ノーベル賞を受賞した田中耕一氏は、2003年に島津製作所質量分析研究所を訪れた当時の皇太子殿下ご夫妻に対して、「血液一滴で数百の病気の早期診断を可能にする」と語ったのだそうです(MedicalTribune 「血液一滴から」の約束は果たされたか 2021年10月18日)。病気を早い時期に見つけて早くから治療を開始することが大事ですが、そのためには検査を受ける人があまり負担を感じないような簡便な診断スクリーニング方法が望まれます。田中耕一氏の言葉にあった血液だけでなく、「鼻腔・咽頭拭い液」、呼気、唾液、尿、糞便などに、病気の「証拠」となる「マーカー」が見つけられないかという研究が盛んです。とくに侵襲性がなく、心理的な負担も少ない方法として唾液、呼気が注目されます。
呼気に排出される微量の物質を病気になったときのバイオマーカーとして用いて、診断に役立てようという研究があるそうです。KAKENデータべ―スで「呼気 マーカー」で検索すると8件の研究課題が見つかりました。
- 前立腺癌バイオマーカーとしての呼気中アルデヒド類の有用性の検討 2021-04-01 – 2024-03-31 若手研究 小区分90130:医用システム関連 佐々木 陽典 東邦大学, 医学部, 助教 (80744151) 研究開始時の概要:呼気中には癌細胞が抗腫瘍免疫による活性ラジカルを介した攻撃を受けた際に生成されるアルデヒド類が排泄されることが報告されており、癌のバイオマーカーとして精力的な研究が行われているが、前立腺癌のバイオマーカーとなりうるアルデヒド類の同定には至っていない。本研究は、この現状を踏まえてアルデヒドと特異的に反応する性質をもつO-(2,3,4,5,6-Pentafluorobenzyl) hydroxylamine (PFBHA)を用いたPFBHAサンプラー捕集・溶媒抽出-ガスクロマトグラフィー/質量分析法を用いて、前立腺癌のバイオマーカーとなりうる呼気中のアルデヒド類の同定を目指すものである。 研究概要: 研究成果の概要: 研究実績の概要:
- 呼気癌マーカー複数同時検出のための酵素電気化学センサアレイの開発 2020-04-24 – 2022-03-31 特別研究員奨励費 小区分27040:バイオ機能応用およびバイオプロセス工学関連 研究開始時の概要:近年、予防医学という観点から呼気中に含まれる病気に関連したバイオマーカーを非侵襲に検出し、病気の初期段階を手軽に診断可能な医療用デバイスが注目されている。診断に使用するセンサーには選択性・感度が求められるが、従来の無機半導体ガスセンサーでは選択性・感度が不十分であった。本研究では、選択性の高い酵素と高感度測定可能な電位差測定を組み合わせたセンサー・システムを構築し、センサー表面を気相中の呼気癌マーカーを取り込むハイドロゲルで被覆することで、呼気癌マーカー検出を試みる。また、酵素の組み合わせを変えて様々な癌マーカーに対応したセンサーをアレイ化することで、1次スクリーニングデバイス開発を目指す。 研究概要: 研究成果の概要: 研究実績の概要:
- 呼気癌診断を実現する嗅覚センサシグナルの「マーカー特徴量」の網羅的探索と最適化 2018-04-01 – 2021-03-31 基盤研究(A) 中区分90:人間医工学およびその関連分野 吉川 元起 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, グループリーダー (70401172) 研究開始時の概要: 研究概要: 研究成果の概要: 研究実績の概要:1000種類以上の多成分混合ガスである呼気は、疾患によって数十種類のガス濃度比が微妙に変化すると考えられており、疾患の状態を反映する「マーカー分子」の特定が難しい。またそれらのピンポイント測定だけでは情報不足となる可能性が報告されている。
そこで本研究では、呼気全体を多種類のセンサ素子でパターン化する嗅覚センサを用いて、疾患に起因する複雑なガス濃度比の変化全体を捉え、この嗅覚センサシグナルのうち、がん関連の医療メタデータと明確な相関を示す特徴を「マーカー特徴量」と定義し、その網羅的な探索を行う。本研究では、小型嗅覚センサ素子として高い感度や多様性を有する「MSS」を利用する。このMSSに関しては、産学官連携によって、嗅覚センサに必要となるハードウェア/ソフトウェア両面の包括的な技術体系を構築しており、これらと密に連携することにより、嗅覚センサの呼気診断への適用可能性を最大限追求する。
2018年度は、可能な限り効率よく信頼性の高いデータを収集するために、呼気の採取から測定までの一連のプロトコルの確立を進めた。具体的には、温度や湿度の揺らぎやサンプルの経時変化など、センサシグナルの信頼性や再現性の低下の原因となる不確定な要素の徹底的な排除を行った。その結果、センサシグナルに影響を与えている要因が明らかになり、その影響の少ないサンプルを用いた解析では良好な結果が得られることも明らかになってきた。 - 呼気ガスバイオマーカーの周術期管理における有用性の検討 2012-04-01 – 2014-03-31 挑戦的萌芽研究 松永 明 鹿児島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (70284883) 研究開始時の概要: 研究概要:本研究は、周術期の患者管理に有用な呼気ガス中の揮発性有機化合物(volatile Organic Compounds: VOCs)を特定し、そのガスセンサを開発することである。ガスクロマトグラフィーを用いて侵襲度の高い手術における呼気ガス中VOCsの変動を測定したが、有用なマーカーを特定できなかった。
