寄生虫に対する免疫応答(II型免疫応答)の仕組み

免疫学の教科書を読んでいると、病原体が細菌か、ウイルスか、寄生虫かで対応する免疫応答が異なるようです。

細菌の場合はマクロファージなどの貪食細胞が活躍します。また、樹状細胞がその細菌を貪食して細菌由来のタンパク質を分解しペプチドの形で抗原提示をT細胞に対して行い、たまたまその抗原にピッタリのT細胞抗原受容体をもっていたナイーブヘルパーT細胞が活性かされて活性化ヘルパーT細胞(Th1)になります。同じ抗原たんぱく質を認識するナイーブB細胞と出会ったヘルパーT細胞はナイーブB細胞を活性化し、抗体を産生するプラズマ細胞へと変化させます。抗体が細菌に結合すると(オプソニン化)、マクロファージによる貪食能が増進します。また、ヘルパーT細胞はマクロファージにも働きかけて、貪食能を増進させます。

侵入者がウイルスだった場合には、細胞傷害性T細胞が活躍し、ウイルスに感染した細胞を直接死に至らしめます。

さて、侵入者が寄生虫だった場合はどうなるでしょう。この場合に発動する免疫反応は、花粉に対する反応と同じでいわゆるII型免疫応答と呼ばれるものです。II型というのは、ヘルパーT細胞の方がTh2という2型であり、また、自然リンパ球II型からもTh2と同様のサイトカインが放出されて、これらのサイトカインが活躍するからです。

英語の論文や教科書を読むと寄生虫はhelminthsと書かれています。これは「蠕虫」と訳されていて、くねくねとした動き(蠕動)により動く虫だからこういう名前になっているようです。「寄生虫」は、単細胞生物である「原虫Protozoa」と多細胞生物である「蠕虫Helminths」とに大きく2分されます。原虫に属するお馴染みの名前のもととしては、赤痢アメーバ、トリパノソーマ、膣トリコモナス、マラリア、トキソプラズマといったものたちがいます。蠕虫はさらに、線虫類Nematoda、吸虫類Trematoda、条虫類Cestoideaなどに分かれます。線虫類は、回虫(回虫、アニサキス)、蟯虫、遠景線虫などの種類があります。吸虫類には日本住血吸虫などがいます。

  1. 寄生虫の分類 感染症の基礎知識 病原体:寄生虫とは 大幸薬品
  2. 腹の「虫」の居所 食品媒介性寄生蠕虫症について 北海道立縦研究所感染病理科 後藤明子 「寄生虫」と同定された検体の中では、最も多いのがアニサキス、その次が日本海裂頭条虫(にほんかいれっとうじょうちゅう)です。‥ アニサキスは長さ2-3cmの細長い虫で、魚の筋肉や内臓に隠れています。‥ これがたまたま人の体内に入ると胃や腸の壁に潜り込もうとするため、人によってはアレルギー反応を起こして激しい腹痛を起こすことがあります。‥ 日本海裂頭条虫はいわゆる「サナダムシ」の仲間で、きしめん状の体を持ち、体長は10mになるものもいます。サケやマス類の体の中に幼虫が潜んでいて、これを人が食べることによって感染します。‥ 「豚肉はよく火を通してから食べなさい」と言われる理由にはいろいろとありますが、一つにはこの有鈎条虫のことがあると考えられています。
  3. 蠕虫感染症 平成24年度 感染症リスクマネジメント作戦講座 防衛医学研究センター 感染症疫学対策研究官 教授 加來浩器 (KAKU KOKI)
  4. 医動物学入門 med.osaka-cu.ac.jp

樹状細胞は寄生虫をどのように認識するのか

細菌の場合は樹状細胞が細菌を貪食して細胞内にとりこんでプロテアーゼで分解してペプチドにして抗原提示するというシナリオはなるほどと思えるのですが、寄生虫のように大きなもの(体長数mm~数cm)を分解してタンパク質を取り込むというのが想像できません。教科書を読んでもレビュー論文などを読んでも、そのあたりを明確に書いているものに出会えていません。

The adaptive immune reaction to an intestinal helminth infestation begins with local dendritic cells picking up and displaying helminth antigens. In the case of schistosome住血吸虫 parasites, antigens coming from the eggs are the most potent. (https://www.sciencedirect.com/topics/agricultural-and-biological-sciences/helminth-antigens)

