表現型、遺伝型の読み方はいつも悩みます。PCにキーボードで打つときは、ひょうげんけい でも ひょうげんがた でも表現型という漢字が出てきます。しかし、いでんけい 打っても遺伝型は出てきません。いでんがた と打つと遺伝型が出てきます。
実際、研究者のプレゼンを聞いていると表現型は「ひょうげんけい」と発音する人が多いです。また、遺伝型は「いでんがた」と読まれるのではないかと思います。遺伝型に関して自信を持って言えないのは、分子生物学の研究の現場にしかいたことがないので、遺伝型という言葉を周りが口にするのをそもそも聞いたことがあまりないからです。
遺伝子がいでんがたで表現型がひょうげんけいなのだとしたら、一貫性がないのが気持ち悪くて仕方がありません。一貫させるため、どちらも「かた」にした方がよいように思います。ひょうげんがた は違和感はありませんが、いでんけい には違和感があります。いでんがた ひょうげんがた だったのが、ごろの良さのせいか、ひょうげんがた のことを ひょうげんけい と呼ぶ人が増えたのかもしれません。研究者は遺伝子を破壊したときにどんな表現型が生じるかに興味があることが多いため、表現型という言葉は非常によく口にするのですが、遺伝型という言葉はほとんど使いません(遺伝子の機能解析を行っている研究者の場合)。表現型という言葉を多用する研究者は、分子生物学の分野の研究者であるのにたいして、遺伝型という言葉を使うのは文字通り遺伝学者なのではないかと思います。両者は似ているようで別なんでしょうね。
ウィキペディアを見ると、
表現型(ひょうげんがた、ひょうげんけい、英: phenotype。ギリシャ語のpheno=表示+type=型に由来)
とありました。一方、遺伝型の方をみてみると、
遺伝子型(いでんしがた、いでんしけい、英: genotype)
とあります。誰がこのウィキペディアの解説を書いたのかわかりませんが(専門家かどうか)、いでんしけい とも読みが書いてありました。
そもそも、自分は「遺伝型」で覚えていたのですが、「遺伝子型」に飛ばされます。英語だとgenotype, phenotypeなのですが、遺伝型じゃなかったっけ?と当惑。そういえば、自分は遺伝子型という言葉は使ったことがない。遺伝型だと思って生きてきました。
日本人類遺伝学会(中村祐輔理事長)は2009年の大会で遺伝学の主要用語の改訂を行うことを決めました(http://jshg.jp)。
英語 日本語 これまで
genotype 遺伝型 遺伝子型 (医学の地平線 第9号 遺伝学主要用語の改訂 痛風・尿酸財団 )
なんと驚いたことに、2009年に、genotypeの訳語が遺伝子型から遺伝型に変わっていました。自分は逆かと思ったのですが、遺伝型のほうが新しい訳語なんですね。ということはウィキペディアのほうが古い情報のままということのようです。
用語が改訂された理由は納得のできるものでした。
Locus、genotype、allele はいずれも gene が定義される前から存在する用語であり、従って、本来、locus、genotype、allele に遺伝子(gene)の意味は入っていない。これらはいずれもメンデルの法則を説明するために必要な抽象的な概念であり、その対象は「一塩基多型」「欠失や挿入」「繰り返し配列」「遺伝子」など、さまざまな単位に適用される。従って、遺伝子座、遺伝子型、対立遺伝子などの用語は、その単位が遺伝子に限定されるような誤解を生じやすい。本来の抽象的な概念の定義にもどすため、座位、遺伝型、アレル(アリル、アリールも可)の訳語を当てる。(日本人類遺伝学会)
専門家たるもの、ウィキペディアを真に受けちゃだめですね。ちなみに、PCのキーボードで いでんしけい と打っても、遺伝子型は候補に出てきません。
遺伝型という言葉を使うのは遺伝学者なんじゃないのと思った自分の感覚は、合っていたようです。遺伝学は遺伝子という存在が確立する前から存在していたわけで。