- 医学教育モデル・コア・カリキュラム 令和 4 年度改訂版(293ページPDF)
コアカリキュラムは日本の医学教員の標準化のために策定されたものだそうです。各大学で行われる医学教育のうち3分の2はこのコアカリキュラムに準じて行い、のこり3分の1は各大学独自の教育を施すという枠組みが想定されています。
3分の2といいつつ、コアカリキュラムは実に網羅的で細かいところまでしっかりと作り込まれており、これだけで「3分の3」の内容を網羅しているように思えます。そのため、大学が独自性を出すための3分の1で何をすればいいの?と疑問を感じる大学関係者もいるようです。しかし、考え方としては、コアカリキュラムに掲載されていないことを大学独自に行うということが期待されているわけでは全くなくて、コアカリキュラムに載っていることで全然構わないので、独自性を出すためにどの部分を重視するか、重点的にやるかというスタンスでいいみたいです(以前、コアカリの勉強会・講演会で聞いた話)。
「医学教育モデル・コア・カリキュラム」の改訂にあったっては、いくつもの改訂ポイントがありますが、このブログikagaku.jpの趣旨である研究に関してどんなことが記述されているのか見ておきたいと思います。
医学教育モデル・コア・カリキュラム改訂の概要 モデル・コア・カリキュラムの改訂においては、以下 7 つの基本方針に基づき改訂した。
- 20 年後以降の社会も想定した医師として求められる資質・能力の改訂
- アウトカム基盤型教育のさらなる展開(学修目標の再編成と方略・評価の整理)
- 医師養成をめぐる制度改正等との整合性の担保に向けた方策の検討
- スリム化の徹底と読み手や利用方法を想定した電子化
- 研究者育成の視点の充実
- 根拠に基づいたモデル・コア・カリキュラムの内容
- 歯学・薬学教育モデル・コア・カリキュラムとの一部共通化
改訂の7つの柱の一つとして、「研究者育成の視点の充実」ということが挙げられていました。
Ⅱ.改訂の各論 1. 改訂された 資質・能力
④ 科学的探究(Research : RE)
- 「医学・医療の発展のための医学研究の重要性を理解し、科学的思考を身に付けながら、学術・研究活動に関与して医学を創造する。」という目的を掲げ、科学的探究心をもって日常診療に取り組む臨床医の養成も視野に、研究者育成の視点を充実化した。
- 医学・医療の発展のための医学研究の重要性及びリサーチマインドの醸成という観点を重視し、基礎医学・臨床医学・社会医学の研究が医療の実践の基礎にあることを理解する構造とした。
- 研究の発信と研究倫理についても学修項目を設定している。
研究能力に関する分析も網羅的で詳細です。研究ないろいろな側面を言語化してくれていました。
医師として研鑽していくことが求められる資質・能力
RE: 科学的探究(Research) 医学・医療の発展のための医学研究の重要性を理解し、科学的思考を身に付けながら、学術・研究活動に関与 して医学を創造する。
RE: 科学的探究
医学・医療の発展のための医学研究の重要性を理解し、科学的思考を身に付けながら、学術・研究活動に関与
して医学を創造する。
RE-01: リサーチマインド
知的好奇心を満たす喜びとオリジナリティの重要性を知る。
RE-01-01: 能動的姿勢
RE-01-01-01 常識を疑う。
RE-01-01-02 何事にも知的好奇心を持って取り組むことができる。
RE-01-02: 探究心
RE-01-02-01 最先端の研究に刺激を受ける。
RE-01-02-02 ロールモデルとしての研究者の生き方に触れる。RE-02: 既知の知
先人の偉業を知り、新たな発想を育む。
RE-02-01: 医学と医療
RE-02-01-01 医療の実践が基礎医学・臨床医学・社会医学の研究に基づいていることを理解する。
RE-02-02: 論文読解
RE-02-02-01 医学論文(英語)を読んで概要を理解する。
RE-03: 研究の実施
自然科学・人文社会科学の研究手法を体験し理解する。
RE-03-01: 問い
RE-03-01-01 自身の関心を問いにすることができる。
RE-03-02: 研究計画
RE-03-02-01 研究計画の素案を作ることができる。RE-03-03: 研究手法