上の説明だと樹状細胞が認識するのは蠕虫(ぜんちゅう)の卵のようです。卵なら単細胞なので貪食できそうですね。

Because they occupy such a key position in the immune responses, there has been considerable interest in how DCs interact with helminth parasites, particularly in the context of understanding how adaptive immune responses in helminth-infected animals become Th2-biased. (https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2632707/)

花粉アレルギーもそうですが、寄生虫に対する免疫応答はなぜTh2/Th1バランスがTh2に傾くのでしょうか。上の論文はTLRの何番が何の物質の受容体になっているということを細かく述べていましたが、実験では蠕虫の抽出物を用いているので生体の状態の蠕虫が樹状細胞にどのように認識されるのかのイメージがまだ湧きません。表面にペタッとつくだけでも、膜表面のタンパク質を捉えることができるのでしょうか。蠕虫に樹状細胞が引っ付いているような状態を観察した写真というものがネット上を探しても全然見つかりません。

The term “excretory/secretory antigens” (ES) refers to the parasite molecules that are released at the interface between the parasite and the cells of the immune system by various mechanisms, such as active secretion and diffusion from parasitic soma. These molecules are originated from adult worms intestinal content as well as female worms uterine content released during egg or larval deposition. (中略). Dendritic cells are mediators between innate and adaptive immunity, consequently, they play the principal role in the recognition, capture, processing, and presentation of helminth ES to T cells.(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5893867/)

上の説明だと蠕虫が分泌するタンパク質に樹状細胞が反応するようです。ただこれだと、分泌されたタンパク質に対する抗体ができてもその抗体は成体には反応しなくて、成体の攻撃にはならないのではないでしょうか。まだしっくりきません。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/core/lw/2.0/html/tileshop_pmc/tileshop_pmc_inline.html?title=Click%20on%20image%20to%20zoom&p=PMC3&id=2683372_nihms109055f1.jpg

上の図でも別に寸法を正しく描いているわけでもないので、もやっとした説明でしかないように思います。

Upon infection, helminths can cause substantial tissue damage and produce excretory-secretory (ES) products (see Glossary) as they migrate through different organs, including the lungs, intestines, liver, and skin, to complete their life cycles. Collectively, helminth-induced wounding and the production of ES products are known to activate distinct hematopoietic and non-hematopoietic cells resulting in the initiation of type 2 immune responses characterized by the population expansion and activation of innate immune cells including dendritic cells (DCs), basophils, eosinophils, mast cells (MCs), ILC2s, and specialized hematopoietic stem/progenitor cells (HSPCs). (https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6168350/)

B細胞は寄生虫をどのように認識するのか

B細胞が抗体を産生するためにはヘルパーT細胞のヘルプが必要ですが、そのためにはB細胞も寄生虫のタンパク質を貪食してペプチドにまで分解したものを抗原提示する必要があります。寄生虫のような大きなものをどうやって抗原として取り込めるのでしょうか。

寄生虫を免疫応答によって排除する仕組み

寄生虫が免疫系に認識されてから排除に至るまでに道筋を説明した論文などを紹介したいと思います。

  1. Helminth antigens ScienceDirect 

 

寄生虫が免疫応答から逃れる戦略・仕組み

The induction of Th2 immunity has been shown to be important for resistance to helminth infections in various model systems; however, despite induction of a Th2 response, total clearance of the parasites rarely occurs in man. This implies that helminths have evolved strategies, such as evasion or suppression of the host immune response that prevent their expulsion and permit their long-term survival. (https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/eji.200940109)

  1. Modulation of Host Immunity by Helminths: The Expanding Repertoire of Parasite Effector Molecules Immunity 49, November 20, 2018
  2. Modulation of Dendritic Cell Responses by Parasites: A Common Strategy to Survive Published 24 Feb 2010 BioMed Research International (Hindawi)

 

参考

  1. Protective immune mechanisms in helminth infection (Author Manuscript at NCBI/PubMED) Nat Rev Immunol. 2007 Dec; 7(12): 975–987. doi: 10.1038/nri2199 PMCID: PMC2258092 NIHMSID: NIHMS40971 PMID: 18007680