VOCs測定のためのガスセンサは、水蒸気の影響や触媒活性の低下などがその測定精度に影響を与えることが分かった。 研究成果の概要: 研究実績の概要: - 喫煙者の呼気中ガス成分と酸化ストレスマーカー及び吸煙行動の因果関係の解明 2010 – 2012 若手研究(B) 稲葉 洋平 国立保健医療科学院, 生活環境研究部, 主任研究官 (80446583) 研究開始時の概要: 研究概要:我々は,固相抽出とGC/MS またはLC/MS/MS を組合せた呼気中の 揮発性有機化合物,尿中の8-isoprostane 及びニコチン代謝物の測定法の確立を行った。これ らの手法を用いて喫煙者の酸化ストレスマーカー,ニコチン代謝物及び喫煙行動との関連性を 解析した。その結果,8-OHdG は1 日の喫煙本数,1 日の総吸煙量,尿中コチニンに有意であ った(p<0.05)。iPF_<2α->は,年齢,唾液中コチニン,尿中3-ハイドロキシコチンンに有意であっ た(p<0.05)。一方で,呼気中一酸化炭素と尿中酸化ストレスマーカーとの関連性は,認めら れなかった。 研究成果の概要: 研究実績の概要:
- 呼気凝縮液中バイオマーカーの迅速診断法の開発と難治性喘息管理への応用 2010 – 2012 基盤研究(C) 片岡 幹男 岡山大学, 大学医保健学研究科, 教授 (50177391) 研究開始時の概要: 研究概要:呼気凝縮液(EBC)を用いて、喘息患者の気道炎症状態を反映する炎症性マーカーを見いだし、point of care testing (POCT)に応用可能な迅速診断法の確立を試みた。EBC中の好酸球性炎症マーカーとして主要塩基性蛋白(MBP)が、好中球性炎症マーカーとしてミエロペルオキシダーゼ(MPO)がELISA法により測定可能であった。POCTとして免疫クロマト法によりEBC中のMBPとMPOを半定量的に測定できる迅速診断デバイスの構築と測定結果の評価を行った。本法によりMPOとMBPが同時に測定できた喘息患者では好中球性マーカーが優位の群と、好酸球性マーカーが優位の2群にわかれることが判明した。気道炎症状態をベッドサイドで把握し、喘息患者の治療、管理に応用可能と考えられた。 研究成果の概要: 研究実績の概要:
- ヘムオキシゲナーゼ1による生体保護作用:バイオマーカーとしての呼気一酸化炭素 2006 – 2008 基盤研究(C) 野口 宏 愛知医科大学, 医学部, 教授 (20065569) 研究開始時の概要: 研究概要:集中治療室に敗血症にて入室患者の、血中一酸化炭素(CO)濃度(ガスクロマトグラフィー)、単球中ヘヘムオキシゲナーゼI蛋白量(フローサイトメトリー)、血液中酸化ストレス度(分光高度計)、炎症性サイトカイン(ELISA)等を測定することにより、侵襲による酸化ストレス、ヘムオキシゲナーゼI発現、CO濃度の相関を検討した。その結果、ヘムオキシゲナーゼI蛋白発現と血中CO濃度間に正の相関が認められた。COはNOとともにグアニールサイクラーゼ活性化による血管拡張作用を有するが、それ以外に抗炎症作用も有する。内因性COの起源は、その代謝経路からヘムオキシゲナーゼ系由来と推察されていたが確証はなかった。今回の結果は、内因性のCOとヘムオキシゲナーゼ経路との関連性を強く推察するものである。次にヘムオキシゲナーゼ1を調節する要因として酸化ストレスをはじめとした生体侵襲が重要視されている。今回、APACHE IIによる重症度スコアー、酸化ストレス度、およびヘムオキシゲナーゼI発現間に正の相関が認められた。この結果は、強い侵襲が生体に加わり酸化ストレス度が増加した状態下で、抗炎症作用を有するヘムオキシゲナーゼ1蛋白質が増加している可能性を強く示唆する。ヘムオキシゲナーゼIの上昇しない敗血症患者は予後が悪いことも今回の検討から明らかになっており、ヘムオキシゲナーゼI-CO系は生体防御系として重要な役割を果たしている可能性が示唆された。 研究成果の概要: 研究実績の概要:
- 新しい酸化ストレスのバイオマーカー:呼気一酸化炭素濃度 2006 – 2008 基盤研究(C) 松三 昌樹 岡山大学, 医学部・歯学部附属病院, 准教授 (70219476) 研究開始時の概要: 研究概要:医学の発達により心臓や肝臓などに対する侵襲の大きな手術が行われるようになってきた。しかし、手術自体が成功しても、その後、呼吸不全・腎不全などの多臓器不全に陥って死亡する症例が後を絶たない。本研究では、ストレスにより細胞内に誘導される蛋白Heme Oxygenase-1 (HO-1)の酵素反応産物である一酸化炭素(CO)が呼気に排出され、これが臓器不全の指標となり治療に応用できる可能性を示した。 研究成果の概要: 研究実績の概要: