置(ETG – 4000)」による実際の計測手続きと計測結果を説明するために語流暢課題の例を示す。(第5章 NIRSによる脳機能測定)
- 特集2◆先端フォトニクスの展望光トポグラフィが拓く未来 小泉英明・敦森洋和・木口雅史 学術の動向 2010.9 近赤外分光法(NIRS: near-infrared spectroscopy)を用いており、毛根間や額の頭皮上から近赤外光を照射し、大脳皮質から散乱・反射した成分を数cm離れた場所で検出する(図1)。‥ PET: positron emission tomography)や機能的磁気共鳴描画(fMRI: functional magnetic resonance imaging)と異なり、被験者が寝台に固定されることなく、光ファイバなどを装着した軽いキャップを冠るだけで良いので拘束性も少ない。さらに、原理的に被験者が動けること、また極めて高い安全性から、乳幼児に適用可能な唯一のイメージング法である。静的な空間分解能は光散乱のためにおよそPETの水準(〜cm)であるが、計測の時間分解能はfMRIの水準(〜sec)よりも高い。
MEG 脳磁図とは
磁場は、発生部位と記録部位の中間の物質によって、信号が減弱したり、ひずんだりすることがなく、発生部位の状態を忠実にあらわすことができます。‥ 他の磁気を遮断するための工夫をした六畳程度の部屋(磁気シールド室)に入って、ヘルメット型のお椀をふせた形のセンサー部の中に頭をすっぽりといれて頂くことで、計測が始まります。センサーは、大きく丈夫な魔法瓶の中に液体ヘリウムによって冷やされています (脳磁図とは 日本臨床脳磁図コンソーシアム)
- 脳磁図(MEG)を利用した脳機能計測とその応用 理学療法学43(6):514-159 (2016年)
電気生理学的測定とは
- Novel electrode technologies for neural recordings Guosong Hong & Charles M. Lieber Nature Reviews Neuroscience volume 20, pages330–345 (2019) Published: 04 March 2019
カルシウムイメージング Calcium Imagingとは
- Near-infrared and far-red genetically encoded indicators of neuronal activity Daria M.Shcherbakova Journal of Neuroscience Methods Volume 362, 1 October 2021, 109314
質量分析イメージング
脳の切片に対して、空間情報を維持した状態で質量分析する方法があるようです。
- Review Mass Spectrometry Imaging Shuichi Shimma Author information Keywords: mass spectrometry imaging, lipids, proteins, pharmaceuticals, isotopes, instruments JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML 2022 Volume 11 Issue 1 Pages A0102 DOI https://doi.org/10.5702/massspectrometry.A0102
- https://en.wikipedia.org/wiki/Mass_spectrometry_imaging
- がんや老化の研究に!糖代謝のマスイメージング分析事例紹介
- Intraoperative mass spectrometry mapping of an onco-metabolite to guide brain tumor surgery Sandro Santagata, Livia S. Eberlin, Isaiah Norton, +15, and Nathalie Y. R. Agar cooks@purdue.eduAuthors Info & Affiliations Edited by Jerrold Meinwald, Cornell University, Ithaca, NY, and approved June 4, 2014 (received for review March 13, 2014) June 30, 2014 111 (30) 11121-11126 https://doi.org/10.1073/pnas.1404724111
- https://www.sciencedirect.com/topics/chemistry/imaging-mass-spectrometry
- グルコース代謝フラックスの脳内イメージング 研究期間 : 2014~2016
参考
- 解説 ニューロイメージングデータの時空間解析 三分一 史和, 尾家 慶彦 著者情報 キーワード: ニューロイメージング, 時空間解析, カルシウムイメージング法, 膜電位イメージング法 ジャーナル フリー 2019 年 43 巻 3 号 p. 155-160
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脳機能の解明に向けた全脳神経活動マッピング 笠井淳司1), 勢力薫1,2), 橋本均1,3,4,5) 2019年
- 2013_宮内 哲_脳を測る――改訂 ヒトの脳機能の非侵襲的測定― 網羅的なレビュー論文
- PET/SPECTによる脳活動計測 ミニ特集脳・感覚機能の無侵襲計測 舘野之男 計測と制御31(2)1992年 測定原理を論理的にわかりやすく解説した総説論文。様々な観点が紹介されていて、非常に示唆に富む。
その他の参考
- 脳循環代謝定量測定法([15O]GAS-PET)における完全無採血定量法の導入に関する基礎的検討 令和3年5月24日 名古屋市総合リハビリテーションセンター附属病院
- Review article The synaptic plasticity and memory hypothesis: encoding, storage and persistence Tomonori Takeuchi, Adrian J. Duszkiewicz and Richard G. M. Morris Published:05 January 2014https://doi.org/10.1098/rstb.2013.0288
- 研究課題名:磁気刺激および電流分布イメージングによる脳機能ダイナミックスの研究 平成12年度~平成16年度(2004年度)