RE-03-03-01 基礎医学の実習から基本的な実験手技を体得する。
RE-03-03-02 社会医学(行動科学を含む)の実習から基本的な研究方法論を体得する。
RE-03-03-03 研究室配属等で医学研究の基本的な研究手法を修得する。
RE-03-04: 研究結果
RE-03-04-01 研究データを適切に記録、管理できる。
RE-04: 研究の発信
研究の意義・内容を他者に説明し討論する。RE-04-01: 研究発表
RE-04-01-01 自身の行った研究内容を論文や報告書・学会発表等の形にまとめることができる。
RE-04-01-02 発表の場に応じて読者・聴衆にわかりやすく研究内容をプレゼンテーションできる。
RE-04-01-03 他の研究者の発表に対して質問や意見を述べることができる。
RE-05: 研究倫理
法令遵守ならびに人権尊重し、医学生として正しく行動する。
RE-05-01: 適切な研究遂行
RE-05-01-01 捏造、改ざん、盗用等を含め研究不正の類型を説明することができ、研究不正を行わない。
RE-05-02: 対象者の保護
RE-05-02-01 人を対象とした研究(治験、特定臨床研究を含む)に関するルールの概要を理解し、遵守する。
RE-05-02-02 利益相反や動物・遺伝子組み換え実験に関するルールの概要を理解し、遵守する。
132ページから事例が掲載されていて、研究室配属を具体的にどのように行えばいいかが驚くほど詳細に記載されていました。コアカリおそるべし。
事例 6.研究室配属
(1)関連する主な資質・能力/学修目標
科学的探究/ RE-01: リサーチマインド、RE-02: 既知の知、RE-03: 研究の実施、RE-04: 研究の発信、RE-05:研究倫理
(2)方略
1)概要 カリキュラムの中で一定期間、各研究室に少人数ずつ学生を配属して、研究者としての生活を体験する。この期間は通常の講義・試験は実施しない等、学生が研究活動に専念でいるように配慮し、リサーチマインドの涵養に努める。一流の研究者の謦咳に接することで、研究者の生き方を知ることができ、また、研究の楽しさ(と苦しさ)を知る機会になる。また基本的な研究手法を修得することも目標とする。
2)どのような方法で教えるのか?
3 か月間(10〜12 月)の研究室配属のカリキュラム例を以下に記述する。
4 月初旬:各研究室に対して学生向け研究室紹介文を依頼。
5 月:締め切り。
6 月初旬:研究室紹介の冊子を配布する。配属について説明する。
7 月:学生は希望する研究室を自由に見学する。
7 月末:学生の配属希望順位提出締め切り。各研究室に対して研究室に所属している学生がいるかアンケートを実施する。
8 月:配属研究室の調整。優先順位のつけ方は、研究室へのアンケートや学生の成績等を参考にする。
9 月:配属先発表。
10 月初旬:基礎講座配属開始(1 月初旬まで)。
初日:研究室教授(Principal Investigator:PI)面談。希望する研究内容等を確認して指導教員(メンター)を決定する。
1〜2 週目:メンターと一緒に行動し研究を手伝う。研究室のルールを理解し、スタッフや大学院生と交流する。歓迎会も実施する。
3 週目以後:研究室教授(PI)と指導教員が定期的に面談を実施。週間スケジュール(例)
月曜午前:抄読会(ジャーナルクラブ)。学生も 2 か月目から担当する。
水曜:ランチミーティング。その週の実験予定、進捗状況等を、学生を交えて、研究室のメンバーが 5 分程度発表する。
金曜午後:リサーチセミナー。学生はその週の進捗状況をまとめて発表する。学生は原則として実験ノートを毎日夕方指導教員に提出する。指導教員は記載内容を確認し、出席確認を行うとともに、フィードバックする。
12 月下旬:研究室内で研究のまとめを発表する。指導教員と研究室教授(PI)が最終評価を実施する。
12 月下旬~1 月初め:研究室配属期間の活動報告のための全体発表会のための抄録を作成する(できれば英文)。
1 月初旬:研究室配属期間の活動報告のための全体発表会を実施する。
2 月:優秀な研究発表を行った学生に対して、表彰を行う。3)誰が教えるのか?
