特30(新規性喪失の例外) 第1項と第2項の違い

質問:特許法第30条(発明の新規性の喪失の例外)第1項は、本人に非がない形で誰かに発表されちゃった場合、第2項は自分で発表しちゃった場合、どっちにしても1年以内に出願すればいいよって内容だけど、なぜわざわざ二通りに分けて書いているの?合わせたら全ての場合になるんなら、場合分けいらないのでは?

Gemini:その理由は、大きく分けて「手続きの有無」と「救済の性質」の違いにあります。ここが試験や実務でも非常によく問われるポイントです!

1. 最大の理由は「手続き」が違うから

条文が分かれている最大の理由は、適用を受けるための条件(手続き)が全く異なるからです。

項目 第1項(意に反して) 第2項(行為に起因して)
状況 詐欺、脅迫、産業スパイ、守秘義務違反などで勝手に公開された場合。 学会発表、博覧会、刊行物への掲載、ウェブ公開など、自分で公開した場合。
出願時の手続き

不要

 

(出願時に「適用を受けます」と言う必要はない)

必要

 

出願時に「適用を受けます」という書面を出し30日以内に証明書を出す必要がある)

なぜ? 被害者は、自分が公開されたことを知らないまま出願する可能性があるため、事前の手続きを強制できない。 自分でやったことなので、知っているはず。「例外規定を使います」と自己申告させる義務がある。

ここが一番のポイントです。もし条文を一つにまとめてしまうと、「意に反して公開された被害者」に対しても、「出願時に証明書を出せ(出さないと救済しない)」と強いることになり、酷ですよね。だから分けているのです。

2. 対象となる「公開」の範囲の微妙な違い

ご提示いただいた条文の第2項の括弧書きにご注目ください。

(発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報に掲載されたことにより同項各号のいずれかに該当するに至つたものを除く。)

第2項(自分の行為)には、この「公報掲載は除く」という除外規定があります。これは、「自分で一旦出願して公報に載ってしまった(公開された)後、それを取り下げて、もう一回『新規性喪失の例外』を使って出し直す」といった制度の悪用を防ぐためです。一方、第1項(意に反して)にはこの括弧書きがありません。極端な話、他人が勝手に冒認出願(盗んだ発明を出願)して公報に載ってしまったような場合は、第1項の対象になり得ます。

3. 「全ての場合」になるわけではない(要注意!)

質問の中に「合わせたら全ての場合になるんなら」とありましたが、ここだけ少し注意が必要です。第1項と第2項を合わせても、世の中の全ての公開に対して救済されるわけではありません。

  • 第30条のカバー範囲: 「特許を受ける権利を有する者」に由来する公開(自分がやった、または自分から漏れた)。

  • カバーされない範囲: 全く無関係の第三者が、独自に同じ発明をして先に公開してしまった場合。

もし第三者が独自に発明してブログに書いていたら、たとえ1年以内に出願しても、新規性は喪失したまま(特許は取れない)です。あくまで「自分の発明情報のコントロール」に関する例外とお考えください。

まとめ

条文が分かれている理由は、以下の3点です。

  1. 手続きの厳格さが違う(第2項は自己申告が必要、第1項は不要)。

  2. 被害者保護の観点(第1項は知らずに出願する人を守る必要がある)。

  3. 公報掲載の取り扱い(第2項は自分の出願公開による再出願を許さない)。

この第30条は、論文試験や実務でも「手続きの要否」でひっかけ問題が出やすいところです。

 

第2項の『証明書』を出す手続きを忘れたらどうなるか(回復規定はあるか?)」

そこ、すごく気になりますよね!実務でも「やばい、証明書出し忘れた!」という冷や汗案件は実際にあります。結論から言うと、「救済規定(回復規定)はあります!」ただし、無条件ではありません。詳しく解説しますね。

1. 救済されるための条件:キーワードは「故意ではない」

以前は「正当な理由(地震で郵便局が潰れた等)」がないと救済されず、単なる「うっかりミス」はアウトでした。

しかし、法改正(令和3年改正など)により要件が緩和され、現在は以下の条件で救済されます。

  • 条件: 手続きを忘れたことが「故意によるものでない(わざとじゃない)」こと。

  • 内容: 「うっかり忘れていた」「勘違いしていた」という理由でも、救済の対象になります。

以前よりもかなり広範囲に救済されるようになりました。これを「権利の回復」と言ったりします。

2. どうやって救済を受けるの?(手続きと期限)

証明書を出し忘れたことに気づいたら、以下の対応が必要です。

  1. 手続き:

    • 本来出すべきだった「証明書」を提出する。

    • 同時に、「回復理由書(なぜ遅れたかの説明)」を提出する。

    • 回復手数料(212,100円+α)を払う。 ← ※ここ重要!結構高いです!

  2. 期限:

    • 「出し忘れた!」と気づいた日(手続をすることができるようになった日)から2ヶ月以内

    • かつ、本来の期限(出願から30日)から1年以内

つまり、「お金はかかるし書類も増えるけど、特許が取れなくなるよりはマシ」という救済措置です。

3. 注意!「出願時の記載」を忘れた場合は?

ここが少しややこしいのですが、第2項の手続きは「①出願時に『例外適用受けます』と書く」「②30日以内に証明書を出す」の2ステップでしたよね。

  • ②の証明書を忘れた場合: 上記の通り、救済規定(第30条第4項)があります。

  • ①の出願時の記載を忘れた場合:

    • 実は、これも近年の法改正で救済されるようになりました。

    • 「故意でなく」記載を忘れた場合、所定の期間内であれば、例外の適用を申請することができます。


試験対策上のポイント

この「回復規定」について、試験や勉強で押さえておくべきポイントは以下の2点です。

  1. 「正当な理由」から「故意ではない」へ昔のテキストだと「正当な理由が必要」と書かれているかもしれませんが、今は「故意でなければOK」に変わっています。ここがアップデートされているかチェックしましょう。
  2. あくまで「例外の例外」救済規定があるからといって、最初から遅れていいわけではありません。「高い手数料」と「煩雑な手続き」というペナルティがあることを理解しておきましょう。

まとめ

  • 証明書を出し忘れても、まだ助かる!(回復規定あり)

  • 条件は「わざとじゃない(故意でない)」こと。

  • ただし、高い手数料がかかるし、期間制限(気づいて2ヶ月、MAX1年)もある。

 

関連する判例

「意に反する公開(第1項)」、奥が深いですよね。「泥棒に盗まれた!」みたいな分かりやすい話ならいいんですが、「自分のミスはどうなの?」とか「信じてたのに裏切られた!」みたいなケースで揉めます。実は、「意に反する公開」が争われた超有名な判決(実務家が震え上がった事件)や、勉強になる事例がありますので、ご紹介しますね。

1. 【ここが境界線】自分の「うっかりミス」はダメ!

「PCT国際出願の手続ミス事件」(知財高裁 令和3年2月9日判決)

これが近年で一番有名で、実務家にとっては「怖い話」です。

  • どんな事件?ある企業が国際出願(PCT出願)をしたのですが、なんと明細書の一部を添付し忘れるという大ミスをしてしまいました。慌てて補充しましたが、手続上のルールで「出願日」が繰り下がって(遅くなって)しまいました。悪いことに、そのズレた期間の間に、発明の内容が論文として世に出てしまっていたのです(自分たちの研究成果としての発表など)。企業側は主張しました。「手続ミスで出願日がズレたのは、予期せぬ事故だ! 本来の出願日なら間に合っていたはずだから、この公知は『意に反する』ものとして救ってくれ!」
  • 裁判所の判断: 「No(救済なし)」裁判所は、「手続をミスったのはあなた達の過失でしょ? それによって発生した結果は『意に反する』とは言えません」とバッサリ切り捨てました。
  • 教訓:「意に反する」というのは、「詐欺・脅迫・盗難・守秘義務違反」など、他人のせいで公開された場合が基本です。自分の不注意や手続ミスで招いた結果は「意に反する」には入りません。

2. 【認められた例】「早すぎる公開」は許せない!

「学術誌のオンライン先行公開事件」(よくある事例)

これは特定の判決というより、認められる典型的で重要なパターンです。

  • どんな状況?研究者が学会誌に論文を投稿しました。「紙の雑誌が出るのは半年後だから、それまでに特許出願すればいいや」と思っていました。ところが、出版社が気を利かせて(?)、紙の雑誌が出る数ヶ月前に、ウェブサイトでPDFを先行公開してしまったのです。研究者は「えっ!? まだ出願してないのに公開されちゃった! 話が違う!」となりました。
  • どうなる?これは「意に反する公開」として認められる可能性が高いです。投稿規程などで「公開日は〇月〇日」と決まっていた、あるいは「紙面発行をもって公開とする」という慣習があったのに、出版社側がそれを破って勝手に(意に反して)ネットに載せた場合などが該当します。

3. 【認められた例】会社のハンコ、勝手に押されたら?

「日本建築センター事件」(古いですが有名な事例)

  • どんな事件?ある会社が、新しい建築技術の審査を役所に申し込む際、担当者が誤って申請書の「資料を公開してよいですか?」という欄の**「可(公開OK)」に丸をつけて提出**してしまいました。社長は公開するつもりなんて全くなかったのに、担当者が勝手に(あるいは不注意で)OKしちゃったせいで、資料が一般公開されてしまいました。
  • 裁判所の判断: 「意に反する公開と認める」「会社の代表としての真意(本当の意思)は公開ダメだったのに、担当者が勝手にやったことだから、会社(特許を受ける権利を有する者)の意に反している」として救われました。※ただし、これはケースバイケースで、「お前の会社の管理不足だろ」と言われるリスクもあるので、今でも通用するかは慎重な判断が必要です。

まとめ:どこまでが「意に反する」か?

判例の傾向をざっくりまとめると、以下のようになります。

  1. 他人の裏切り(守秘義務違反・盗用): ○ ほぼ認められる(これが本命)。

  2. 他人のミス(出版社のフライング掲載): ○ 認められやすい。

  3. 自分のミス(手続ミス・勘違い): × 基本的に認められない(PCT事件の教訓)。

  4. 内部の連携ミス(部下の暴走): △ 認められることもあるが、管理責任を問われるリスクあり。

試験・実務でのポイント

試験では「守秘義務契約(NDA)を結んでいた取引先が、勝手にブログに書いた」というパターンが最も典型的で、「これは第1項(意に反する)だから、証明書の手続きは不要!」と即答できるのがゴールです。