ある抗原を認識したB細胞の増殖を促すヘルパーT細胞はどうやってその同じ抗原を認識できるのか

抗原刺激を受けたBCRを持つB細胞の増殖をヘルパーT細胞が促すわけですが、このヘルパーT細胞はどうやって同一の抗原を認識するのでしょうか。免疫学の教科書を読んでいて、そこが良く理解できませんでした。

たいていの免疫学の入門用の本では、ヘルパーT細胞はサイトカインをだしてB細胞を元気づけるような図が書いてあります。しかし、それでは、どうしてはしか攻撃隊のT細胞がはしか攻撃隊のB細胞だけを選んで指令を伝えられるか、説明になっていません。免疫学を勉強したというひとでも、この原理を理解していないひとが多いように思います。(抗原の情報はどうやってT細胞からB細胞へ伝わるの? 河本宏研究室)

自分の疑問はどうやらもっともな疑問のようです。もう少し具体的にいうと、リッピンコットの教科書の145ページに、B細胞と抗原提示細胞の絵が描いてあったのですが、この抗原提示細胞はこのB細胞と同一ではないの?別の細胞なの?という疑問が湧いたわけです。B細胞が同時に抗原提示細胞にもなっているのであれば、おなじ抗原を認識するT細胞が、その抗原を認識する免疫グロブリンを産生するB細胞の増殖を促進させるということで説明ができるのにと思ったわけです。しかし、この図10.18だと細胞が別に描かれていました。

ただこの可能性に関していうと、かりにB細胞が抗原提示細胞をかねたとしても、MHCクラスII分子にのせて提示するペプチドの由来となる抗原タンパク質が、BCRが認識する抗原タンパク質と同一である保証はありません。細胞のまわりにある抗原はたくさんの種類があるでしょうから、同一になる保障は全くないはずです。

上のウェブ記事を読むと、説明がありました。抗原提示細胞は樹状細胞などのようです。ある抗原が提示されてそれに反応するT細胞が「活性化」します。同じ抗原をB細胞もBCRで認識できたとすると、それを細胞内に取り込んで、B細胞も抗原提示を行います。すると樹状細胞による抗原提示で刺激を受けたT細胞がその細胞の抗原提示に対して反応することができますので、このヘルパーT細胞はそのB細胞の増殖を指令することができるということのようです。だとするとリッピンコットの教科書はそのあたりの詳細が省かれていたということのようですね。

Janeway’sの免疫学の教科書にはこのあたりの説明が非常に詳細に述べられていました。原書第9版の邦訳版ですが、第10章液性免疫応答で図10.2(400ぺージ)の左側の図や、図10.4(403ページ)などがわかりやすいです。上記の説明と同じことが図10.4に表現されていました。


(Janeway’s Immunobiology 9th edition Fig.10.4 / https://o.quizlet.com/wYER2UCvgzRKGNdj0tpH.g.png)

ウイルスを認識する例ですが、B細胞の細胞膜上のBCRはウイルスの表面のタンパク質を認識しています。そしてエンドソームとしてこのウイルスを取り込み、分解してウイルス内部のタンパク質の一部のペプチドをMHCクラスII分子との複合体として膜表面に提示します。すると、たまたま同じ抗原ペプチドを樹状細胞によって提示されていたものに反応したCD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞)が、このB細胞による抗原提示を認識することができます。面白いのは、B細胞のBCRが認識する部位と、B細胞が抗原提示する抗原(すなわちヘルパーT細胞が認識する抗原)とは、別々であっていいということです。免疫系ってうまくできているなあと感嘆してしまいました。また、さすが定評のある教科書だとJaneway’sにも関心してしまいました。案外とここまで明確に図と文で説明してくれている教科書は少ないです(もしくは、説明がどこかにあってもそれを見つけられない)。

抗原はB細胞により認識され、抗原提示細胞はCD+T細胞に対してペプチドを提示する。B細胞とT細胞は同一のエピトープを認識する必要はない。(リッピンコット免疫学145ページ図10.18 図中の説明)

リッピンコットの教科書にも、BCRが認識するエピトープとヘルパーT細胞が抗原提示細胞提示されて認識するエピトープとは異なる部位であってもよいという説明がありました。リッピンコットの教科書は、このようにメリハリの効いた言葉による説明があるので、自分は頭に入ってきやすいように思います。