配属された各研究室の教員。直接的に実験等を指導する教員に加え、教授等、研究室責任者からの俯瞰的
視点からの指導も望まれる。また大学院生、同じ研究室配属の上級生等も参画する。
4)講義・実習等の時間はどのくらいか?
3 か月~6 か月の終日。
5)講義・実習等の場所はどこか?
原則としては大学内の研究室。基礎医学、社会医学だけでなく臨床医学の研究室も含める。学内の教員と
交流のある学外の研究室も選択肢とする。
6)教える学生は誰でその数は何人程度か?
学年は問わない。基礎医学・社会医学・臨床医学の授業の時期との関係性は配慮する。概ね 1 研究室 5 名
以内が妥当と考えられる。
7)カリキュラム評価
短期的には、学生の学会発表数、論文数等で評価する。
長期的には、大学院進学者数(特に基礎医学・社会医学系の大学院)、大学教員になった人数、研究者とな
った人数等で評価を行う。8)講義・実習を行う際に必要なヒト(模擬患者含む)・モノ等は何か?
学生が利用する消耗品については配属学生数に応じて大学から補助する(3)評価
研究室配属については、OJT であるため総括的評価に加えて形成的評価も重要となる。評価は研究室配属の学修目標として設定した内容をもとに行う(コアカリの学修目標を参照)。学生が研究計画や研究準備の段階から参画できる場合には、実際の研究者と同様の評価を受けることができる。評価者は、主として研究室責任者及び指導教員が行うが、総括的評価では学生によるピア評価も行う。日々の出席及び研究活動に加えて、研究室配属期間の活動報告のための全体発表会でのプレゼンテーションも評価対象とする。学内発表会における優秀発表に対して優秀賞を授与する。研究成果について事後に学会発表や論文発表を行った場合に
は、別途表彰を行う。1)どのような形成的評価・総括的評価を実施するのか?
・形成的評価
・研究計画書(含倫理委員会関連書類)の作成:指導教員との討議をもとに、研究計画書の作成を行い指導教員の確認を経て当該部局に提出する。倫理委員会の許可が必要な研究については関連書類を指導教員と共に作成する。
・研究方法、研究結果に関するフィードバック:指導教員と研究方法、得られた結果について議論を行い、フィードバックを受ける。
・研究ノートの記載チェック:研究に関する日々の進捗、研究結果について研究ノートを適切に記載し、かつ研究倫理に則った内容であることのチェックを、指導教員から受ける。研究ノートについては e-ポートフォリオ等で代用することもできる。
・研究ミーティングでのプレゼンテーション、議論:自己の研究について適切にプレゼンテーション・議論を行うこと、他者の研究について適切な議論ができること、について指導教員から評価を受ける。
・抄読会、Journal Club 等で、適切な議論ができることについて指導教員から評価を受ける。
・総括的評価
・出席及び態度評価:欠席が多い場合や積極性が著しく欠如している場合等は不合格とする。
・研究準備の評価:学内規程に沿って、必要な研究倫理講習(APRIN 等)を受講し、テストに合格する。
・研究室配属の学内発表会:学内でのポスター発表・口頭発表を行う。教員及び学生(Peer)による投票を行い、優秀発表に対して優秀賞を授与する。
・研究室配属の振り返りレポート:学内発表会で指摘された質疑も含めて最終レポートを提出する。
・研究成果の学会発表:研究成果について事後に学会発表を行った場合には、別途表彰を行う。研究成果の論文発表:研究成果について事後に論文発表を行った場合は、別途表彰を行う。2)誰が評価するのか
・実習の指導教員(総括的評価、形成的評価)
・他の指導教員(総括的評価)
・学生による相互ピア評価(総括的評価)3)どのような場面・場所で評価するのか
・総括的評価は実習開始時の e ラーニングのテスト及び実習終了時、実習終了後、形成的評価は実習中に適宜実施する。
4)どのくらいの時間をかけて評価するのか
・研究プレゼンテーション(ポスター、口頭) 15 分
・実習中の形成的評価は適宜5)合否判定基準をどのように設定するのか
・総括的評価にて判定する(欠席が多い場合や積極性が著しく欠如している場合等は不合格とする)。